第8話 ロウ
隣の部屋からレイモンドさん出てきた。
食事の準備が出来たってさ。
その日の食卓はとても豪華だった。
三人だけの食事なのに召使いが沢山いたし、食べきれない程の料理が運ばれてきた。
色々話したけど一番面白かったのは、こっそりレイモンドさんが耳打ちした。赤龍帝の瞳の話にビックリしてスープをこぼした事だった。
部屋に戻ると一人になり手持ち豚さになってしまった。
これも初めての事だ。いつもは誰かが必ず側にいた。夢みたいだ。
部屋を見渡すと本棚が気になった。
本棚にある一冊の本を手に取ってみた。
【神馬歴の始まり】
世界が邪神に支配されていた頃一人の若者がホウル山の洞窟で一振りの件を手に入れた。
剣には不思議な力が秘められていた。
剣を大地に刺すとそこから樹々が芽生えた、天にかざすと雨が降り、邪悪なドラゴンを切り捨てた。
剣を持った少年はのちに邪神を倒し王となった。
しかし邪神との戦いの末その剣は
剣に神馬の模様が刻まれていた事から王は神馬歴を作った
読んでいると扉を叩く音で我に返った。
「はい!」声が上ずってしまった。
扉が開きメイドが紅茶を持ってきてくれた。
「ありがとうございます。」
一口飲むと、なぜかとても懐かしい味がした。
瞬きをすると老人が座っていた。
エッ!!いつの間に?
「初めまして。私が誰だかわかるかね?」
首を振ると老人は話し始めた。
「ワシはお主の友人じゃ。ロウとでも呼ぶがいい。少し稽古をつけてあげよう。」
そう言うと指を鳴らした。
「ここはテスの町のすぐ近くにある要塞じゃ。先ずは実践あるのみ」
「ちょっと待って下さい!!」
「それは無理じゃな。ホレもう敵が襲い掛かってきておる。」
振り向くと剣がすぐ近くまで迫っていた。
「もう少し下がらんと死ぬぞ。ああ全然ダメじゃ。まずお主には力の使い方を教えねばな。」
背中を引っ張られ後ろに下がると剣が股の下をかすめていった。
そしてメイドにいきなり目隠しをされた。
「左目だけで見るんじゃ。」
するとあんなに殺伐としていたのに静寂が訪れた。
「時間が止まっている様に見えるじゃろ。だが実際はゆっくり動いているだけじゃ。」
「ああこりゃいかん!!次の攻撃は避けないと確実に死ぬな。」
(そんな事言っても動けない!!)
ロウさんは紅茶を手に持ちメイドにお代わりを入れて貰っている。
「別に特別なことなどしておらん。今の自分が出来る事をすればいい。」
「その目は考える時間をくれる。選択肢が増えると良い事が沢山ある。」
もう少し体を捻じれば避けれそうだ。
瞬きをすると時間が元に戻った。
剣が服をかすめた。
「おお!!上手いもんじゃ!!」
「今、お主が出来る事は、1つ戦う、2つ防御、3つ逃げるぐらいかの?」
「しかし逃げればテスの町は地獄と化そう。」
剣が頬をかすめた。
血が流れる。
「どうじゃ便利じゃろ?敵は待ってはくれん。次はどうする?」
咄嗟に地面に落ちている剣を取った。
「僕はこんな事!!」
「ちと悪ふざけが過ぎたかの・・・。」
指を鳴らすと部屋に戻っていた。
「今のは幻じゃ。だが必ずこの様な選択を迫られる時が来る。」
「全てはお主が決める事じゃ。」
「大事なことを伝えたくてな意地悪をしてしまった。すまんな。」
ロウさんを見ると紅茶をすすりながら寂しい目をしていた。
「敵は強大じゃ。ワシはこんな事しか出来んがいつもお主を見守っている。」
そう言うとメイドとロウさんは霧のように消えていた。