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オーガへ

いつもありがとうございます。


 船がタチバナ村の桟橋に着いた。何日に帰るとは伝えていないので、誰も村から迎えは来ていない、もちろん。

 さて、普通はここに泊まって、明日の朝早く村に行くのだけれど、今は急ぐので俺1人だけ走って村に向かう。夕暮れ前に村に着く。


「マモル様!」

 村の門の扉を叩くと、上の監視所からバゥが顔を出した。

「バゥ、帰って来た。門を開けてくれ」

「はい、分かりました。お待ちしておりました、大変なことになりました」

「聞いている。それで急いで帰ってきた」

「そうでしたか。まず、これをご覧ください」

 とバゥが書状を見せてくれた。内容はイズ公爵様から聞いた内容と同じで、ゴダイ帝国が攻めてくるというもの、そしてタチバナ村からオレを入れて4名の兵士を出すこと、今日から9日目にギーブの町にいること、指揮はギレイ様配下に入ることが書かれてあった。4人の兵士だと?それなら、バゥにミコラ、それにオレグの4人になるな。それなら、焦って帰らなくとも、明日の朝にみんなと一緒に帰ってきても間に合ったか?


 オレがいつ帰って来ても出発できるように、準備はしてあるようだった。軍馬は4頭あるから、ちょうど1人1頭で良かった、と考えていると、貴族以外は馬に乗ることはできず、徒歩が標準だと言う。ということは、乗馬の苦手のオレだけ馬に乗り、他の3人は徒歩なのか。

 とりあえず、オレの嫁さんのカタリナさんと、父親のペドロ会頭、ネストル夫妻、オレグ夫妻(仮)が港にいることを告げ、明日の朝、オレグが村に到着次第、オーガに向かって移動することに決める。朝イチで、馬に乗ってオレグを迎えに行く。9日間あれば、結構余裕あるように思われるけれど、こういうことは余裕こいていると失敗するようで、早め早めに行動することが肝心だとバゥが言うから、それに従う。


 余裕があれば、明日カタリナさんを村のみんなに紹介して回るつもりだったのだけど、それさえできそうにない。ネストルに任せてしまおう。

 バゥにそのことを言ったら、この世界で貴族なら、十分あり得る話らしい。政略結婚で、親に話し合いで遠くから花嫁が来てみたら、花婿は領外の紛争に出ていて、花婿のいない、誰も知りあいのいない城にお付きの数人と一緒に、花婿の帰ってくるのを待つ、ということもあったりするし、悪くすると花婿は戦場で命を落とし、花嫁は花婿の顔を一度も見ないうちに未亡人になることもあるという。

 船の中でカタリナさんは、サラさんやリーナさんと仲良くしていたし、(仮称)タチバナ村守備隊長のイリーナさんやバゥのかみさんにも助けてもらおう。ノンにはオレから言っとかないと。


 その夜、ノンにカタリナさんのことを話した。

「マモル様、アタシは分かってる。マモル様の考え方はおかしいよ!アタシは孤児院の出身で、子持ちなのに、マモルがアタシをことをあれこれ考える必要なんて何もないんだよ。いらなくなったり、都合悪くなったら、遠くにやられてもアタシは文句言えないし、ひどい貴族だったら、アタシみたいな女は始末されることもあるくらいだし。

 だから、アタシに気を使わず、お嫁さんのことを一番に考えてくれればいいんだ。これはアタシだけが思っているんじゃなくて、村のみんながそう思っているんだよ。でも、お嫁さんはアタシのことを知ってるの?」

 ノンに諭されてしまった。ノンの気持ちが分かるだけに辛い。


「うん、知ってる。話してある」

「そっか、ならアタシたちはこの村からいなくなってもいいんだよ?」

 そこまで思っていたのか......。

「いや、そんなこと気にしなくていいから。ノンがこの村にいたくないなら、他に行ってもいいけど、いたければこの村にいてくれればいいんだ。それに、ノンとミンには嫁に、カタリナさんというんだけど、彼女は魔力持ちなんだ。つい最近分かったから、超初心者でできれば魔力の使い方と呪文を教えてやって欲しいんだ」

「アタシはこの村にいていいの?」

「いいよ」

「ホントにいいの?」

「いいってば」

 ノンは涙をボロボロこぼし始めた。

「ノン、どうしたんだ?」

「うん、ホントはずっと心配してた涙。でも、怖くて聞けなかった涙。出て行け、って言われるかと思って......ずっと心配だったんだよぉ~~うぇぇーーん!!」

「それは悪いことしたなぁ」

 ノンはしばらく泣いて、やっと落ち着いた。

「あのね、マモル様。マモル様が優しいのは分かるけど、はっきり言ってくれた方がいいんだよ。いらないなら、いらないって、どっかに行けっていうなら行けって、言ってくれていいから。アタシたちを可哀想に思うなら、言ってくれた方がいいんだからね」

「わかった、済まなかったな。それなら、カタリナさんを助けて、村を守ってくれ。これは命令だ」

「うん、分かったよ。命に代えても守るから!!」

「よしよし、頼んだぞ」

 ノンの頭をポンポンと叩くと、ノンがゴロニャンと甘えてくる。こういうことも、当面なくなるかなぁ?貴族が正夫人と側室がいるとき、どうやってご婦人方に行くのを決めているのかなぁ?知りたいもんだけど、誰も教えてくれなさそうな?


 朝イチでバゥがオレグを港まで馬で迎えに行き、着いてすぐ村を出立した。オーガの町には少しでも早く着きたい。オーガに着くまでは、2頭立ての馬車を1つ作って3人乗らせ、オレは馬に乗って移動する。食糧などはオーガの町で買うことにしている。


 今晩は、ブカヒンの町で仕入れてきた食料品で、村のみんなで結婚パーティーをやる予定だったのだが、オレもいないしオレグもいないけどやってもらうことにした。

 オレグに、村に着いてすぐ出発することを告げたら「当然です」と言うんだけど、貴族(元だけど)の心構えというのは、こういうものなのかね。バゥもミコラも当然です、という顔をしているし。それなら、何も言うことないけど。


 昼過ぎてオーガに着き、すぐ庁舎に行く。ギレイ様はオレを待っていてくれたようで、すぐに通された。

「マモル、心配したが、意外と早く来たな。新婚早々、悪いがこれも貴族の務めだから仕方ないと割り切ってくれ。それで、明後日、朝一番でギーブに出発する予定だ。マモルたちは、前にハルキフで戦った部隊と一緒に移動してくれ。それで特に問題はないだろう?宿舎は手配してあるから、そこに入ってくれ。詳しいことは担当の者に聞いてくれ。すまんが私も忙しくてな、何かあったら担当者に聞いてくれ。頼んだぞ」

 いつも通り、机の上にわんさか書類が積まれて、読み、サインし、不具合あれば指摘して、という八面六臂というか聖徳太子みたいな書類処理で片付けられている。すごくて、オレには絶対真似できんわ。気休め程度に過ぎないだろうけど『Cure』と唱えて部屋を出る。

 部屋を出たら、担当官が待っていて紙を見せながら説明してくれる。なるほど、オーガだけで500人が出て行くのか。オレたちは最後尾で、輸送隊の殿を守る部隊なのね、素人のオレが余り危険な目に遭わないように配慮してもらっているのかな?


 とにかく、もらった紙を持ってバゥたちの所に戻る。紙を見せると、バゥたちの方がオレよりよほど専門家なので、あーでもないこーでもないと議論している。あれが足りない、これが足りない、と言うから金を渡すから買って来い、と言った所で、オーガにはロマノウ商会の支店と、ハルキフの戦いの話をさせられた武器商がいたことを思いだし、そこに行くよう指示する。オーガに着いて、オレは宿舎にずっといた方が良いそうで、急に何かあってもすぐに連絡できるように待機しているのが原則なんだそうな。スマホがあればなぁ、ってオレ一人がスマホ持ってても役に立たないけど。


 買い物から帰ってきた3人はホクホクの顔をしている。ロマノウ商会も武器商も上客の扱いをしてくれたそうで、とくに武器商はオレの作らせた弩の製造権を持っているそうで、大忙しなんだそうな。武器商は戦争があれば一時だけ好景気が来るが、それ以外は地味な商売が続くそうだが、弩の製造だけはコンスタントに好景気が続いているそうで、干天に慈雨のようなものだそうだ。3人の予備の剣や矢もおまけしてもらったそうだ。


 夜に宿舎で夕ごはんを食べていると、バゥとミコラがソワソワとし始める。こいつらは、あそこに行きたいんだな?オーガのどこにあるのか知らないけど、バゥとミコラなら、もう情報収集しているんだろうし。2人して、どっちが言うか譲り合いしてるし、言うまで知らん顔することにする。だって、オレもオレグも新婚だよ?まさか誘って来ないよな?

 ついに、

「あの~~~、マモル様、実は......」

「はい、分かってます。明日はないよ、いいね。ほら、1人銀貨1枚。ギーブに行ってもこんなこと、ないからね!」

「「ハイ♪」」

 満面の笑みでバゥとミコラが頭を下げる。オレグは、何のこと?という顔をしているけど、キミも行きたいの?もしかして。

「オレグ、バゥたちはキレイなお姉さんたちのいるお店に行きたいそうだけど、キミも行きたいかい?」

「ハイ?キレイなお姉さんの店ですか?それはどういう......」

「「「またまたまた~~~知らないとは言わせないよ」」」

「え、なんですか?」

 こういうのは年長者のバゥさんが発言するんですよ。

「オレグぅ、またそういう知らない振りをして。まぁ、キミは結婚したばかりで、可愛い嫁さんがいるから、今日は仲間はずれだけど、ハルキフにいたときは、使ったことがあるだろうが?かわいいお姉さんがいて、お金を渡せばあんなこと、こんなことしてくれるお店だって!!」

「......あ、あ~あそこですかぁ笑。すみません、やっと分かりました」

「いや、分かってくれたなら、それでいいよ。今のキミはリーナさんという可愛い嫁さんがいるから、当面はああいうお店に行ったらダメだからね!!」

 バゥがニマニマと笑いながら、説教する。ほら、はよ行け。


 オレとオレグが残され、2人でチマチマと酒を飲みながら話をする。

「オレグよ。実はオレグとリーナさんに村の教会で結婚式を挙げて欲しかったんだ」

「そうですね、私もそう思っていましたが、ブカヒンで挙げさせてもらい、本当に感謝しています。リーナもすごく喜んでいましたし」

「そうだけどな。戦争が終わったら、村の教会でもう一度結婚式を挙げてくれないか?」

「え、どうしてですか?」

「うん、実はまだ村の教会で誰も結婚式を挙げていないだろう?」

「そうですね。まだ誰も結婚していませんし」

「そうなんだ。それで、この村はルーシ王国出身者がほとんどだし、村の事情で結婚式らしい結婚式を挙げることができてないんだ。だから、村のみんなにヤロスラフ王国の結婚式がどういうものか、見せてやってほしいんだ。どうだろう?」

「なるほど。私は構いませんが、リーナさえ承諾してくれればやっても良いです」

「是非やってくれ。細かい所は戦争から帰ってきてから決めよう」

「はい、分かりました」

「オレグたちが結婚式を挙げれば、それに使った物を次の人に使えると思うし、最初は大変だけど、次からは楽になると思うからね」

 

 その後、何事もなく部屋に戻り寝ました。バゥとミコラがいつ帰って来たのか知りません。




いつもありがとうございます。

明日もあります。

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