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どんなところでも生きて行くのは大変だ。

これが処女作です。先は長いですが、お楽しみください。R18の方で二作目を書いております。ご興味があればそちらの方もお読みください。

「あぁぁぁぁぁ、疲れたぁぁぁ」

 今日も今日とて最終電車に乗っている。大学出て3年目、就活しているときはこんなブラックな会社だと思っていなかったけど、オレは毎日最終電車で郊外のアパートに帰る日が続いている。勤めている中堅商社という会社のせいなのか、自分の仕事の遅いせいなのか、他の同僚はもう少し早く帰っているけど自分は帰ることができない。と言うことは、やっぱり自分の能力不足のせいなのだろうか?


 地方から大学に入るため上京し、二流ではあるものの、そこそこ名の知れた大学の農学部に入り、理系学部にもかかわらず、テニス同好会というナンパなクラブで女子大生と一緒にキャピキャピ過ごして、そのまま就活で、まあ名前もボチボチ知られている化学系商社に内定もらって、さて可愛い女子社員と一緒に、仕事も私生活も充実した大人な生活を送るはずだったのに、どうしてこうなった?


 田舎にいる両親と兄夫婦とはほとんど連絡取っていないけれど、今の勤め先に決まったと連絡したときは「おまえにしては良くやった」と喜んでくれていたから、今さら仕事がきついから辞めます、なんて言えるはずもない。

 父親に言わせれば「オレの若い頃は、毎日残業するのが当たり前で、寝るだけのために家に帰って、休みの日だって仕事に行くのが当たり前だったぞ」と言われそうだし、聞かされたコトがあったような気もする。そうは言ってもオレが帰省したとき、両親は兄夫婦の子どもが可愛くて仕方がない、目にも口にも入れられると言った普通のジジババになっているけど。敷地内別居しているくせに、暇があれば孫を家に入れて、しゃぶるように甘やかしているし。


 とにかく、今日は駅の近くのコンビニで弁当と発泡酒を買って帰ろう。明日は、隣県の取引先に直接行っていいと言われているので、会社に出勤しなくて良い分、余分に寝ていられるから有りがたい。


 電車で寝過ごすこともなく、辛うじて下車して這うようにコンビニに寄って弁当とビールが買えた。弁当が賞味期限ギリギリで3割引だったので、ひどくうれしい。おかげで発泡酒がビールになったし。


 眠くて仕方のない頭を振りながら、アパートへの家路を歩く。第三者が見ると酔っ払いがフラフラ歩いているように見えるのかも知れない。足だって上がらなくて、ズッズッって引きずりながら歩いている音がするし。つい3年前まで、溌剌とテニスラケット振って女の子をブイブイ言わせていたのが、遠い昔のようだ。

 やっとアパートが見えてきた。住宅街のど真ん中にあるけど、もう真夜中だから人通りもない。部屋まであと少しだ、階段を一段一段登る。今日は何曜日だったかなぁ......と考えてたら、バランス崩して後ろ向きに倒れてしまった。


 気が付くと病院とかにいるわけではなく、周りが真っ白な場所に座っていた。特に身体に異常はないようで、帰宅途中のスーツを着て、通勤カバンと弁当とビールの入ったコンビニ袋が横にある。見回すと正面の少し上に10代半ばくらいの銀色のウエーブのかかった髪の毛で、白いローブのような服を着た、やたらイケメンの美少年がキラキラのオーラをまとって浮かんでいた。少年はニコニコと笑っている。


「やあ、橘守くんだね?大変だったね」

 と、知らないはずのオレの名前の橘守タチバナ・マモルを呼びかけてくる。

「どうしてオレの名前を知っているんだ?君は誰だ?ここはどこなんだ?」

 オレは、この場所がまったく心当たりがないので彼に問いかける。

「僕はキミたちが考えるところの神というものだよ。こんな姿をしているのは、君の思う神の形を具現化したからなのさ。人によって神のイメージは違うから、美少女爆乳だったり、おじいちゃんだったりするんだけど、君の神のイメージがこうだっただけなんだ。美少女じゃなくて残念だったね、あはは」

 ひどく残念なことを平気で言う。美少年の神って......オレはなぜ美少女・巨乳というイメージを持ってなかったかなぁ、残念でならない。オレって異世界ノベルの常識を外しているよな。


「そんなボクの姿形のことを考えるより、どうしてキミがここにいるのか考えようよ?」

 おう、そうだ。確かにそれが問題なんだった。あり得ない光景、あり得ない登場人物に忘れていた。

「キミがアパートの階段を昇っているとき、バランスを崩して落ちたのを覚えているかい?あの後、しばらくキミが階段から落ちたのを誰も見つけてくれなかったんだ。それで、朝になってたまたま犬の散歩に通りかかった人が、キミを見つけて119番に通報してくれたんだけど、打ち所が悪くてね、病院に担ぎ込まれたころにはキミはもう死んでいたんだよ」

 な、なんですとぉ?オレはもう死んでるんですか?次の日、顧客に行く約束していたのに、死んでる場合ではないでしょう?と社畜脳が考える。それにまだ25才ですぞ、何にも楽しいことしてないのに、もう死んだということですか?大学時代にテニス同好会で散々遊んだことはさておいて。


「そんなこと、もう前の世界ではキミは死んじゃったんだから、考えてもしょうがないよ?それより、これからどうするか、考えた方が良くないかい?」

 と神様から言われて、ハタと思い当たる。そう言われればそうだ、なんでオレはここにいて、どうしてオレは神様と話してるのか?


「普通は死んだら、それで魂は回収されて終わりになるんだけど、稀に我々がその現場を見ていて、気まぐれに何か思うことがあって、魂を拾い上げて呼ぶことがあるんだ。ボクもたまたま、キミのいた世界を見ていて、キミの死んだ所を見ていたからキミの魂を拾い上げて呼んでみたんだ。

 それでね、もしキミが希望するなら、あんまり優遇はできないけどちょっと色を付けて、違う世界に転移くらいはさせてあげるようかな?と思ってね、あくまでもちょっと色を付けてだけどね。

 どうだい?その世界に住んでる人たちよりは、ちょっぴり能力が高くして生活魔法くらいは使えるようにしてあげるけど」

 え?魔法ですと?魔法って、杖を振り上げ朗々と呪文を唱えれば、ドバドバと空から火の玉が降り注ぎ、辺り一面火の海になったり、魔物を一瞬にして絶対零度でカチンカチンに凍らせたり「我は大魔法士である、この万能の魔法を見よ!」みたいな時代に君臨する大賢者様とか、なるのかな?もう、金が入り放題、女は選び放題、とかウハウハな世界かしら?


「そんな大魔法なんか使えるわけないし、使えるようにもしないよ。また、そんなの使えるヤツにしたら、思い上がってろくな者にならず、人類滅亡の危機を招いてしまうよ?そんな能力持ってて、高潔な性格の人間のまま、いられるわけないでしょ?そういう能力持つとほとんどがヒエラルキーの頂点に立って、自由勝手放題して元からその世界に住んでる人を不幸に導くんだよ、キミが考えたのと同じようにね。

 そもそも、転移先の世界の人たちが、毎日チマチマと真面目にガマン強く生活しているのに、転移した人間がその世界ではあり得ない強大な能力を使って無双するなんて、おかしいでしょ?転移した人間は幸せになるけど、その世界に元々住んでる人たちが幸せにならないことも多いから」


 確かにそうだなぁ、オレみたいな小市民が急にそんな人智越える能力もったら、勇者だ!賢者だ!救世主だ!ってチヤホヤ言われてあがめ奉られたら、間違いなくダメ人間になりそうだし。

「人間なんて、動物の中で唯一同じ種族で殺し合うでしょ。飢えてもいないのに同族殺すなんて他の種族ではありえないって。ホントに人族ってダメな種族なんだよなぁ、と言っても人族作ったのは我々だから、まぁしょうがないけど。

 例えばね、キミの世界だって昔、中世の頃に魔女がいたでしょ?彼女たちも生活魔法プラスアルファくらいしか持っていなかったのに、周りと少し違うからと言って異端裁判、魔女裁判かけられて次から次へと殺されたんだよ。彼女たちのほとんどは治癒魔法を持っていたから、人間にとってはとても有用だったのに、魔女というだけで、見つけ次第殺されたんだよ。だから、その後にペストが大流行しても、流行止められなかったし、ペストになった人を治癒できなくて、たくさんの人が死んだんだよね。まぁ、人間の自業自得だよね。

 そんなことあってから、生き残ったほんの少しの魔女たちは息を潜めて生き抜いて、現代にも生き残っているんだよ。あ、もちろん魔法使える男の人もいるからね。でも彼らは何と呼ぶのかな?魔男?魔人?魔法使い?あははは」

 確かに神様に言われてみるとそうなんだよな、人間なんて互いに殺し合いを続けて今の世界にたどりついているから。よく滅びなかったよなぁ。オレも魔法使えるようになるなら、黙っておこうっと。


「キミの世界に残っている魔法を使える人は、滅多にみることはないよ。でも、彼らが存在している痕跡を見ることはできるんだ。たまに末期ガンや不治の病だった人が、なぜか急に治る人がいるでしょ?あれって病人の近くに魔法使える人がいて、魔法使いってバレることを覚悟して使ったんだ。

 現代医学では、医者もサジを投げた末期ガンの人が稀に完治した、ってテレビでたまに取り上げらたりするでしょ。たいていそういう時は、見るからに怪しい超能力者や危なさそうな宗教の教祖様か霊能力者が出てくるけど、あれの大抵は大ウソで、本当の魔法を使った人は隠れているけどね」

 そうなのか、奇跡の回復力とか言われているけど、やっぱり理由があって治癒しているのね。そりゃ、余命半年とか言われていて手の施しようもなく死ぬのを待つばかりなのに、ナゼか治ることが稀にあるとニュースで聞いたりするけど、そういうことなのか。


「キミにはそんな強力な魔法でなく、ごく弱い生活魔法を使えるようにするから。切り傷が治ったり、ちょっとしたケガくらいは治りが早くなるような『Cure』という呪文が使える能力を与えてあげる。頭の中にそういう場面を描いて唱えれば実行されるから。唱える言葉は日本語でもいいけど、英語の方か雰囲気、出るでしょ?『Clean』とか『Light』とか、『Water』とか唱えればいいからね。あんまり使うと魔力が枯渇して、倒れちゃうから気をつけてね。魔法は、運動が体力使うように魔力を使うから、同じように疲労するんだ。だから使いすぎないようにしないといけないし、使ったら休まないといけないよ」


「最後に生きていく上で戦うことは必然だから、キミ専用の武器をあげるね。いわゆる両手剣というもので、人を斬ったことのないキミが生き残れるように、よく斬れて、血糊がついても刃には残らないような剣にしてあげる。それに折れない、曲がらない、錆びないと言う機能も付けるけど、決して手入れをしなくていいというわけじゃないから、向こうの世界の人に手入れの仕方を聞いてね。あと盗まれないようにするため、キミが持つと箸のように軽いけど他の人が持とうとしても重くて持ち上げることもできないようにするから。

 とにかく、その世界の人よりは、少し上手に剣を使えるようにしてあげる。そうしないとすぐに殺されちゃうからね。

 転生する世界は、ろくに医者もいないし薬もない世界だから、転生する世界に住んでる人間はだいたい40才くらいで死んじゃうんだ。だからキミも今の年齢のまま転生させるから、40才までしか生きられないようにするからね。向こうで生きられるのは15年だから有意義に生きるんだよ、じゃあね」

 と一方的に言われて、神様はフェードアウトして消えていった。そしてオレの意識もなくなった。

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