カタリナさんの魔力持ちを話す
「マモルよ、せっかくの結婚式の翌日であるのに呼び出して済まない。しかしこれは、マモルにも関係しているのだ」
イズ公爵様はオレとクルコフ子爵様、リファール商会のヨゼフ会頭を前にして言った。
昨日、結婚式→舞踏会→初夜と重要なイベントをこなして、朝日が差し込んで来た部屋でカタリナさんと再戦に及んで、幸せな気分で部屋にまったりしていたけれど、あまり遅いとあれやこれや勘ぐられそうな気もして、さあ朝食を食べに行こうか?と着替えていたところに、イズ公爵様から呼び出しがかかったのだ。
場の雰囲気が重くて怖いんですけど?
「実はゴダイ帝国が我が国に侵攻の準備をしており、近く攻め入って来るという情報が王都からもたらされた。併せて、各領では至急、兵を集めるよう、動員令が出された。
アレクサ領にも動員令が来ているはずだ。であるから、タチバナ村にも動員令が来ているだろう。マモルはすぐに戻って、アレクサの指示に従わないといけないぞ」
イズ公爵様は厳しい顔で言われる。
ついにゴダイ帝国が攻めてきたのか?こんな時に。
「イズ公爵様、お伺いしてもよろしいでしょうか。ゴダイ帝国はどこから攻めてくるのでしょう?」
「うむ、チェルニ方面と伝えられている。各領はチェルニに軍を集めるように命じられている。我が領は10日後ということだから、アレクサ領も同じだろう。マモル、すぐに村に帰り準備せよ。チェルニで会おう」
ホテルに帰り、ネストルたちとカタリナさん、ペドロ会頭と7人で対応を協議した。
村に帰ってすぐに準備しなければならない。前回と同じ3名というのなら、オレとバゥ、ミコラでいいだろう。4人ということならオレグも連れて行く。
ネストルの予想では、ギレイ様の軍に組み入れられるだろうと。アレクサ様は現在、信忠様の喪に服しているので、代わりの将軍を立てるであろうと。実績から言うとギレイ様だが、側近から選抜される可能性もあるので、側近が将軍となって軍を率いるとなると、軍を動かすことは難しいことになると言う。
とにかく村に早く戻らないといけないが、ロマノウ商会の船は明日出る予定だから、こっちで購入できるものは購入しておいて運ぶことにした。
それで問題は、カタリナさんのこと。最初はオレが村に帰るのと一緒に村に行き、お披露目をするつもりだった。そして、いろいろと教えながら村のみんなと馴染んでもらうつもりだった。
しかし、村に行った途端、オレは戦争に行くわけで、誰も知らない中に一人残されてしまうから、ブカヒンに残していこうかと思った。これを言うと、カタリナさん以外は賛成してくれた。それなのにカタリナさんは、オレの嫁になったのだから、村主の嫁として村にいます、ということを言うんだけど。
でも来たところで何か役に立つわけでなく(冷たいけどね)、お飾りというか象徴みたいなものなので、最悪、邪魔に近い存在かも知れないし。そもそもオレだって村の中で村主としての仕事が何があるのか?と言われても、ネストルから回される書類にサインするだけなんだし。
タチバナ村自体はゴダイ帝国と戦争状態になっても、戦場からは遠い所にあるので、そうそう危険な状態になるとは思われないから、来ても戦争に巻き込まれてどうの、ってことはないと思う。
色々と話し合って、結局、ペドロ会頭込みでカタリナさんを村に連れて行くことにした。ペドロ会頭は村に来てすぐに帰るので、会頭と一緒に帰ってもいいんだし。そこは判断に任せよう。
買い出しやなんやかんやは、事務会計担当のネストルがいるのでオレは何もすることがなく、暇を持て余しているのでカタリナさんに魔力トレーニングをすることにした。今後のこともあるので、ペドロ会頭と夫人のハンナさんも呼んである。
ペドロ会頭夫妻は最初、なんで呼ばれたのか不思議そうな顔をしていたが、カタリナさんに魔力があることを告げると、それはもう驚いた。そりゃそうだよね、1000人に1人魔力持ちがいるかどうか、ということだし。まさか我が娘が、と思うよね。
それで疑われるから、論より証拠、百聞は一見にしかず、実際に目の前で
『Light』
と唱えて、灯りをともさせると、2人とも目をまん丸にして、灯りを見つめる。あんまり長く続けるとカタリナさんの魔力が尽きてしまうかも知れないので、手で押さえて灯りを消す。もちろん、魔力の火なので熱くありません。
灯りを消しても、2人の驚きは収まらず、逆にカタリナさんはニコニコと笑ってる。ペドロ会頭と奥さんの目が上がってきて、オレを見てカタリナさんを見て、二人は顔を見合わせた。
「「ホントだ」」
「信じてもらえましたか?」
「ハイ、しかし本当に娘が魔力持ちだとは。まさか、本当に」
奥様は口を押さえて、カタリナさんを凝視している。
「イヤ、見てもらったとおりです。もしかして、迷惑だったでしょうか?」
「いえ、そんなことはありません。ただ、娘が呪文を使えると言うことが信じられなくて......とにかく、ありがとうございます」
「いいえ、私のしたことはカタリナさんの魔力を引き出しただけで、彼女が元々持っていたものですから。ただ、持っていることは周りにあまり言わない方がいいかも知れません」
「そうですか?」
「そうだと思います。この国での魔力持ちの扱いが良く分からないのですが、政治に利用される可能性もあるので、当面は信用できる人にだけ伝えておいた方が良いように思います」
ペドロ会頭は、う~~んと言って考え込む。
「私の知っている、魔力持ちはマモル様だけなので何とも言えません。それでは、マモル様の言われる通りにしておきましょう」
「カタリナさんの使える呪文は『Light』だけなのですが、たぶん向き不向きの呪文があると思うんです。あと、呪文の覚えることのできる数が10と言われているので、何でも呪文を覚えると本当に必要な呪文を覚えられなくかも知れないので、注意が必要です。たぶん、使えれば絶対便利だと思うのは『Cure』と『Store』でしょう」
と言って、説明する。ホーーー!とペドロ会頭と奥さん、カタリナさんも驚いている。『Store』は商人の夢のような呪文ですな、と言いますが、そうですわな。
ま、とにかく練習ですから、と偉そうなことを言って、誓いの剣を4次元ポケットに入れる練習から始めてもらう。店に盗賊が入ったとき、剣を取り出したのが『Store』です、と言ったら納得された。やっぱり、一度見たものは理解してもらいやすい。
『Cure』は夕べ、カタリナさんが一度経験しているし、今朝の起きたときと、致した後に掛けているから感触が分かってて、すぐに習得できた。
ただ、ちょっと使えばすぐに疲れてしまうのは仕方ないよね。
やっぱりカタリナさんは魔力の量もあるし、才能もあるような気がする。村でノンやミンに教えてもらえば、もっと伸びるかも知れない。
「マモル様、私の方からもお話があります」
ペドロさんが話し出す。
「ゴダイ帝国とはこんなことになりましたが、実は前にグラフ様と知り合いになった後、すぐにコーヒー豆を揃えて、あと胡椒や砂糖を持って、ゴダイ帝国のグラフ様の所に行かせたのです。もちろん、イズ公爵様のお耳に入れておりますので、公爵様の部下の方をお一人も同行されました。
行かせたのは、役目が役目でしたので、本店の支配人のバナスが行っております。
何か危ないことが起きないか、心配したのですが、ゴダイ帝国に入った途端、非常に治安がよく、グラフ様の名前を出すと、宿も関所も問題なかったそうで、無事帝都ブロジのグラフさまのお宅までたどり着けたそうです」
さすがに仕事が早いなぁ。
「ほう、もう行って来られたのですか?」
「はい、こういうことは早く行った方が良いのですよ。向こう様が「もう来たのか?」と驚くくらいに。それで、帝都に店を出しても良いと許可まで頂いたのです。
それで、マモル様が会いたいと言っておられた、『降り人』のケイコ・サイトウ様とチカコ・ホリタ様にもお会いしてお土産をお渡ししてきました」
「お!2人に会えたのですか?」
「はい、帝都の中にお住まいだそうで、グラフ様にお会いした翌日に、グラフ様のお屋敷で会うことができたそうです。それで、魚の干物とコーヒーとお茶をお持ちするとたいそう喜ばれたそうです。マモル様に会ってみたいと、お二人とも言っておられたそうですが、こういう状況になると難しくなりましたね」
「あ~そうですよね、会えるのはいつでしょうね」
会ってどうなるものではないだろうけど、この世界の言葉でなく、日本語で話をするとどういう感じがするのか、試してみたい。
「それで、これからが重要なことなのですが、ケイコ・サイトウ様とチカコ・ホリタ様には実のお子様がいたそうです」
「え!ホントに?」
「はい。お二人に確認しましたが、実子で間違いないそうです。ケイコ・サイトウ様が女の子を1人、チカコ・ホリタ様が女の子1人、男の子を1人産んでおられて、グラフ様のお屋敷に連れてこられていたそうですが、黒目黒髪のお母様にそっくりだったそうです」
「そうなんですか。『降り人』は子どもができないんじゃ、なかったのですか?」
「はい、そのように言われているようですが、必ずしもできないわけではないようです。グラフ様の言うには、できにくいが、できないわけではないようだ、ということのようです」
「ということは、オレとカタリナさんの間にも子どもができると......」
「そうです。できないわけではないので、気にしないようにと、グラフ様が言っておられたそうです笑」
「そうか......」
なんか、嬉しくなってきた。自分の子どもができるかも知れないってことは嬉しいことだ。全否定されていたことが、少しでも可能性ができてくると嬉しくなるんだ。
両親の目の前で、感極まってカタリナさんをぐっと抱きしめる。
「カタリナさん、オレに子どもができるんだって。オレの子どもを産んでくれ。オレは、自分に子どもができるなんて思ってなかったよ。嬉しい、嬉しいんだ......」
カタリナさんは突然のことで、よくわからなかったようだったけど、オレをハグしてくれてる。
「マモル様、もっと早くお伝えすれば良かったのでございますが、遅くなり申し訳ございません」
頭を下げるペドロ会頭。
「いいいえ、それを教えていただけただけで、有りがたいです。どうも、ありがとうございました」
「感謝の言葉は、子どもが生まれてからおっしゃってください」
「確かにそうですね」
これでペドロ会頭夫妻がすごく近くなったような気がする。
夜、2人になって、カタリナさんから驚きの話を聞かせてもらった。
「マモル様。ご存じないようですが、避妊の呪文というものがあるのです」
「え、そうなの?」
「はい、教会に行き、お願いしますと神父様が掛けてくださいます。お礼を少し納めないといけないのですが」
「へぇーーーそうなんだ」
「もちろん、ずっと効果があるわけではないので、普通は半年に1度掛けてもらうために教会に行ったりするそうです。もちろん、私は掛けてもらってませんから」
「それはそうだよね」
カタリナさんをハグして、ペドロ会頭から教えてもらったことを再度かみしめる。そして、強く抱きしめ、背中に当てた手から魔力を流し込む。最初は抱きしめられ、じっとしていたカタリナさんが、魔力を感じてグイングイン動き始めた。
「マモル様、ダメです、こんな、ダメです、いけません、いきなり、いきなりこんなこと、こんなことしては、いけません、ってててて」
ほら、壊れ始めた。
「ま、マモル、様。あ、あ、あ、おかしく、なりそうです いけ ません あ あ もぅ だめ ですぅ だめ です いやぁ 」
って魂が抜けてしまいました。
明日の出発まで、夜は長いですから。




