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新たな侵入者たち

 夜半過ぎ、宿舎に近づいてくる5人ほどの集団がいる。昨日とは違って、走っておらずゆっくりと歩いて近づいて来ている。


 必ずしも、この宿舎が目的とは限らないから、単に盗賊か酔っ払いという可能性もある。

 その一団は宿舎の正面に立つとしばらく停止し、宿舎の周りを歩き始めた。怪しい、こんな夜中に宿舎の周りを歩くというのは。


 こいつらは中に入るにはどうすればいいのか、入り口を捜しているのだろうか?ぐるっと回って、正面玄関に戻って来た。正面突破でここから入って来るというのか、たった5人で?こいつら特攻隊か?公爵様の一行の半分は戦闘員としてカウントしていいんだぞ。そりゃ、戦闘員と言っても役に立たないのもいるかも知れないけど、その半分が使えるとして20人くらいはいるんだから、飛び込んで来たって、5人全員殺られて終わりだろう?本当に入ってくるのか?


「マモル」

「ヒューイ様」

「玄関から入ってくるようだね」

「公爵様の周りは大丈夫なのですか?」

 ヒューイ様は余裕で頷き、

「任せてきた。私の他にも護衛はいるからね。起こして頼んできたよ」

 オレは玄関の方を顎でしゃくり、

「ヤツら、本当に入ってきますかね?」

 と聞く。ヒューイ様は、うーーんと言いながら、

「可能性は薄いような気もするけど、ないわけじゃない。小手調べ、というか、どのくらい守りが堅いか、軽く当たってみるかも知れない」

「ということは?」

「とりあえず、玄関に入って、こっちの反撃具合を見て逃げる」

「分かりました。それで、どうすればいいでしょう?」

「いったん、あいつらみんなを中に入れよう。あいつらも感知を使える者がいると思うから、中で待たれているのが分かっているはずだ。入った途端、灯りを点ける」

「灯り?」

「そうだ、マモルの呪文でとびっきりの明るいヤツを点けてくれ。中から、私とマモルが飛び込み、外からベンゼが叩く。これで行く」

「分かりました」


 玄関の広間の真ん中で、オレとヒューイ様が2人、玄関の扉が開くのを待つ。


 ヤツらの中に解錠できるヤツがいるようで、鍵を開けようとしている。異世界ノベルだと盗賊とかになるのかしら?余計なことが頭に浮かぶけど。


 待つとカシャーーンと小さい音がして、解錠された。ヤツらは音がしないように扉を開ける。扉が全開になり、侵入してくる。真っ暗な中でも5人が入って来るのが分かる。一切音はしない。


 ひとさし指を掲げ、唱える。特大の『Light!』


 玄関の中が真昼よりも明るい、文字通り目の眩むような発光が起きた。

 途端に指目がけて矢が飛んで来た。指が掠る。

「痛っ!?」

 しかし、ヒューイ様が剣を地摺りのまま、5人の中に飛び込んで行く。オレも遅れてられない。2階で物音がしている。光に気がついたのだろう。早く決着を、こいつらを逃がさず決着を付ける。

 

 アドレナリンが猛烈に出て来て、指先の痛みを忘れ、剣を握り先頭の男に斬りかかる。男は剣を振りかぶるが、まだ光が網膜に焼き付いているのか、反応が遅い。剣を太ももに斬り入れ、そのまま男の後ろに進む。


 集団の後ろからベンゼが斬りかかっていた。

 後ろの男は剣を横から薙ごうとしている。飛び込むふりを見せ、急ブレーキを掛け止まると、男は勢いを止められず剣を薙いで、あっちの方に振り切る。オレを見て絶望の表情を浮かべるが、済まない。殺すか殺されるかだよな、そのまま剣を胸に突き刺す。横のヒューイ様も2人を倒していた。ベンゼは外から不意打ちした形になって、後ろの男を倒している。

 

 宿舎中から人が出て来た。公爵様も姿を現した。マズいんじゃね?いや、部屋にいる方が危ないか?


 宿舎の係が出て来た。さすがに起きてくるよな。ヒューイ様が、

「見た通り、侵入者を倒した。館の中に入って来たので、やむなく正当防衛であった。申し訳ないが、町の警邏隊か衛兵隊の者を呼んできてくれないか?」

 青い顔をしている宿舎の者に命令する。


「は、は、はい。わ、わかりました」

 係の者は人を呼んで、走らせた。

 玄関は血の海になっている。

「マモル、どうしたんだ、その手」

「え、手?あぁ、光を付けたとき、矢が飛んで来て指を掠りました」

「そうか?でも、それは血が出ているんじゃないか?」

「そうですね」

 手袋を外すと、指先から血が出ている。指先が少し黒いか?なんでだ?


『Cure』

 あれ、血が止まらないぞ?

『Cure』

 あれれ、効かない?どうして?どうしてだ?イテテテ、なんか。ズキン、ズキンしてきた。あいたたた、おぉぉぉ、立ってられない。

「いて―――――――――!!」

 急に痛くなってきた。指先から全身に痛みが回っているような、指先どころが、手も腕もガミガミ咬まれて咬まれて、止まらないような感じになってきた。全身の痛覚が丸出しになったように、床についた膝さえ痛い。とにかく、痛くて痛くてかなわない。

「あぁぁぁぁぁ!?」

 痛くて痛くて、転げ回る。周りを人が取り囲んでいるが、人の目を気にしていられないくらい痛くなってきた。

 マモルの顔色がどんどん悪くなってきたので、周りが大騒ぎになる。痛みの作用もあるのだろうが、毒が全身に回って来ているのか。土色の顔色になってきた。



「マモル、それは矢の先に毒が付いていたのかも知れないな。即効性じゃなかったのかも知れないが、そんなに痛いのか?『Cure』で治らないということは、何か解毒の薬を持っている者はいないか?誰か、誰かマモルを助けてやってくれ」

 ヒューイが周りの者に呼びかけた。


「アノン、助けてやれ」

 マモルの様子を見ていた公爵が横にいた中年の女に指示した。

 女は人垣をかき分けて、マモルの所に来て、のたうち回っているマモルを抑え、指さきを両手で握り、小声で『......Cure』と唱えた。

 女の握った手の中から光が溢れる。

 光が消えたとき、マモルは全身の力が抜け、倒れ込んだ。


 ふう、と女は肩の力を抜き、

「もう、大丈夫、だと思います。あとは安静にした方がいいと思うから、どこか寝かせてあげて」

 とヒューイに告げた。

「分かった。すまない、助かった。恩にきる」

「いえ、タチバナ様には娘がお世話になっているので、このくらい、どうってことないですから。とにかく今は、休ませてあげてくださいね」

「あぁ、分かった。ありがとう、マモルは朝まで寝かせておく」

 ヒューイは女に礼を言い、ベンゼと2人でマモルを抱えて自分の部屋に運んだ。


 まさか弓を持っているとは。室内だから弓を使うとは思っていなかった。そして、灯りを点けた途端に討ってくる反応の早さ。危なかった、まだ指先で済んだのは不幸中の幸いだった。もっと心臓に近い所を掠っていれば、即死だったかも知れない。余裕で迎え打つつもりが油断をしていたんだろう、と。

 今夜のヤツらは、まだまだ小手調べくらいだろう。これが最後ならいいが、そんな希望的観測は実現しないだろう。この後、さらに上手のヤツらが襲ってくることを考えると、犠牲をいとわず警護を固めていくしかないだろう。

 最後の最後には、真っ昼間の集団戦闘になるかも知れない。前途多難な道筋しか見えていない。ヒューイはそう考えていた。

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