サラさん,乱れる
翌朝、オーガに行く馬車の停車場に行くと、たくさん荷物を持ったサラさんとジレン家ご一家、ノン、ミンがいた。ここまで知らん顔なので、横目で見ながら馬車を待つ。お土産がすごいけど、もしかしたら、もう会えないかも知れないし、持たされたんだろうね。
馬車が出て、6人乗りの馬車の乗客はオレたち4人だけだった。ここまでくれば「壁に耳あり」ではないと思うので、ジレン家のことを聞く。
「マモル様、今回はありがとうございました。実はタチバナ村に行った時点で、もう2度と両親や祖母に会うことはないだろうと考えておりました。マモル様の世界とは違うようですが、この世界では女が違う町に嫁ぐと、もう親の顔を見ることはなかなかできないのです。
まして、私は犯罪者ですので、絶対に無理であろうと。もちろん、会えるものなら会いたかったのですが、今回、このように旅の費用まで負担して頂き、誠にありがとうございます。祖母も大変喜んでおりました。マモル様に会えないのを残念がっており、くれぐれもよろしく感謝の気持ちを伝えてくれと申しておりました」
と深々とサラさんに頭を下げられる。いやいや、サラさん、そんな感謝して頂かなくても結構ですから。それで、ノンとミンはどうだったのかしら?
「アタシたちはおばあさまから色々と教わったよ。呪文もいくつか教えてもらったし」
「へぇ~~どんな?」
「『Store』ほらね」
2人とも中空に穴を作って、手を入れてみせる。
「でね、お土産に魔力の玉を1つもらったの。アタシは1個持っているから、ミンに渡したんだけど、それでいいでしょ?」
「それでいいよ。それから?」
「それで、アタシよりミンの方が魔力の量があると言われたよ」
「あーーそうなのか?」
「うん、それで、アタシのお母さんのことを聞かれたけど、アタシは孤児だったから知らないと答えたら、話が終わってしまって。おばあさまは、おばあさまのお母様から魔力を継いだそうだけど、子どもが男だけだったので魔力が伝わらなかったんだって。孫娘に期待したけど、2人とも魔力を持たなかったって。だからね」
と言って、ミンに目配せして、ノンがサラさんの左腕を抱きしめ、ミンがサラさんの右腕をぐっと抱きしめた。
すぐにサラさんが、
「止めてください。ダメです、ダメですって、くぅぅぅぅぅ、あ、あ、あ、あぁぁぁぁ......」
と文字通りもだえ始めた。目の前で、真っ赤な顔になり、あえぎ声が漏れ出すサラさん。
ノンとミンは笑いながら、サラさんがなんとか手を振りほどこうとするのを、しっかり離さない。
オレはただ驚くばかりで、サラさんの乱れぶりを見てるだけ。は!?と気が付いて
「おい、止めろ!!」
と声を掛けると、ノンとミンが止め、サラさんが上気した顔をしながら、ゼイゼイ息をしている。淑女の鑑みたいなサラさんが、息も絶え絶えという感じで、アレをして絶頂に至ったときのような顔というのか(見たことないけど)、膝が割れてスカートで見えないけど、中は大変なことになっているんだろうな。
呆然、として肩で息をしていたサラさんが、突然スイッチが入ったように、シャキっと姿勢を正して、ノンとミンを見て叱ろうとしたけど、サラさんをガン見しているオレに気が付いて、顔が真っ赤になって、がばっと突っ伏してしまった。けれど、馬車は狭くてガタガタ道を端っているせいで、馬車が弾んで正面に座っている俺の膝の上にサラさんが突っ伏してしまうという、さらに大変な事態になった。おまけにサラさんの嬌声に勇者となっているオレの正直な息子にサラさんの手が当たってしまい、手が何に当たったのか認識したサラさんが、さらに狼狽するという......。
「〇×※△♪>◇×〇□~~~」
と叫んで、また突っ伏すという、もう2度と見れないようなサラさんの醜態を見せて頂き。
馬車の走行音がうるさくて、御者に聞こえなくて良かったですね。
サラさんも女だったんだなぁ、としみじみ思いつつ、それを言うこともできず、馬車は不自然な沈黙のまま進んで、次の町に着きました。
沈黙の夕ごはんも済んで、部屋に入ったときにノンに聞いてみた。
「昼間にサラさんに魔力を流したよね。あれは、ジレン家でもやってみたのかい?」
「「うん!」」
「どうしてやってみたのか、状況教えて」
ミンが答えてくれた。
「あのね、おばあさまが「うちの孫娘が私の魔力を継いでくれるかと思ったけどダメだったのだよ」と言って、サラさんの手を握って、魔力を流したの。そうしたら、サラさんがクネクネしておかしかったから、お母さんとマモル様の前で1度やってみよう、って話になったんだよ」
あちゃ~ぁ、それはね、やっていいこととイケないことがあるのですよ。
「あれはいっちゃったね?」
とミンが言うと、
「そうだね、うふっ」
ノンが答える。え、ミンって10才くらいじゃなかった?イクって、サラさんがいったって、ことでしょ。
「そういう話って、子どもの前で言っていいの?」
「え、何がだめなの?」
「何が、って。オレの世界じゃ、そういう話は子どもの前じゃ、しなちゃいけないという暗黙の了解があって......」
「あははは!!だってさ、12才で一緒に暮らし始める子もいるんだよ。それに、前にいた村だったら、みんな、してるの見てたでしょ?イクのって知ってるよぉ」
そこでミンが、
「そうだよ。アタシだって、マモル様とノンの、見てるもん!!」
おおおおおお、なんと、こんなところに地雷があった。
「そうかぁ、そうだよね、あぁ、そうだよね」
ノンが追い打ちかける。
「マモル様は今頃、何言ってんの。アタシとマモル様が何してるか、みんな知ってるよ。サラさんだって、マモル様の前じゃ、あんな顔しているけど、アタシに聞いてくることあるんだよ、あはは」
はぁ、何を聞いてくるのか、想像しますけど、確認しませんから。そうですね、あの村出身の女性の方々は、文字通りの井戸端会議で情報交換されてましたね。今、思い出しました。さらにミンが追い打ちかけて、
「だから、今晩もアタシに遠慮しなくていいよ。なんなら、アタシはサラさんの部屋に行こうか?昼間、マモル様は真っ赤な顔でサラさんを見てたでしょ?」
なんと、ミンに見透かされてイジられる。女は怖いわ、ホントに。子どもでも女は女ってことを深く理解した。そこにノンが
「ほら、ミン、ダメだって。マモル様って、そういうのは繊細なんだから。普段はボーとしてるけど、そこは気が小さくて、傷ついているよ。
それなら、ミンはサラさんの部屋に行ってくれる?確か、サラさんのベッドも2つあるよね」
「うん、分かったよぉ!」
と親孝行のミンはドアを開けて、出て行った。隣のサラさんの部屋のドアをノックする音がしてサラさんが「どうしたの?」って声が聞こえる。聴覚のスキル(あるかどうか知らない、いわゆる聞き耳と言うヤツ)を上げ、耳をダンボにしてしまう。「あのねぇ、今からするんで、アタシ邪魔だからサラさんの部屋に行ってくれって言われたの。だから来たけど、いい?」
って、あからさまに聞いています。ノンがニヤっと笑うけど、オマエは恥ずかしくないんかい?サラさんが「分かったわ。仕方ないけど、もう昼間みたいなイタズラはしないでね」って言うのが聞こえた。
いけません、今夜はガマンしましょう。あぁ、ノン、誘うのは止めてください。触ってくるのは、イケません。キスはイケません、何?おばあさまに教えてもらいました?魔力持ちの女のとっておきの呪文?やめて、落ちてしまいますからぁぁぁぁ。
翌朝、何事もなかったような顔をして馬車に乗りました。ノンとミンはいつも通りの平気な顔ですが、オレとサラさんは微妙な顔で朝の挨拶の他は会話できません。
突然ミンが、
「夕べさ、サラさんが聞いてくるんだよ。どうしたら、ノンさんみた......」
サラさんがミンの口を押さえて喋らせないようにしています。
あぁ、何を言おうとしたか分かるよ。でも、それって人によってはナイーブな話だから、オレに聞かせない方がいいよ、サラさんのいないところで聞かせてね。
ということで無理矢理話題を変え、そもそも昨日聞こうとした呪文の話をする。
おばあさまの話によると、ミンは明らかに治療の呪文の効きが大きいらしい。まだ子どもだし、これから魔力の量が増えるだろうから、どんな適性があるか分からないけれど、現在はそうらしい。
それなら、やがて大きくなったら、ブラウンさんに預けた方がいいのかな?おれみたいな素人より専門職に任せた方がいいような気がするんだけど。機会があったら相談してみよう。
ノンについては、適性は攻撃方面でないか?と言われ、もしかしたら火の攻撃魔法に適性があるだろう、ということを言われたそうだ。火を付ける呪文を教えてもらったそうだけど、他の系列と大して差がないので『Cure』や『Grow』も使えて、そこそこ効果が見られるらしい。
おまけに2人とも『Store』使えるようになったし。あと、『Cure』を使うと「女の日」が楽になるって教えてもらったってノンが喜んでいる。あれって病気でないから、効かないと思ってたそうで、これで村の女性陣が助けられるよ、って笑って、サラさんに「ねぇ!」とバンバン叩くけど、サラさん何も言わない。昨日は、ノンとミンに挟まれて真ん中の席に座っていたけど、今日は警戒したのか窓際に座っているから、知らん顔して外見てる。
サラさん、すみません。余計な気を使わせてしまって。
でも、あんなサラさんを見たのが、この旅で一番の収穫だったかも?ネストル、あんなサラさん、知ってんのかなぁ?




