私(カタリナ)とノンとミン(2)
割り込みで入れました。
今日はサラさんとリーナさんから料理を教わっています。ジレン家伝来のスープを教えてもらっていて、ノンとミンもなぜか、ルンルンといった感じで見ています。
サラさんからは「カタリナ様は、何もされなくてもよろしいのですよ」と言われましたが、普通の騎士爵の奥様の様子を聞くと、たいてい家のメイド(お手伝い?)と一緒に料理をしたり、家事をしたりするそうです。それに、旦那様の給料だけでは生活できないことの方が多いので、何か内職をされているそうです。それを考えると、私も同じ騎士爵の妻ですから、何もしないわけにはいかないような気がします。
私はマモル様と婚約が決まってから、お母さまに料理を習ってきました。人からは大商会のお嬢様だから、料理をすることなんてないでしょう?と言われることもありますが、お母さまは今でもお父さまに朝食を作っています。お父さまは、夕食を店の外で食べることも多いので、朝だけは一緒に食べる習慣を結婚したときから始めたと言っていました。
せっかく、一緒に食べるのだから、お母さまの作ったものを食べたいとお父さまが言って、お母さまが作ったのが始まりだそうです。私もそれを倣って、朝食は私の作ったものをマモル様にお出ししようと思っています。
一通りできるように学んできましたが、普段タチバナ村でマモル様がどのようなものを食べておられるのか知りたくて、いろんな人に教えてもらっています。同じような料理でも、家に拠っていろいろと違って、興味深いです。
なにより、タチバナ村に来て一番驚いたことが、香辛料と砂糖がびっくりするほど贅沢に使われていることです。このタチバナ村の料理レシピなんて、この世界のどこに行っても通用しないと思います。ヤロスラフ王国の王族でも、こんなに香辛料を使っていないんじゃないかしら?お母さまから習った料理とまったく違っているので、役に立たなくなるのじゃないかしら?
村で香辛料と砂糖が採れているからって、贅沢すぎるような気がします。あとは、塩がもっと気楽に使えればいいのだけど。サラさんも、マモル様に塩のなる木をお願いしたと言うから、期待しておきましょう。
いつの間にか、横で見ていたノンとミンがいなくなりました。
料理のお勉強の時間が終わって、外に出るとノンとミンがいました。声を掛けようと思ったら、ノンが泣いているようでした。2人の会話を聞くつもりなかったのですが、つい聞いてしました。
「ぐすん、ぐすん、ぐす......」
「ねぇ、ノン。もう、泣くの止めなよ」
母のノンを子のミンが慰めています。
「ぐす、だって、だって、ぐす、アタシがあんなに苦労して、やっとできるように、なった、スープを、カタリナ様が、あんなに、簡単に、ぅぅぅ、できるように、なったんだよ?ぐすん」
「仕方ないでしょ。だって、ノンは、下手くそなんだし。あ~ぁ、ノンは、カタリナ様に勝ってるところって、何にもないよね。勉強だって、アタシよりできないし、カタリナ様は、髪の毛だって栗色のキラキラしてるし、肌だって白くて、すべすべだし、声だってカタリナ様は小鳥がさえずるように話されるし、ノンは性格はがさつだし、不器用だし、芋の皮むきだって厚く剝くし、全然負けているよねぇ」
「どうして、そこまで言うかなぁ!!少しは母を慰めようと思わない?」
「あ~ぁ、こんな母を持った娘の不幸を少しは分かって欲しいなぁ」
「何言ってるの、見た目は一緒でしょ?」
「だ・か・ら、似てるのが、いやなの!!あ~ぁ、カタリナ様の子どもに生まれていればなぁ?」
「こんな不細工な子どもは、カタリナ様の子どもに生まれません、よーーーーぉ!!」
「不細工なのはノンに似たからでーーーす!!」
「フン!!」
「フン!!」
そこまで聞いてて思わず笑ってしまいました。
ノンとミンは二人とも、口に手を当て目をまん丸にして、驚いて私を見てます。
「ごめんなさい。聞くつもりはなかったんだけど、つい聞こえてしまって、えへへ」
「い、つ、か、ら、でしょう?」
ノンがジト目で聞いてくるから、
「最初から、ふふ」
ミンが手の平を私に向けて、ブルブルと振りながら、
「すみません、カタリナ様の子どもになりたいなんて、失礼なことを言ってしましました。申し訳ありません」
「そうですよね、カタリナ様。こんなできの悪い娘がいたら、ホントに困りますよね?」
「いきなり、こんな大きい子だと困りますけど、赤ん坊からだったら、良いかなぁ?」
と言ったもんだから、
「「ガーーーーーン!」」
とノンがミンが言ったので、
「それってなに?」
「「マモル様に教えてもらいました、なにかショックを受けたときに言うんだって」
何それ????
ある日、突然ノンが私の胸を掴む!!
「ノン、止めて!何するの?」
「いいなぁ、カタリナ様は胸があって」
「え、ノンだって胸があるじゃない?」
「ううん、カタリナ様に比べると全然。ほら、さわってみて」
私の手を取り、ノンに胸に当てる。う~ん、確かに私よりは小さい。
「別に胸が大きいからって、良いことってないのよ?」
「そんなことありません!!マモル様がアタシの胸をさわりながら、何か考えるときがあるんだもの?」
「胸をさわりながら、考える?」
「そう!きっと、この胸がもっと大きければ良いな、って考えてるんだろうな、って思ってるんだよ」
「そんなことないでしょう?」
「そんなことあるもん!カタリナ様の胸をさわって分かったから。やっぱり、大きい方が良いんだって。ほら、この柔らかくてポニョポニョしているところがさ、マモル様はきっと幸せを感じているんだって」
と私の胸を揉み出すから、
「もう、ノン、止めてってば!マモル様はそんな人じゃありませんから。胸の大きい小さいで言われませんから!」
「えー、でも、カタリナ様の胸をさわって、おっぱいポイポイしたり、パフパフしたりしない?」
思い当たることがある......はさみたい、と言っていたような?言葉が出ない。
「ほら、やっぱりそうなんだ。あーアタシももう少し大きい胸に生まれたかったなぁ」
横で聞いていたミンが
「あぁ、アタシはこの胸の小さい母に似ると思うと残念です。何一つ取り柄のない母に似る子は不幸だわ、ううう」
ポカ!っとノンがミンの頭を叩く。
「何を言っているの。アンタはアタシがこの村に連れて来てあげたじゃないの!」
「違いますぅ!連れて来てくれたのは、マモル様ですぅ。ノンはあと少しで魔力が尽きかけて、マモル様が迎えに来てくれなかったら、あそこで狼の餌になっていましたぁ!」
「ふん、あそこまで連れていったのはアタシの魔力があったからじゃないの!」
「心配で心配でなりませんでしたよぉ!」
といつもの姉妹げんか、じゃない親子げんかが始まります。
でも、ノンは胸のことで、こんなことを言っていました。
「アタシのおっぱいが小さいから、ミンが生まれてから、中々おっぱいやれなくて、ミンがアタシのおっぱいに手を当てるんだけど、膨らみが少ないから、ちょっと頼りなくてかわいそうだったんだ。それに、あの村で食べるものがなくてさ、1日何も食べるものがないときもあったから、お乳が出ないこともあって、ほんとに可哀想で、悪いことをしたんだ」
思い出すことがあったんだろうけど、ノンは少しにじんだ涙をぬぐって、
「あの村は大人も子どももよく死んだんだよ。食べるものがないから、みんな痩せててね、ここに来て毎日、朝晩ちゃんと食べれるっていうことは、夢のような気がするもの。笑って毎日すごせる暮らしって夢のよう」
「タチバナ村に来て、ノンやミンとこんなに仲良くなれて嬉しいな!」
と言ったら、
「うん、アタシもそう思ったの♪」
「カタリナ様がもっと偉そうな人だったらどうしよう、出てけって言われたらどうしよう、って心配してたんだよね」
「でも、こんなになって、今は友だちだよね?」
と私が言うと、2人とも目を丸くして、
「「友だちですか?」」
「え、友だちだよね?」
「カタリナ様、こんなバカな母と友だちというと、バカがうつりますよ?」
「ミン、何を言うの!カタリナ様が友だちって言われるんだから、それでいいの!」
ポカポカ、ノンがミンを叩く。
「2人は友だちって言うのはイヤなの?」
「えへへ、カタリナ様、もう一度言ってもらえますか?」
「2人は友だち?」
「あ~~、いい響き♪」
「カタリナ様、ノンはダメダメになってしまいました」
「あ~~友だちかぁ♪」
「カタリナ様、こんなおバカな母ですが、よろしくお願いいたします」
ずっとこんなことで、笑っていられるといいな。




