出会い
「どないしよ・・・」
イナバがユグドラシルのある森を出て早五日、道に迷っていた。
勢いよく出発したわいいが森の外がどうなっているのか全く知らないイナバは適当に歩いていればどこかの街にでもたどり着けるだろうと考えていたのだが、
「人どころか動物、魔物にも会わないってどないやねん」
人に会わないのは何となくわかるが動物や魔物に会わないのはおかしいと思うイナバである。
「まあ、もうちょい頑張ってみますか。最悪、力を使えばええやろ」
神の力を使えばどうにでもなると考えたイナバは再び歩き出そうとしたとき。
「ん?」
何か強い気配を感じた。
「なんやなんかあるんか?」
この五日間何も起こらなかったのでイナバは歩くことに飽きていた。
「行ってみますか」
なので、イナバはなにか面白いことがあるかと思い気配がする方に行ってみることにした。
そして、イナバは軽く走って行く。一応、神であるイナバの走りはかなりの速さを誇っていた。
閑話休題
「ぐわっ!」
「っく、なぜこんなところにS級魔物が!」
「・・・・・・なんや食事中か」
イナバが気配のする場所に到着するとそこには一台の馬車を一匹の竜が襲っていた。馬車の方はかなりいいもののようなので位の高い貴族が乗っているのだと思われる。そして、竜に十人ほど騎士が相対している。
「食事中なら邪魔するわけにはあかんな」
イナバは森で育ったため弱肉強食、弱い者は強い者の餌になるという考えなので今の状況は竜が貴族を食べようとしているのだ思えた。なので、再び街を探そうとした。
「・・・ん?」
だが、竜の様子が少しおかしいことに気づいた。あの竜なら騎士たちを一瞬で倒せるはずなのであるが、先ほどから攻撃らしい攻撃、殺すための攻撃をしてない。どこかいたぶっているような感じがした。その証拠に竜はどこか笑っているようにイナバは見えた。
「・・・それはあかんやろ」
殺しに関しては一つだげ自分の中に信念を持っている。
――快楽目的での殺しはダメ絶対!
命あるものを殺す場合は自分が生きるため、または何かしらの目的での殺しだけと決めている。殺すこと、いたぶることに快楽を求めることは決してやってはならないことだと思っている。
なので、今竜が騎士たちにやっていることはイナバの信念に反することである。
「しゃーないな」
そういうとイナバは足に力を込め、
「いなばキーーーック!!」
ドッコン!
「ぐあっ!?」
「なっ!?」
竜に蹴りをたたきつけた。竜は吹っ飛び倒れる。それを騎士たちはぽかんっと口を開け驚いている。
「なぁ、竜のあんちゃん、なんでさっさと殺さんのんや」
答えは分かっているが竜に聞いた。竜は起き上がるとイナバを睨みつけた。
竜は今まで自分に仇名す存在がいなかった。そのためイナバのような小さな存在に自分が攻撃され痛手を負わされたことに大きな不快感と怒りを覚えたのだ。
なので、竜はその強靭な牙でイナバを食らおうとした。
生まれたときから強者だったその竜は強者と渡り合うということをしたことがなかった。それ故、イナバの内に秘める力に気づくことができなかった。
自分がなにに敵意を向けたのかを――
「わいの敵ってことでええんやな」
グルゥアアアアアアァァァァ!!
咆哮ををあげイナバにその強靭な牙を向ける。そして、その牙がイナバの元に到達する。竜はとったと思った。
ガッキン
「ぐる?」
だが、竜にはイナバを食らった感触がなかった。そのため首を捻る。確実にとったと思っていたのだが・・・
「なら遠慮はいらんな」
そんな声が上の方から聞こえた。竜はそちらに顔を向けると杵を上段に構えたイナバが上空にいた。
「せい」
軽い調子と当時に構えていた杵を振り下ろした。
どっごん!!
軽い調子で振り下ろされたとは思えないほど重い轟音が響き渡り、イナバの杵は竜の頭をとらえた。竜はイナバの攻撃により頭をぺちゃんこにされた。竜は悲鳴をあげる間もなく一撃で一瞬にその命を刈り取った。
「自分が生きるため、何かしらの目的があっての殺しはなんも言うことはあらへん。せやけどな、快楽目的での殺しはあかんで」
持っている杵をくるくる回し背中にしまう。
「ほな、行こか」
「ま、待ってください!」
そのまま去っていこうとするイナバを呼び止める声がした。その声に振り替えるとそこには一人の少女がいた。その少女はかなり質の良い服を着ており、横にはメイドがいた。
「どないしたん?」
「え、えっと、助けていただきありがとうございます」
そう言って頭を下げ感謝をのべる少女。少女は長いきれいなブロンドの髪と整った顔立ちに吸い込まれそうにきれいなスカイブルーの瞳をしておりお伽噺に出てくるお姫様のようだった。
少女は助けてくれたイナバに感謝しお礼をしてきたが少女の横にいるメイドと騎士たちは竜を一撃で仕留めたイナバのことを警戒していた。
「かまへんって。別に嬢ちゃんたちを助けたわけやあらへん」
「そうだとしても私たちが助かったのにはかわりません。それでですね、お礼をさせていただきたいのですが」
「ほ~ん」
そういう少女にイナバは感心した。見た目ウサギで竜を一撃で倒したイナバを警戒せず感謝の念を込めて言葉を紡いでいた。
「嬢ちゃん名前は?」
「え?あ、えっと、フィオナと言います」
「ならフィオナ、わいと友達にならへん?」
なぜイナバがこのようなことを言ったかというとフィオナのことを気に入ったからである。先ほど騎士たちが苦戦していた竜をイナバはいともたやすく倒して見せ、圧倒的なまでの力に恐怖するでもなく感謝しお礼までするというそんな彼女に好感が持てたからである。
「友達ですか?」
「せや、それがお礼でええよ」
フィオナはじっとイナバを見つめる。その瞳をイナバは真っすぐ見つめ返す。
「・・・わかりました。私と友達になっていただけますか」
「おう、よろしゅうなフィオナ」
「はい、よろしくお願いしますイナバ様」
イナバが握手を求めるように手を差し出すとフィオナは膝をおり握手をした。
「ですが、お礼はきちんとさせていただきます」
「そっかそっか」
イナバはその言葉に嬉しそうに頷く。それは友達になあることを了承したからだけでない、そのことをお礼にせずちゃんとお礼はするというフィオナをさらに気に入った。
「それで提案なのですがちゃんとしたお礼がしたいので私たちについてきてもらえないでしょうか?」
「姫様、それは・・・」
フィオナの提案にメイドが待ったをかけた。美しい水色の髪につり目そのメイドはかなりの美人だ。イナバは彼女の気配が普通のものとは違うことに気がついた。その気配は森で感じたことがあるものによく似ている。それは隙をつき一撃必殺で相手を殺す魔物の気配によく似ていた。なので、彼女が暗殺が得意なのだろうと思った。それもかなりの強者だ。
そのメイドがフィオナの耳元で囁くように話し始めた。
「姫様、それは危険でございます。あの魔物はS級魔物を歯牙にもかけないほどの力を持っています。そのような者を王都に招きいれるなど」
「ルナリア、イナバ様は私たちを助けてくれたのですよ。きちんとしたお礼をしなければ失礼です」
「ですが・・・」
「それにイナバ様は大丈夫です」
どこか確信したように言うフィオナ。フィオナとしても根拠はない、だが、イナバは大丈夫だと何となくそう感じたのだ。
「・・・わかりました」
フィオナのその言葉にルナリアは頭を下げフィオナの後ろに控える。
ちなみにイナバはその内緒話はすべて聞こえていた。
――フィオナってお姫様やったんや
ルナリアの言葉に機嫌を悪くした様子もなくむしろフィオナが姫様と呼ばれたことに若干驚いていた。
「えっと、大丈夫なんか?」
「はい、問題ありません」
「なら、世話んなるわ」
「はい。では、馬車にお乗りください」
「了解や・・・っとその前に」
イナバは何か思い出したように頭が没落した竜の死体の元に向かった。そして、手を向けると竜の死体は光の粒子となって消えた。
「おし、ほな行こか」
「・・・えっと、イナバ様何をなさったんですか?」
いきなり竜の死体が消えたことに驚きを隠せないフィオナ達。
「ん?ああ、竜を異空間にしまったんや」
「い、異空間ですか?」
「せや、ここに死体を置いとくわけにはあかんしそれに売ればお金になるやろ。人の街で生活するんはお金がいるんことは知っとるからな」
イナバは森を出る前にある程度人の社会について勉強したのでお金という物で食べ物や道具、武器などを買うということを知っている。なので、竜を売ればお金が手に入るだろうと考えていたのだ。
「な、なるほど」
「ほな早う街に案内してやわい人の街楽しみなんや」
やっと人の街を見ることができると思うとイナバは楽しみで仕方がなかった。その姿にフィオナは顔をほころばせた。
「くすっ。そうですね、では行きましょうか」
「おう!」
そして、イナバは馬車の中に入った。それに続くようにフィオナとルナリアも乗った。それを確認した騎士が馬車を進めた。
道に迷いどうしようかと考えていたイナバは思ってもいない出会いにより念願の人の街に行くということをかなえることができるのだった。