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どこの世界でもオバチャンたちはうるさい

 小屋を出て、いつも通り井戸に行く。

 井戸の近くに行くと、オレに気が付いたオバチャンたちが一斉にオレを見た。みんなニヤニヤとしてオレを見る。何か言いたそうだが、誰も何も言わない。


「マモル、おはよう」

 ついに声が掛けられた!!

「おはようございます。ん、どうかしました?」

「んもっ!どうかした?じゃないよ!夕べはスゴかったね?」

 あぁ、その話か。と思いつつもとぼける。

「何のこと?」

「何のことじゃないよ、マ・モ・ル!!アタシはびっくりしたよ。アタシが小屋に戻ったら、どこからともなく、アンのすすり泣くような声が聞こえてくるじゃないか!

 耳のいいアタシだから聞こえたような、小さい小さい声だったよ!それが、すぐに聞こえなくなると思ったのに、だんだん声が大きく激しくなって続くんだから、アタシはたまげてさ、ずっと聞いてしまったさ。いやさ、アタシは聞きたくて聞いたんじゃないよ?聞こえて来たから、仕方なく聞いたんだからね!もしかしたらさぁ、アンが具合悪くなっているんじゃないかって心配でね笑」

 そうですか、聞きたくないけど聞いたんですか......へぇ~~。

「アタシはアンの前のダンナの時も知ってるけど、あんな声をアンが出したことは一度もなかったよ。アンがあんな艶っぽい声だすなんて、信じられなくてさ、見に行こうかと思ったけど、ガマンしたんだからね!」

 そうですか、ガマンして頂けたんですか?次の魔法は『Silent』にしますから。習得できたらですけど。

「あら、アタシはアンが心配だったから、小屋の側まで行ったんだよ。さすがに中を見るのはさ、悪いような気がしてね笑」

「マモルがアンをどうしたら、アンにああいう声を出させるんだろうね?アタシは不思議でならないよ」

 あぁ、そうですか。不思議ですか。

「そうなのかい、アタシは途中で帰っちまったから、それは残念なことしたね」

 あなたもいらしていたんですか、残念でしたね。

「アンタ、どうしてアタシに教えてくれなかったんだい、そんな大事なこと、寝てても起こしてくれれば良かったんだよ」

 みなさん、娯楽がないからこういうイベントは逃したくないんだね苦笑。

「マモルゥ~、今夜もするんだろ?楽しみにしてるからね」

「イヤ、コンヤハシマセンカラ」

「なぜだい?どうしてしないんだい!アタシは期待してるんだよ!」

 ベツニ、アナタノタノシミノタメニ、スルワケデハアリマセン。

「そうだよ、みんな楽しみにしているんだからね!」

 ソウジャナイデショウ、ソレハ、ワタシタチ、フタリノタメニ、イタスモノデスカラ。

「今夜行くからね!」

 コナクテイイデス。コンヤシマセン、ズットシマセン。


 あぁ、皆さんに知られてしまったのですね。皆さんがオレの小屋に移動される時間もたっぷりありましたか。最初はオレのブランクがありすぎたせいで、アンのお姫さまにオレの不肖の息子がコンニチワしたのは良かったんだけど、アッという間に終わってしまって、心が折れそうになってしまったけど、アンがオレをぎゅっと抱きしめてくれたから、ほっこりしてしばらくそのままにしていたし。

 それで止めれば皆さんを呼び寄せることもなかったんでしょうが、我が息子が再び立ち上がったんですよ、不屈の精神で!お父さん、一度じゃダメです、もう一度、もう一度トライしないといけません!と訴えてくるものだから、そのままダブルヘッダーになだれ込んでしまった......。

 でも、でも、二回戦もすぐに終わってしまって......アンはもう十分だから、満ち足りた、というような雰囲気出していたけど、息子がまだ我が儘言い出して、もっと活躍したい、トリプルヘッダーに!と言うもんだから、仕方なく。


 そうしたら、さすがに三回戦では不肖の息子から、自慢の息子に凜々しく成長されて......アンの声が、アンが声を抑えきれなくなって、声を出すものだから、周りの皆様に聞こえてしまったのですね。アンの声を聞いて息子はさらにハッスルしてしまって......。不肖の息子だと思っていたけど、こんなに親孝行だとは思ってもみず。


 このまま行くと4回目に挑戦か?と思っていたらアンが小さい声で

「マモル、外に人が集まってる....」

 と言ったものだから、そこで終了となったんだけど。

 

 オバチャンたちの熱い語りと勢いに何も言えなくなって、スゴスゴと井戸から小屋に戻る。きっとアンも同じように言われたんだろうなぁ。女同士だったら、もっときわどい微に入り細に入り聞かれたことは間違いないよね。


 アンがいつもの朝食を2人分持って小屋に入ってきた。

「アン、今朝は大変だったろ?」

「ん、でも、どってことない」

 え、そうなの?アンがそう言うなら良いけど。と言うことで話題を変える。

「ここで朝食を食べてるけど、机があればいいな」

「机って何?」

「こういう(と、地面に絵を描く)床の上にご飯を置くんじゃなくて、少し高い所に置くんだ。それと、できれば、もう少し広い板の間にしたいな。オレのいた世界では、小屋の中は全部板の間で靴を脱いでいたんだ。この世界はベッドくらいだろ、靴を脱いでいたのは(だから靴の中が臭いんですよね)。オレは靴を脱ぐと、リラックスできるんだ」

「そうなの、ジンに聞いてみる。マモルの言うことなら聞いてくれると思う」

「そうか、頼むよ。それと今日は森に行くからジンに話してくれ。胡椒の実を採りに行きたいんだ」


 あれ、今気が付いたけどアンはオレを見ず、下ばかり見ているぞ?

「アン、さっきからオレの顔を見てないだろ?」

「ウン」

「どうしたんだ?」 

「別になんでもない」

「何でもないこと、ないだろ?」

「顔、見れない」

「え、どうして?」

「見れないから見れない」

「え、何言ってんだ?」

「恥ずかしくて見れない」

「何言ってんだ?」

「夕べは夢中だったけど、朝起きて、井戸でみんなに色々言われて気が付いた。こんなことがあるんだって、マモルのお陰で分かったって」

「いや、オレの世界では、そんな珍しい事じゃないし、まだ他にもいろいろあるからな」

「まだ、ある......の?」

「うん、そうだぞ。まだあるから楽しみにな」

「......まだ......楽しみ?」

 結局、アンはオレの顔を見ず出て行った。これはsilentを使えるようにしないといけない、と心に決めた。でも、聞こえなかったら覗かれるか?何かごまかすような魔法がいいのか、フェイクとか?フェイクってどうだっけ?Fakeだっけ?cheatってのもあったな、動詞や名詞、形容詞なんか、まぜこぜだけどイメージなんだろうな、オレの。ただ英語で正確な発音でないとナゼか受け付けてもらえないけど。きっと、最初に魔法を開発した人のこだわりなんだろう。


 



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