山賊を捜す
小屋を潰したせいかどうか、小屋の跡からはちょっとの食料品と葡萄酒が出てきただけで、地図とか書類のようなものは見つからなかった。
小屋を離れて、狼の群れと敵の兵士が戦った所に近寄ると、狼の群れからウウゥゥーーと唸られたので、避けて森の外を目指す。前にハルキフの山に登った時も思ったけど、ヒューイ様の頭の中には、ナビが入っているんだと思う。最初は白紙だけど、進んだ道が自動的に紙に記録され、俯瞰で見えているような。『Navigate』と唱えると、オレも使えるようになるのかしら?
森の中を迷うことなく、進んで外に出た。草原のずっと先には人の灯りが見える。
「あれはゴダイ帝国の陣地だろう」
「そうなんですか、よく分かりますね」
「ま、勘だけど。昼になればはっきりするから。さあて、あの陣地の後ろに出るとしようか」
ヒューイ様は先に立って小走りで行かれるけど、オレはどっちに進めば、敵の陣地の後ろに出るのか見当もつかないから、黙って従うだけですね。
空が明るくなってくる頃にはゴダイ帝国軍のだいぶ後ろに回り込んできたと思われる。ただ、そろそろ森が切れてきた。
「マモル、もう森が終わるから、今日はここで泊まることにして、夜になるのを待とう。この先にゴダイ帝国とチェルニを結ぶ街道があって、その周辺は森がないんだよ。だから、日中の移動はすぐに発見されてしまうからね」
ヒューイ様に先導されるまま、森に入って、ちょっと木の間の広場みたいなところで野宿することになった。火を使うことはもちろんできないので、干し肉と干した果実と葡萄酒で朝食として、交替で見張りしながら寝る。
寝ないといけないのに、ヒューイ様が話しかけてくる泣。
「マモルが見つけた巨人の夫婦がいるじゃないか?」
「ブラウンさんのことですか?」
「そうだ、彼らのことだけど」
「何かありましたか?」
「彼らはヘルソンでは「聖人」と呼ばれているのを知っているかい?」
「はい、なんとなく」
「助けられた者たちは「神」と呼ぶ者もいるらしい」
「あー、それも聞いています」
「それで面白いのは彼らの呪文の使い方らしい」
「へー、何が面白いんですか?それも魔法研究家の情報ですか?」
「あぁ、そうだね笑。ブラウン夫妻の周りに研究協力者がいてね」
「はぁ、私の周りにも研究協力者がいますし、研究協力者はいたる所にいるんですね」
「まあね。それで、彼らの呪文で興味深いのは、病気やケガなんかでどこが悪いのか分かる呪文を使うそうなんだ」
「へぇーーーー」
「病気やケガを治すのに『Cure』を使うのは同じらしいけど、その前にどこが悪いのか調べる呪文があるそうなんだよ」
「それはすごいですね!!」
「どういう呪文を使うのか聞いたヤツがいるそうだけど、答えてくれなかったそうだ。ただ、彼らが言ったのは、彼らが私たちより、ずっと発達した医学の知識を持っていて、その知識を元にして調べると、病巣が分かって、そこに集中して『Cure』を使うことで治療が効果的に進むそうだ。骨折したのも、折れた骨を元の位置に戻してから『Cure』を掛けないと、元通りにはならないと言っているそうだよ」
「なるほど。私の『Cure』は闇雲に身体全体に掛けていますから、もしかしたら無駄な所に魔力が行っているかも知れませんね」
「どうもそういうことらしい。腕がほぼ切断しても皮一枚さえつながっているなら、つなぎ合わせて元通りにしたもんだから、それを目撃した誰もが「神のなせる業だ!!」と言ったそうだけど、ブラウン夫妻によると、繋ぐ神経、血管、筋肉というものがあって、それをうまくつなげないと元通りにならないそうだ。それが分からないと、腕を繋いだだけで、元のようには動かないと言うことだそうだけど、マモルには意味が分かるかい?」
「はぁ、分かります!分かりますけど、私には無理です。前の世界で医者をやっていた夫妻だからできることですね!!」
「やっぱりそうなのか、イヤ、マモルならできるのか?と期待していたんだけど」
「いや、無理です、ダメです、ゼッタイ」
「そんな強く否定しなくとも......」
「いやぁ、あれは医学の専門知識があってのことですから」
「残念だね。まぁ、できないものは仕方ない。余談だけど、噂を聞いたザーイの大商人がブラウン夫妻のところに来てね、役に立たなくなった自分の分身をなんとか役に立つようにできないか、頼んだそうだよ」
「え~~~、それはできそうだけど、やってくれないでしょう?」
「できるのかい?でも、けんもほろろに断られたそうだよ。どれだけでも金を払うと言ったのが、ブラウン夫妻のかんに障ったようでね、たたき出されたそうだ笑」
「そりゃぁ、そうですよね。そんなヤツ、私なら2度と役に立たない呪文を掛けますけど」
「え、マモルはそんな呪文を知っているのかい?」
「復活の呪文は知りませんけど、使えなくなる呪文はなんとなく想像できます」
「おぉ、怖いね。これからマモルに物を言うときは注意するよ」
「そうしてください」
夜になり、移動を始める。向こうにゴダイ帝国陣地を横目に見ながら、後ろに回り込むように進む。
「ゴダイ帝国軍はヤロスラフ王国軍より少ないような気がするのですが?」
「そうだね、昔からゴダイ帝国の兵士1人がヤロスラフ王国の兵士2人に相当すると言われているからね。実際、そこまで差はないにしても、ゴダイ帝国の兵士2人がヤロスラフ王国の兵士3人と同等くらいか、と思うけど。だから、ヤロスラフ王国としてはゴダイ帝国の倍近くの兵士を揃えないと安心して戦えないのだよ」
「そんなに差があるのですか?」
「そうだね、いろいろ言われているけど、ゴダイ帝国は貴族領の兵士がほとんどいなくて、皇帝直轄の兵士がほとんどだから、訓練されていて、組織的に動くことができるし、ヤロスラフ王国は貴族領の兵士が主体だから、まぁ、総司令官の言う通りにはなかなか動いてくれないんだよ。貴族は国王以外の者から命令されると、必ず反発するんだよな。ちっぽけな自尊心が邪魔するんだよ。
それにヤロスラフ王国は温暖で住みやすいから、人の性格が温厚で忍耐力が弱いんだよね。それにくらべてゴダイ帝国は農業に適さない土地も多いし、生活も厳しいから忍耐力が普段から養われていると言われているんだ。
ヤロスラフ王国の南の方にいけば、農産物が豊かに取れているから、男は遊んでプラプラしているヤツもいるからなぁ。かみさんを働かせて、自分は遊んでいるようなヤツらがね(あーーーバリ島行ったときに見た!!亭主は昼間っから、遊んでばくちしたりしているのに、奥さんが一生懸命子守りして、物売りして、家事してるの。オレは結婚しても絶対にあーはならないって心に決めたし)。
でもゴダイ帝国は、みんなで協力して生活していかないと、厳しい冬に飢えてしまうこともあるから、共同体といった意識が濃厚なんだよ。
だから、ゴダイ帝国の兵士は戦闘でも粘り強く戦って、多少不利になっても踏ん張れるんだけど、ヤロスラフ王国の兵士は形勢が悪くなると諦めが早くて、逃げ腰になっちゃうんだよ。そういう所があるから、数を頼んでゴダイ帝国に臨んでいるんだよね」
「なるほどぉ......」
「ま、ゴダイ帝国の軍勢がどのくらいいるか、だいたい分かったから、早くぐるっと1周してイズ公爵様の所に戻ろうか」
え、これで分かったんですか?オレは何も分からないです。多いなぁ、くらいの印象しかないんですけど。偵察って、オレに向いてないですね。
「はい」
と返事して、ヒューイ様の後を追う。
兵が弱い、か。ヤロスラフ王国って日本の戦国時代なら尾張兵とか、なのかな?ゴダイ帝国は美濃とか三河とか?はたまた越後兵とか?戦国シミュレーションゲームであったなぁ。尾張で兵を集めて、越中で上杉謙信と決戦して、上杉謙信1人に負けちゃうという理不尽な展開。
この世界でも、兵が弱くて指揮官がヘボだったら、ゼッタイ勝てないよね、良くて引き分けか。ここの状態見ていると、引き分け狙いにしか見えないような。
「この先にゴダイ帝国のチタとチェルニを結ぶ街道、明日その街道を通る補給部隊に接触しようか?」
「接触する?そんな簡単にできるんですか?」
「まぁ、やりようによってはできる」
「接触してどうするんですか?」
「そりゃ、ゴダイ帝国軍がどう考えているのか、聞いてみるのさ」
「どう考えているって、何を聞くんですか?」
「例えば、いつまでここにいる予定か?とかね」
「味方だと思えば、教えてくれることもあるだろう」
「そうですかね?」
「やってみないと分からないだろ?」
「分かりますかね?」
「分からないって」
「ふーーーん」
「信用されていないねぇ。こういうときのために、認識票を取ってきたんじゃないか」
ヒューイ様が懐からゴダイ帝国軍の認識票を出し、ブーンブーン振って見せる。
確かにそうだけどなぁ。
夜が明けて、ゴダイ帝国軍陣地からだいぶ離れて、ゴダイ帝国に向かって街道と距離をとって進む。街道を見渡せる近くの山の上に登り、見下ろすと街道の近くの小高い丘の上に数十人の集団がたむろしている。
「ヒューイ様、あの集団はなんですかね?」
「なんだろうね?うちの軍の者ではないと思うけど、ゴダイ帝国軍の輸送隊を襲うつもりみたいだけどなぁ」
「山賊ってことですか?」
「そうじゃないかな?ゴダイ帝国軍本体を襲っても勝てないけど、輸送隊なら負けないだろうから、襲って荷物を奪うつもりなんだろうな。普段は悪者だけど、こういうときは祖国を助ける義勇軍だと言えるかな?」
そんなバカな、と思いつつ、
「なるほど。それでどうしますか?」
「私らも混ぜてもらえないかな?別に食糧も荷物もいらないけど、1人か2人くらいから情報がもらえればいいし」
「え、人質がそんなに簡単に情報くれますか?」
「あぁ、正規軍の兵士ならくれないけど、ああいう輸送隊の人間は何か教えてくれることもあるよ。それと、高級将官でもないから、そんな重要な情報が得られるなんて思わないことだよ。ま、後方の動きとかさ、ゴダイ帝国の中がどうなっているか、ということくらいが分かればいいんだよ」
「なるほど」
「じゃあ、彼らのところに行って、仲間に入れてくれないか、交渉しますか」
ヒューイ様に連れられ、凶賊?たちのところに向かいます。これで良いのかなぁ?
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