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調印団の派遣の背景は

 ヒューイ様の話は続いた。


「それで、今回の戦乱でアレクサ様がルーシ王国の捕虜となられたことで、後継者争いはなくなったと思われたんだけど、今度は鳴りを潜めていた第二王子のノエル様が王位に色気を出して来られたらしいんだよ。

 その証拠が、宰相のガライ様と組んでルーシ王国との休戦協議を担当されたことと言われているんだ。どうまとめたか分からないけど、ルーシ王国とは現状で占領されている土地をルーシ王国領土として認めることだけで、和解することになって、金銭的な要求は認めなかったんだよ。普通は、これだけ軍事的な圧力を掛けられていると、和解金を要求されても不思議じゃないんだけど、今回はなかったんだよね。これの手際の良さをノエル様の能力と賞賛する人も多いよ。

 ただ、ルーシ王国はアレクサ様ご一家と引き換えに多額の金銭を要求されたそうだけど、それについては拒否したという噂もあるんだけど。

 だってゴダイ帝国とは、オビ川の東岸の地域を割譲しているんだよ。それに比べるとルーシ王国との交渉は成功したと言えるんだ。皇太子の評価は下がり、ノエル王子の評価は上がったということさ。

 そうなると、皇太子様は面白くなくて、ノエル王子様を目の敵にしてなんとか蹴落とそうとしていると言われている。」

「そうなんですか」

「それで、なぜか公爵様も皇太子様から目を付けられ始めたと言われているんだよ。とにかく、目障りな相手は消してしまおうと考えておられるのじゃないかってね」

「なんと。公爵様は王位を望んでおられるのでしょうか?」

「いやぁ、私の見る限り、そんなお気持ちはないと思うよ。現在の王国を取り巻く環境が最悪と言っていいようなものだから、皇太子様を中心にして外圧に立ち向かおうと考えておられると思うんだけど、皇太子様には伝わってないのかなぁ」

「はぁぁぁ、そうなんですか」

「それで、本題なのだけど、マモルたちに同行してもらったのは、調印団の旅程で害をなそうとする動きから守る手伝いをして欲しいということなんだよ。公爵様の周りは近衛兵がお守りしているから、我々はそれに至る前の壁として働かないといけなくてね」

「えええええーーー、それって一番危ないヤツでしょう?損耗率の高いやつですよね?」

「お、損耗率って難しい言葉を知ってるね。それだよ、それ」

「で、具体的には何をやればいいんでしょうか?」

「たぶん、調印式が終わるまでは何事もないだろう。問題は帝都を出てから、国境を渡る前までに何か起きるか?だろうね。ゴダイ帝国の中で起きたことなら、ヤロスラフ王国としては帝国が何かした、と非難することもできるし」

「なるほど。でも帝国はそういうことが起きるとマズいし、公爵様を守ろうとするのでは?」

「そうだといいけど、帝国側も公爵様がいない未来の方がいいと思っていたら、何もしてくれないだろうね。見て見ぬ振りするかも知れないし」

「そうですかぁ、とほほ。私は生きて新妻の顔を見れるんですかねぇ。可愛い妻が待っているんですけど」

「いや、それはマモルの頑張り次第じゃない?とにかく頑張ろうよ。家族が待っているのは、私も同じだからね」

 ヒューイ様に背中をバンバン叩かれて、宿舎に入った。やっぱり、そんな楽しいゴダイ帝国訪問ツアーだとは思っていなかったけどさ。


「ところで、マモルは敵を感知するのって、やってないの?それともできないの?」

 ヒューイ様が聞いてきたけど、そんなの初めて聞きましたよ。感知するのは呪文か何かだと思っていたから、教えてくれないとできないと思っていたし。

「はい、できません。誰も教えてくれませんでしたし」

「う~~ん、なんてことだろう。教えてもらっていないからできない。自分で何かやってみよう、なんて思わなかったのかな?」

「いや、毎日の生活が忙しくて、そういう余裕もなかったし、ヒューイ様と一緒の時は、ヒューイ様がやっておられたので、私は指示に従うだけですんでいたので……」

「いやいや、時間なんて、やろうと思えばどれだけでも生み出せるものだよ?」

 なに、この既視感。営業の時に何度も言われた言葉。

「マモルね、ゴダイ帝国はヤロスラフ王国と違う呪文がいろいろとあると思うんだよ。前にチェルニの偵察に行ったとき、私も知らない魔法の呪文を使われていたから、ヤロスラフ王国とは違う発展をしていると思うんだ。だから、一人のときでも敵が近づいているのを感知して身を守る、ということが大事だからね。

 幸い、マモルは魔力量だけはたっぷり持っていそうだから、コツを掴めばいけると思うよ。近くにベンゼという先生がいるから、教えてもらえばいいから。ベンゼはハルキフにいたときは、夜は1人で領主の館周辺を守っていたから、ずっと敵の感知をやっていたんだよ。上級者になれば、妻が廊下を歩いてきていて、それが上機嫌かとてつもなく怒っているか、分かるようになるから。そうだな、ベンゼ?」

 ずっと黙っていましたけど、オレの横にベンゼがいました。

「その通りでございます。訓練すれば、相手の気持ちが色分けされるようになりますよ。敵なら青とか、好意を持つ者なら黄色や赤とか」

「ほら、そういう感じは、人それぞれなんだけど、教えてもらってくれないか。私は教えるなんて面倒なことはしたくないから」


 ということで、ベンゼ先生に教えてもらうことになりました。

 先生の言うには、魔力を持っていない人でも同様なことはできるという。背後から人が近づいて来たときに、なんとなく圧力のようなものを感じるのがそれで、訓練すれは、その範囲が広がってくるそうだ。

 ベンゼのイメージだと、広い池の真ん中に自分が立っていて、足下に魔力の玉を落とす感じだそうだ。玉が落ちで、足下から波紋が広がる。近くに人がいれば、波紋がその人にぶつかって返ってくるそうで、その返ってくる波に色が付いていたりするそうで、まるでレーダーと同じ原理のような気がする。うん、レーダーと呼ぼう。

 こういうことってイメージできるかどうか?自分の中でフィットした感じで行えるかどうか、が重要で「そんなことできない」と思いながらやっても、できるはずがないそうだ。


 さっそく、試してみる。すぐ横、50㎝ほど離れてベンゼに立ってもらう。これなら、レーダー使わなくても、なんか熱が伝わってくるような気がするし、圧が感じられるんだけど?

 目をつむって、足下にポトーーンと魔力の玉を落とすような絵を頭に思うと、玉が落ちて波紋が広がるとすぐに波が返ってきた。ああ、これか。思ったより簡単?

「おぉ、マモル様、できましたね。すごいです」

 ベンゼが驚いて聞いてきた。オレも驚いたんですけど、どうして分かるの?

「え、私が感知したって分かるの?」

「分かりますよ、何か弱い力がぶつかってきたような感じがするんですよ。力の方向や色合いが分かったり、分からなかったりします。相手に分からないような、密かな力で波紋を出せるといいんですけどね」

「はぁ、そうですか?」

「じゃあ、少し離れますから、やってみてください」

 と1mくらい離れる。これは分かった、けど2mも離れると分からなくなった。魔力の玉を大きくすると、なんとか分かる。ベンゼが離れると魔力の玉を大きくしないと分からない。これを繰り返すと、とんでもなく魔力を使う。肉体を使っているわけではないけれど、脂汗をかいてしまった。

 ベンゼは何事もなくニコニコ笑いやがって、

「マモル様、何事も練習ですよ♪」

 と言いやがる。

「じゃあ、私が波を送ってみますから、分かるかどうか教えてくださいね」

 と先生然として言う。


 

「じゃあ、やりますよ。…….どうです?」

「分かった!」

 楽勝じゃん!

「これは?」

「う~ん、なんとなく」

「これは?」

「分からない」

「今のでも、普段よりだいぶ強く波を送ったのですけど、分からないですか?うーーん、こっちも練習しないと。明日から、道中練習して行きましょうね」

「はい…….」

 

 先生の言う通りにします。


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