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メタャメタャな世界  作者: きづかと
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三元素通り

大地が激しく揺れたあと、ものすごい爆発音が街中に響き渡った。空は鳥によって黒く染められ、光を失い、街は夜のように暗闇に染まる。

 街中がざわめき始め、なにごとかと街中を闊歩し、騒ぎ立てる。

 そのときだった。

「うわぁぁぁ! 助けて! 助けてぇ!」

 小さな子供の悲鳴が聞こえた。

「なんだ?」

 コウが首をかしげたとき、視界の端で泣きじゃくりながらひたすらに走る少年を目にした。少年は体中を傷だらけにして、顔を涙でいっぱいにしながら、一目散にコウの元へと走り寄って来た。

「助けて!」

 少年はコウに飛びつき、そう連呼した。

「落ちつけ……なにがあったんだ」

「火山が! 火山が噴火したんだ!」

「火山だと?」

「だから助けて勇者さま! お願い! 勇者さま!」

「……わかった」

 コウはそう言ってその少年の頭を撫でた。

「ビジョ。どうやら俺はそのパーティーには参加できそうにないみたいだ」

「そう……みたいね。ていうか、この子みない顔ね。どこから来たの?」

「おばさんは黙ってて」

「コウ。どうやら私はこの子を痛めつけなければならないみたいだわ」

「やめろ」

 ビジョを制して、コウは少年と同じ目線になるように腰を落とした。

「とりあえず部屋に行こう。話はそれからだ。その間に涙は拭け」

「……うん」



 少年は部屋に行くまで一言も話すことなくひたすら涙を拭っていた。袖のあたりがべちょべちょだが、そこはみなかったことにしよう。

 部屋には、コウとフシギとビジョと少年の四人が入り、話を聞いた。

 少年の名前はオウマ。年は六歳でこの街に住んでいるらしい。というのは、オウマは詳しい家族事情については話してくれないのだ。聞こうとすると黙り込んでしまう。だからそれ以上深く聞かないことにした。

 そして本題の火山の噴火についてだが、今さっき急に爆発を起こしたらしい。オウマは一人街の外に遊びに出ていて、それを間近に見たという。

「あの火山が噴火なんて今までしたことなかったのに、いきなり爆発して……ぼくどうしたらいいかわからなくて、それで勇者さまに……」

「助けを求めたのか。だが俺は火山の止め方は知らない」

 コウは助けを求められて思わずわかったと返事をしてしまったが、火山が噴火したから助けてくれと言われても手の施しようがないし、漠然とし過ぎている。

「ビジョ。あの火山がこのまま噴火し続けたらどうなるんだ?」

「そりゃこの街が火山灰と溶岩に埋もれて滅びるだけよ」

「それは困ったな」

 せっかくこの街にギルドが誕生しようとしているのに、火山によってそれが叶わなくなるのは辛い。だが、具体的にどうすればいいかはわからない。

「こうなったら氷水の神さまにお願いして噴火を止めてもらうしかないわね」

「氷水の神さま?」

「そう。この街の北門をくぐるとね、三叉にわかれた道があるの。その一番左の道を進むと氷水の都って呼ばれてる国があって、そこには水を司る神さまがいるのよ。その神さまに会って事情を説明すれば、もしかしたら噴火を止めてくれるかもしれないわ」

「他の道はどこにつながってるんだ?」

「真ん中の道は火炎の里。ここは今噴火してる火山がある場所で、火の神さまがいるはずよ。まあ今は近づけないだろうけど。そして一番右は森林の砦。ここは大木に囲まれていて、風の神さまがいるはずよ」

「詳しいんだな」

「詳しいというか、知らない方がおかしいわよ。有名な話よ? 小さい頃に聞かされなかった?」

「いや」

 コウは即答した。どおりで知らないわけだ。なにせ昔の記憶なんてものはないのだから。

「ようは氷水の都に行って水の神さまに噴火を止めさせればいいわけだな」

「まあ、簡単に言ってしまえばそうだけど」

「ならさっそくその氷水の都に向かおう」

 コウは立ち上がり、そそくさと準備を始める。

「え、ちょ! ほんとに行くわけ?」

「もちろんだ」

 ささっと部屋を片し、簡単なストレッチを始める。それをビジョが制した。

「言っとくけど、あの氷水の都に行って神さまに会った人なんて誰もいないわ。それに仮に会えたとしても話を聞いてもらえるかわかんないし、それに――」

「それに?」

「あんたはもう十分頑張ったじゃない! 少しくらい休んでも罰は当たらないわよ!」

「それはできない」

 コウは即答した。

「な、なんでよ?」

「勇者だからだ」

 その一言に尽きた。

「さすがはコウさん。惚れ惚れしちゃいます」

「フシギも行くのか?」

「はい。当たり前じゃないですか」

 フシギはコウの隣へとてとて歩いてきた。いつもの定位置だ。

「ビジョはどうする?」

「わ、私は……」

 ビジョは顔を背けた。そして歯を食いしばった。

「私は行かないわよ。ここもあるし」

「そうか。わかった」

 コウはゆっくりと部屋から出て行った。あとにフシギも続く。オウマはおろおろしてるだけだった。

「なんなのよ――ばか」



 二人が武器屋から出たあとに追いかけてきたのはオウマだった。北の門まで見送りをさせてほしいとのことだった。

「オウマはこれからどうするんだ?」

「ぼ、僕はおとなしく家に帰ります。勇者さまの足手まといになるのはいやなので」

「そうか。家はどこなんだ?」

「それよりも、あのビジョさんという方、気になりますか?」

「……いや」

 いまはビジョのことよりも、オウマがなぜこんなに家のことを話さないのかが気になった。それに、もう一つ気になっていることがある。

「なぁ、どうしてオウマは俺が勇者だということを知ってるんだ?」

「え? 近所の人が教えてくれたんですよ。あの人が勇者さまだってこと」

「オウマはどのへんが近所なんだ?」

「あ! あそこに鳥が飛んでますよ! きれいですね」

「質問に答えろオウマ。どうしてお前は家のことを話そうとしない?」

 するとオウマは顔を伏せた。まただんまりをきめこむつもりかとコウが思ったとき、お間が口を開いた。

「ぼく、身寄りがいないんですよ。だからあんまり人に言いたくなくて」

「……そうか。それは悪かった」

「いえ。こちらこそすいません。怪しかったですよね、ぼく」

「あぁ。だがもう怪しくない」

 そこからは黙って歩いた。やがて北の門に着く。噴火の影響なのか門の前にはだれも人がいず、がらんとしていた。

「見送りが一人というのもなんだかさみしいですね」

 フシギが周りを見渡しても人の気配はない。みんな、家の中に入ってしまっているのだろう。まるで寝静まった夜のようだった。

「じゃあ、行ってくる」

 コウは門に近づいた。この門は近づくと勝手に開く仕組みになっているらしい。

「ちょっと待ちなさいよ!」

 コウが一歩踏み出そうとして、やめた。そしてくるりと体の向きをひっくり返す。

「ビジョか」

 ビジョは走ってきたようで、息が上がっていた。頬も紅潮している。膝に手をつき息を整える。

 ビジョは前を向いた。ぎろりとコウを睨みつける。そしてビジョはずかずかこちらに歩いてきた。よくみると、手に鞘に入った刀を持っていた。

 ビジョはコウの目の前に移動すると、その刀をコウの前に突き出した。

「これ、あげる」

 ぶっきらぼうに言ったビジョは、それからぶすっと黙る。顔はまだ赤かった。

「金ならないぞ」

「あげるって言ってんでしょ! いいからもらいなさい!」

 むりやりに押し付けられ、コウは渋々それをもらう。

「それ、私だから」

「これは刀だ」

「私だと思いなさいって意味よ!」

「たしかにビジョはよくキレる」

「そういう意味じゃないわよ! 乙女心わからなさすぎじゃないあんた!」

「コウさーん。はやく行きましょうよー」

「あんたは黙りなさい! いいコウ! もし無事に帰って来なかったらこの刀があんたを呪い殺すから! わかった!」

「呪いの刀か」

「そ! あんたにその呪いの刀をあげる。とにかく、無事に帰ってきなさいよね」

「あぁ」

「最初からそう言えばいいのに、とコウさんは思ってましたよぜったい」

「うっさいわね! あんたは帰ってこなくていいわよ!」

「コウさんがいる限り私は死にませーん。ねぇコウさん?」

「そうだな」

「仲睦まじくていいわね! どうぞお幸せに!」

「それはお前も同じだ、ビジョ。お前も死なせる気はない」

「へ?」

 ビジョがいきなり素っとん狂な声をあげた。そして顔がボフンと大噴火した。

 そして――

「さっさと行きなさいよこの不意打ち男!」

 コウの背中をバチンと叩いた。

「わ、わかった」

 コウは門に近づいた。門がゴゴゴゴゴゴゴと音を立てて開いていく。

「いってくる」

「いってらっしゃい」

 二人は門をくぐった。

 その瞬間、出迎えるように火山がまた噴火したのは、きっと勇者であるコウのせいに違いなかった。


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