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異世界がスタートした

 気が付くと、そこは草原のど真ん中だった。

 しばらく呆然として動けなかった。


 やっと立ち上がって周りを見回すと、当たり一面、草丈が1mくらいの草で覆われていて、ずっと先には大きな森が見える。その森の端まで幅2mくらいの道らしきものが真っ直ぐに続いている。整備された路面とはとても言えず、踏み固められて獣道よりはマシな程度の草が少ない平坦な道、という感じ。その森の端の方から白い煙がまっすぐ上がっている。反対側を見ると、見渡す限り地平線まで草原が続いている。

 ん?オレって確かコンタクトレンズ入れて視力が1.2だったと思うけど、すごく視力上がってね?おかしいな、今はコンタクトレンズがなくて裸眼なんだけど、これって視力が5.0とかケニアのマサイ族並みになってない?神さまが言ってた、能力を少し人並み以上にした効果ですかな?


 とりあえず、何もない方角よりは煙の昇ってる方に向かって歩く。まずは全然知らない世界に来たから、人のいるところに行って、色々と教えてもらわなくちゃいけないからね。煙は人がいるから上がっている可能性大きいでしょ。


 靴は通勤用に使っていたウォーキングシューズのままで転移されたから、歩くのもラクラクだ。革靴履いてなくてホントに良かったと思う。でも服はスーツのままなんだよね。まぁここは寒くなくてちょうどいいから良いけど。肩掛けカバンを掛け、左手にコンビニ弁当とビールの入ったコンビニ袋を手にして、右手には神さまからもらった剣を持ってる。刃の長さが90㎝ほどあるけど、神さまの言ったとおり、全然重くない。ちょっと邪魔だから、腰に差したり背負ったりするのがいいかなぁ?でもスゴい絵だよね、スーツに剣なんてね。


 しばらく歩いていて、おなかが空いてきたので、昼ごはんにする。道端のちょうどいい大きさの石に腰掛け、コンビニで買った弁当食べ、ビールを飲む。

 空を見上げる。すごいなぁ、空の青さが段違いに青い。それに視界を遮るビルがなくて、草原が360°広がっている。地平線を初めて見たよ、こんな開放感のある景色って、田舎に住んでた頃にもなかったな。弁当はチンできないけど、まあまあ美味しくいただけた。それにも増して、昼間の真ん中に飲むビールは美味しいなぁ。CM通りで爽快感たっぷりで、ナゼか冷えてて、今まで生きてきたなかで一番美味しいビールかも知れない。こんなことなら500㎖1本じゃなくて2本買っとけば良かった、と少し後悔するけど、転生するなんて知らなかったんだから、今さらしょうがない。ふと、両親はどうしてるかなぁ、みんな悲しんでくれてるかなぁ、と思い切なくなった。


 ビールを飲み終わって、ゴミをどうしようか迷う。ゴミ箱なんてもちろんないし、かと言って置いていくのは環境破壊の原因だよね。ましてやこんな大自然の真ん中でそんなことできないから、持っていくしかないかな?先輩は、よく食べたゴミをオレに押しつけて「捨ててこい」と言ってたな。今となっては懐かしいなぁ、先輩は今日行く予定だったお客様のところに、オレの代わりに行ってくれたかなぁ。


 弁当を食べテクテク1時間ほど歩くと、煙の下に柵のようなものが見えるようになってきた。森の端にあるから、良く分からないけど人工物のように見えるなぁ。と、どこかでザワザワという音が聞こえる。草の高さは1mくらいなんだけど、振り返って見渡すと50mほど離れたところに牛のような頭が見える。牛と違うのは角が2本じゃなくて、額の真ん中にまっすぐの20㎝ほどの角があること。オレの身長は175㎝ほどだけど、向こうは少し低いくらいに頭があって、その後ろに茶色の小山のようなものが見えてる。あーーー、これって危ないヤツだわ。異世界ノベル定番のミノタウルス?四つん這いみたいだから単なる牛?

 神さまは生活魔法くれると言ったけど、探索魔法とかくれなかったのかな?サーチとか言ったら周囲100mくらいの円で危険物が分かるようなヤツって。『そんなことまでしないよ』って頭の中で言われたような気がする。


 向こうも、こんなところに人がいることにびっくりしたのか、こっちをガン見している。オレもこんな一角の牛のような生き物を見るのは初めてなので、思わず凝視してしまう。で、ハタと気が付いた。自然界って相手と目線合わせるのってケンカ売ってるのと同じだったよな、マズいな~~。でも今さら視線そらそうとしても、そらすことできない。ヤツもこっちをずっと見ていて、向こうはだんだんアドレナリンが出てきたのか、身体から闘気のようなものが発散されてきているような気がする。あぁやっぱり、こっちに突進してくるんだ。オレは逃げられないかな、向こうは牛みたいだし時速50㎞は出るんだろうか、ダッシュで逃げても逃げ切れないよね、頑張って戦うしかないのね。


 よし、よし、よし!戦うしかない!とりあえず剣を抜いて両手で持って構える。こっちの意思が伝わったのか、向こうがさらに勢いを付けてダッシュしてくる。うわぁぁぁぁぁぁ。茶色の大きな岩がダイナミックに躍動しながら、こっちに向かって突進してくる。なんという重量感、ひぇぇぇぇぇぇ、とてもじゃないけど、受け止めるなんて無理だよぉ......あっという間に目の前に来てしまったけど、近づくにつれて何故か少しずつスピード落ちてない?だんだんスローモーションになってるように見える。とっさに右に跳んで避ける。おっとすごく身体軽くて、すっと避けて移動してしまった。前世よりははるかに運動能力上がっているし、動体視力もすごく向上してるような気がする。案外イケるかも?


 牛みたいのは、ドォーーーと行きすぎて止まった。オレに避けられてそのままどこかに行けばいいのに、またこっちに向かって走り出した。もうこれは、突進してきたヤツを、避けながら剣で切るしかない、イメージは完璧だ!ズンズンと突進してくるヤツをギリギリまで待って、身体を開いてかわしざま、剣で牛に切りつける。初めて剣を持ったのだから、そんなキレイに首を落とすなんてできるわけもない、イメージはあるけど。それでも、避けた拍子に剣を振り下ろすと、首から顔にかけてスパッと剣が入った。牛の首には骨があるはずなのだが、まるで豆腐を切るように刃先が入って、そのまますごいスピードで剣を振り抜いた。すごい、すごい、すごい切れ味の剣!まるでオレのオーダーメイドのようだ......神様の作ってくれたオーダーメイドだが。神さま、ありがとう!


 剣は頸動脈に入ったのだろう、ドバっと血が噴水のように出て身体中浴びてしまった。斬ったら、オレはそのまま動かずにいたらダメなのね......すぐに動いて血を浴びず、相手の反撃に備えないといけないんだ。剣を使って戦うのは初めてのド素人だから、切ったあと思わず見てしまったよ、トホホ。

 ヤツは血をドボドボたっぷり出しながらしばらく立っていたけど、ついにドカンと倒れて動かなくなってしまった。剣先でツンツン突いても動かない。間違いなく死んだらしい。初めての戦闘?に、しばらく呆然としてしまった。これはどうすれば良いのだろう。ホッパといて良いのかな?


 どのくらい時間が経ったか分からないけど、後ろの方から「おーーーーーーーい」という声が聞こえてきた。振り返ると、ずっと向こうの柵の方から男たちが何人かこっちの方にやってくる。みんな髪の毛はボサボサでひげをはやしている。着てるものだってツギだらけの粗末なものを着ている。荷車を引いているけど何も積んだようには見えない。


 顔がはっきり見えるくらいになって向こうから声をかけてきた。

「おーーい、大丈夫か?ケガしていないか?オマエ、牛と戦ってなかったか?」

 おーーーー、異世界だけど日本語を喋ってるぞ、というか外国映画に日本語の吹き替えしてるような感じがしてるから、神様が会話の翻訳機能をオレの脳内にサービスしてくれたんだろう。


 彼らが近づいて来ると、なんかみんな小さいな。リーダーらしい男が一番背が高いが160㎝ほどで、他の男はリーダーより少し小さいくらいだ。もしかしたら、これがドワーフというヤツかしら?でも、異世界ノベルによくあるようなひげもじゃで筋骨隆々というわけじゃないから、やっぱり普通の人間でしょう。

「あぁ、オレはケガしてないけど、あんたら、どこから来たんだ?あの煙の所から来たのか?」

「お、そうだ。オレらは向こうの村のもんだよ。オレの名前はジンと言うんだが、村の婆さまが占いで、草原の真ん中に『降り人』というもんが現れるから迎えに行け、と言われたんだ。そんで、その『降り人』は獲物を仕留めているから、それを載せる荷車を持ってけ、と言ったもんで村で男たちを集めてやって来たんだ。そしたら草原の真ん中で何か光るのが見えたし、婆さまの占いは半信半疑だったけど、みんなで来たんだよ。途中でアンタが牛と戦ってるのが遠目に見えたから、婆さまの言った通りだと思って急いでやってきたぞ」


「あんた、血だらけだが、この牛やっつけたのか?」

「すげえなぁ、こんなでかいの切ったのかぁ?」

「こんなの剣で切るヤツなんでめったにいないぞ。領都の騎士様だってなかなかできんだろう?」

 などと男たちがワイワイガヤガヤと騒ぎになる。みんな声がでかくて耳が痛い。ジンが聞いてきた。

 

「あんた、名前はなんと言うんだ?そんで、これどうするんだ?この牛をそのまましておいたら、すぐに虎やら狼やら野犬やら集まってくっぞ。オレたちが村まで運んで解体してやろうか?もう血抜きはできてるみたいだしな」

 と言うので話に乗っかることにする。

「オレの名前はタチバナ・マモルというんだ。オレはあんたらの婆さまの言うとおり、『降り人』というものだろう。こっちに来たばかりだから何も知らない。あんたの村に連れて行って、しばらく泊めてくれないか?この牛はその代金の代わりにもらってくれ」

 と言うと、村人たちの顔つきが変わった。みんなニコニコとしだしたのである。

「え?いいのか、村にしばらく泊めて飯食わせるだけだぞ。それなのに、こんなでかい牛をもらっていいのか?いやぁ、婆さまの言う通りだったなぁ、村にとって災いでなく福を運んで来る、と婆さまは言ってたけどホントに福を持ってきたなぁ。こんなでかい牛なんて久しぶりに見たぞ!早く帰ってみんなに見せんといかん。ほら早く積み込め。さっさとしないと血の臭いで獣が集まって来るぞ」


 ということで男たちが牛にロープを掛けて、えいやそいやと荷車の上に載せる。見れば太陽は少し傾いて来ている。あれ?さっき太陽は頭の上にあったけど、今は東の方にいる。確か、太陽の移動する方が西だよね?それに太陽の大きさが地球より少し大きいような気がする。やっぱ異世界だと色々違うのかな?


 荷車に載せた野牛をしっかり縛り付けて固定し、男たちはえっちらおっちらと荷車を動かす。でかい牛が食べられると思って、あまりにうれしいのか歌を歌い出す。でも歌詞が聞き取れないよ?やっぱりそこまでヒヤリングができてないのかなぁ。オレにはガーガー言ってるようにしか聞こえないぞ。

 小一時間ほど歩いていて、だいぶ村が近くなってきた。あと30分くらい歩けば着きそうだがトイレ休憩となる。トイレと言っても、もちろんそんな設備があるわけないので大自然の中に始末する。一人が割と大きめの葉っぱをもって草むらに入って行く。あ~、大きい方をするのね、やっぱり紙なんてないのね。葉っぱ使うのかぁ、葉っぱでケツを拭くとかぶれたりしないのかと思ったけど、稲作や麦作してないと藁がないから、やっぱ手で拭くわけにいかないし、葉っぱはマシな方かな?もしかしたら、村の中では大きい方のトイレの下に豚がいて、人間が大きいのを落とすの待ってる、とかいうことあるのかな?もう何があっても驚かないようにしたい!


 遠くで何かカサカサという音がするような気がする。何か移動するとき草と擦れて起きるような音か?

「おい、何か音がしてないか?何か近づいているような音だぞ」

「え?そうか?何も聞こえないぞ?」

「待て、耳をすませて聞いてみろ」

「そうだ、何か聞こえるぞ、きっとこいつを狙った奴らが来たんだ、気をつけろ」

 だんだん音が大きくなる。カサカサという音が周り中から聞こえてくる。ジンが緊張した声で指令を出す。

「やはり血の臭いに釣られて来やがった狼か野犬だろう。村まではまだ遠いから、ここで迎え撃つぞ。あそこに行けば草丈も短いから、奴らも見れる」

 と言って台車を走らせ、草丈が20㎝ほどの場所に移動させ止める。男たちは荷車から剣やら棍棒やら盾を持って台車の周りを囲む。オレもこうなったら、こいつらと一蓮托生なんだから、剣を抜いて男たちの輪の中に入って構える。オレは血だらけのままだから、オレが呼び寄せたのかも知れない。


 草むらの中で、ウーーーといううなり声が聞こえ、だんだんと近くなってきた。狼でも野犬でもグループで狩りをするというから、そいつらだろう。しばらくして奴らが草の中から顔を出した。シベリアンハスキー犬をもう一回り大きくしたような、脚も太くがっしりした身体つきだ。

 さあ、決戦(大げさだが)の始まりだ!


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