今度は槍を教えてもらうが
剣の技がやっと少しできるような気がしてきて、内心満足していたら、ジンが槍を持ってきた。え、本物の槍じゃないですか?当たったらどうするんですか?
「ジン、それって本物の槍だろ?」
「そうだぞ、これで虎も殺せるぞ!」
「ちょっと待ってくれ、練習用の槍ってないのか?」
「何を言ってるんだ。そんなものを使っていたら、真剣に練習できないぞ、いざという時に役にたたないぞ」
止めてください、それで当たったら、ケガして死んじゃいますよ?ということで、ジンは棒というか丸太の細いのを持って来た。え、その棒のようなもので突かれても死んじゃうと思うんですが?ジンの突きを見ても、目にも止まらないですから、当たると痛いというのを通り越して、ケガしちゃいますよ。と言うことでタンポ槍もどきを作ってもらう。もちろん、タンポ槍なんて知ってるはずがないので、オレが地面に絵を描いて説明した。ジンは「こんなもので真剣にできるかよ?」と言っていたが、オレがヘタレだということが、だんだんと分かってきたのか、用意してくれる。
「槍というのは見た通り、剣より長いから、剣は不利だよな。必ず、槍が突いてくるから、それを払って相手の手元に飛び込むことが絶対に必要だ。だから槍を持つ方は最初の突きで失敗したら、まず殺られると思っている。槍を突くタイミングというのが重要となる。と言っても、実際はそんなこと考えずに闇雲に突いてくるヤツが多いけどな。そんなヤツが剣の使い手と向かいあうだろ、そうすると槍は長いから剣より有利だと頭から思い込んじまうんだよ。槍で一突きすれば終わりだと思ってな、剣を舐めてかかるんだが、そこでもう死んだも同じだ。
そういうバカはおいといてだ、たまに上級者がいてな、そういうのに対したときにどうするか?ということが重要なんだよ。同じ技量なら剣より槍の方が有利だしな。あと、実際の槍には三叉のものがあるから、これは絶対に剣で受けたら剣を巻き込み払われて飛ばされてしまうから、気を付けるんだぞ。でもな、そんな技を使えるヤツはそうそういないけどな。使うヤツは絶対の上級者だから気を付けるんだ、できるなら逃げろ。
まぁ、槍の上級者というヤツは戦う前に必ず、ウォーミングアップをするんだよ、なぜか。だから、相対して戦う前に、そんなことするヤツがいたら、迷わず逃げろ。あと、構えて揺れないやつ、特に穂先が動かないのは敵わないと思え。
逃げるんだぞ。向こうは重いの持ってるから、少し走れば追いついて来れないから大丈夫だ」
そう言って練習を始める。オレも村雨クンを使うわけにもいかないので、村雨クンで枝を削り木刀のようなものを作る。村雨クンはさすがの切れ味でサクサク木刀ができた。村雨クン、ゴメンナサイ、こんな使い方して。
ジンが突き、オレが払い飛び込む、を繰り返す。当然、槍のスピードが速くなるにつれ、払いぞこない、手や身体に当たることも多くなる。命がかかっていないせいか、ジンの動きがスローモーションになることなく、腹に当たると死ぬかと思うくらい痛く倒れ込む。だって、防具がないんですから、もう必死っすよ、痛いんだから、逃げたくなるのに「逃げるな!」って怒鳴られるし、暗くなる頃には、息も絶え絶えになっておりましたがな。
「マモル、槍は突いてくるとき、相手の肩を見ると、力が入るのが分かる。オマエならそのちょっとした力の入り具合が見えると思う。相手が突こうという瞬間を分かって避けるのと、突かれて避けるのでは、避ける速さが違うから、相手の手元に入り込む速さも変わってくる。オマエなら、槍の上を剣が滑るように進ませ、相手を斬れるかも知れんな(そんなん、いつになったらできるんだろ?)。
もう暗くなってきたから夕飯の時間だな」
夕食も何事もなく済んでしまう、今日の夕食もマズい。
そして夜です。
待ちに待った夜です。もうオレとしては、これが中心に1日が回っていると言っても過言ではありません。最初はギャラリーがどうの、と考えるときもありましたが、今では来るなら来い、見るなら見れば、という心構えです。
昼にジンに言われたことが多少引っかかっているが、今はアンがいるので、余計なことは考えない。アンだけを見ていればいいんだよ、マモル。
さて、アンをベッドに呼び寄せる。いつも通り『Clean』と唱える。前はアンにだけ魔法が掛かっていたが、今は小屋全体に掛かったような気がする。なんか小屋中が清浄な空気に変わったような感じになった。もちろん、敷いている毛皮も、服も床に敷いている板も全部。やはり、異世界ノベルにあるように繰り返し魔法を使うことによって、魔法レベルが上がったかなぁ?外にいる聴講者の皆さんにもかかったかしら?
村全体に魔法をかけるときはどのくらいの魔力が必要か分からないけど。とにかく、今はメインイベントのための精力は残しておかないと。
さあ、めくるめく時間の始まりです。アンをグイっと引き寄せると「あっ!」と声をあげ、もたれかかる。やっぱりアンも待ってたんですよね、キスをしてこんなに応えてくれるし。あ~~、今はアンに全力投入だ!!!もう以心伝心で、新たな技を投入して、アンと新しい世界に入って行くんだ。




