ポツン村を出発する
イズ公爵様にゴダイ帝国行きを告げられてから、すぐにブカヒンに戻って、リファール商会に飛び込んだ。
またいなくなるんだから、カタリナのことをお願いしておかないといけない。と言ってもカタリナは村にいて、こっちにいるわけじゃないけど。
ペドロ会頭が出て来て、
「マモル様がゴダイ帝国に行かれるのでしたら、これを持って行っていただけないでしょうか?」
と渡されたのは、コーヒー豆。そう、グラフさんのスペシャルブレンド豆。送ろうとしていたけど、戦争状態で道が通れず、困っていたそうで、今や容量の増えたポケットに入れて頂けないでしょうか?と聞かれると、イヤとも言えず。ついでに、他にグラフさんにお土産を用意してもらうようお願いした。道中の着替えとか、おやつとか酒とか嗜好品のたぐいを、何を用意すればいいのか分からないので、丸投げして用意してもらうことにして、ポツン村に戻ることにした。
おっと、同行者としてベンゼを、あのハルキフの領主の館近くの塀の上で会ったガードマン?も連れて行くことにして、商会の前でホウキを持って掃除していたのを、止めさせ、告げた。ベンゼは顔色も変えず、驚きもせず「分かりました」と言っただけだが、本当に大丈夫なのかね?キミは準備しなくていいのかな?
とにかく、みんなペドロさんに任せてポツン村に行かないと。
村に戻って、みんなにゴダイ帝国に行くことになったと告げると、心配通り越して唖然、といった顔になった。
あれ、どうして?って聞くと、外国に行くというのは、違う世界に行くのとおんなじことで、オレの感じじゃ月や火星に行って来ます、ということに似ているらしい。たいていの人は生まれた町で死ぬまでそこで暮らすのが当たり前、貴族のお偉い様だけはあちことに移動することもある、というのが常識だそうです。
カタリナとミンは泣き出してしまった。バゥとミコラは「これでこの村もおしまいだ」と呟いている。サラさんは口から魂出したような、抜け殻状態で。
そんな大変なこととは知らず、と言うと「だからマモル様は世間知らずと言うんです!!貴族様のお偉い方やそのお側にいる方が行くというなら、当たり前なんですが、たかが僻地の村の村長が、公爵様のお供で外国に行くなんてことはあり得ません!!」とサラさんが怒鳴ってくるし、そうは言ってもイズ公爵様から命ぜられたものは受けるしかないんだし。
グラフさんみたいにゴダイ帝国から1人でやってくる人もいるんだし、と言うと「そんな人は特別なんです!!」とキレられて、どうせぇって言うのよオレに。
オレと話していても、埒が明かないということで、みんなが頭を集めて打合せしだした。サラさんが中心になって、オレのいない間に派遣されていたらしい、文官の若い男がサラさんの横で、フンフンと聞いている。建築現場の兄ちゃんたちもナゼか、話に混ざっているし、オレがいなくてもポツン村はまとまっているなぁ、と感心して、安心して。サラさんって、裏の村長ね。
オレがいなくてもちゃんと村が回っているのを、ちょっと淋しく思いながら、部屋の隅で膝を抱え(イメージです)ながら、話がまとまるのを待ってた。
サラさんが立ち上がって、パンパン手を叩きながら、
「じゃあ、そういうことで行きますから。良いですねぇーー。何か問題あったときは、報告してくださいねぇ。たぶん、国境まで10日、国境から帝都まで10日、帝都で10日、帰りが同じく計20日くらいで、予備をみて60日留守にされると考えてやっていきますよぉ。よろしくお願いいたしますねぇ」
「「「「「「ハイ!!」」」」」」
あ~~ら、いい返事!
あぁ、サラさん、あなたが頼りです、と思ってると、カタリナが立ち上がって、
「みなさん、よろしくお願いいたしますぅ。村が立ち上がる、一番大事なときにマモル様がいらっしゃいませんが、こんな時こそ、みんなで力を合わせて村を作っていきましょうね。がんばりましょう!!」
あ、カタリナさん、いつの間にそんなリーダーシップを?サラさんが一人増えたような気がするんですけど。あれ?
オレは何も発言することなく(する必要もなく?)、会は解散した。
その夜、ちゃんと甘い時間を過ごしてから、カタリナにサラさんのことを聞いてみた。
「サラさんは前から、こんな感じだったっけ?」
「いいえ、タチバナ村にいたときは、ネストルさんがいたので、今日みたいな感じじゃなかったと思いますよ?余り前に出て話をされることはなかったような。何かあっても、ネストルさんが何かしゃべって、その後、足りないことを話す感じだったかなぁ。
でも、今のサラさんって、頑張ってる!って感じだから、私もサラさんを見習わないといけないって思ってるんです。今日もすごかったですよね。凜々しくてかっこよくて、私もあんな感じになれるかな~~って思って、最後にちょっと話をしてみたんです、えへへ。
サラさんの息子のビクトルくんも、頑張ってるんですよぉ。ネストルさんがいなくなっちゃったから、お父さんの分も頑張るって言って、オレグさんに剣を習ったり、文官さんの仕事手伝ったりしてるんです。もし、私に男の子ができたら、ああいう子になればいいなぁ、って思うんです。
でも、たま~~に、ミンのこと、甘酸っぱい目で見ていることがあるんです。私の気のせいかなぁ?どうかなぁ?
とにかくね、ビクトルくんは、いつかお父さんの名誉回復して騎士になるんだって言ってますから、マモル様が昇進したら、ビクトルくんを上げてやってくださいね、お願いしますね。
あ~~でも、早く赤ちゃん、欲しいなぁ?ねぇ、マモルさま、そうですよね?マモルさまも欲しいですよね?
ね、ね、ね、もう1回がんばりましょうよ。キーエフさま、願いを聞いてくれないかなぁ?」
あ~~~、そう言われれば、頑張らないといけないし。
ポツン村にいたのはたった2日間で、とんぼ返りでブカヒンに向けて出発した。カタリナとミンは泣くし、仕方なくカタリナをブカヒンまで連れて行こうかと思ったけど、カタリナが泣いてるくせに却下するから予定通り1人で出発する。でも、車と違って、なかなか進まないから振り返ると村が見えるんで。いつまでも手を振ってるし。みんな、オレは死にに行くんじゃないから。帰ってくるんだからね。
ブカヒンでベンゼを供にして、オレは馬、ベンゼは徒歩で行く。ベンゼは意外と物知りで、今回のような国外に行ったり来たりする国の代表団というのは、料理する人、洗濯する人、会計する人、もちろん、付き人などたくさん引き連れて行くものだそうである。だから、オレやベンゼは警戒と護衛に注意していれば、他のことに気を使う必要はないそうである。ただ、休み時間というものがないのと同じで、一日中気を張っている必要があるかも知れないそうで。ただ警護の人数次第で苦にも楽にもなるらしい。
まぁ、オレは下っ端で、指示される側だろうから、言われたとおり、黙々とこなせばいいのだと思うんだけど。




