第5話 呪術と魔力
体を揺さぶられて目が覚めた。
「リュウ君!!大丈夫か?魘されていた様だが?」
「大丈夫です。少し悪い夢を見ました。」
「凄い魘されていたが、大丈夫かい?」
僕は頷く。
馬車の外を見ると湖に太陽の光が反射して綺麗だった。
「ここらで一休みしよう。」
「湖で顔を洗ってきます。」
「気を付けていってらっしゃい。」
「レイモンド、あの魘され方は尋常じゃない。」
「ええ。彼が寝ている時膨大な魔力を感じました。あれは私の師匠と同レベルかそれ以上です。」
「神の生贄に選ばれた子か・・・。」
湖に水を汲みに行くとレイモンドさんが話しかけてきた。
「少しは落ち着きましたか?」
「はい。本当に悪い夢を見ていたみたいで。あまり覚えてはいないんですけど・・・。」
「そうか・・・環境の変化もあるのかもしれないね。」
「なにか大事なお話があるんですね。」
「君はホントに驚かされる。読心術でも使っているのかい?」
「そんなに思いつめた顔をしていたら誰でもわかりますよ。」
「ハハハ。そうか顔に出ていたか・・・。」
真剣な顔で話し始めた。
「君には隠し事をしないで話した方がいいね。リュウ君君は、神に魅入られているらしい。そして国を救うために国王は君を生贄に捧げるつもりだ。」
「だが我々はそんな迷信めいたことを信じていない。」
「そこで君には、身分を与え国王が改心するまで隠れてもらおうと思っている。」
「選択は出来ないんですね。」
「ああ・・・嫌ならここから逃げても構わない。」
「大丈夫です。例え死ねと言われたら死ぬ覚悟はしていました。あんな大金で買われたのですから。」
「君は聡明だな。ところで何故奴隷に?」
「実はよくわからないんです。気が付いたら奴隷でした。名前だけ覚えていて・・・。」
「記憶が無いのかい?」
「はい。でも文字も読めます。自分の事が分らないだけで。」
「少し、いいかい?」
そう言うと頭の上に手を置き呪文を唱え始めた。
頭の上に文字が浮かんでいる。
「まさかこれ程とは・・・。」
「どうやら呪術が施された跡が見えるね。しかも質が悪い。無理やり解けば廃人になる。」
「そうですか・・・。どうすれば解けますか?」
「この類の呪術は術師が死ねば解かれる。その前に私が解呪するから大丈夫だ。」
「それと君は膨大な魔力を持っている。自分ではわからないかもしれないが、私以上の力を持っている。それをコントロールする術を学ばないといけない。」
「どうなるんですか?」
「どちらにしてもここでは何もできないから城に帰ってからこれからの事を話そう。」
「話は済んだみたいだな。さあそろそろ出発するぞ。」
馬車は湖を後に再び走り出した。
僕は夢の中の出来事が忘れられないでいた。
あれは本当に夢なんだろうか?
エレノア・・・。なぜかこの名前を思う度に心が張り裂けそうになる。