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オバチャンたちと気まずくて

 小屋に帰るとアンがいた。

 アンはニコっと笑って(ほんの少し口をゆがめて?)迎えてくれた。

「マモルたちがウサギ捕ってきて、みんなからありがとう、って言われたよ。アタシが捕ってきたわけじゃないのに、みんなアタシに言うから、アタシも『どういたしまして!』と言っておいたけど、良かった?」

 アンが愛想を振りまくなんて、驚きだわ。

「ああ、いいけど、みんなそんなに喜んでくれたか?」

「みんなすごく嬉しかったよ。アタシだって、こんなに続けて肉を食べるなんて初めてだもの、すごく嬉しい。食べれないときは、ずっと食べれないんだから」

「そうか、アンもそんなに嬉しかったか」

「ウン、そうだよ」


 オレはアンを抱き寄せ『Clean』と唱える。

「なぁ、アン。さっきジンと話しているとき言われたんだけど、オレはきっと領主様に呼ばれて領都に行くことになるらしい」

「そうだよ、婆さまもジンもアタシに言ってた」

「そうなのか?」

「うん、マモルは『降り人』で特別だから、必ず領都に連れて行かれるって。だからアタシがマモルと一緒に暮らすのはそれまでって言われている」

 そうなのか?最初から期間限定って言われていたのか?


「アンはそれで良いのか?」

「何が?」

「いや、オレが領都に行ってしまうこと。帰って来ない可能性もあるんだぞ」

「うん、それは仕方ない。婆さまやジンも言っていたけど、『降り人』はとても珍しい。『降り人』がアタシたちの知らないことをたくさん知っていたら、領主様は離そうとしないはずだから、ここには帰って来ないって」

 アンってドライな子ね。

「そこまで言われているのに、アンはオレに抱かれていいのか?」

「????」

「オレがいなくなるのが分かっていて、抱かれてもいいのか?」

「だって、誰でも、いつかいなくなるんだから。そんなこと思っていても仕方ない。今、アタシはマモルと一緒に暮らしてるけど、もしマモルがいなくなって子どもができていても、みんなで育てていくから大丈夫だよ」


 そんな、あっけらかんと言うなんて......でも、この世界ではこれが当たり前なのか?オレはこの世界の流儀に従って生きて行くしかないのだから、流されよう。

『でも、マモルがいないとアタシは寂しくなる』

 と言って欲しかったけど、無言でした。

 それでも夜は熱く更けていきます。


 朝は気持ちよく目覚めた。

 もう、アンはもうどこかに行っているけど、夕べのアンの言ったことを思い出すと、ちょっと複雑な思いがするのだけど、その後のことを考えると頬が緩むし。

 さあ、いつも通り顔を洗いに行こう。


 井戸に行くといつも通り、オバチャンたちがいた。オレの顔を見るとナゼか、オバチャンたちが顔を赤くして視線を逸らす。

「おはようございます」

「「「「「おはよう......」」」」」

 昨日より反応が鈍い。どうしたのだろうか、夕ごはんを食べるときはみんな和気藹々として距離も近く、親しくお話したのに、今のこの何かよそよそしい感じは何でしょうか?夜の間に何があったのでしょうか???オレが来る直前まで、賑やかにお話されていたのに......。


 心当たりはただ一つ。アンとしたこと、やっぱり。

 オレのすることは、そんな変わってないですけど?多少激しくなっただけですよ?ほんのちょっと時間も長くなったし、ちょっとだけ、少し、ずっと?デモネ、アンが変わってきたんですよ、みなさん。きっと、それが原因かも知れない。

 夕べも聴講者の方たちがいらっしゃったのですね、この反応なら。皆さんが、オレの小屋周辺に集合される時間はたっぷりありましたよね。だって、アンの魂がどこかに行ってしまって、でもオレは自分自身にブレーキが掛けられなかったんですから、仕方ないです!


 気まず~~い雰囲気の中、オレは顔を洗い小屋に戻る。あんな状況じゃ、アンはオバチャンたちに何を聞かれたんだろう?根堀り葉掘り聞かれたよね、きっと。そんなこと考えていると、アンが2人分の朝食を持ってきた。

「アン、おはよう」

「ん、おはよう」

 どことなく気まずく、ぎこちない会話......。

「アン」

「何?」

「今朝、大変だったか?」

「何が?」

「オバチャンたちがアンにいっぱい質問してきただろ?」

「うん」

「何を聞かれた」

「イヤだ」

「え?」

「言いたくない」

 言いたくない、ですと?今まで、言い淀んだり答えないということがなかったアンが答えを拒否するとは!

「どうして?」

「どうしてって、答えたくないから」

「そうなのか」

「そう。色々オバチャンたち聞いてくるけど、アタシだって、どうしてそうなったのか分からないから、答えられなかった」


 そうなんですか、そうですよね。

 アンもはじめは何も反応してくれないお地蔵さんだったけど、今はそれ相応の反応をしてくれるようになったから、今までのアンと全然違ったことで、皆様の、観客の皆さんの琴線に触れたんでしょうね。でも、止めたくても止めれない、アンが止めさせてくれないんです。オレの暴走機関車を誰が止める方法を知っているんですか?

 

 ふと、我に返るとアンがオレをじっと見ていた。マズい、自分の世界に埋没してしまった。アンを見返すと、アンは顔を赤くしてうつむく。

「アンは前のダンナで慣れていたんじゃなかったのか?????」

 また聞いてしまった.....一番聞いてはいけない事項だのに。

「なんのこと?アタシは覚えてないから、よく分からない」

「イヤならもうしないが、今夜どうする?」

「......していい」

「いいのか、オバチャンたちにまた言われるぞ」

「いい。そのうち、言われなくなる、と思う」

 これで今晩も大丈夫!!


 ジンの所に行くと、ジンは納屋に行っていた。納屋と小屋とどう違うの?と思いつつ納屋に行くと、それは大きい小屋で、物が多く置かれている物置だった(翻訳ツールはどんなニュアンスの違いを伝えているのだろう?)。

「ジン、おはよう。何しているんだ?」

「ああ、マモル、おはよう。マモルのお陰で集まった毛皮や肉の手入れをしている。少しでもいい状態で商人に渡さないと、必要なものをくれないからな。もう少し干さないといけないが、途中の状態をチェックしておかないといけないから見てるんだ」

 聞くと、隣国への訪問団の他に月イチくらいで行商もやってくるそうだ。行商と言っても売り買いというよりは物々交換らしい。住んでいる人間はみんな同じ物を食べている。貧富の差はないようで、獲物を多く捕ってきたから多く食べれるということはない。

 この村の住んでいる人が皆、等しく貧しい。極貧と言っていいだろう。オレにできることは何だろう?やはり胡椒か?


「ジン、今日はどうするんだ?」

「ん?今日は罠を見に行ってくるぞ」

「そうか、それならオレも連れて行ってくれ」

「マモルは連れて行ってもいいが、また獲物が出るとは限らないけどな」

「オレの目当ては獲物じゃなくて、胡椒の木だ」

「アレか。アレは持ち帰った分、みんなで全部もいであるぞ。あれを日干しすればいいと聞いているから、女に言ってカラカラに乾くまで干すように言ってある」

「それでいい。胡椒の実が取れるものなら、もっと取ってきたいんだ。たくさん採ってきたように思えても、乾燥すると小さくなるから、ほんのちょっとしか残らないからな」

「そうか、あれがそんなに良い物なのかなぁ?訪問団の来る前に行商の商人に渡してみるかなぁ?」

「あぁ、渡してみてくれ」

「でも胡椒は何に入れて渡せばいいんだ?」

 

 あ、そうだ、入れ物を考えないといけないんだ。

「この村で作っている器はたぶん、湿気を通すから保管には使えない。胡椒は湿気を嫌うんだ」

「なら、どうするんだ?」

「器をグレードアップする」

「ぐれーどあっぷ?」

「あ、もっと良い物にするという意味だ。まず、胡椒の木のところに連れていってくれ。できるだけ実を持って帰ろう。その後、器を焼いているところに連れていってくれ」

「分かった。マモルがそういうなら、今日も胡椒の実を取りに行こう」


 ジンと村を出て何事もなく、胡椒の木に着いた。カゴに押し込めるだけ押し込む。ジンは、その間罠を見に行っていたが、今日は空振りだったようで手ぶらで帰ってきた。ジンも仕方なく、自分のカゴに胡椒の実を入れ、村に帰った。

 村では女の人たちが、今日は獲物がなかったの?という感じで、ちょっとがっかりした顔をしたが、オレたちの背負ったカゴを見て、胡椒の実を持ってきたと分かりカゴを下ろしてくれる。オレたちはまた空のカゴを背負い、胡椒の木に行く。胡椒の木は最初の木の周りに大量に自生していた。この森は胡椒の木に適した土地なんだろうな、これで村に少しでもプラスになれば良いのだけど。

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