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元気になりました。煎じ薬が効いたのか?

 朝、目が覚めた。光が小屋に入り込んでいることで、生きていることに気がついた。なぜか夕べの熱っぽくだるい身体はなくなり、爽快だ。あの煎じ薬が効いたのでなく、婆さまの『Cure』が効いたのだろう。

 横を見るとアンが床に寝ていた。土間の上に毛皮を敷いて寝ている。一晩オレに付き添ってくれたのか?異世界ノベルによくある、主人公とヒロインの恋に落ちるパターンじゃないか?オレはロリじゃないのだけどな。そう言っても、アンは見かけが中学生程度だけど、実際は20才で未亡人だし。


 起き上がってしばらくアンを見ていたら、アンも目を覚ました。

「おはよう、アン」

「マモル、おはよう。具合はどう?」

「薬が効いたのか、良くなったよ。アンは一晩中付き添ってくれたのか?」

「うん、婆さまとジンに言われて。一晩様子を見てろって」

「そうか、ありがとうな。おかげで治ったよ」

「良かったよ。みんな心配してた。婆さまとジンを呼んでくる」

 アンは小屋を出て行った。身体はまだイヤな汗が残っているようで、身体を拭きたい。


「マモル、良くなったか?」

「マモル、具合はどうだ?」

 ジンと婆さまがやってきた。オレに魔法をかけて婆さまは倒れたけど、どうも直ったらしい。

「心配掛けて済まなかったけど、治ったよ。婆さまこそ身体は大丈夫なのか?」

「あぁ、あれは一晩寝れば直るんだよ。でも大変なのは大変だから滅多にやらないのだけどね」

「オレは魔法を使うのは初めて見たよ。スゴいもんだな、あの魔法のおかげで治った」

「違うよ、マモル。アンが煎じ薬を持って来て、飲ませてくれただろ。そのおかげさ。アンに感謝しな。あの薬は臭いから、誰も触りたがらないのだけど、アンはおまえに飲ませるため、甕の中から汲んできてくれたのだからね。あの薬を人に飲ませるのは2年ぶりくらいかね」


 聞くと、あの薬は婆さまの秘蔵の薬で、いつ作られたか分からない昔から受け継がれてきた甕の中に保管してあるそうな。あまりに臭いので、蓋がしてあっても臭いは周りに漂っているので、薬を取りに行くことさえ、憚られるそうである。そんなものを飲ませるなよ、トホホ。それでも、そんな薬を取ってきてくれたアンに感謝しないといけないな。

 オレの顔を見てホッとしたのか、婆さまとジンは小屋を出て行った。

 

 とりあえず、身体があまりにも臭いので井戸に行く。身体中の毛穴からあのクスリの臭いが滲み出ているような気がする。いつもの顔ぶれの女の人たちが井戸の周りにいて、オレの顔を見てホッとしたような顔をして声をかけてくる。

「マモル、具合は良くなったかい」

「まだ顔色は少し悪いようだね。今日は1日寝てな」

「アンタがマモルの身体を洗うと言ったから熱出たんだよ、きっと」

「何言ってんだい。アタシが洗ったら元気が出すぎて、夜寝れなくなるよ」

「そうかい、だからアンタの亭主はあんなに痩せているのかい」

「何を言っているのかね、アンが一晩中つきっきりで看病したからだよ」

「おや、そうなのかい?」

「アンが煎じ薬を汲んできて飲ませたそうじゃないか」

「そうなのかい!あれをアンが汲んできたのかい、それをマモルが飲んだのかい。よく治ったねぇ」

 やっぱりアンタらも、あの薬で治ると思ってないのか......よく治ったものだ。自分の生命力に感謝するしかない。


 小屋に戻ると朝食を持ってアンが待っていた。おかゆなんてものはもちろんないので、いつも通りジャガイモと野菜のごった煮だ。ありがたく、ゆっくりと頂戴する。夕べは何も食べなかったから、旨い。

「婆さまとジンが、マモルは今日狩りに行かずに村の中にいるように、って言ってた」

「あぁ、分かったよ。今日は1日村にいるから。それから昨日オレが担いでいたカゴを持って来てくれるか?それとザルを持って来てくれ。持って帰った実を乾燥しなくちゃいけないんだ」

「分かった。持ってくる」


 小屋を出てすぐ、アンはカゴとザルを持って来てくれた。

「何をするの?」

「昨日、ジンと森に出かけたとき胡椒の実を見つけたんだ。オレの知ってる通りだと、胡椒の実はたぶん貴重な香辛料になるのじゃないかと思ってな。オレから見ると、そんな珍しくないものでもこの村にはないから、ここで消費する分だけでも作れればいいかと思ってな」

「胡椒?」

「あぁ、肉に掛けたりすると旨くなる粉を作るんだ」

「へー、そういうものがあるの?みんな喜ぶよ、きっと」

「それはともかく、アンはこんなことしてていいのか、仕事あるだろ?」

「アタシなら大丈夫。婆さまから今日はマモルを見ていろと言われているから。マモルが無茶して森に行ったりしないように、見張っとけって言われてる」

「なるほど、ならこの胡椒の実を枝から取るの、手伝ってくれ」

「うん、分かった」


 アンはオレのやり方を真似して作業する。

「アン、実は赤いのと緑色のを分けてくれ」

 これはオフクロも知らなかったから、ネットで検索してやってみたことだった。

 母は凝り性で一時、自家製胡椒にのめり込んで、なぜか兄さんでなくオレを巻き込んで、木を植えて実を取って加工するまでやってたし。でも5年もしないうちに厭きてしまって、胡椒の木だけが庭に残って、オレは大学に入り、故郷を離れたから、その後どうなったか知らない。肥料もやってないけど、きっと今も生えているんだろうな。

 アンと2人で実をもぐとあっという間に実が取れた。


 実をもぎながら考えたことがある。

 前の世界に住んでいたとき、社畜生活を送っているときは、臭いと感じることがほとんどなかった。暑い、寒いと感じることもなかったような気がする。いろいろあるはずの欲望のうち、睡眠欲しかなかったような?

 季節の移り変わりも意識したことがなかったかも知れない。出張で広州に行き、現地のサプライヤーの方が気を効かせて、日本料理店に連れて行ってくれて、そこでホタルイカの和え物を出され、「日本で採れたばかりで直送されてきたのですよ」と聞かされて、今は3月だったと季節を意識したことがあった。

 毎日朝7時に起き、夜は最終で帰ってくる。土曜出勤も当たり前にサービスして、日曜はクリーニングを出したら、あとは一日中寝ているだけ。

 それが、ここに来て、臭いを感じ、暑いのやら、湿気の高い低いを感じるようになっている。人として当たり前の感覚を、この村に来て取り戻した。東京で、会社で過ごしていた時間は、グレーの色彩のない時間だったような気がする。身体が自然に包まれて生活すると、感覚が戻ってくるということだろうか?

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