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帝国の皇太子からの招待

 部屋にしばらく待っていると、ヒューイ様を連れてベンゼが戻ってきた。

 ヒューイ様の言うには、

「マモル、館の中がバタバタしているのは分かっていると思うが、これは急遽帰ることになったからなんだ。実は副使のポトツキ伯爵は今日、館を出発する。伯爵の隠居された父君の具合が悪いという連絡が昨日入ったそうで、今日出立するということになったそうだ。それで副使が帰る場合、正使も合わせて帰るというものなんだ。長居をしても、痛くもない腹を探られることもあるので、いなくなるなら一緒にということさ。

 それなのに、帝国の皇太子から急遽、明日公爵様に会見したいという申し入れがあり、その準備に大わらわとなっているんだよ。皇太子はなかなか難しい人と言われていて、狭量な人とも聞いている。人を驚かすことが好きだとも言われているから、こうやって突然会見したいと言ってきたのか、単にヤロスラフ王国の使者の顔をみてみたいと思ったのか不明なんだが。

 とにかく皇太子は今まで表舞台に出て来た記録がなくて、我々からするとベールに包まれていて人となりが伝わってこなかったんだ。この会見が、これからの互いの信頼関係を築く良い機会になると思って受けられたんだが。

 それで会見に随行する者の人選を進めているんだが、もしかしたらマモルを連れて行くかも知れないと思っていて欲しいんだ。もちろん、その時は私も一緒に行く。随行者の人数はせいぜい5名ほどと言われていて、武器を持っていくことはできないから、魔法の袋を持つ私とマモルが随行者の分の武器を隠し持って行くことになると思う。心の準備だけはしておいてくれ。

 皇太子はすでに成人してから10年近く経っているはずなんだが、人となりが聞こえてこないというのは、人間的に問題があると思われるんだよ。普通、皇太子なんでものは国民に対して、いかに立派な人物か誇張してでも伝えるはずなんだよ。平凡な能力でも、優しいとか家来を大切にするとか、国政に対して皇帝に助言して参与しているとか、知らせるようにするものなんだけど、それがまったく聞こえてこないというのは、何も褒める所がないのか、それとも何か隠す必要があるのか。

稀に、ごく稀にバカなふりをずっとしていて、皇帝になった途端、バカなふりをしているときに欺いていた無能の家臣を一掃するという名君もいるんだけど。たぶん、それはないだろうけど、最悪の場合、公爵様以下随行員全部を殺して喜ぶというとんでもない人の可能性もあるから、その時は我々がなんとしても公爵様を守らなければいけない。そんな時に、近臣じゃない家来を使うんだよ。盾だよ、盾。

 たぶん、選ばれると思うから、心しておいてね」


 いわゆる捨て駒になるかも知れないということですね。公爵様のお側にいつもいる人たちは、こんなリスクのある場所に連れて行けないから人の盾になれということですか、うーーんカタリナに遺言書いておこうか?


 次の日、予定通り随行員の端に選ばれ、馬車に乗り込む。

 丸腰ということで、馬車にも武器は一切載せず、すべてはオレのポケットに入れることとなった。オレのポケットの限界という物を知らなかったので、最初は剣を入れ、余裕があったので予備の剣を入れ、さらに盾を入れ、弓矢を入れ、兜を入れ、鎧を入れ、と国から持ってきた武器を全部ポケットに入れてしまった。お飾りの、儀礼上の剣というのもダメだって。

 公爵様やお偉いさんたちは、オレにそういう能力があると知っていたようだが、これほどの容量があるとは思わず(オレ自身も思っていなかったが)、その場にいた人全員が驚いていた。

 よく異世界ノベルで、狩ってきた獲物をギルドでストレージからボトボト出してみんなが驚く、というあの逆パターン。みんな、口をあんぐり開けて声も出ない、というのを現実で目撃してしまった。

 オレはたくさんの荷物をポケットに入れてしまって、何かバランスが悪くなって居心地が悪いな?という感じ。まっすぐ歩くのが注意しないといけないというか、変な感じがするくらいで済んでる。思ったほど、魔力を使っている感じもしないし、これを知られてしまったので、帰国の時はかなり荷物を持たされそうな気がする。


 オレは御者の横に座り、非常に見晴らしの良い位置にいる。行く手にテレビで見たバッキンガム宮殿のような広大な敷地の周りを塀が囲んで、中に3階建ての石造りの壮麗な建物が見えて来た。

もしやこれ?と思ったら、まさにそうで、門の前にたつ衛兵が、イズ公爵様の馬車であることを確認して中に入れてくれた。

 宮殿の入り口に至る道の両側には衛兵が立って迎えてくれている。儀仗兵と言うヤツかな?でも考えようによっては、全員が槍と剣を持っているのだから、こいつらが一斉にオレたちにかかってきたら、全滅ですけど。そんなことないと思うけど、イヤな汗が流れます。


 何事もなく、玄関に着き招き入れられた。

 中は驚くような広さと高さのホールがあり、真ん中に男の神さま?の立像が鎮座ましましていた。キーエフ様じゃないことは分かっているけど、ギリシャ彫刻のような兜かぶって剣を持っている。大きさに圧倒されるけど、それはオレだけのようで、公爵さまたちは顔色も変えず、案内の人に従って奥の方に進んで行く。

 オレの間抜け面にホールにいた人たちは、呆れているのか、田舎者の当然の反応とみているのか、上野公園の西郷さんの像を見ているオレの側を散歩していた人の目線の温度に似ているような(゜◇゜)


 とにかく、公爵様の群れの最後尾を付いて行く。宮殿は奥行きもたっぷりあって、どこまで続くんだと思うくらいのものだった。宮殿というのはこのくらい、贅をこらしたものじゃないといけないのか、それとも主の趣味で飾られているのか分からないけど、金色に溢れている。そして、どでかい絵画と彫刻と。


 奥の奥に皇太子様はいた。

 3mよりもっと高そうな扉を開けると、奥に座っていた。横には年配の銀髪の紳士然とした人が立っていた。後で教えてもらったら、この人は宰相のネッセルという方だったそうで。どうも、この人がいたから皇太子が暴発することがなかったらしい。


 皇太子という人は、長身で痩せていた。

 やたら神経質そうというのが分かるくらいで、顔の右側が痙攣していて止まることがなかった。そして貧乏でないのに、貧乏ゆすりが止まらない。ソワソワして、公爵様の顔を見ていたと思うと、視線がオレたちの方に飛んだり、室内の備品の方に行ったりしている。

 公爵様とは当たり障りのない会話をしているのだけど、公爵様の一言一言に過敏に反応していて、落ち着きのないように見える。

 突然、哄笑し始めて横の宰相に窘められたり、お茶とお菓子を持ってきた侍女に対して、お菓子が気に入らなかったようで、キレて違う物を持ってくるよう怒鳴ったりする。

 オレは皇太子と公爵様の話の内容なんて、これっぽっちも入ってこず、とにかく皇太子の奇矯というのか、変人ぶりに驚かされていた。この人が本当に将来帝国を背負っていけるのか、背負わせて大丈夫なのか?と人ごとながら心配になるんですけど。帝国だけじゃなく、周りの国にも影響あるのだから、もっとまともな人が国を継げば良さそうな?と初対面のオレが思うくらいだから、この国の人たちも思っているんだろうな。そして、この皇太子もそれを聞いているし、言われているんだろうな。この人が四男、五男と言った皇位継承と関係ないポジションにいれば幸せだったろうにと思ったけど、どうなんだろう。


 おれだけじゃなく、誰もがみなハラハラしながら会見は終了した。

 部屋を公爵様が出るときに見た横顔は、目の下にクマができているんじゃないかと思うくらいやつれていた。心労ご察しします。

 部屋を出て、扉を閉めたとき、部屋の中から皇太子の声が聞こえた。

「ハハハハハァーーーーー」

 大声で笑っておいでです。何かおかしいことがあったのだろうか?怖い、怖いです。ヒューイ様の顔を見ると、ヒューイ様も困惑というのを表情にしたらこうなる、と言う顔をしてクビを振っている。誰にも理解できないですよね、家臣の人たちは大変なんだろうな。ポドツキ伯爵は来なくて正解でしたね。さっさと帰られて良かったですよ。


後 で、ヒューイ様から教えてもらったけど、宰相が皇太子の後見役として幼い頃から見て来たから、反皇太子勢力を握り潰してきて現在があるそうな。皇太子が廃嫡されるということは、即、宰相失脚となるらしい。

 よく聞く話のような気がするけど、そんなのって宰相も安穏としていられないのが歴史の教訓じゃなかったっけ。



読んでいただきありがとうございます。

次は7月22日の予定です。

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