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オーガからハルキフへ

 ノンに結婚式を挙げることを聞いても「気にしてないから。当たり前のことだし、そういうことが有ると思っていたから」と言って気にしているそぶりもしない。でも、ちょっと気にかかる。前の世界の常識がオレの中で引っかかっているだけなんだけど、何かノンにして辻褄を合わせようとしているだけなのは自覚しているんだなぁ。

 いろいろと考えて、一つ思い付いてサラさんに相談してみた。

 


「おばあさまの所に行くのですか?」

 サラさんは驚いて目を丸くする。やっぱ、びっくりするよね。

「そうなんだ。前にハルキフに行って、サラさんのおばあさんに会ったとき、サラさんを連れてきたら、魔法の呪文を教えてやろうと言われてさ、ノンとミンにもおばあさんに会わせたいと思って。

 この国でも、魔力持ちは少なくて、オレの知ってる限りはサラさんのおばあさんだけだ。たぶん、オレに教えることができなくても、女性に教える呪文があるような気がする。それに、おばあさんもサラさんのご両親もサラさんに会いたがっていた。だから、オレとサラさんとノンとミンの4人で行ってこないか?これはサラさんがいかないとダメなんだよ。

 幸い、この村のことはカタリナさんとオレグが来たから、上手く回っているし。サラさんが10日ほどいなくても大丈夫だろう?」


 サラさんは、じっと考えて、

「分かりました。ネストルの了承が要りますが、私も1度家族に会いたいです。おばあさまも、魔力持ちの女性と会ってみたいと思いますので、行きましょう。しかし、マモル様の結婚式まで時間がありませんよ。大丈夫ですか?」

「大丈夫、あさって出発しよう」

「えーーーーーーーあさってぇぇぇぇぇ!!ぜったいーー無理です」

 あ、サラさん、壊れた。

「マモル様、第一ぃ、着替えとかぁ準備とかぁ、どんなに短くとも1週間はぁ、かかりますーーーてぇ!!」

 沈着冷静なサラさんはどこに行った?

「じゃ、1週間後の出発ね。よろしく」

「はぁ......」(呆然)

 サラさんは了承してくれたし、行ってくるぞ。



 今はオーガの町に行く馬車に乗ってます。

 ノンには、いろいろ理由つけたけど、結婚式をしない代わりに旅行に連れていくということで、オレの中の気持ちの整理を付けるためだから。

 ノンは元は孤児だし、連れ子がいるから、元々オレに嫁が来るまでのつなぎでいいと思っていたそうだけど、まぁ気持ちは気持ちだから。魔力持ちのおばあさんに会わせてみたい、というのも大きいし。


 タチバナ村に暮らす人たちって、普段着しか持たず、普通は3着ほどを繰り返し着て暮らしている。そもそも、この世界の人たち(平民)はよその町にお出かけするという概念がなく、生まれ育った町で一生を終えるのが当たり前だそうだ。だから、よそ行きの服というものがなく、女の人がおしゃれをするのは教会に礼拝に行くときくらいだそうで、うちの村の教会に行くときは普段着なので、余分な服を持っていない。

 ということで、オーガの町に行ったら、よそ行きの服を買わなければいけない!とサラさんが力んで、おられる。ノンとミンは「そうなの?」くらいの感じなので、なおさらサラさんが「女性たるもの~~」と語られるのだけど、一度領都に住んでたノンはともかく、ミンには分からないな。オーガの町にはルーシ王国から移住してきたときに少しいただけだから。


 サラさんとノンとミンには、ヒエラルキーができているし、サラさんに任せておけば大丈夫、言われたことをやっていればいいから、という雰囲気が感じられる。反発することもないから、特にオレが言わなくとも仲良くやってくれてる。ノンはサラさんと、そんなに年が違わないのに、お母さん的な視線が感じられるな、うん。


 馬車がオーガに着いたのは昼過ぎで、宿に荷物を預け、オレはギレイ様のところに挨拶に行くので、女性陣3人とは別行動することにした。サラさんに当面の費用として金貨5枚渡して別れた。そんなにいらないと言われたけど、実家にお土産を買っていかないといけないし、街を歩けば買いたいモノも目に入るでしょう?と押しつけた。


 庁舎に行ってギレイ様に面会を申し込むと、今回はすぐに取り次いでもらえた。

 そうはいってもギレイ様の執務室の机には書類が山のように積まれていて、いつも通り書類を片付けながら、相手をしてもらう。


「マモル、久しぶりだな。聞いたぞ、結婚すると」

「あぁ、耳に入りましたか。6ヶ月後に結婚式を挙げます」

「そうらしいな。相手がリファール商会の会頭の娘で、クルコフ子爵様の養女になり、立会人がイズ公爵様とは、マモルにはつくづく驚かされる」

「はい、最初はそんな大事になるとは思わず、リファール商会の会頭の娘と結婚するだけのつもりでしたが、イズ公爵様の耳に入ったようで、こういうことになりました。こんな大事(おおごと)にして欲しくなかったのですけど」

「何を言っているんだ。もうイズ公爵様がなんとかして、マモルを取り込もうとする意図が見え見えで、呆れかえるさ。ここまでイズ公爵様の意向が分かると、アレクサ公爵様もマモルに対して手を出すことはできないだろうな。

 それこそ、マモルがイズ公爵様に「部下になりたいです」と言ったくらいなら、イズ公爵様からアレクサ公爵様に直接、要請がありそうな気がするな。たかが、ひとつの村の村主(むらぬし)の騎士爵にだぞ。

 こうなると何があっても、アレクサ公爵様はマモルを手放さないだろうな、意固地になってな。マモルのせいで、兄弟ケンカが起きるぞ、まったく」


「はぁ、そんなこと起きなくていいんですけど......」

「そうは言ってもな。アレクサ様は、ここだけの話、自尊心だけは高いから。周りが有能なら良いんだけど、血統主義でガチガチのヤツらが囲んでいるから、融通効かないし、困ったもんだよ」

「それは、私のせいではありませんし......」

「そのとばっちりが来るんだよ!それで、これからハルキフに行くつもりか?あそこはヒューイからアレクサ様の腰巾着のクチマが領主になったから、会わない方がいい。黙って行って、黙って帰ってくるべきだ。たぶん、向こうはあまり細かく出入りの管理をしていないので、分からないと思うが、万が一に備えてロマノウ商会の店に商談で行くとしておけば大丈夫だろう。あそこの領主はあまりいい噂が聞こえてこないんだ。ヒューイが領主になって立て直したと思ったら、領主が変わってまた傾き始めている。まったく、心配が絶えなくて困る。しかし、お偉方は下々のことは分かっておられないだろうけどな」

 ギレイ様からさんざんアレクサ様の愚痴を聞かされ、やっと解放された。ギレイ様はアレクサ様に直接会う立場だから、余計鬱憤が溜まるんだろうな。


 いつもに増して忙しそうなギレイ様においとまして、庁舎を出て、ロマノウ商会に行く。

 都合良く、ジョアン支店長は在店しておられました、いつもお世話になります。しばらく待つと、颯爽と奥から出てくる。

「マモル様、ようこそいらっしゃいました。今日はどんなご用事でしょうか?結婚式の引き出物や贈り物はザーイの方で手配しており、こちらには届いておりませんが」

「お忙しいところ、申し訳ありません。実はハルキフに行く用事がありまして、オーガに来たので挨拶に来ました」

「それは、わざわざありがとうございます」

「それで、さっき庁舎に行き、ギレイ様にお会いしたとき、ハルキフに行くなら、ロマノウ商会の支店に行くという体裁にした方がいいだろうと言われまして、一応、お話しておこうと思い、伺いました」

「そうですか、それは大丈夫です。連絡しておきましょう。しかし、今のハルキフに行かれるのですか?」

「そうですが、うまくないでしょうか?」

「私としては、あまりお薦めしませんね。ハルキフはご領主様が替わられてから、うまく行ってないように見えます」

「それは政治も経済も、ということですか?」

「はい。加えて言うなら、治安もです」

「どれもこれもですね」

「はっきりと、ひどく悪いというわけではないのですが、悪くなりつつある兆候が見られる、という微妙なものです。

 政治については、まだ領主に就かれて時間も経っておらず、領民の信頼がこれから増していくかも知れません。経済については、微妙な状況で、悪くはないのですが良くなる兆しもないのです。ヒューイ様が領政を見ておられた間は、景気がどんどん良くなり、雇用が進み、失業者がいなくなり、孤児も少なくなるという好循環が繰り返され、領内の雰囲気も非常に良くなりました。

 ヒューイ様の前任のご領主様のときの沈滞した雰囲気が一掃されたのですよ。もちろん、戦いに勝ち、マモル様が胡椒の木を見つけ、絹織物産業の端緒を導いた、ということは大きいのですが、ヒューイ様がそれらが産業となるよう、資金をオダ様から貸してもらい、育成したというのがとても大きいのです。

 クチマ男爵様の手腕はこれから発揮されると思いますが、替わられてだいぶ経つのに、人事に手を付けられた他は特に何もされておらず、町にも不在のことが多いと聞いております。一般に、領主が替わった当初は、町におられ領民に顔を見せるということが信頼される早道と思いますが、どうも平民と付き合われるのが、お嫌のようで、不満に思っているものも多いと聞いております。

 おや、申し訳ありません。余計なことを申し上げました。当商会のハルキフの店には、どうぞお寄りくださいませ。

 ところで、今晩は夕食のご予定はございますか?よろしければ、ご一緒にどうでしょうか?」

 なんか、すごく暗くなる話を聞かされてしまったので、丁重にお断りするけれど、明日の夜にお付き合いすることにしよう。

「今晩は連れと一緒に内々で食べるつもりです。明日で良ければ、大丈夫です」

「では、明日の夜、我が家においでください。夕食のあと、是非、お話をしていただければ、我が家の家族も喜びますので」

「分かりました。連れの者は行かないと思いますので、私1人でもよろしいでしょうか?」

「よろしいですよ。マモル様は当商会のゴルグの家で、とても悲しい話をされたとか、聞きました。それはもう大変なことになり、家族だけでなく、執事やメイドたちまで泣いてしまったと聞いております。私としては、その話を聞いてみたい気もするのですが、後のことを考えると、主人公が幸せで終わる話も聞きたいように思いますので、そのような話を聞きたいと思います。

 誠に勝手なことを申し上げますが、ご配慮くださいませ」

 明日の夕方、迎えの馬車が来るというので、了解して宿に戻りました。


 宿ではサラさんが、オレを待ち構えていた。町を回って、良さそうな服がいくつかあったのだけれど、決められずに明日、オレが一緒について行き、決めることにしたそうで、そんなことしなくたって、自分の好きな服を買えばいいのに、とぽつっと言ったら、サラさんが「そーーーーんなことは絶対できません!!」と断言され、「明日はゼッタイ一緒に行きましょう!!」と言われるんだけど。ネストルさん、日頃の苦労が忍ばれます。ゼッタイ、サラさんには口答えしないことが肝要ですね、ハァ。ちなみにノンとミンは良い服悪い服ということがまだ分からないらしい。


 明日は1日、お付き合い致します。何?魔法の袋に入れろ、と。了解致しました。


 買い物は、とことん疲れました。


 いろいろ考えて、ハルキフに行くのは、オレとサラさん、ノン、ミン、の3人は別グループとして行動しよう、ということにした。ハルキフに行く連絡馬車は1日2便なので現在では凶賊に遭遇するほど危険な道でもないし、別行動としようと。

 オレは宿屋に泊まって、3人はジレン家に泊めてもらうことにする。サラさんに言ったら「大丈夫です、安心してください」と言うことだし。ただ、ジレン家に行かなければ、オレって何の用もなくて、ゴロゴロしてるだけなんだけど、ハルキフと言えばアヒルのお姉さん!だけど、ダメかなぁ?同じ町にノンもいるし。いや、サラさんの方が勘が鋭そうだから。


 あぁ、これって男のジレンマだよね~~~いや、ネストルは悩んだりしないか?大変ですねぇ、ネストルさん。

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