第1話 奴隷の少年
神馬歴119年梅の月
サンガー国は国土の半分を侵略され、事実上アラート帝国が支配していた。
アラート帝国は略奪の限りを尽くしサンガー国が歴史から消えるのも時間の問題だった。
ある晩の事だった。一人の老人が王に謁見を求め宮廷にやってきた。
「このままでは世界は滅びる。この国も例外なく滅ぶだろう。しかし一つだけ救いの道がある。それはジャガン神と呼ばれる黒き神を崇める事だ。東に小さな少年が居る黒髪だ。彼を生贄にすればこの国は助かるだろう。」
王は老人の言葉を信じた。
表向きは調査団と称し黒髪の少年を探す任を第二王子に命じた。
それから二か月が過ぎ、菜の月
サンガー国とアラート帝国の国境の町テスに一人の少年が奴隷として働いていた。
荷運びが主な仕事だった。
奴隷の中にも階級があるが最下層の仕事は荷運びや肥溜めの管理が主な仕事だった。
「オイ!この愚図が!!なにをちんたらしてんだ!」
小柄な男が鞭を持ち奴隷に怒鳴っている。
「いま・・・運びます。」
奴隷の数は30人一部屋に3人計10部屋
一日の仕事が終わると一人に一枚の藁が置かれた小屋に3人で寝ていた。
ひょろ長いランス、少し足が悪いトンガ、この二人が僕のルームメイトだ。
皆黒髪の子供で10~15歳までの男の子だ。
小柄な男は毎夜酒を飲み12時を過ぎた頃、一番手前の部屋に寝ている子供を連れていった。
「いつか俺たちの番が回ってくる・・・。」
誰かが呟いた。
不安をかき消すようにランスが言った。
「俺は、こんなとこで一生は終わりたくない。この鎖を外していつか自由に旅をするんだ。」
苦しい現実を忘れるために将来の夢を語る者、脱走計画を立てる者色々な者がいた。
しかし誰も実行には移さなかった。失敗すれば死ぬことを分かっていたからだ。
しばらくすると部屋の外から他の部屋の話し声が聞こえた。
「俺の生まれはここよりもっと北にある街で生まれたんだ。しかし帝国が攻めてきて皆殺された。いつかみんなの敵を討つんだ。」
「俺はこの場所以外は知らないんだ。妹が病気で借金でここにいる。」
「お前は何処の生まれなんだ?」
「僕は森の深いところで育ったんだ。
でもある日奴隷商に捕まって気が付いたらここに居た。」
「人さらいにあったのか・・・。」
ランスが話しかけてきた。
「リュウはどうしてここに?」
「さあ・・・なんでだろう?明日も早いからもう寝るよ。」
窓の外には今日も月が綺麗に見えた。
翌日、連れていかれた子は帰ってこなかった。