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いろいろと呪文を試してみるんだけれど

 今日も爽やかに目が覚めました、まだちょっと薄暗いけど。

 隣にはまだアンが寝ている。オレの胸にもたれかかるようにして、腕をオレの胸にかけている。アンはぶっきらぼうだけど可愛くなったな、親しむにつれ、そう思うようになって来た。もしかしたらオレの一方的な思い込みかも知れないけど。


 おかげさまで夕べも2回戦に挑んでしまった、アンのせいで、アンにつられて。でも、アンも楽しんでくれていたようだし(そうだと思う、思いたい)、外のギャラリーも満足して帰られたのでないだろうか。アンの顔を見つめていると、アンが目を覚ます。アンから見つめられると、愛おしくなってきてキスをすると、アンも返してくれる。

 おっとおっと、これ以上進まないようにしないといけない......。


 そうこうしている(何を?)うちに明るくなってきて、アンは小屋を出ていった。オレは一人になったので、魔法の練習をする。今のところ、確実に使えるのは『Clean』と『Dry』と『Light』だけ。とにかく、知っている英単語を繰り返して、何かできないか調べて行くしかない。


『Search』

 って、周りを探索できないか?と考えたが、何も変わらない。異世界ノベルでは必ず主人公が持つ魔法なのにオレは持っていない、理不尽な。もしかしたら発音が悪いのか、それとも元々そういう魔法がないのか。神さまは生活魔法だけ、と言っていたから『Search』という魔法は生活魔法に入らないんだろうか。生活する上で何を捜すんだ?と考えたんだろうか、神さまは。ステータスボードを持っている人はいるんだろうか、どこかに。オレを見て「コイツ、レベル9だわ、使えねぇーー!?」って思われてるのかな?


 使えそうな魔法が他にないか考えてみる。この村では心配ないけど、水の調達に困ることがあるかも知れないな、飲めるキレイな水が。

『Water』

 チョロッと水が出た、もう一度!

『Water』

 なんと一発で出てきました!

 ちょっと舐めてみる。あれ、いつもと味が違うような気がする。前もアンが『Clean』をかけた水を美味しいと言ってたけど、この味は純水で井戸水とは違う気がする。井戸水よりこっちの方が美味しいかな?甘露、というわけではないけど雑味がないというか、余計なものが混じってないというか、ばい菌が入ってないイメージというか。イヤイヤ決して、この村の井戸が汚いということを言っているのではないのですよ、安心安全な水と思っただけですから。『Water』は役に立ちそうだけど、あんまり水を出すと魔力が尽きてしまいそうだ。


 後は『Cold』とか『Heat』とか『Warm』とかかなぁ?願わくば、テレビで長年活躍されている超有名猫型ロボットの持ってる異次元ポケットを持てないかな?あれがあると狩りに行ったとき、獲物の持ち運びが便利になるんだけど。でもあれは生活魔法じゃないだろうね。しかし、試してみる価値はある!収納って何だっけ?保管する、かな?

『Strage』

 言えてると思うけど、あーーーーダメだ、何も変わらない。単語が違うのか、そもそもないのか分からない。他の単語を試そうにも、何も思い浮かばず、自分の語彙の乏しさに泣ける。異次元ポケットは生活魔法だと思うから、何としても習得したい!

『Gold』

 金は出ませんよね。なら

『Silver』

 と出るはずもなく、なら銅はなに?確か銅メダルのこと、ブロンズメダルと言ってなかったっけ?でも周期律表では銅はCuだよね?確か、カッパーとか言ってなかったかな?でも田舎教師の訛り入っていたから違うかな、混迷しているから、こっち方面はやめた。泣くぞ、オレ。


 錬金術師が小麦粉を前にして『Cook』と言うと、うどんやラーメンの麺が出てくるとか、異世界ノベルにありませんでしたか?これ、生活魔法ですよね?神さま、ダメですか?小麦粉、牛乳を前にして『Cook』と言うとケーキができるとか、せめてパンとか、夢が広がるなぁ、主食がジャガイモもどきなんて、泣けてくるし、枕を濡らすよ?故郷の味が恋しくて。


 そうこうしているとアンが朝食を持って来た。

 今日は胡椒の始末はアンたちに任せて、オレはジンと一緒に森に行こう。


 ジンに連れられカゴを背負って森に入って行く。今日は胡椒採集部隊も連れて行く。前回もそれなりに胡椒を採ってきたので、今回は違う所で採集しないと。

 今日も獣と遭遇するのかなぁ。イヤな予感はする、アラームが鳴っているような気がする。誰もフラグを立てるなよ?


 ズンズンと何事もなく進んで行く。前回の胡椒の木に着く。ここは前回採集した場所だけど、初めて来た者もいるので説明し、解散する。さすがにみんな、手慣れた者ばかりだから迷いなく森の中に入って行く。オレが森の中に入って迷子になったらマズいし余り動かないことにする。前に見つけた、山椒とかどこにあるかな?唐辛子とかあればいいなぁ?ミョウガがあれば、刻んで醤油と味〇素をかけて食べるのもいいし(大好物です、酒のつまみに最適!)、味噌汁にするのもいいな!あぁ、よだれが出そう。でも醤油も味〇素も味噌もない。これは異世界ノベルに従うとオレが作って、この世界の食生活に革命起こすことになって大金持ちなるだろうけど、そんな面倒なことしたくないし、どこかで転生した人がいて、やってくれてるかも知れないし、オレはやらない、今は。


 解散した場所から余り遠くに行かないようにして、香辛料になるものや食材がないか捜す。こういうときに限って、何も見当たらなかったりする。ここに来る途中に同行した男たちから「マモルは今日は何を狩るんだ?」とか「牛、狼、イノシシ、鹿、ウサギと来ているから、今度は何かな?オレはもう一度ウサギの肉を食べたいな?」とか「イヤイヤ、まだ獲れてないものと言ったら、羊か虎か象かな?どれも捨てがたい。虎なら毛皮が高く売れるぞ」などと目一杯フラグを上げてくれる。

 皆さん、誤解されていますが、これまでオレが倒した獲物って向こうから飛び込んで来たもので、オレが積極的に狩りに行ったわけではないですから。ましてや、また血を浴びてえらい目にも遭いたくないですから。


 しばらくするとジンがカゴいっぱいに胡椒の実を入れて戻ってきた、ありがとうございます。もう、取り尽くしたかと思ったけど、まだあったのか。

 聞くと例の罠に鹿がかかっていたので、仲間を呼んで運ばせている途中だと言う。ジンが言うには「罠に獲物がかかっていて、胡椒の実が採れている。あとはマモルが獲物を仕留めるだけだ」ということだそうで。あぁ、フラグを立てるなよ......言っただろ、言ってないか。


 遠くで何か鳴き声が聞こえるような気がする。皮膚に何か刺さるような感触がある。来たよ、来た。何度も繰り返したパターンだけと、ジンに聞く。

「ジン、何か聞こえないか?」

「えっ?何か聞こえるか?」

「あぁ、鳴き声のようなものが聞こえるような気がする。それで少しずつ大きくなっているような気がする」

「そう言われればそうだな、メェ~とか言ってるか?マモルの出番だな!だんだん声が大きくなってるぞ。こっちに向かってるな」

 ジンは嬉しそうな顔をしてオレの肩を叩き、カゴを地面に置く。

「マモル、頼んだぞ。お、これは一頭じゃないな」

 あ、向こうの草の上にぴょこんと顔が見えた。角が生えているけど、あれって羊ですか?

「ジン、あれは羊か?」

 と指をさす。ジンが指の方向を見て、破顔一笑。

「そうだな!やっぱりマモルが森に来ると獲物が寄ってくるんだよ。オマエは獣を引き寄せる何かを持ってるな笑。羊と遭遇するなんて、滅多にないぞ!」

 そう言って背中をバンバン叩くんですが、それ痛いんですが?羊の前にあんたを倒したくなる気持ちを分かってください。

 

 羊もやっぱり他の獣とおんなじで、オレの顔を見てガンを飛ばしてくる。仕方なくオレも羊を見ていると向こうは、売られたケンカは買わないといけないゼ!とばかり、突進してくる。お、一頭だけじゃなく後ろにもいるぞ。

「ジン、オレだけ戦わなくてもいいようにって、もう一頭いるぞ。当然、オマエの担当だな」

「そうみたいだな。でも二頭とも、オマエの方に向かっているがな」

「バカ言うな。オレはここに来て、どれだけも経っていない素人なんだぞ。ジンが模範を見せろ!」

「オレも模範を見せてやりたいよ。でも、見てみろ。向こうはオマエが好きなんだろうよ、あははは!」

 そうだよ、なんてこった!2頭ともオレの方に向かって来やがる。とにかく集中して、1頭オレが倒せば、もう1頭はジンがなんとかしてくれるだろう。

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