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ロマノウ商会にお礼を言いに行く

 タチバナ村に行く前に、ロマノウ商会に礼を言いに行かねばいけませんね、ゼッタイ。どれだけお礼を申し上げても足りないでしょう。


 さすがにザーイ本店までは行けないので、まずブカヒン支店に行くことにした。こういう時は「お世話になりました」って、何かお礼の品を持って行くのが礼儀だと思うけれど、誰もが「マモル様がそんなことを考えるなんて不思議」などと失礼なことを言うし。おかしい、前の世界では気配りのできる営業マン、だったはずなのに否定されるとは。


 とにかく、カタリナを連れロマノウ商会ブカヒン支店を訪れた。

 リファール商会の馬車がロマノウ商会の前に停まっただけで、要件が分かったのか、何も言わないのにスラスラと中に入れてもらえる。こんなにセキュリティが甘くてどうなの?と思っていると、奥からなんと、セルジュ会頭が出てきた。


 セルジュ会頭は小走りで、もうすでに目に涙を溜めながらやってくるなりオレの手を取って、

「マモル様、ようこそご無事で......」

 と泣かれてしまった。なんかオレもつられて

「いえ、セルジュ、かいとうぉ。ろまのうしょうがいのぉ、おがげでぇ、グス、村の者をたくさん、助けて、助けて頂きました。(ここで立ち直って)ロマノウ商会が、動いて、頂かなければ、全員が死んでいても、ほんとにほんとに不思議ではありませんでした。本当にありがとうございました。この恩は一生忘れません!!」

 とカタリナの2人でペコリと頭を下げて。カタリナを救ってもらったんだもの。命の恩人だよ、ホントに。


「何を言われるやら。仮にもマモル様は私の義理の息子ではありませんか。息子であれば、息子の留守に領地の安全を図るのは当然のことでございます。何も気になさることはございませんぞ。妻も心配しておりましたぞ!実の子たちのことより心配しているんじゃないか?と息子にからかわれていたくらいです」

「あぁ、そんなに心配頂いて、本当に申し訳ありませんでした。奥様にも私がお礼を言っていたと、そうお伝えください。それと、ロマノウ商会の傭兵の方たちも多くの犠牲の方がいたそうで、本当にお世話になりました」

 やっと、男2人が涙を流しているという気持ち悪い絵面が治まってきて、

「いえ、なに、まぁ、感謝のしあいはこれくらいで止めましょうか、ふふ。ほれ、いろいろとお聞きしたいこともありますので、まずは奥にお入りください。さぁさ、こちらにどうぞ」

 と会頭に奥に導かれた。

 

 聞けば、セルジュ会頭はオレが必ずブカヒンに現れると考え、ブカヒン支店に待機していたそうな(それはそれは申し訳ないことです)。


 ロマノウ商会がルーシ王国侵攻の情報を掴んでから、どうやってタチバナ村に助けに行くかまで、事細かに教えてもらった。聞いただけでも、どれだけ金をつぎ込んだのか?と考えさせられた。ふと気が付いて聞いてみた。

「セルジュ会頭、どうしていち早くルーシ王国がアレクサ公爵領に攻めてくると知ったのですか?」

 セルジュ会頭は、フフフと自慢げに笑って

「それは秘密です。ほら、商売上の情報源の秘匿というヤツです。もし、マモル様がロマノウ商会に入っていただけるなら、お教え致しますよ。私の縁故にちょうど年頃の娘がおりまして、それを娶っていただけるなら、お教えしても結構ですが、どうでしょうか?もちろん第2夫人で結構ですよ」

 セルジュ会頭、悪い笑顔は止めてください。ほら、カタリナ。冗談だから腕をつねったら痛いからって、イテテ。


 オレはチェルニでのゴダイ帝国軍との戦況を話して、ギーブ直近までの話をするが、セルジュ会頭の持っている情報と同じようだった。それで、ヒューイ様とタチバナ村の方に調査に行ってくるつもりと話をすると、

「マモル様、それなら是非、当商会の者を1人お連れ頂けないでしょうか?自分の身は自分で守れるくらいの力はありますので、決して足手まといにはならないと思います。当商会も1度、タチバナ村の方向から調査を入れようと考えていたのです。あの港がどうなっているか、タチバナ村の状況、オーガの状況など、知りたいことが山のようにあります。

 現在、アレクサ公爵領とは細々と行き来がございますが、なにせ情報量が少なく、マモル様たちが行かれるなら、是非同行させていただけませんか?お願い致します!!」

 と頭を下げてこられます。

「う~~ん、私は良いように思いますが(恩義あるし断れないし)、ヒューイ様さえウンと言われればいいのですが」

「分かりました。とりあえず、同行させる者を今ここに呼びますので、会っていただけますか?」

 セルジュ会頭に呼ばれてやってきたのは、中肉中背のごくごく普通の中年の男の人で、特に強そうでもなく、覇気が感じられるわけでなく、特徴があるわけでなく、良く言う、どこにでもいそうな印象の薄い人だった。これで大丈夫なのかなぁ?


 セルジュ会頭が男の背中を叩きながら、

「マモル様、ヤコブという者です。商会の調査を担当しています。こう見えても腕利きですので」

 その男はぺこりと頭を下げ、

「マモル様、よろしくお願いいたします。私はいつでも出発できるように準備できておりますから」

 あら、もしかしたらオレたちが行かなくても、彼は行く予定だったのかな?


「そうですか、私はタチバナ村のマモルです。よろしくお願いいたします。そしたら、さっそくヒューイ様の所に行って、承認を得てきましょうか?」

 セルジュ会頭は、ポンと手を叩き、

「そうですね!ではヒューイ様の所に行きましょう」

 と立ち上がった。


 ヒューイ様は宿舎にいた。だって、特に何もすることがないんだし(というオレの見方だけど)。ロマノウ商会のヤコブを連れて行きたいと言って、当人を会わせるとちょっと困った顔をされたけど、

「まぁ、いいよ。マモルも義理があるだろうし、もし何かあっても、自分の身は自分で守ってもらうということなら、一緒に行こうか」

「はい、よろしくお願いいたします」

「じゃあ、明日の朝、出発ということで、いいね?」

 ヒューイ様?それに明日って、突然明日って、カタリナがほら、目に涙浮かべて、唇かんで、ウルウルと......。こら、足を蹴らない、痛いから、蹴らないで!お行儀悪いでしょうが!


「あ、マモルは無理に付いて来なくていいから。最初は1人だと不安だったけど、連れができたから、無理しなくていいからね、ははは」

 そんな笑われて、そんな目で見られたら、行けませんとは言えないじゃないですか。

「大丈夫です。オレはタチバナ村までですが、一緒に行きますから!」

「えぇ、いいの?ホントに?カタリナさんがジト目で見てるよ?」

 そういうカタリナの目はこぼれんばかりの涙になっているけど、コクンコクンとうなずいているから。

「大丈夫です!」

 と答えたんです、勢いで。


 リファール商会に帰る馬車の中で、カタリナから、

「そんなに私と一緒に暮らすのがイヤなんですか?」

 って、すねられるし。そんなことありません、って。でも、いつか1度は行ってみないといけないんですから。

 ほめてなだめて謝って、とにかく大変でしたけど、まぁ何とか、許可を頂きました。


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