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メタャメタャな世界  作者: きづかと
14/14

前から

翌日、二人は緊張した面持ちで北へ北へと向かっていた。セイギとオカシはまちがいなく魔王城へと向かっているはずだ。そして魔王城は北へ真っすぐ行くとある。なので二人は北に向かって歩いた。

 もしセイギとオカシに遭遇した場合の対処法は、けっきょくやられる前にやれだった。これは不意打ちという意味ではない。相手がこちらに気づいたらどんどん攻撃し、そのまま押し勝つのだ。それしか安全策はない。怯めば負けだ。

 森を抜けた。ここまで人の気配はなかった。それにホッとしたのも束の間、二人は眼前の光景に絶望した。

「橋が落とされてますね……」

 二人がたどり着いたところは奈落の桟橋と呼ばれているところで、まるでこの世界の右端から左端を、長方形でくりぬいたような場所だった。くりぬかれた部分は黒く塗りつぶされていて、文字通りの奈落だった。

そして唯一この奈落という地獄を渡る架け橋となっているのが、つたない木板でできた桟橋だった。だがそれはものの見事に壊され、対岸の崖に洗濯物のようにぶら下がっていた。

「困ったな」

 ここから対岸まではけっこうな距離があるので、ジャンプでどうにかできる次元ではないし、かといって他に道を探そうにも、この奈落は右にも左にもずっと先まで伸びていて、永遠と奈落が続いている。桟橋が他にもあるようにはみえなかった。

「これでは向こう岸へ渡れないな」

「たしかにそうですね。あちらとしてはしてやったりと思っているのでしょう。ですがそうはさせません。彼らが物語を歪めたのならこちらも歪め返します」

「それはしないんじゃなかったのか?」

「私の力を使うことはしませんよ。使うのは、彼らの歪みです」

「いったいどうするんだ?」

「簡単なことですよ。見ててください」

 フシギは一度大きく深呼吸をした。そして顔を引き締め――奈落の底へと足を踏み出した。

「お、おいフシギ」

 コウは手を伸ばしたが、無意味だった――フシギは奈落に足をついたのだから。そしてとんとんと奈落をたたき、フシギは完全に片足を奈落につかせると、そのまま二歩目を踏み出す。

 そして彼女はみごと奈落の上に立ったのだ。

「問題なさそうですね。思ったとおりです」

 フシギは分析でもするかのように言うと、振り返った。

「さ、コウさんも」

「……いったいこれはどうなってるんだ?」

 するとフシギは満面の笑みを浮かべてこう答えた。

「これはですね、コウさん。思いによるものなんですよ」

「思い?」

「はい。私はいま、この奈落から落ちることを考えてはいないんです。だから落ちないんですよ。ようは精神論の話なのです」

「そういうものなのか?」

「本来はそんな根性論をしたところで意味はありません。ですがこの物語に限ってはそうではないのです。あの二人が物語を捻じ曲げ、ありえないことですら思いの力で変えられるようになってしまったのですよ」

「そういうことか」

「これを思いついたのはコウさんのおかげです。コウさんが命がけで生きろなんて言ったから、私本当に命を賭けちゃいました」

「そうか」

 コウは短く言ったあと、奈落を見た。気味の悪いほど真っ黒に染まったそれは、まるで口を大きく開けて獲物を待ち構えた化物みたいだった。

 けれど不思議と怖くはなかった。きっと命を賭ける覚悟が決まったからなのかもしれない。

 コウは奈落へと一歩踏み出した。崖からちょうど水平のところで透明のガラスでもついてるような、そんな感触が足に伝わってきた。コウはそれを踏みしめた。一歩、もう一歩と、奈落を進んでいく。

 これは自分との戦いだと思った。どれだけ自分を信じられるかの真剣勝負。負ければ死ぬだけだ。そして物語が終わる。一瞬、フシギの悲しそうな顔が浮かんで、足元がぐらついた。

 フシギはきっと、コウが死ぬこと自体では悲しまないだろう。フシギの悲しみの矛先はきっと物語が中途半端に終わってしまったそのことに悲しむだろう。そんな思いはさせたくない。たとえコウ自身が思われいなくても、フシギを悲しませたくはない。

 そして気づけばコウは対崖に足をつけていた。ホッと胸をなでおろし、先に着いて見守っていたフシギを見る。フシギは笑って「お疲れさまです」と言った。

 コウは生きててよかったと思ったのだった。



 奈落の桟橋を少し進むと、でこぼこした道に出た。砂が丘のように山積みになっていたり、落とし穴がつくられた形跡があったり、武器が散乱していたり、死体が転がっていたりと、戦いの爪痕がいたるところに転がっていた。

「ここは昔戦場だったようですね。こんなに死体があれば死体のかまくらができてしまいそうです」

「なぜここだけなんだ?」

「決まってるじゃないですか。あれのせいですよ」

 フシギが指さした先には、二人が長年追い求めていたものが荘厳に佇んでいた。

「あれが魔王城か」

「そのようですね」

 魔王城のまわりは黒いもやのようなもので覆われていて、全貌はよく見えないが、かなの大きさだった。コウはその場に立ち尽くしたまま、その魔王城をみつめていた。

 その瞬間――コウの胸から血が噴き出した。

「がは――!」

 コウは突然の痛みと衝撃で崩れるように地面に倒れた。出血は多いが、そこまで深いものではなかったのは幸いだった。

「なんだ?」

「あ――コウさん左!」

 ガキン! と刃同士が噛み合う音がした。そして聞こえた舌打ち。

「なんだよもう少しだったってのによ。さすがは運がいいな本物は。偽物とはわけが違う。まぁ、だからこそ殺しがいがあるんだけどな」

 コウは胸を抑えながら、声が聞こえた場所へ視界を移した。彼は砂山のてっぺんで二人を見下ろしていた。

「よお本物。必ず来ると思ってたぜ。さぁ、殺しあおうか」

 声の正体はまぎれもないセイギだった。刀をぎらつかせながら、薄汚れたネズミのような瞳でコウを射抜く。

「これはハンデだ、セイギ」

 だが、コウも負けてはいない。いまだに流れ続ける血をもろともしないような身のこなしで立ち上がり、セイギに刀を向けた。

「偽物と本物が対等に戦ったら勝ち目はみえてるからな」

「あぁそうだな。偽物と本物が普通に戦ったらまちがいなく――!」

 砂山を蹴り飛ばし、セイギは一直線に弾丸のようにコウへ向かい、刀を振るった。それを、すんでのところでコウが受け止めた。

「偽物が勝つ!」

「本物が勝つ」

 二人は鍔迫り合い、一旦お互い身を引いた。そして再び斬りあう。

「なぁおい本物! お前本物だからって勝てると思ってるだろ! あいにくだが俺はその常識をぶち壊した男だ! そんな驕ったやつに負けるつもりはねぇよ!」

「驕りではない。それは事実だ」

「それが驕りだって言ってんだよこのくそがぁ!」

 剣戟は次第に激しさを増していく。その戦いの様子を、フシギは恍惚にまみれながらうっとりと眺めていた。

「いいですねぇいいですねぇ。互いの思いによって高まっていく力。いったい最後はどんな展開になるのでしょうか。楽しみで楽しみでおかしくなってしまいそうです。さぁ二人とも、物語をどんどん紡いでくださいね。なにせここまでが――」

「はあぁぁぁぁ!」

「うおぉぉぉぉ!」

 二人の戦いはどんどん激しさを増していく。傷だらけになっていく二人。それでも二人は手を止めることなく刀を振るう。お互いに、引いたら負けだと分かってるみたいだった。

 それがたまらなく、フシギの身を震わせる。

 そして溢れ出すように言うのだ。

「私が考えたとおりの物語なのですから」

 その言葉を聞いたものは、誰もいなかった。



 二人の体力は限界を迎えていた。互いに傷つき、思いをぶつけあった二人の手は、いつのまにかもう止まっていた。それなのに彼らは戦っていた。体を引き裂きながら、身を粉にして死闘を繰り広げていた――そんな錯覚に陥っていた。それはもう、この世界ででしか起きない想像と現実が入り混じったものだった。

「こんなもんかよ。なぁ本物よぉ?」

「そっちこそ息が切れてるぞ」

「は。それはお互いさまじゃねぇか。ていうかお前両腕無くなってんじゃねぇか」

「それをいうならお前の足はもうないぞ」

「互いに五体不満足だなんて笑えねぇな」

「そうだな」

 二人は五体満足のまま地面に寝転がり、そんな会話を繰り広げていた。常人にはきっと理解できない会話だろう。それが、二人にはできた。

「これが最後――そうだろ?」

「あぁ」

 二人はよろめきながら立ち上がった。そして互いに刀を持った。

「お前、どうやって刀持ってんだよ」

「ならお前はどうやって立ってるんだ」

「わかんねぇ。いま自分になにが起こってるのか」

「同感だ」

「それでもこれだけはわかる」

「あと一撃で」

「勝負は決まる!」

 二人は互いに刀を突き出し、十字に交差した。二つの刀が太陽に当たり、きらりと光った。そして響く刀の割れた音。パキンと、それは無残にも地面へと落ちていく。

「はは……ははははは! ふはははは! やった! やったぞ!」

 セイギは高らかに笑った。顔を歪ませながら、凄惨に。そして黙って折れた刀をみつめたコウを哀れみの目でみる。その目にはもう、勝利しかみえてなかった。

「ついに本物の勇者を殺す日がきた! もうすぐだ! もうすぐ俺は! 本物に――!」

 刹那――彼の濁った瞳孔が、大きく見開かれた。そして体を震わせながらセイギは振り返った。そして見た。いまだに死んでいない彼の瞳と、血に濡れたほとんど柄の部分しかない刀。

「そんなものでどうやって……?」

「斬れると信じたら斬れた」

「なんだよそれ。そんなのありえるわけねぇだろ」

「ありえる。ここはそういう世界だからな」

「あぁそうかいそうかい。けっきょく俺は、あと一歩のところで油断しちまったわけだ。なんとも偽物らしい最期じゃねぇか」

「そうだな」

「魔王、倒せよな」

「あぁ」

「ま、こんな終わり方も悪くないね」

「終わりだとおもえばそこで終わりだ。セイギ」

「は。なにをいまさら」

「信じろ、自分を」

「……あばよ」

 こうしてセイギは崩れるようにたおれた。それを、コウは黙ってみつめていた。

「おつかれさまです。コウさん」

 そこにフシギがやってきた。いつものように平然とした態度で、そこに立っていた。

「あぁ」

「そういえばコウさん。あの白髪幼女、見てないですかね?」

「……みてないな」

 コウはそこでオカシがさきほどから姿を現していないことに気がついた。

「ふむふむなるほど。これは困りましたね」

「どうした?」

「いやですね。この物語はここで勇者が魔王を倒しました。めでたしめでたしで終わるはずなんですが、終わらないんですよ。おかしいですねぇ」

「おかしいのはお前だ」

 常人が聞けばきっと何を言っているのか聞き取れず、口を大きく開けて「はぁ?」と言っているところだろう。コウはもう慣れたのでそんなことはしないが。

「とにかく魔王城へと行ってみるしかありませんね。やれやれ。私にも困ったものです」

「そうだな」

 とにもかくにも、二人は遠くみえる魔王城へと行ってみることにした。



              4



 簡単そうに言ったが、案外魔王城は遠かった。死にたくなるほど遠かった。それでも二人はなんとか魔王城へと到着した。

「それにしても大きなお城ですねぇ。まぁお城というよりは、屋敷に近いかもしれませんけど」

 魔王城は二人を見下すくらいに大きく、不穏な空気を放っていた。なぜか魔王城に着いた頃には夜になっていたし、雷が凄いし、満月だしと、まるでこの城を演出しているかのようなセッティングだった。

 二人は目の前にあるくすんだ茶色い扉を開けた。キイィィと、扉が軋む音が響く。二人が中に入ると、扉は勝手に閉まった。まるでどこかの幽霊屋敷みたいだ。

 魔王城の中は薄暗く、まわりがよくみえなかった。

 すると、天井のあかりが一つつき、二人の前を照らした。

「ようこそ魔王城へ。歓迎いたしますよ、勇者」

 そこに立っていたのは、かわいらしいメイド服を着たオカシだった。オカシはメイド服を華麗に着こなしながら、お辞儀をした。とても様になっていた。

「なんでメイド服なんか着て私たちをもてなしてるんですかね、オカシさん」

「私が魔王についたからですよ、フシギさん」

「そんなの認めた覚えはありませんが」

「私の人生にあなたの許可は必要ありませんよ」

 フシギとオカシは互いにけん制しながら、にこにこと微笑んでいた。それが逆に怖かった。

「では勇者、あなたを魔王の元へと案内しますので、ついてきてください」

「わかった」

 本当に魔王の元へと案内されるのか不安だが、かといってこの大きな建物から魔王を探し出すのは骨が折れる。なのでコウはおとなしくついていくことに。

「魔王は最上階にいらっしゃいます」

「……だろうな」

 コウは迷わないためだと自分に言い聞かせ、オカシのあとをついていく。

 階段を上り、また階段を上り、そして階段を上った。

「エレベーターがあるのを忘れていましたが、もう階段の方が早いので階段にしましょう」

「……あぁ」

 コウはついてきたことを後悔した。

 ほどなくして、ひときわ激しく装飾を施した扉の前に三人は行き当たった。

「ここが魔王の部屋です。では、どうぞ」

 オカシが一歩後ろへ下がった。コウはめいっぱい力をこめて、その扉を開けた。

「やぁ遅かったね、勇者。待ってたよ」

 そこには、黒のローブを羽織った魔王がいた。

「ぼくの名前はアク。魔王だ」

「俺はコウ。勇者だ」

「ぼくはね、勇者。君が来るのをずっと待ってたんだ」

「俺も魔王にずっと会いたかった」

 まるで恋人同士の会話のようだった。だが、その目をみればわかる。それが愛ではない別のものであることに。

 魔王――アクは立ち上がり、手を開いた。そして現れる血色の剣。それは顕れると三叉にわかれ、左右にうねうね揺れた。なにかを探し求めているかのようだった。

「あぁこの子がうずいてるよ。はやく君をしゃぶりつくしたいってね」

「俺にそんな趣味はない」

「ならば芽生えさせてあげるよ。ぼくのかわいい剣でね」

 アクは三叉にわかれた剣の矛先を、コウに向けた。すると、三叉にわかれた剣はぴくぴくと蠢き――伸びた。

「な!」

 コウは刀を取り出し、それを斬り落とそうとしたが、それはコウの刃に絡みつき、離さない。そして三叉にわかれた剣は、コウの刀にどんどん巻き付くと――食べた。

 口を開けて食べたわけではない。巻き付いたところから少しずつ消えていったのだ。そしてそれはコウの柄の部分までに達そうとしていた。

 コウは瞬間的に手を離した。すると刀は柄の部分まで血色をした剣が呑み込んでいき、一瞬で食べてしまった。

「おいしいかいピクシー? そうかそうか。もっとおいしいものを食べさせてあげるから、ちょっと待っててね」

 アクは剣にピクシーという名前をつけていた。そこにコウは驚いたが、いまはどうでもいいことだった。いま考えることはこの状況をどうするかだ。

「コウさん。ちょっといいですか?」

 いつのまにか隣にいたフシギが耳打ちする体勢をとった。

「なんだ?」

「えっとですね、あのピクシーとかいう剣ってなんなんですか?」

「俺が知るか」

「本来は普通の剣のはずなのですが、イレギュラーがおこってますね」

「原因は?」

「まちがいなくオカシですね」

 フシギはオカシを睨みつけた。いつのまにかオカシはアクのところにいた。あちらもなにか耳打ちしている。

「ちょこまかちょこまかとうざったいですが、このさい無視です。それよりあのピクシーとかいう剣をまずどうにかしてください。そうすれば物語は修正されます」

「どうにかしろといわれても、俺にはいま武器がない」

「なら、創ればいいのですよ」

「つくる? どうやって?」

「決まってるじゃないですか。思いで、ですよ」

「なるほどな」

 コウとフシギの耳打ちが終わったとき、アクとオカシの耳打ちもちょうど終わっていた。まるでタイミングでも見計らったかのようだ。

「死ぬ算段はついたかい、丸腰の勇者くん」

「……丸腰ではないさ」

 コウは鞘からなにかを引き抜いた。そしてそれをかまえた。

「……は? なにやってんのかな、それは」

「みえないのか、これが」

「みえない……?」

 アクは眉をひそめた。コウの手にはなにも握られていない。そうみえるからだ。

「ふざけてるのか」

「ふざけていない。いたって真面目だ」

「そんなみえない剣でなにが出来る! そんな虚勢、僕には通用しない! いけピクシー!」

 ピクシーはにゅるにゅると体を伸ばし、コウにしがみつかんとする。だがそれを、コウはみえない剣で斬ろうとした。

「ばかが! そんなことができるわけ――!」

 けらけら笑おうとしていたアクの顔が引きつった。そして青ざめる。

「う、嘘だろ? なんで? お前が剣なんて握ってるはずないんだ。なのに……なんで――ピクシーが」

 ピクシーは、根元の方からなにかに斬られたように断裂し、床でうねうねとしたが、やがて動かなくなった。アクはそれをみて泣き叫ぶ。

「くそぉ! 俺のピクシーを殺しやがって! 殺してやる!」

 アクはやけくそになったのか、もう伸びなくなったピクシーとともに、コウに突っ込んでくる。コウはそれをみえない剣で跳ね返した。

「そんな! いったいどうして――」

「魔王には一生わからないだろうな」

 コウはみえない剣を振りかぶった。アクは泣きそうな表情で這いずるように逃げようとしていた。

「しね――」

 コウが刀を振り下ろそうとした瞬間、なにかが三本、コウの首に巻き付いた。

「は?」

 そして――首が無くなった。支えるものがなくなり、コウの頭が床にごろんと転がる。そして体を床に倒れていった。

「くく……くははははははは! ざまぁみろ! このばか勇者が! 言っておくけどな! 俺のピクシーはただ切っただけじゃ死なないんだ! さすがに一時間くらい経つと死滅しちまうけどな! それまでは自由に操れるんだよ! お前のみえない剣とやらとは格が違うんだ! わかったか!」

「あぁわかったよ。どうして俺に死ぬことをあきらめるなって言ったのか」

「……はぁ?」

 アクはおそるおそる胸のあたりを見た。そこから鈍色の剣先が顔を出していた。血にまみれていて、ピクシーが喜びそうだった。

 アクは後ろを振り返ろうとした。だが、それをすることはできなかった。剣を勢いよく引き抜かれ、床に倒されたからだ。べちゃっと嫌な音が響いた。

「これでいいんだろ、勇者――いや、コウ」

 頭と胴体が切り離され、床に転がったコウの死体をみて――セイギは言った。

「う、うそ……そんな……」

 そうつぶやいたのは、フシギだった。目を見開いて、コウの死体をみつめていた。

「フシギさん。ごくろうさまでした。あなたの役目はここで終わりです」

「え?」

「あなたはきっとコウさんが勝つ物語を紡いでいたのでしょうけど、それは私の物語の物語を紡いでいただけなのです」

「え、えぇ……えぇ……?」

 フシギは信じられないものでもみているかのような瞳で、オカシをみていた。

「さて、物語もそろそろ終わりですね。どうですか、本物が偽物だと思っていたら本当は本物だった感想は?」

「そうだな。こんなもんかって感じだ。正直偽物だと思って生きてた方が楽しかったよ。コウもこんな気分だったのかと思うと同情するぜ」

 セイギは吐き捨てるように言った。

「オカシこそどうなんだよ。物語の紡ぎ人の物語の紡ぎ人をやってさ」

「そうですね。やっぱり私は水色の髪の方が似合うので、次の物語の髪の色は水色にします」

「はぁ、なんだよそれ?」

「わからなくていいんですよ。あなたたちはけっきょく私に創られた物語の引き立て役なのですからね」

「なんかそれむかつく言い方だな」

「セイギさん。フシギさん。お時間です」

 突如として、世界がガラスのように粉々に砕け散った。

「次はどんな物語にしましょうか。楽しみですね」

 割れた破片からそんな声を聞きとれる者は、もうここにはいなかった。



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