イズ公爵様に呼ばれまして...
ヒューイ様に連れられ、イズ公爵様の元に向かう。
ヒューイ様はどこにイズ公爵様がおられるのか、知っておられるようで、テントの間をスイスイ進んで行かれる。
「ヒューイ様はどこに誰がいらっしゃるかご存じなのですか?」
「そうだね、それは当たり前のことだよ。どこにどなたがいるか知っておかないと、万が一のことが起きたとき、そこにいるのは誰かとか、どこに集まればいいかなんてことを判断しなくちゃいけないよね。もしかして、マモルはどこに誰がいるか知らないのかい?」
「.......はい、まったく」
「え、それは、呆れたね。信じられないね、ここに着いてから何をしていたんだい?毎日、ぼーーとしていたわけじゃないだろう?」
「.......いえ、ぼーーーとしてました、恥ずかしながら」
「これはまた、ちょっと問題だね。どこに誰がいるのかは、基本中の基本の情報だから、到着したらまず最初にそれを頭に入れることが必要だよ。あとは、旗を見れば、どこの誰かが分かるし、情報なんて聞かなくても、自分の脚で調べることができるんだけど。まさか、ここに来てから、陣地の外に出たこともないとか?」
「はい......一度もありません」
「これはひどい!!今日、これから意識を変えないといけないよ。こういう情報は基本中の基本だからね。オレグがキミの所にいったから、ちゃんとやってると思ったけど、全然なんだね。何かオレグから聞いていないのかい?」
「......すみません」
「本当に何も聞いていないか?たぶん、オレグは聞かないと話さないタイプだから、聞けば答えてくれると思うよ。戻ったら聞いてみればいいから」
「......はい」
「待ってても情報は入って来ないからね。自分から集めに行かないと情報は耳に入らないよ」
「......はい」
「入ってくる情報も、無駄なものがほとんどで、役に立つのは10分の1もないから、どれが有用か判断する頭も必要だからね!油断しててはいけないからね」
ずっと説教されっぱなしで、175cmあった身長が160cmくらいまで下がった気がする。言われることを、いちいちごもっともで何も反論することができない。ここに来てから、魂が抜けたようにしてボーと過ごしていたもんなぁ。時々、カタリナさんのことを思い出して、まるで戦争気分でないのは我が身だったということを教えられた、はぁ。
テントの間を縫うように歩きながら、突然1mほどの道に出た。道と言っても幅1mほどの隙間がずっと続いているというものだけど。
「おぉ!」
思わず声が出たら、ヒューイ様が
「マモル、これがおのおのの領主の境だからね。アレクサ領の軍はここまでで、これから先がイズ公爵領様の軍だ。軍単位でまとまって駐留しているから、領と領の間にはこんな通路が設けられているんだ」
またお叱りと説諭を受ける。はい、分かりました。心に刻んでおきます。
さらに歩くと、広場に出て真ん中にテントというより、大きなゲルが現れた。これは前に見たやつだ。
「マモル、あそこに旗が立っているだろう」
ヒューイ様がゲルの上になびいている旗を指さす。
「あれが、イズ公爵様の旗だ。アレクサ公爵様の旗も当然あるから、帰りに見てくればいい。ちゃんと覚えておくんだよ。織田様の時は織田様の旗があって、変わった模様だったから、離れていても一目で分かったんだよ」
「変わった模様ですか?」
「そうなんだ。普通の領の旗はドラゴンやライオン、虎、鷲といった動物が使われることが多いのだけど、織田様は黄色地に〇の中に□を入れて、その□の上下左右に文字のような模様のようなものを書いておられた。私には分からず、他の誰も分からなかった」
「へぇ、どんな模様か、見てみたいですね」
「そうかい、見せてあげようか。これは、ハルキフの戦いで功績があったということで、織田様から頂いた飾りなんだ。今となっては形見同様なので、肌身離さず持っているんだよ」
と言ってヒューイ様が懐から出されたのは、日本で言うお守り袋だった。お守り袋は黄色地に織田家の旗印だったであろう、〇に□で上下左右に「永楽通宝」と縫ってあった。なるほどぉ~~!!
見入っていると、
「マモルはそれが何か分かるかい?」
と聞かれたので、
「はい、これは織田家に伝わる、家の紋様です。織田様が前の世界におられていたときに使っておられたのだと思います。こういう物は、前の世界で織田様が、手柄というか功績のあった家臣というか部下に褒美として渡しておられたのではないでしょうか?」
「そうかい!!私の働きが認められていた、ということだね。ハルキフの戦いの時に、これを頂いたのは私だけだったから、とても嬉しく誇らしかったのを覚えているよ。中に何か書いてある紙が入っているのだけど、マモルは読めるかい?」
開けて見ると、中に紙が入っていて、達筆で何か書いてあった。達筆すぎて読めません涙。でも戦国時代はたいてい代筆する人がいて、主人の言うことを書き留めて手紙としたと聞いたことがあるけど、これは信忠様の直筆なんだろう。これを、これをですよ、テレビの鑑定団に出してみたい!!いったい、いくらの値が付くんだろう?まちがいない真筆ですよ!!
「すみません、達筆すぎて私には読めません。ただ、織田様自ら、書かれた物であろうということだけは分かります」
「そうか、分からないか。残念だけど仕方ない。これが何と書かれていたか分からないとしても、私の宝であることは間違いないのだからね」
ゲルの前に立つ騎士の人にヒューイ様が到着したのでイズ公爵様に連絡してくれと告げる。
騎士は中に入って、少ししてから顔を出し、中に入るよう指示された。
中にはイズ公爵様とクルコフ子爵様とあとは偉そうな顔をした人たちがいる。テーブルに地図を広げて、何かを協議していたようだ。クルコフ子爵様に会釈する。一応、嫁の親だし(義理だけど)。
「ヒューイ、マモル。よく来てくれた」
「イズ公爵様、お呼びと聞きまして、参りました」
ここはヒューイ様に任せておいて、オレは樹木と化していよう。
「呼んだのは他でもない。2人で偵察に行ってもらいたかったのだ」
「偵察ですか?私たちに?」
「そうだ、ヒューイとマモルに、だ。聞いておるぞ、ハルキフの戦いで、2人で先行偵察に行って敵陣を探ってきたそうでないか?今回も同じように見てきてくれ。
私の見るところ、当分の間、ゴダイ帝国は動かない。なぜ、動かないのか理由が掴めないが、とにかくゴダイ帝国がどのくらいの陣容なのか知りたい。ポトツキ伯爵も斥候を出しておられるが、あまり信用できないので、こちらも出しておこうと思ってな」
「それならば、公爵様の部下の者を使われれば良いのではありませんか?」
おっと、ヒューイ様、そんなこと聞いていいのですか?私は行きたくありません、というニュアンスが混じっていませんか?
「確かにヒューイの言う通りなのだが、余の領地はしばらく戦争を経験していない。そのために、経験が不足していると考えている。そこでだ、ハルキフの戦いで功績を挙げた2人に行ってもらおうと考えたのだ。もちろん、オマエたち2人だけでなく、余の部下からも別に出す。しかし、もっとも信頼のおける斥候がオマエたちであろうと考えるのだ。頼めるか?」
ヒューイ様は頭を下げ、
「分かりました。行かせて頂きます。この話は、ギレイ様に通してあるのでしょうか?」
「あぁ、すでに了承をもらっている。それでだ、具体的に行ってもらいたい道筋を言う」
イズ公爵様はテーブルの上の地図を指して、このルートからここを通って、ここに行って、と指示される。地図は途中紛失して、敵に奪われることもあるので、持っていけないそうで頭の中に叩き込まないといけないそうです。それは無理でしょう、と思うけれど、ヒューイ様は、ハイハイ、とうなずいておられるんですけど、本当に分かったんですか?????
「分かりました。出発は今晩の月が中天にかかってからに致します」
ヒューイさん、本当に分かったの?オレは、なんも覚えていませんけど。ゴダイ帝国軍の周りをぐるっと一周してくる、ってことくらいしか分かんなかったけど??
ヒューイ様が頭を下げるので、慌ててヒューイ様にならって頭を下げて退出した。
大丈夫かなぁ~~と心配だけど、ヒューイ様に従っていくだけだから大丈夫だよね、と自分に言い聞かせます。
読んでいただきありがとうございます。
次から平常モードになりまして、5月11日の予定です。




