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今日の相手はイノシシだった

 10分も歩いただろうか、軽快に歩いていたのだが、どこかでザザザと音がした気がする。何か嫌な予感がする。ジンがフラグを立てたせいだって。

「おい、ジン。何か音がしないか?」

「え?そうか?いや、特に何もしないぞ」

 と言ってるが顔がニヤついているぞ。そしたら、地面がズンズン揺れるような気がする。ジンも怪しいと思ったらしくオレを見る。と、目を見開き

「やばい!」

 と言ってオレの後ろを指さす。ジンの思っていたのと違ったようだ。オレも後ろを振り向くと、でかいイノシシがこっちに向かって突進してくる。イノシシって何キロで走るんだっけ?時速50キロ?秒速15m?もっと?なんて無駄なこと考えてるうちにあっという間に目の前に来た!


 逃げる間もないので、丸太を投げ捨て剣を持つ。鞘を抜く間もなく目の前に来たので思わず飛び上がって鞘のままの剣をイノシシの頭に叩きつける。ガツン!という結構な手応えあって、イノシシを飛び越える。神さまがくれた運動能力すごいわ、イノシシをジャンプして飛び越えましたがな!と感心している間もなく、行きすぎたイノシシがUターンしてまたこっちに突進してきた。おい!ジンはどこに行ったんだ!

 そんなことを思うまもなく、イノシシが突進してくる。さっきの打撃って効いてないんか?今度は鞘を抜いて剣を持つ。目前にイノシシが来たとき、オレは飛び上がりイノシシの頭に剣を入れる。剣は面白いように首に入り、斜めに抜ける。イノシシの後ろに着地して振り返ると、イノシシの首から噴水のように血が噴き出している。そして、ドーン!!と地響きを上げてイノシシが倒れた。今日は昨日みたいに血を浴びなかったぞ、えへん。


「おーい、大丈夫か?ケガはないか?」

 もう、そのかけ声は厭きた。ジンよ、アンタ、平和そうな声を掛けてきますね。そう聞いてくるならジンが相手してくれ。

「あぁ、何とか大丈夫だ。今日は血を浴びなかったぞ」

「おーーーそうだな、今日はキレイだな、ははは」

 ジンはニマニマしながらイノシシをピタピタ、槍で叩き死んだことを確認している。あんたはどこに行っていたんだよ、と言いたい気持ちを抑えながらいるとジンが、

「こいつはさっき罠にかかっていたヤツの連れ合いかもしれんなぁ。連れ合いが罠にかかって、行方を捜していたら人間がえっちらおっちら運んでいるのを見て突っ込んできたのかもなぁ?まぁ、どっちにしてもマモルのおかげで今日も明日もイノシシの肉が食べれるってこった、ありがてえ、へへへ」


 ジンはこれ以上ない、というような笑顔で笛をポケットから取り出し口にくわえて、ピーーーーーーーと鳴らす。10分も待っていると、これまた満面の笑みをした男たちが丸太を持ってやってきた。

「「「「「「やったぁ!!」」」」」」

「マモル、ありがとな!」

「いやぁ、マモルが来てホクホクだぞ」

「やっぱりなぁ、ジンの笛を聞いて、今日もマモルがやってくれたって思ったよ、あははは」

「あぁ、オレも思ったよ。今日もまた肉食えるんだって」

「オラも思った。こんなんだったら毎日マモルに森に入ってもらわないといけないな、マモルよろしく頼むぞ!」

「マモルが来て3日続けて肉を食えるなんて、ホントにマモルが福を運んで来てくれたな、婆さまの言うとおりにして良かったよ」

「そうだな、最初の日のガイはかわいそうだったが、仕方ないことだからな」

 などと言いながら、オレの肩を叩くやら背中を叩くやら、喜んでくれる。まぁいいか。オレは命がけだったけど、だんだんと狩りに慣れてきたし。

 男たちはワイワイ言いながら、血抜きをして手慣れた手つきでイノシシを丸太に結わえ、数人がかりで村に運んで行く。罠にかかったイノシシをオレが担ごうとしたら断られた。

「マモルはもう働かなくていいぞ」

「そうだそうだ、オレたちが運ぶから、ついてこい」

 と言われてしまった。


 村に着くと、大歓声で女の人や子どもたちが迎えてくれた。

「マモル、今日もありがとうね」

「朝、頼んだ甲斐があったよ」

「イヤだね、アタシの願いを叶えようと頑張ってくれたんだろ笑」

「何言ってんだい、アタシがお願いしたからに決まってるさ、ねぇマモル」

「こんなに肉を続けて食べられるなんて生まれて初めてだよ」

「マモルはずっとこの村にいてくれよ。そうしたらアタシたちも肉の心配いらないからね」

「あれ、マモル、今日は血を浴びてないんだね?」

「あら、そうだね。でも、ここに血が付いてるよ。今日はアタシが洗ってあげるから脱ぎな」

「じゃあ、アタシが身体を洗ってあげるよ」

「ダメだよ、アンタのごつい指で洗ったらマモルが痛くて今晩眠れないよ!」

「じゃあ、アタシが洗って一緒に寝てあげるよ?」

「アンタにはあのオヤジがいるだろ。アンタのいびきがうるさくてマモルが眠れないさ」

「そうだよ、マモル、アンに洗ってもらいな。身体中きれいにしてもらいな」

「ほら、アンがそこでマモルを洗おうと待ってるよ。早く井戸に行きな!」

 ふと見るとアンが今日も着替えを持って立っていた。ブスっとした顔のアンから着替えを渡され、井戸の方に歩き出すとアンも後ろを付いてくる。

「アン、ちゃんとマモルを洗うんだよ」

「そうだよ、それくらいしないとイノシシ獲ってきてくれたお礼にならないからね」

「そうさ、手だけじゃなく身体使って洗わないといけないよ」

 やいのやいの言われながら井戸に向かった。

 身体はアンが洗って......くれるわけはなく、自分で洗い着替えを着る。今日はちょっと疲れたな。

「アン、オレは疲れたから少し寝るから」

 そう言って小屋に入りあっという間に眠りに落ちた。


「マモル、マモル、どうした?」

 名前を呼ばれて、目が覚めるがなんだか身体が火照っているような気がする。

「アン、どうしたんだ?」

「夕飯の準備ができたからマモルを呼びに来たんだけど、マモルが寝てて様子がおかしかった」

「そうか、ちょっと熱っぽいのかな、身体中だるいし、今日の夕飯はいらないから、このまま寝ると伝えてくれ」

 そう言うと、アンはハッとした顔をして小屋を飛び出して行った。

 しばらくウトウトしていると、小屋にアンがジンと婆さまを連れてきた。

「マモル、どうした?具合が悪いのか?」

「あぁ、ちょっと熱っぽいようだ。こっちの世界に来て初めてのことばかりだから身体がびっくりしたのかも知れない」

「そうかい、それもそうかも知れないね。なら今日はこのまま休めばいいよ。アン、マモルに煎じ薬を持ってきてやりな」

 婆さまがそう言うと、アンは小屋から飛び出て行った。ジンは婆さまの後ろで心配そうな顔をしている。

「もう、ワシの呪文は効かないかもしれないけど試してみるかね」

「婆さま、あれを使うと婆さまは具合悪くなってしまうのじゃないか?」

「仕方ないさ、マモルが村に幸を運んでくれたんだ。これくらいのことをしないとマモルに済まないよ」


 婆さまはオレの横に来て、じっと指先を見つめている。しばらくすると、婆さまの指先にポッと小さな灯りがついたように見える。婆さまは指先をオレの額に付け、『Cure』と唱えた。少しだけオレの頭に暖かな塊が入ったような気がした。その途端、婆さまがグラッと倒れかかる。それをジンが抱きかかえ、お姫様抱っこして運んで行く。

 それからしばらくしてアンが器を持ってくる。アンは鼻をつまんで、椀を身体から離すように持っている。それが、もしかして煎じ薬?アンでさえ臭いんでしょ、飲んで大丈夫かしら?すごく心配なんですけど、余計に悪くならないかしら?

 婆さまに『Cure』掛けてもらったし、別に飲まなくても自然に治ると思うんだけど。それなのに、あぁ、アンがオレを抱き起こしてお椀を口に持ってくる。

「アン、オレはもう大丈夫だから、寝かしておいてくれ。そしたら治るから飲まなくていいのに」

「ダメ、これを飲んで!婆さまから飲ませろと言われた」

「いや、飲まなくても。疲れが溜まっただけだよ」

「この煎じ薬はすごく良く効くと言われているから飲む!」

 もし第三者がこの光景を見れば、どう思うのだろう?子どもに叱られ看病されるダメな親のシーンに見えるのだろうけど、オレとしては飲みたくない。

「ほら、飲んで。身体だって、こんなに熱い」

「なら、仕方ないから、アンが口移しで飲ませてくれ」

「イヤ、絶対にイヤ!こんな臭いもの、汲むのだって臭いで死にそうだったのに、口の中にいれるなんて無理だから!」

 アンよ、あなたが口に入れられない物を、オレに飲めというのは無理があると思いませんか?

 と言ってもアンが持って来てくれたんだから、覚悟決めて飲むしかないのか。でも椀を口に近づけられるとすごく臭い、ものすごく臭い。前の世界の煎じ薬のもっと臭いヤツだ涙。こういうのってテレビでお笑いの人がゲームやって罰ゲームで飲むやつじゃない?これを飲むんかい?アン、あんたも顔を背けて、オレに無理矢理飲ませようとしてるじゃないか!あんたでも臭いんだからオレは死ぬほど臭いのは当然だろう。


 オレのそんな密かな思いも無視して、アンはオレの口に椀をあてクイっと飲ませた。口に入れても猛烈に臭いので、すぐに飲み込む。ゲロゲロ~~苦い~~臭い~~口と鼻に残る~~なおさらひどくなりそうだぁ、とオレは意識を失った。

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