ヘルソンに着いて
ヘルソンのイズ公爵様の館に着くと、明後日出発予定ということだったけれど、すでに馬車の用意が進んでいて、いろいろと忙しそうに人が動いている。
ヘルソンに着いたことを報告しようと館の中に入っていくと、ちょうどヒューイ様がいて、挨拶する。ついでにべンゼを紹介してみる、覚えているのかな?
「ヒューイ様、今回私の供を紹介いたします。ベンゼと言いまして、以前はハルキフに住んでいましたが、覚えておられますか?」
「ベンゼ?ん、ん、顔を良く見せてくれないか。う~~ん、顔を見たことはあるけど、何をしていたか、思い出せないよ」
ベンゼが頭を下げ、挨拶する。
「ヒューイ様、お久しぶりでございます。覚えておられないのも無理のないことでして、私は領主の館の夜の警備を担当していた者でございます」
「へぇーーー、そうだっけ?悪いなぁ、覚えていなくて。いつから、マモルの所にいるんだい?」
「はい、ゴダイ帝国の占領下になりまして、占領軍の一番偉い人に私はどうすればいいか、聞きに行ったのですが、オマエはいらないと言われまして......それで、以前、お会いしておりましたタチバナ様を頼りまして、ブカヒンに参りました」
「マモルに一度会っている?いつ?」
「はい、クチマ様が領主になられた後に、タチバナ様がハルキフに来られまして、なぜか領主の館の塀の上に来られたので」
「ふ~~ん、何か深い訳がありそうだけど、聞くのは止めとくよ。それで、今は何をしているのかい?」
「はい、今はリファール商会の玄関の掃除と雑用をしております」
「いや、それはもったいないねぇ。どうだい、私の所に来て働かないかい?」
「申し訳ございません。今は、穏やかな日が続いておりまして、夜もゆっくり寝ることができております。こんな生活は何年ぶりなのか、ありがたく過ごしておりますので、いまのままの生活を続けて行きたく、お誘いは大変ありがたいのですが、お断りさせていただきます」
「そうかぁ、マモルの所にいたって、そんなに静かな生活が続くとは思えないけれどね。まぁ、いいや。がんばりなさい」
「はい、ありがとうございます」
おっと、本題を話さねば。なんとなく、話が済んだ感じになってしまった。
「ヒューイ様、ゴダイ帝国に行く者の中に私も入っているんですが、私が到着したことを、どなたに報告すればいいでしょうか?ご存じでしょうか?私はそういうのが、分からなくて、教えて頂きたいんですけど」
「それなら、私が話しておくから、これでいいよ。荷物はあそこの人間に渡しておけばいいから。
出発は、明後日の今と同じくらいの時間になると思うし。明後日まで、どこにいるのか、連絡先を教えてくれるかい?」
「はい、リファール商会のヘルソン支店にいます。何かあれば、そこに連絡いただければ大丈夫です」
「わかった。なるべく、そこから離れないようにしてくれ。じゃぁ、明後日頼んだよ」
ヒューイ様と別れて、町を歩く。
「さて、ベンゼ、明後日までどうしようか?」
「マモル様、こんなことを申し上げてよいものか分からないのですが、こういう時はずっと、連絡先に待っているものだと思いますが?」
「そうなの?ヒューイ様もそうしているのかなぁ?」
「はい、ヒューイ様のことを全部知っているわけではありませんが、そのようなものだと思います」
「そうか、とりあえず、リファール商会の支店の方に行こうか?」
「はい、それが良いかと」
意外と常識のあるベンゼと一緒に、二泊お世話になるヘルソン支店の方に向かった。
ヘルソンに来た以上は、ブラウンさん夫妻に挨拶に行かないといけないような気がして、支店の人に、ブラウンさん夫妻のことを聞いてみた。
するとブラウンさんたちは、外見も医療の実績も両方で有名で、普段は診療所にいらっしゃるということを教えてもらった。
それなら行ってみようと店の人に案内を頼むと、ベンゼも一緒に行くと言うし。やっぱりそうでしょ?暇なんだし、付いて行くよね。
ベンゼの言うにはハルキフにまで、ブラウンさんたちの噂は聞こえてきたそうで、雲を突くような巨人の夫婦が神のごとき医療を行っている、という噂が広まっているそうな。医者の中でも評価は両極端で、悪し様に否定する人と、一度その医療を見てみたいという人と二つに分かれている。これまで、治すことの適わなかった病気やケガを治せるというのは、悪魔の所業と言う人もいるとか。これは、無理もないような気がする。たぶん、ほぼ切断した腕が、また繋がったというのを目の前で見ていたとしても、信じられないだろうし。
オレだって、異世界転生ノベルにあるような、なくなった腕が「ハイ・ヒール」とか言ったら、ニョキニョキ生えてきたら、神と悪魔とどっちかと聞かれれば、悪魔の仕業と言うかも知れないよね。
そんなことを考えながら、支店から歩いて20分ほどのところに診療所があった。診療所の前に、行列ができていた。これは、一見さんお断りのパターンってことが、オレでも分かった。別にオレが具合悪いわけでもないので、受付の人にメモで「リファール商会にいます。よろしければ、夕食を一緒にいかがですか?」とメモを渡しておきました。
帰り道、行列の人を見ると、日本みたいに老人ばかりが並んでいる、というわけではなく、どちらかというと若い人、子どもや赤ん坊を連れた人が多い。
どうしてかな?とベンゼに聞くと、そんな年になるまで生きてる者は少ないですから、長生きできるのは金持ちだけなので、並ばなくとも医者に診てもらえる、ということで、なるほど!?そうですね。




