今日はウサギと対決だ
小屋を出てジンの小屋に向かう。ジンはオレを見るとニヤニヤしている。
「なんだ、ジン、オレの顔に何かついているのか?」
「聞いたぞ、夕べは大変だったてな。オマエの小屋の隣のギンがうるさくて眠れなかったってな」
「そりゃ、済まなかったな、睡眠の邪魔をして」
「あぁ、それで今日は森に行きたいとアンから聞いたが?」
「そうだ、ジンが行くとき一緒に連れて行ってくれないか?」
「済まないが、今日は森に行かないんだ。もうすぐ雨が降ってくる。今日の雨は結構強いから、森に行くと危険だ。だから今日は小屋にいろ」
「そうなのか、ジンは天候が分かるのか?」
「分かる。ナゼかは分からないが、小さい頃から、今日明日くらいまでの天気が分かる。だから、大雨や大風が来るときは、みんなを避難させたりしている」
「すごいな、天気が読めるというのは、オレの世界にもいたが、そんな正確な天気を読めるのはいなかったぞ(天気予報も局地的には外れることが多かったし)」
「そうなのか(どこか嬉しそうだな)、奥までは行けないが近くなら行けるぞ。あの胡椒の木くらいまでなら行けると思うから、行くか?」
「そうか、それなら連れて行ってくれ。実をわんさか取ってきて、みんなで処理しよう」
「そうだな、たくさん取ってきて、みんな食べれるようにしよう。なら、みんなに声を掛けてくる」
そう言ってジンは小屋を出て行った。
オレも小屋に戻り、カゴを背負い、万が一のため剣を持つ。万が一、どころかこの世界に来て外に出ると100%の確率で獣に遭遇しているから、絶対必要だ。
広場に行くと、すでにジンを含めて10人ほどがカゴを担いで集まっていた。
「オマエら、これからマモルが見つけた胡椒の木の実を取りに行くぞ。胡椒の実は乾燥して、すりつぶしたものを食い物にかけると食い物が旨くなるんだ。もしかしたら売り物になるかも知れん。カゴに詰めれるだけ詰めてきてくれ。
今日は、もうしばらくしたら雨が降ってくるから、さっさとやるぞ」
ジンはそう、みんなに告げて前にも入った道を先頭に立って進む。
胡椒の木の辺りに着いて、ジンがオレに説明するように顎をしゃくる。
「みんな、オレはマモルだ」
みんな、そんなことは知ってるよ、と言う。そりゃそうだな。
「胡椒の木はこれだ。この緑色の実と赤色の実が食べれるから、房ごと持って帰る。乾かすと小さくなるから、できるだけカゴに詰めて持って帰ってくれ。最後に枝をスパッと切って持ち帰りたい。枝を地面に差しておくと、成長して木に育つんだ。そうすると実が成るから、村の周りで胡椒の実が採れる。よろしく頼む」
「みんな、分かったか。これは、みんなの生活のためでもあるんだからな。ただ、言うまでもなく、周りには獣がいるから注意しろよ。森の端っこと言っても、何が出ても不思議じゃないぞ。カゴにいっぱいになったら、ここに集まってくれ」
「そうだな、マモルがいるから獣が寄ってくるかも知れんな」
「「「「「「「あははは、そうかも知れん」」」」」」」
やめてくれ、フラグ立てるのは。
みんなは、胡椒の木を捜しに散らばって行く。「ここにあったぞ」という声があちこちに聞こえる。ここら辺の気候はきっと胡椒の生育に合っているんだろうな、オレの田舎よりは暖かいような気がするし。
あっという間に、みんなカゴを胡椒の房でいっぱいにして戻ってきた。やっぱり森で生活している人だからかな?オレはカゴに半分くらいだけと、みんな戻ってきたから、もう帰っていいかな?
「みんな揃ったな。おっとマモルが半分くらいしか入ってないが、雨が降りそうだから帰るぞ」
「「「「「「「おぅ」」」」」」」
ジンが先頭で、バウが殿になり一列になり村へ帰る。
帰り道、胸がザワザワする。聞き耳を立てると、奥の方で何か音がするような気がする。
「ジン、何かおかしくないか?奥の方で音がするぞ」
「本当か?マモル。みんな、耳を澄ませ!」
みんな黙って耳を澄ませる。
何か草をかき分けるような、ガサガサという音が聞こえないか?何かが近づいているぞ。
「ジン、何か来ている」
「そうだな、近づいている。マモルが森に来ると必ず獣が寄ってくるな。今日は何だ?」
またかよ、またオレが戦うのか?
「戦えるヤツは前に出ろ。向こうのほうから来ている。最前列はマモルとオレとバウだ。さあ、やるぞ!」
ジンが真ん中でオレとバウが左右に立ち、音のする方を見る。何か茶色い物が飛び跳ねてこっちに向かってきている。
「大ウサギだ。珍しいな、こんな所で見るのは」
「そうだな、群れで向かってくるぞ。マモル、角に気をつけろ!」
そうか、目を凝らすと額に20㎝くらいの角がある50㎝強のでかいウサギがジャンプジャンプして向かって来る。
先頭のヤツがポーーーンとオレに跳んで来る、またオレ?ジンじゃなくオレ(;.;)。
意識をギューーーンと集中すると時間がスローモーションになる。この感覚はもう慣れてきた。剣を振りかぶり、跳んで来たヤツを斬る。スパっと音がするように大ウサギの首が斬れ、例によってまた血を浴びる。その後ろから、次々に大ウサギがジャンプしてなぜかオレの方にくる、おかしいジンやバウの方に行けよ!
とにかくオレは剣を振って、飛び込んで来るヤツを斬る。一度血を浴びているから、もう二回も三回も四回も同じだ。あんまりオレの方に大ウサギが飛び込んで来るものだから、ジンとバウは笑いながら前に出て、途中カットしてくれる。
大ウサギの群れが終わるのはアッという間だった。思わず、尻餅を着いてしまった。
「マモル、大丈夫か?今日もやったな!」
「あぁ、何ともないけど疲れた」
バウも少し呆れたような顔で
「マモルが獣を呼ぶ、というジンの話は本当だったな。こんな所で大ウサギの群れに遭遇して、おまけに向かってくるなんて滅多にある事じゃないぞ」
他の奴らも口々に言う。
「そうだな、あの数を見たときは、どうなるかと思ったが、みんなマモルの方に向かってくるし、マモルが殺ってしまうんだから驚いたよ」
「ジンやバウは見てただけだろ笑」
「何を見てたって言うんだ、オレとバウは2頭ずつ殺ったぞ!」
「じゃ、マモルはいくつ殺ったんだ?1,2,3,4,5,6。6頭か。これはすごいな。今晩はまた肉を食べられるぞ!」
「そうだな、オレはウサギの肉が一番好きなんだよ!」
「おまえもそうか、オレもだよ。かあちゃんや子どもも喜ぶぞ」
「マモル様々だよな」
「さあ、集めてとっとと帰るぞ」
みんなは満面の笑みで大ウサギを持って、村に向かう。血を浴びたのはオレだけだった。村に着く少し前に雨が降ってきたので、浴びた血が流れたのが幸いだった、みんなは困ってたけど。ジンの予報の通りだ。




