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閉ざされた村ということ

「もう、それくらいで止めとけ」

 助けてくれたのはジンだった。

 どうも、陰で聞いていたようで、顔は笑ってる。オバチャンたちはジンに言われて仕方なく散っていった。ジンさん、助かりました。あなたから後光が差して見えます。

 でも何の用で来たんだろう?

「すまない、ジン、助かったよ」

「まぁ、あんなことをしてたら、こうなるのも仕方ないがな」

 アンナコトデスカ?ソウデスカ....少し慎みます、と思うが守れるだろうか。


「オレが来たのは、マモルに話があったんだよ。マモルはこの村に来てまだ日も浅いから分からないかも知れないが、この村で生まれた者は一生この村から出ずに終わることがほとんどだ。他からやってきて、この村に住みつくという者も少ないしな。陶工のじいさんやオレやバゥと、他に十数人だな。

 それで言いたいのは、この村は自然と血が濃くなるということだ。近親相姦とは言わないが、ほっとくとそれに近い状態になってしまう。見て分かったかも知れないが、成人した男と女では男の方が少ない。

 成人するまでは同じくらいの数がいるが、成人する頃から男は塀の外に出ることが多くなるから、外でケガしたり死ぬことがある。ケガしたらたいてい死ぬしな。だから、大人になると女の数に比べて男は少ないから、常に男が不足しているんだ。男は15くらいで女と一緒に暮らし始めるから、子どもができて男が死んで、女と子どもで生活しているのもいる。


 もうマモルはオレの言いたいことが分かったかも知れないが、この村の女に種を残してくれ。前にも言ったが、マモルは必ず領都に連れて行かれてしまう。領都に行っても帰ってこれるとは限らない。むしろ帰ってこない方が自然だろう。マモルは『降り人』だから、この世界の知らない知識もあるだろう。胡椒がそうだしな、オレたちは毎日目にしていたのに、マモルに教えられないと食べれるかどうかも分からず、ましてや金になるなんて思いもしなかった。

 だからマモルが領都に行くと、領主様はマモルを離さないだろう。そうなると帰って来ないとオレは思っている。だから、外の世界から来たマモルの血をこの村に残して行って欲しいんだ。マモルの人柄をオレは見ていたが、マモルの子どもは大丈夫だと思う。それでオレは、アンの他にも種を残して欲しいんだ。だから、よろしく頼む」

「そんなこと急に言われても、驚いて何も言えないが。夕べは、アンと仲良くしろと言わなかったか?」

「そうなんだけどな、アンの都合の悪いときだけでも良いんだ。よろしく頼む、マモル。これはアンも分かっていることだ」

 そう言われてアンを見ると、アンは頷いた。昔の日本でも、同じ事があったと聞いたことがあった。山奥の集落では、血が濃くなることを防ぐため、時折やってくる旅人などに女を差し出して、種を残してもらうということを。


「マモルは初めてのことだろうけど、村では昔から色々考えて来ていたそうだ。マモルみたいに『降り人』が来ることは滅多にないから、例えば領都の孤児院から子どもを送ってもらったりしている。よく、旅人や行商の奴らに種を残してもらうよう頼むことを考えたこともあったらしいが、今はそういうこともなくなった。

 ま、いいときにマモルは来たんだな。村にとってな。だいたい、マモルがアンと一緒に寝て手も出さないから、そっちはダメかと思ったぞ。それなのに、一度手を出したら、村中に聞こえるような声をアンが出すし(え、そんなバカな!!)」

 アンが顔を真っ赤にしてポカポカ、ジンを叩く。

「すまん、これは話を盛ってしまった。村中で話題になるような、スゴいということだ、ははは。だからアンの他の女も十分いけるだろうと思ったんだよ」


 オレにとってもありがたい話なのかなぁ?男としては嬉しいんだろうな、一般論としては。男より種馬に近いということだけど、郷に入れば、という都合のいいことわざもありますし、アンも了解しているなら。

「それは今晩からと言うことではないんだろ?」

「いくらなんでも、それはない、ははは。マモルもアンを好いているようだし、アンが女の日のときだけでもいいから考えておいてくれ」


「マモル、この話が良ければ剣の練習をやろうか?」

「分かった、やろう」

 聞いた話が結構カルチャーショックだったのだが、考えてもよく分からないし、ウジウジと考えていてもラチが明かないような気がする。とりあえず、身体を動かして、気分を変えよう。ジンに連れられて広場に行く。しばらくジンに見てもらい、素振りをしていると

「マモル、剣の振る速さが速くなってきたな。振ったときの音が違うぞ。これなら、剣の技を一つ教えよう。もしかしたら、オマエにならできるかも知れない。昔オレがシショーに教わったが、オレは剣が使えなくてな、オマエの早さならできるような気がする」

 シショー?教わった?剣を。

「ジンの剣の腕で使えないってことか?」

「そうだ、オレの剣の腕なんて大したことないんだよ。もう、マモルの身のこなしや剣の早さはオレを上回っているぞ。

 オレの得意は槍と弓の方なんだ。領都で衛兵をしているとき、一緒に衛兵やってた人がスゴい人でな、色々と教えてもらったんだよ。その人は剣や槍が使えることを周りに隠していたが、オレが休み時間も鍛錬しているのを見て、教えてくれたんだ」

 ジンの上には上がいるということか。

「弓というのは、とにかく矢が高くつくんだ。矢は1回使うと、たいてい曲がったりするから2回目は使えなくてな。稽古してる分は良くても、実戦では矢を回収してきても使えないんだよ。回収できる矢より、なくなる方が多いし。まぁ、回収するつもりで矢を射ても、矢に力がないし当たらないわな笑。

 マモルは矢を作っているところを見たことがないだろ、あれは大変だぞ。矢の格好をしたものは簡単に作れるが、まっすぐ飛ぶ矢を作る職人は本当に少ないから高いんだよ。

 それでな、オレのシショーに教えてもらった剣の技はリュウビという技だ。これは、人と戦う時の技で、こっちが剣を振り下ろして空振りしたとき、上半身はがら空きになってるから、相手は必ず打ち込んで来ようとするだろ?上手いヤツになるほど、相手に先に攻撃させて、それを空振りしたところを斬るということをする。剣を振り下ろした時は、無防備だから簡単に斬れるんだよ」

 確かに、最初の一太刀で相手を斬ることができないと、反撃されて斬られてしまうな。


「そこでだ、最初に剣を振り下ろすとき、それは見せ太刀だと意識しながら振り下ろすんだ。それで、振り下ろしながら、手を少しひねるようにして剣を横にする。そうすると剣に抵抗がかかって、剣が進まなくなるんだよ。それで、その瞬間に剣を横に薙ぎ払うようにするんだ。相手はこっちが振り下ろしたときに、がら空きになった上半身を斬ろうと思って待ち構えているから気がそっちに行ってしまっていている。だから、横から剣が来ても、対応することができないんだ。

 ただ、これは最初の剣が遅いとダメなんだよ。最初から、剣の早さが遅いと相手もおかしいと思うから、防がれる。早く振り下ろし横に薙ぐ。これができると絶対に相手を斬ることができる。

 オレは横に薙ごうと考えると、どうしても振り下ろす剣の速さが遅くなるんだ。だからオレには使えないんだが、マモルならできそうな気がする。練習してみてくれ。それが終わったらオレが槍を持つから、槍に対してどうするかやってみよう」


 ジンがゆっくりやって見せてくれ、それを真似てだんだん早くしていく。最初は言われたように、横に薙ぐことに意識がいってしまうが、だんだんと速く振り下ろせ、横に薙げるようになってきた。これも練習あるのみだ。剣を横にしようとすると空気抵抗が生まれるのが手に伝わり、横にすっと剣を滑らせるように薙ぐ!!これか!!できそうな気がしてきた。


 あとは上達を目指すだけか。

読んでいただき、ありがとうございます。

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