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ミンの将来をどうしようか?

 扉の中には見知った顔が並んでいた。


 サラさんが先に戻って、オレが来たことを知らせていたから、みんな待ってていてくれた。大人の男がほとんどいなかった。残っていた男たちは申し訳なさそうな顔をしているけど、そんな顔をすることないんだって。生き残ってくれてありがとう!女の人はほとんど泣いている。たいていの人がシングルになっちゃったのか。

「みんな、ごめんな。苦労かけて済まなかった。たくさん、死なせてしまった」

 と言うと、村のみんなは泣き笑いになって、

「また生きてマモル様の顔を見られたからいいよ」

 と言ってくれる。中には、

「亭主は死んじまったけど、すぐに代わり見つけるさ」

 と言う猛者の方もいらっしゃるし、そう言ってくれると場が和む。

 いいんだ、みんなで死線をくぐってきたから、こうやって顔を見ることができるんだって。死んだ者たちが、命を張って、逃がしてくれたんだから、死んだ者の分まで生きてくれないとね。


 みんなで、久しぶりのタチバナ村のみんなで食事した。ペドロ会頭から酒を差し入れてもらって、しんみりと飲んだ。最初は。

 この世界の人、もしかしたらオレの周りだけかも知れないけど、死ぬことが日常だからか、クヨクヨせず、前を見て生きて行こうとしてくれる。オレはありがたくて、ちょっと涙が滲んだ。

 口々にタチバナ村の戦いのことを語る。誰もが、聞いて欲しくてならなかったんだ。心の傷を見て欲しかったんだよな、オレが悲しんでいちゃいけないんだ。みんなオレ以上に傷ついているんだから。

 多くの村人がノンが自爆して騎馬隊を殲滅した場面を見ていたそうだ。あまりに強烈なことだったそうで、今でも夢に見ることがあると言う。


 これから私らはどうなるんでしょうか?と聞かれるから、さっきペドロ会頭と話したことをかいつまんで話す。

「みんな、オレに任せとけ!みんなまとめて、面倒見て新しい村を作っていこうや!生活の心配しなくていいぞ!」

 と檄を飛ばしたのだけれど、

「あら、夜の方も面倒みてくれるのかい?」

 とおっしゃる方がいて、カタリナがいるんですけど、お構いなし?

「いやだねぇ、アタシにもノンのような声が出るかしら?あはは」

 と言われ、

「あんたみたいなガサツなババアはダメに決まってるだろ!アタシならいいだろ、マモル様?」

 と言う声にカタリナの顔から表情が消え、

「いやいや、オレはまだまだ未熟なもので、もっとカタリナで修行してからお願いします」

 と言ったばかりに、カタリナに叩かれ、それを見たオバチャンたちが喜んで......。


 一通り話が終わった所で、隠していても仕方ないし、バゥ、ミコラ、オレグの話をした。

 ギーブに入る領境まで一緒に来たこと。タチバナ村のことが分かっていなかったので、彼らはアレクサ公爵軍と一緒にギーブに行き、オレと別れたこと。彼らはタチバナ村のことを確認してから、ブカヒンに来る予定であること。

 ギーブはシュミハリ辺境伯軍に占領されているので、どうなっているのか不明なので、いつこっちに来れるか分からないと話した。3人の家族は複雑な顔をしているけれど、ホッとしたような顔をしている。夫を亡くした人が多いから、表だって喜ぶこともできないし、ちゃんとこっちに来る保証もないけれど。リーナさんが、周りからイジられているね。結婚したばかりなのに、戦争に行ったから、一緒に住んだのって3日?だっけ、未亡人になるのは、余りに可哀想だし。

 もしかして、バゥとミコラはオレの渡した金で、キレイなお姉さんの所に行ってないよな?と、ふと思ったんだけど、これは考えすぎなのかな?ユリさん、心配してんぞ、バゥ!


 会が終わって、カタリナと並んでリファール商会に行く道を歩く。今は、カタリナの自室(タチバナ村に行ったのに、末娘かわいいという親心でそのまま残されていました)に当面住まわせてもらうことになっている。世に言う、マスオさん状態です。カタリナの兄姉はすでに結婚して、両親の手を離れていて同居していないから、カタリナが一緒に暮らすというのは願ったり適ったりということで、ペドロ会頭や奥さんのハンナさんは、できればずっとこのまま、マスオさんでいて欲しいという雰囲気がありありと浮かんでいるなぁ。


 カタリナから、タチバナ村の生活が語られる。ノンとどうした、ミンとどうした、という話がほとんどで、改めて仲良くやってたことが感じられる。いつまでもずっと、この生活が続けばいいのに、と3人で笑ったこともあったのに、突然破られてしまった、とまた泣く、か。

 もし戦争がなく、その3人の中にオレが入って行ったら、どうなってたんだろうと考えると、良くない方にしか考えられないので止めた。

 タチバナ村がなくなったから、決めなくちゃいけないこと、やらなくちゃいけないことが山のようにあるんだ。とりあえず、今夜はカタリナに再会できたことを、キーエフ様とロマノウ商会に感謝しよう。


 次の朝、朝ごはんを終えたらヒューイ様がやって来た。

 ヒューイ様は、チェルニの戦場から離脱するとき、すでにイズ公爵様に従うことを決めていて書面で、騎士爵の任命証と身分保証書をもらっていた。オレ?オレはまだ、タチバナ村があると思っていたから、そんなことすると、裏切り者だって言われて、タチバナ村が襲撃されるかも知れないと思って、平民になっただけで、何ももらってない。

 

 ヒューイ様はギーブで無役の騎士爵で家族と暮らしていたそうで、ギーブに家族を迎えに行くか、誰か迎えに行ってもらうかしないといけないらしい。という話をすると、当然ペドロ会頭がギーブ支店に手配します、という話になるわけで。

 良かったですな、ヒューイ様。


 それでヒューイ様がオレに会いに来たのは、家族のことを頼みに来たのではなく、もう一度、旧アレクサ公爵領に入る方法についてだ。一人はやはり危ないことが多い。いくら内蔵ナビを持っていると言っても、初めての土地は土地勘のある者を同行した方がいいに決まってる。ということで、オレの意思を確認にいらっしゃったわけで。


 一度思うともう止められなくて、顔を青くするカタリナをよそに、ヒューイ様と一緒に行きましょう、という話になるわけで、近くの山にハイキングに行くノリですな。オレはさすがにオーガの町には入れないから、タチバナ村を見に行って帰って来て、ヒューイ様はそのままギーブかオーガに行くということで話がまとまるけど、カタリナに足を踏まれています、ごめんね。


 ペドロ会頭が

「うちで船を用意しましょうか?タチバナ村に行かれるなら、船で行かれるのが安全だと思いますが?」

 と申し出てくれるンだけど、うーん、どうしたものか?ヒューイ様も考えている。お願いしますと言おうとしたとき、ヒューイ様から

「いや、船は結構です。万が一、辺境伯の軍に港が占領されていると目も当てられないので」

「では、どうやって行かれるので」

「最初にマモルから提案のあった、川沿いに徒歩で北上して行こうかと。マモルと2人で行くのが一番安全なように思います。馬だと早いのですが、どこにも馬を駐めておく所がないようなので、馬も使えませんね」

 確かに。ヒューイ様となら、2日で行けそうだし。これでタチバナ村行きは決定です。



 ヒューイ様との話が終わり見送りに出ると、玄関にミンが待っていた。カタリナが、あぁやっぱりというような顔でミンを連れてヒューイ様と話をしていた部屋に入れる。


「ミン、どうしたの?」

「マモル様、あたし、村を出たときからずっと考えていたんだけど、ブラウンさんの所に行こうと思うの」

「え、ブラウンさんって?」

「ヘルソンという町のお医者さんのブラウンさん」

「『降り人』のブラウンさん?」

「そう、その人」

「どうして行こうと思ったの?」

「うん、あたしね、タチバナ村にルーシ王国が攻めてきたとき、村の人の役に何も立てなかったの」

「あれ、ケガした人たちを直して回ったと聞いたよ?」

「うん、でもひどいケガに人は治せなかった。魔力が足りなくて、すぐに呪文が使えなくなったの」

「それは、仕方ないんじゃないのかなぁ?」

「みんな、そういうの。でも、あたしにもっと力があれば、死ぬ人が少なく済んだろうって言うことは分かるよ!」

 それはそうだろうけど....仕方ない部分が大きいと思うけど、ミンにするとそうでもないのか。

「それで、あたしは考えたんだ。もっと治せる人に教わろうって。カタリナ様に相談したら、ヘルソンに『降り人』のブラウンさんがいるって教えてもらったの。あたしがずっとマモル様の近くにいても、これより上手にならないと思うし。だから、もっと上手になりたいから、上手な人に教えてもらわないといけないと思ったから」

「そうなのか。う~~ん、急にそう言われても......」

 カタリナも

「マモル様、私はミンから言われて考えてみました。村の人たちと一緒に暮らしていくのもいいのですが、ミンが向上心を持って、もっと上を目指すなら助けてあげるべきでないかと思います」

 なんか、カタリナは保護者みたいなことを言うけど?お姉さん目線?お母さん目線?


「そう言っても、ブラウンさんがどう思うか分からないけどなぁ」

 いつまでも手元に置いといても、成長を妨げているだけかも知れないし、可愛い子には旅をさせるべきなのかなぁ。

 とりあえず、イズ公爵様に挨拶に行かないといけないから、そのとき一緒に連れて行って聞いてみようか。アノンさんという方がいらっしゃるけど、オレ的に都合悪いのでミンの先生にはなって欲しくないなぁ。


 そこで、ハタと気がついて聞いてみた。

「ミン、もしかして、オレとカタリナの生活に邪魔だからって遠慮してるなら、気にしなくていいぞ。ずっと、ここにいていいんだからな!」

 ミンは、ハァとため息をついて、

「マモル様ってホント、バカ。あたし、この人と一緒にいたら成長しないと思う」

「ミン、早く離れた方がいいですね」

 カタリナとミン、2人で顔を見合わせ、ため息をついた。

 2人ともひどくない?


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