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婆さまの独り言



 

 いったいいつから、この村はあるのじゃろう?

 ワシの婆さまの婆さまより、昔からじゃろうか?

 元々は、ここは何もない所だったと聞く。隣の国に旅する隊商たちが、大草原を渡る前にこの土地で泊まり、大草原を渡る準備を整えた、と聞く。


 いつの昔からか、領都で罪を犯した貴族の縁者や家臣が、死罪にするほどの罪でもなく、かといって無罪放免とするわけにも行かず、この土地に送られてきたと言うことだ。


 送られて来たと言っても、手に技を持つわけでなく、生活の術を知るわけでなく、ましてや獣と戦い、それを倒し、食糧とすることができたわけではない。

 着の身着のままで送るわけにはいかないので、少しばかりの食糧と、農具と武器を与えられたそうな。

 最初に送られて来た者たちは、すぐに死に絶えた。死罪にしなくとも、死罪にすることと同じように扱うことができる、ということが分かり、たびたび罪人や異端の者が送られてくるようになり、その中でたまたま生き抜くことができた者がいた。それが、ワシの祖先と聞いておる。


 病やケガをしても、薬があるわけでなく、生き残ったのは奇跡と言って良いじゃろう。たまに通る隊商から、わずかばかりの薬をもらうこともあったろう。次に送られてくる罪人に薬の知識を持つ者もいたこともあったろう。

 そのような偶然があって、生き延びることができたのだろうな。


 最初に生き抜いた祖先が、次に送られた者たちと力を合わせて、だんだんと村の形にしてきたと聞いた。しかし、ここには農地がなく、森で採ることのできる果実や罠にかかった獣を食べ食いつないだそうだ。罠にかかった獣は、上手に扱うと毛皮として高価な値段で取引ができる。その金で種を買い、畑に植え、穀物を得ることができた。それで少し、生活にゆとりができたようだ。


 けれど、こんな辺境の村で生活できる人数は限られている。ただ、この地に人が住み、街道の中継地として宿営地が整備されていることは良いことと領都に認識されたことで、いくばくかの生活物資が送られてくるようになり、やっと50人くらいが生活できるだけになったそうだ。


 この村は罪人や異端の者が送られてくる村だから、辺境伯領の村としてみられていないと聞いている。この村でどれだけ人が死のうが、増えようが、それは何も表に出るものではないし、誰も考えたり、困ることもない。一度、この村に送られると、一生この村から出ることはできないし、その子どもや子孫も出ることはできない。

 もし、出たいと思っても、この村しか知らず、字の読み書きもできない者が外で生きて行けるはずがない。たまに、そういう者がいて、一人で村を出て行くことがあっても、二度と帰ってくることはなかった。

 隊商に連れて行ってもらおうと考える者もいたが、隊商たちが取り合ってくれるわけもない。


 この村に生まれて、何もめでたいことはない。生まれてから死ぬまで、同じ毎日を繰り返していくだけじゃ。生きていくことは辛いことだけじゃ。楽しいことなど一つもない。安らかに死ぬことができれば、それは良いことじゃ。しかし、たいていは苦しみながら、痛がりながら死んで行く。

 ある日突然、皆が腹を壊し、熱を出し血便が止まらなくなり、死ぬものが多く出たことがあった。このときは、早く死んだ方がマシだと誰もが思った。生きて行くとこは本当に辛いことだ、いつでも。


 ワシの時代になって、領都から送られてくる者たちが変わってきた。罪人でなく、孤児院を出た者や、何か理由があって領都から自ら希望してやってくる者もいる。

 ジンやバゥは領都で衛兵という仕事をしていたそうだが、何か領都で問題があったのか知らんが、この村に来た。ジンとバゥは読み書きができ、剣や槍や弓矢まで使うことができたので、村の代表と言う者になった。お陰で、領都にジンが何か書いた物を送ると、生活に使う物が送られてくる。


 ある夜、寝ていると夢の中で、草原の真ん中に『降り人』が現れる、というものを見た。『降り人』とは、ワシらの住んでいる世界とは違う世界から、やって来るという人じゃという。ワシは滅多に夢を見んので、夢見は真実を見ることが多い。ジンたちに夢見に従って、草原に行かせると、見たこともないような大男が来た。ただ、この村のものとは違って、平べったい顔をした眠そうな目をしている。この男は何か村に益をもたらすのじゃろうか?獣を少し、狩ることができると言っても、猟をすることは命がけじゃから、あっさりと死んでしまうかも知れぬ。


 何事も期待しては、いけんのじゃ。ワシは何も期待せず、じっとガマンして生きてきた。今、いくつかも分からんが、人よりは長生きしたと思う。長く生きて分かったことは、あきらめて生きることが一番ということだった。


 あやつには何も期待すまい。

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