八話 new部・入部
――、時は少し戻り、その頃、君鏡と日野は机を運んでいた。
「ねぇ箱入さん。本当に部活とか入らないの?」
「んぅ~、多分。部活すると帰りが遅くなるし、いつ終わるか分からないから」
君鏡は、日野と共に教室の掃除当番をしている。
そして全てを終えるとゴミ箱を持ち、二人で最後のゴミ捨てに向かう。
「私さ、剣道部に入ろうかな」
「日野さん? 昨日まで女バスに入るって言ってなかった? 確か、素敵な先輩がいるって。バスケットと剣道じゃ全然違うけど平気?」
「だよね。問題はそこなの。剣道ってやっぱり痛いのかな?」
「たぶん。だって竹刀で叩くンでしょ」君鏡が想像して怖がる。
沢山のゴミが集められたボックスにゴミを移す。そして仲良く話しながら教室へと戻り始めた。
と、帰り途中、階段を伝い四階から、女子達のケラケラと笑う声が漏れる。
「何か随分と楽しそうだね。上の階でなんかあったのかな? 教室戻ったら行ってみる? 私さ、ちょうど美術室に用があるから」
「美術室?」
「そう。さっき話した剣道部の顧問、美術の折紙先生だから。まだ、どうするかは分からないけど、どんな感じか聞いてみようと思って」
そう言って二人は、カラになったゴミ箱を教室へと置き、四階中央にある美術室へと向かった。
中央階段を上るとすぐ、沢山の人だかりができ、皆が、美術室の方を見ている。何度も笑いが起きる。
「何だろう?」
「何だろうね?」
二人は少しずつ人をかき分け美術室へと近づく。
すると美術室の出入り口に、折紙先生と縁と数人の女子生徒が立っていた。
君鏡は、笑いながら話す先生や生徒達の言葉に耳を傾ける。そしてハッとする。
「どう考えても床並君が部長に……決まって……るでしょ。自分で言い出した部活なのよ」
先生が笑いながらいう。他の生徒もそれを笑いながら見ている。
何がおかしいのかも分からず、ただその笑いが伝染してそこら中で笑いが溢れていた。
と、そこに入部希望者が現れ、そして部室の掃除があるからと、あっという間に縁が立ち去っていく。
その姿を見ながら、そこで初めて、縁が剣道部の部長であると知った。
自分が友達付き合いに必死になっているこの二週間ちょっとの間に、縁が剣道部を立ち上げ、その部長になってしまったのだと驚いていた。
少し前にも、職員室の前で縁を待ちながら、似たような凄さを感じたことはあったが、部活をどうするかも決めかねている自分とは、まったく違う速度で生活しているのだと思い知らされた。
そして、何かに気づいたように、クルッと日野の方へ振り返る。
日野は遠く去りゆく縁の背中を、ポーっとした顔で見ていた。
「私やっぱ、大変かも知れないけど剣道部に入る」
日野は強く決心した目を見せた。
「ちょっと、待って。私も……やるよ。日野さんと同じ部活になりたいし……」
縁と一緒に帰りたいし、少しでも一緒にいたい。君鏡は、口には出せないけど、そんな想いが全身を支配していた。
日野と一緒の部活をしたいという気持ちも嘘ではない。こんな決断の仕方になっては、誤解されそうだが、それは本当だった。
本当は友達と一緒に仲良く部活を頑張りたかったが、バスケットというスポーツがハード過ぎて、自信がなかったことと、何より、縁と寧結と一緒に帰れなくなるのが嫌だったのだ。
しかし、状況がまるっきりひっくり返った。
剣道部が例えきつくても、入りたい理由が幾つもある。
ようやく仲良くなり始めた日野とも同じ部活になれて、そして、縁と一緒に居られる。不純かも知れないが、これ以上の理由などないと。
「待ってて、私、職員室に入部届け取りに行くから」
「ホント? 箱入さんも入部してくれるの? 分かった、ンじゃ、一緒に職員室に行こぅ」
二人は仲良く職員室へと早足で向かった。
部室では縁の他に五人の部員が慌ただしく掃除していた。女子四人、男子一人。
あまり会話はなく、淡々と掃除をする。
縁が一人でやるよりも遥かに早いが、その分、埃が舞う量も半端ではない。
縁が持ってきた手拭いでは足りず、縁ともう一人の男子は、ジャージのチャックを首元まで締め、それで口を隠している。しかし、動く度にぴょこっと口が飛びだしたり、鼻からの呼吸でむせたりしていた。
「ゴホゴホッ。ちょっと、ごめんな、さい」たまらず縁が部室から飛び出す。
新鮮な空気を吸おうとするけど、部室から埃が吹きだしてきて、それどころではない。
入口から五歩程離れ新鮮な空気を探す。とそこに君鏡と日野が走ってきた。
苦しそうにしている縁に二人が話しかけた。縁はその声に振り向く。
「床並君。私達、剣道部に入部しちゃったぁ。今日からよろしくネ。床並君が剣道部の部長なんだよね? 一年生で部長なんて凄いよね、ってどうしたの床並君?」
「ごほっ。大丈夫、ちょっと埃が喉で絡んでむせただけ。ごほっ」
すると「大丈夫ですか?」と日野が縁の背中を擦った。その瞬間、君鏡の胸を、無数の棘が突き刺す。チクチクと悲しさと悔しさが走る。生まれて初めての感覚でそれがどういった感情なのか自分でも分かっていない。
「とりあえず、二人はまだ部室に入らない方がいいよ、埃凄いから。そこからでも見えるでしょ?」縁の指さす先のドアから埃が吹きだす。
縁も改めてそれを目の当たりにして、ビックリする。そして今日はこの辺で中止にした方がイイと判断を下した。
縁は部室の入り口から、中の皆に声をかけ「今日はこの辺で、着替えが中にある人は持って出て来て下さい」と呼びかける。
次々に出て来る部員達。だが縁は、自分の着替えが中にあることに気づき、部室から出て来た部員達と入れ違いで、素潜りでもするように、深く息を吸い、埃で荒れ狂う部室内へと飛び込んで行った。
「いやぁ、本当にすごいわ。何年分の埃だろうね」
部員達が話す中、縁は部室という深海を彷徨。なかなか見つからない。一度呼吸しに戻りたいが、それでは一からやり直しだし、少しカッコ悪くもある。
仕方なく、ジャージの襟元をフィルターにして酸素の補給を試みる。だが、先程同様、喉がいがらむ。
「おほっ、げっほ、ぐふっ」
「だいじょ~ぅぶ~ですか~?」
返事などできるはずもない。一瞬試みようとした縁だが、霧がかった室内ではジェスチャーさえも意味なく、今は服や鞄を探すことに専念するしかない。
するといきなり、誰かが縁の体に抱き付いてきた。
「見つけた。これ、これ使って」
手探りで渡してくるソレは、手拭いだった。
縁はその手拭いで口を覆うように巻き、もう一度探す。と「あったよ。これですよね」そう言って荷物を持って来てくれた。
二人で急いで表へ出ると、荷物がどこら辺にあったのかと尋ねた。すると、縁が置いたであろう場所から遥か上の棚に移されてあった。
掃除の邪魔であったこともそうだが、汚れたらと気を使い、誰かがずらした。
「ありがとう助かったよ。もう少しで窒息するとこだった」
縁のホッとした表情に、部員達がにっこりと笑う。皆明るい笑顔だ。
「それじゃ、とりあえず更衣室で着替えましょう。それで、どうしましょう?」
アタフタする縁。まだ部長とはほど遠い言動だ。敬語もぎこちない。
「せっかくだし、少し話したい。どこかで話そうよ。明日のこととか、これからのこと。でも部室はあの状態だし、食堂かな?」岡吉がいう。
とりあえずと、皆が着替えに向かう。そして五分ほどしてもう一度再会した。
部員皆でゾロゾロと話せそうな場所を探す。
食堂の前を通ると、通路に紐が張られ、立ち入り禁止となっていた。店も閉まり掃除も終わっていて、生徒が後から汚さないように封鎖してある。
「そうだ、三階行こう。この時間なら多目的フロアーも空いてるよきっと」
もうすぐ五時だというのに多くの生徒が行き交う。目的の場所が空いているようには思えない縁だったが、言われるままに付いていく。
「あちゃ。満員ではないけど、皆で座れそうな所はないわね」
校舎のガラス窓から綺麗な夕焼けが入り込むその景色の中、辺りを行き交う者もその場で座って話し込んでいる者達も、皆が剣道部の面々を見て仰け反る。
ありえないと言わんばかりの驚きを、前面に出していた。
「あのあの、良かったらココ、開けますので使って下さい」
畏まる女子生徒数人が、ガタガタと椅子を立つ。
そんな気を遣わなくていいのにと遠慮するが、強引に譲りくる。別の場所に移動しようかと、話が出た瞬間だった。
「イイじゃんせっかく譲ってくれてるんだしさ。早くしないと探してるだけで下校時間になっちゃうよ」
好意に甘えて、あっけなく場所が決まった。
周りの全てが剣道部員達を見る。堂々とは見ないが、チラ見したり、手鏡で化粧を直す素振りで覗く。耳を澄ます。
「まずさ、自己紹介しようよ。私、二年F組、岡吉エレナ。よろしくネ」
明るく可愛い表情。自己紹介さえ眩い。普通の子とまるで違う。
「それじゃ、次ぎ私。エレナと同じく、二年F組の雨越虹。一応女優やってます」
「一年A組、登枝日芽といいます。トゥインクル・ドールってアイドルグループに所属してます。よろしくお願いします」
「私も、一年A組で。名前は香咲栞っていいます。よろしく。一応、キャンディーフラワーって雑誌でモデルをやってます」
周りがざわつく。
それもそのはず、岡吉も雨越も登枝も香咲も、今、大人気で上昇気流に乗った、とびっきりの子達だった。
学校でも皆が意識し、できれば何でもいいから話してみたいと毎日妄想するほどのカリスマ。
ただこの学園には、話かけたくともそれを防ぐ厳しい規律があり、本人の承諾か、話をしてこない限り、罰則があるので絶対に無理なのだ。
今この場所で、いや、この学園に通っている生徒の中で、このアイドルや女優やモデル達について知らないのは、縁ただ一人といってもおかしくはない。
その理由は誰でも想像つくと思うが、寧結の世話と勉強と不登校という三重苦が重なれば当然そうなる。小学生ですら、今流行のお笑い芸人やアイドルなんかは知っている。
例え夕方まで遊び回って、飯食って風呂入って、テレビを見ずに眠りにつく日々でも。友達との会話や、何気なく見せてもらう本やインターネットから、そこそこ分かるからだ。
縁とっては、そういったことさえ、全て遮断されていたわけで。
とはいえ妹の寧結は別で、アニメもアイドルも大好きっ子で、幼稚園では友達と盛り上がっていた。まぁ、女の子だから。
「私は、一年D組、日野明日花っていいます。よろしくお願いします」
「私も一年D組です。箱入君鏡っていいます。よろしくお願いします」
女子の自己紹介が終わった。
聞き耳を立てる他の生徒達が、一旦深い溜息をつく。この学園の者達は、クラスを聞くだけで、その子が大体どういった立場の子か分かるのだ。
特にAクラス。
学校へは殆ど来られない時期もあるほど忙しく、その分、この学園のシステムで午後五時半から八時の間に特別授業という名の、対策があったり、それさえ来られない時は、掃除や委員会の手伝いなどで、補習をしたこととし、進級や卒業資格を得られる。
もちろん上辺はそんなにあからさまではないが、テレビドラマや映画で数ヵ月も撮影となれば、業界に詳しくない者でも、どんな生活かは自ずと分かる。しかも、売れっ子はいくつも掛け持ちが普通ときている。
そう援助せざるおえない。
Fクラスは、Aほど忙しくなく、基本は学校に登校できる。
仕事が入った時だけ、遅刻や早退、そして特別システムを使う程度。
ちなみに縁がFなのも、家庭を一人でやり繰りし、付属である未蕾小学校に通う妹の面倒を見なければいけない事情を、面接で考慮されてのクラス分けであった。
寧結が熱を出したり怪我をしても、何か些細なことでも、常に早退や遅刻、時に休まなければならないからだ。
「えっと、俺は、濱野明則です。二年C組です。趣味はゲームです。好きな食べ物はオムライスです。そんで――」
部員の女子達も周りで聞き耳を立てていた者達も、耳をたたんで『知らネェ』とか『長くね?』とか『ウザいンだけど』と心で罵りそっぽを向く。
そしてようやく最後に縁の番がきた。
「俺は、その、剣道部の部長に、なりました、床並縁といいます。一年F組です。皆、宜しくお願いします」
縁がそう言い終えると同時に「よろしく~」と女子達が即答する。濱野の時とは大違いの反応だ。それは周りで聞いている生徒達もそうだった。
「ねぇ、床並君ってさ、剣道とか凄いンでしょ? やっぱり段とか持ってるの?」
「え? 俺? ……剣道やったことないンだけど」
縁の返答に、部員どころか、周りで聞いている者達までズッコケる。
それも本域で。
「な、な、なんで~。だって屋上で、ほら、色々あったじゃない。ほら~」
皆がウンウンと興味津々で縁を見る。縁は軽く頭を掻きながら言う。
「それは、剣道とは違うというか……上手く口で説明できない類のモノで。剣道のことまったく知らないんだよね俺」
皆が「ふ~ん」と驚きながらも納得する。何か違うモノなのだと。
「じゃあさ、なんで剣道始めようと思ったの?」雨越が頬杖をついて前のめる。
「こんなこというと凄く皆に申し訳ないンだけど。実は、妹が隣の未蕾小学校に通ってて、友達とダンスクラブに入ってもいいってお願いされて。それで承諾したンだけど、五時とかそれ過ぎることもあるみたいで。俺、いつも妹と一緒に登下校してるから。で、まぁ、妹がやめなければ、三年間、ずっと暇していることになるから、さすがにマズイなって思って。やっぱ、せっかく高校入ったし、部活でもと思ったンだけど、今ある部活に入ったら、時間とか妹に合せて帰れるか分からないし、それで、同好会作って気楽に活動しようかなって。そんで、どうせなら文化系より少しは体動かせる運動部にしようと。担任の折紙先生に色々相談したりして、調べたら、剣道部って項目に線が引いてあったから、これならかつて使ってた場所もあるだろうし、同好会にもしやすいと踏んだンだけど、なんでか知らないけど、廃部でなくて休止状態だから復活させるなら部活ねって。で、こういう状況になりまして。なんか説明下手でごめんネ、あと変な理由で始めちゃって済みません」
縁の戸惑いながらの長い説明に、そうだったのかと楽しそうに納得する部員達。周りの者達も「へぇ~」と充分暇を潰している。
本当なら縁のこんな理由に少しは腹を立てても良いはずだが、どうやら、部員達全て、剣道をこよなく愛して、剣の道に足を踏み入れたという訳ではないようだ。どちらかというと、あまり剣道には興味がないと言った方が近いのかも知れない。
話していると、廊下の向こうから騒がしく話す声が、徐々に近づいてくる。
「でさ、望のバカがとちってばっかいっから、横に居る俺まで怒られちゃってよ」
「そんでどうなったの?」
「最悪だよ。その日は取りやめだってさ。こっちはスケジュールぎり詰まってるっつ~の」
肩で風を切りながら乱暴な感じで歩いてくる。が、いつもと違う雰囲気に戸惑っている。いつもなら、女子達がキャーキャーと騒いでくるはずが、誰もこない。
今まで一度もない光景だ。
それらは何事かと辺りを見渡す。すると、シーンとした光景よりも、もっと驚くべき光景が目に入る。それはもちろん、この場所に、けっして揃うはずのない女子メンバーが、それも四人も固まっていること。
「あっれ~。マジィ~。すっげ。エレナにコウにヒメたんまでいる。しおりんって他人と一緒に居るタイプじゃないと思ってた。マジスゲェ」
そういってどんどんその場所に近づいてくる。そして「俺も仲間に入れてよ~」と登枝の座っている椅子に、一緒に座ろうとお尻をねじ込む。困る登枝。
それを見た岡吉が「船城先輩、止めてくれませんか」と冷たく言い放った。
「お、冷たいねェ。いいジャン別に。仲間に入れてよ。俺さ、今日は夜授業でさ、これから出なきゃならなくて。それまで一緒に、あっ、そうだ、なんならエレナも一緒に受ける? 特別授業」
「もう。ホントどっか行ってって」
船城は全身で驚いていた。まさか自分がこんな扱いを受けるとはと。
ここ数年味わったことのない感覚だった。普通なら、横に座られた女子は、顔が真っ赤になって、照れて下向くか、嬉しそうに恋に落ちた目になるかのいずれか。それがどうなってか、この異様な感じ。
例え相手がテレビに出ている子達でも、船城にかかれば、媚びを売る者が殆どだったのに、今、周りで見ている普通の生徒までもが変化している。
船城は、自分が撮影で来なかった二週間半の間に、何が起きたのかと想像する。そして、自分なりの答えを導き出した。
「ああっ、そっか。そうだよな。いきなりじゃそっか。ごめんね、ヒメたん。入学したばっかだもんね。でも、何度か会ってるよね俺ら。ほら、そっちのグループとウチらとクイズの番組で。覚えてるでしょ?」
シーンとする。と、濱野が口を開いた。
「あのさ、大変言いにくいンですけど、嫌がってるので、止めて下さい。先輩なんだし、先輩らしく振舞って下さい」
「誰だテメェ? あ? 二年じゃねぇか。お前誰に向かって口利いてんだ。アン? ボコボコにすンぞカス」
船城の目が不良のそれへと変わる。
女子と男子とでの態度の変化は、まるでジキルとハイドのようで、あまりの変貌ぶりにドキッとする。
普段ならこのギャップに、キュンとする女子も稀に居るが、今日はいない。
が、やはり、こんなタイプが好きだったり、カッコイイと思うからこそ、不良が主役の漫画や映画がヒットしている。そういったモノを男子が見るのと女子が見るのでは当然、楽しみ方も目的もとらえ方も、まるっきり違のは仕方がないが。
今にも襲い掛かりそうな雰囲気。だが、すぐそばで、爽やかな表情をしている縁に気付いた船城は、縁の上履きの色を確認し、そして、睨む。
「おい、一年坊。お前なにヘラヘラしてンだ。ナメてるのか?」
船城がそう声をかけた瞬間、岡吉と雨越が食って掛かった。更に周りの者達も口々に何かを愚痴り始めた。
「なんなのよ? いきなり一年生の横座ったり、何もしてない子に、ケンカを売ったり。ホント最低。どっか行けば。ホントに邪魔なのよ」
最もな理由に逆に引っ込みがつかない。そしてついに、女子にまで悪態をついてしまった。
「お前こそ何なの。仮にも俺は先輩だろ? なんだその口の利き方。少しテレビに出てるからって、あんま調子乗ンな。お前より俺の方が遥かに有名だし」
完全にアウトだ。同じ世界で生きる者が口にしてはいけない台詞。それこそ矛盾という名のブーメランが自分に戻って来て、そのまま首を切り落とす。
有名という特権を、そこを否定し愚痴ったら……もう何も残らない。
最悪の空気が流れる中、冬眠から目覚めた谷渕が、仲間と共に現れた。すっかり目の下のクマも取れ、髪型も雰囲気も回復し、保健室から颯爽と舞い戻る。
まさに不死鳥。
「おう、谷渕。聞いてくれよ、なんかこいつら酷いンだよ。確かに俺も、ちょっと馴れ馴れしくしたかもしんないけど、でもよ先輩に対する態度じゃねぇっつうか、ナメてるっていうかよ。谷渕からマジ、ガツンと言ってくれない、こいつらに」
船城も少し反省している言葉が随所に入るが、それでも悔しさと虚しさと怒りが止めどなく溢れているのが分かる。
指さす船城。その先を目で辿る谷渕。そして、岡吉や雨越や登枝や香咲のメンツに、驚きの第一波が押し寄せる。その真ん中にニッコリと座る縁に気付き、ビビリの第二波が谷渕の全身を呑み込んだ。
ようやく落ち着き、心電図が安定したのに。古間にも「大丈夫、何もことは起きないで済んだ」と連絡を入れたばかりなのに……。
「船城。お前な、一年生になんて態度だよ。アホ。アホ。船城のアホ。お前なんか二度と学校来るな。よりによってなんでだよ」
「なっ、た、谷渕。お前こそどうしちまった? 変だぞ? お酒でも飲んでる?」
「飲~ンでない。ってバカ。もういいから。ちょっとこい船城」
「いや、まだ話がついてねぇよ。このナメたガキをさ、軽くシメたろうかと……」
「船城! バ~カ。バカだもんな? おいお前等、このバカ城を引き摺って来い」
谷渕がそういうと、不良達が椅子に座る船城を強引に、四人で抱え、廊下部分へと連れて行く。
谷渕は縁の近くに来て「まさか、船城から何もされてませんよね?」と恐る恐る尋ねる。それに対し岡吉が「登枝さんが無理矢理くっ付かれて、セクハラまがいなことされたわ」と少し強めにいう。
「えっと、他は? 床並君には何か、胸倉を掴むとかそういった……」
「それはないけど、相当な酷い口利いてたわ」
「いや、俺はアイツと同じ学年だから知ってるんだけど、あいつはね凄く馬鹿で、たまに芝居でやったことが抜けなくなって、あんな風になっちゃうの。バカなの。今まで皆それ知らないでカッコイイとかチヤホヤしてたと思うけど、覚えといて、今日はそのこと覚えて帰ってね。あいつ、皆が思ってる更に倍は馬鹿だから。許してあげて、病気なの。職業病。今起きたことは全部病気だから。病気じゃ仕方ないでしょ? でしょ? だって職業病なんだもん。ねっ」
縁は、必死に仲間を庇う谷渕の姿と、その話の面白さに、ニッコリと微笑む。
別に谷渕は船城など庇ってはいないのだが、結果的に、そう見えていく。
「という訳で、あの病人の所へ急いで行ってあげないと、発作がっ。なので、失礼するけど。っと、一応、確認なんだけど、床並君、怒ってないよね?」
「ええ、まあ。でも病気とは言え、あんまり女の子に酷い態度は取らないように言っておかないと」
「それはもう、俺の方から責任もって言っておくから大丈夫。ごめんネ登枝さん。ちゃんと叱っておくから」
谷渕はそう言って急いでその場から立ち去った。
谷渕の存在をこの一、二年見て来た者達には驚きよりもショックが大きかった。それは谷渕が気を使っている縁という存在が、一年生というのが尚更そう思わせるのかも知れない。
平気で人を殴り飛ばす谷渕が。この学校で粋がりナメた者達を、片っ端からシメアゲて、暴力と恐怖で自分の配下にしてきた谷渕が……。
見た目だって厳つくて、テレビでも活躍していて、そして服装や話す内容、言葉遣いもカッコ良かった谷渕。
そこに居る皆は、少し前までの谷渕は何処へ行ってしまったのかと思っている。ただそれでも、目を閉じれば思い出せる谷渕の恐怖は、まだまだ残っているが。
あの屋上でのことも、良く考えればたった一発しか受けていない状況。荒れ狂う獣のようにケンカして、血だらけになり顔をどんなに腫らしても最後に勝って不敵に笑う谷渕を何度か目にしていれば、今の谷渕の心理に何が起きているのか誰にも理解できなかった。
「おい船城。てめぇ、俺がやめろって言ったのになんですぐやめねぇんだよ」
「何を? まさかあの一年のこと? なんで?」
「ふざけんな。もう少しで大変なことになるとこだったンだぞ、クソが」
谷渕の台詞に、船城の表情が少しきつくなり、軽く機嫌を裏返す。と次の瞬間。谷渕が船城の腹を蹴り上げ、くの字になった船城の髪の毛を掴んでねじりあげた。
「誰に睨みきかしてンだ船城。あ? 俺とやるのか? いつでも受けてやるよ。おい、言ってみろ、誰が誰にガンくれてンだ」
「ご、ごめん。谷渕が……、谷渕君があまりにも理不尽なこというからつい調子に乗って、言い返してしまって。ごめん」
「谷渕でいいよ、今まで通りに。ただな、あの一年生のことには、触れるな。何が何でもナ。いいか、理由なんかどうでもいいから、絶対にダメなんだよ」
「なぁ谷渕。俺は一年の頃からお前のこと知ってるけど、お前みたいなヤツがそこまで言うってことは、ヤクザの息子とかそういう類ってことか?」
「だから理由は関係ないだろ。それと、今の時代、ヤクザが子供のケンカに出ないだろ? 暴対法ですぐパクられるし。って、そんなんじゃないンだよ」
「こんなこと改めて言われたら余計分からないし、知りたくなるよ。谷渕ってさ、中学時代から悪い仲間が多くて、今でも、ミスト・シャドウとかウイルス・モンキーの幹部なんかとガチで繋がってるジャン。それも知り合い程度じゃなくてマブダチで。なのにあんな一年にこんな態度とるってありえねぇよ。お前等だってそう思うだろ?」
船城がそういって周りの不良達に問いかける。
すると、船城の思っている反応とは、全く別の反応が帰ってくる。まるで氷点下で震えるペンギンを模写しているように。
船城一旗。三年A組。
ほんの少し学校を離れている間に、学園内はがらりと変わってしまい、戸惑いを隠せないでいた。
谷渕徹。三年F組。
船城は一年の頃、谷渕に何度もボコボコにされ配下についた。谷渕の強さやその伝手の怖さも知り、心から屈服している……、が、それなのになぜか今頃になって、訳の分からない一年のガキにひれ伏している姿を見せられ、ありえない心でいっぱいになっている。
「あんなの簡単にブッ飛ばせそうじゃん」
そこに居る全員が首を横に振る。
「細いしチビだし」
「そ~れはちょっと変だろ。船城、お前の方が小さいだろ。お前、百六十三くらいだろ?」
「百六十五だよ」
嘘だった。船城の本当の身長は、百六十四、五センチ。コンマ五さばを読んだ。それくらいどうだっていいのだが、六十四と五では響きが違うようだ。
「床並君は多分百七十二か三だぞ」
「床並君って。なんで一年生に君付けるンだよ。それはさすがにおかしいよ」
縁の身長は百七十一センチ。
中三の三学期から、約五センチ伸びていた。一月当時からもうすぐ五月なので、約五ヵ月、つまり月に一センチ伸びている。
縁の成長期や成長スピードがいつまで続きどうなのかは分からないが、高校の間に百七十六、七センチには行きそうな勢いではある。
「付けるンだよ君を。ほら、スポーツ選手で、自分より年下の相手に付けるだろ? 凄い選手には尊敬と敬意を表してさ。だから付けるの君を。分かる?」
「分かんない。あっ、分かった。これ~、ドッキリだろ! おかしいと思ったよ。なんか皆態度変だし、女子なんかさ、俺のこと見えてないみたいなさ。ありえないもんな。なんだよ~そっか~。ってこれ見破っちゃマズイやつか。やっべ~」
「お前、ほんっっとにバカだったンだな。こんなドッキリあるワケないだろ」
「わ~ってる。はいはい。で? 次は何が飛び出すよ」
そのまましばらく谷渕と船城の話し合いは続いた。
一方、多目的ホールは。
「そろそろ五時になるね、俺、もう少ししたら小学校の門のとこに行かないと」
縁の言葉に部員達も頷く。
「私達も駅まで一緒に帰りたい。ついて行っていい?」
岡吉の言葉に笑顔で頷く縁。
時計を見ながらギリギリまで話し、そして一斉に立ち上がって帰り始めた。
すると、周りに居た生徒達も何人かついてくる。明らかにストーキングだ。承諾なくつけてはならない。実際この学園では、こういう行為は禁止されている。
一見厳しく感じるが、普通校ではないのでしかたない。
AクラスとFクラスの有名な者の後を付けるのは、校則で禁止されている。そして校内での携帯電話も禁止。使っていい場所は校内でたったの二ヵ所だけ、それも、監視委員の元、使用者の記帳後、窓にスモークがかった角部屋にて。
それもまた、写メや個人情報を撮ったりネットに流す輩がいるからで、その事態を避ける為の苦肉の策。
この学園には他にも変わった校則が幾つもある。
「遅いな~。まだかな?」
門前から未蕾小学校の大時計を見る。
街が、夕焼け小焼けの五時を告げてから、二十分弱経っていた。
一緒に待ってくれている皆に気を使い、縁は何度か詫びていた。
自分一人が待っているのであれば、さして時間は気にならないタイプなのだが、今は、迷惑がかかっているかもと不安でしかたがない。
「なんかごめんね本当に。大丈夫、皆?」
「ふふ、平気だったてば。そんなに心配する時間じゃないよ。私なんて夜の零時回っても、仕事現場から帰れない日だってあるンだから。今って、五時ちょっとでしょ?」
時間帯というより、二十分近く待たしていることが心配なのだが……。
「そうそう。これくらいで気を使わないで。なにせ、部長なんだから。それより、これからしっかりと部員の指導をよろしくネ」
年上ということもあるが、岡吉と雨越は包み込むような優しさを見せつける。
日野も君鏡も必死に似たようなことを言うが、声のボリュームも雰囲気も小さかった。
縁は、指導か~と真面目に考える。
と、ようやく寧結らしき声が聞こえてきた。校庭を萌生と歩きながら「ン、ナナナナナナ、ンナ~ウナウナ。ナッ、ナ、ナ~ナナ。チコチコリンドン、タンドクシュリシュリ」と口ずさみながらステップを踏む。
縁は寧結のブッ飛んだステップに、恥ずかしさでいっぱいだった。
寧結は萌生と校庭の途中で止まって、訳の分からないリズムを口ずさみながら、変なステップを踏み「イエェ~」とハイタッチ。
拳と拳を合わせた後、また歩いてくる。
「おぅ、イエェ。兄ぃ。お待たせイエェ」
凄くハッピーなノリの女の子に、皆の目が点になる。
縁はさして驚かない。毎度のことだ。
月に一度は言葉遣いが変わる妹。いや、世間の幼い女の子達は大体そんな感じのはず。その光景を嫌というほど見てきている。
それに比べて男の子は殆ど変らない。あっても、その時々の流行ギャグやCMのフレーズを言うくらいだろう。
「今日は随分と人が多いけど、兄ぃのブラザーか? イエェ」
「寧結。ブラザーはお前のことだろ。昨日まで普通だったのに、今日は、いきなりそこまで入っちゃってンの。学校でなにして遊んできたンだ?」
「うんとね。ウィーアンドウィーっていうのは、カッコーとか気持ちから入った方が踊りやすいからって。ねぇ萌生ちゃん。イエェ」そう言って拳を合わせる。
はぁ~そうなのと納得する縁。しかし、萌生が小声で「ウィーアンドウィーじゃなくて、ブイアンドブイだよ」と寧結の間違いを指摘する。
小声とはいえ周りに丸聞こえな内緒話。
すると濱野が「ああ、それ~アールアンドビーだよ」と物知りな感じで教える。が、女子部員達が「余計なこと言わなくていいの。もぅ」と冷たくあしらう。
「初めまして、どっちが床並君の妹ちゃん?」
「ど~っちだ。当てて見てお姉ちゃん達」と萌生が笑う。
横で寧結もウンウンと笑う。
日野と君鏡は当然知っている。が、日野はもしかしてと迷っている。それは屋上に二人共居たからだ。そして何より、今目の前で、縁の足にくっ付いて「ねぇ兄ぃ、どっちが妹か分かるかな~?」と錯乱作戦に出ている。
縁は、困った子達だと頭を掻きながら、この他愛もない遊びに付き合う。
皆が顔を見る。寧結と縁の顔はあまり似ていない。その結果――。
岡吉と登枝は外れ、雨越と香咲は当たった。これじゃ二分の一の正解率。
まったくの当てずっぽうのよう。さすがにそこまで似てなくはない。
なにせ兄妹。
「あ~、ウッソぉ。もしかして。ねぇ寧結ちゃん」萌生がそう言って耳打ちする。
「ホントだ。本人ジャン。ん? 本人?」そう言って寧結が岡吉に顔を近づける。
覗き込む寧結に、冗談で岡吉も顔を近づけると、焦った様に「本人。本人」とピョンピョン跳ねだした。
「初めまして、岡吉エレナです。寧結ちゃんのお兄ちゃんと同じ部活になったからよろしくネ」と優しく頭を撫でた。
すると、隣に居た雨越が「あ~、私のことは知らないの?」と可愛く口を膨らませた。
「知ってる~。萌生知ってる。チョコのシーエムの。ほら『チョコチョコってくすぐっちゃうぞ』って」
「寧結だって知って……るぅ、って、アーッ! なんで? トゥインクルドールのヒメたん。ヒメたんだぁ。ヒメヒメスキップ」
寧結と萌生の興奮がマックスを振り切る。
香咲も気持ち的には問いたいようだが、さすがに年齢層が違い過ぎる。モデルはファンの年齢層がはっきりと分かれているのだ。
「兄ぃ、すごい。スゴ過ぎる。ジンジられない。お友達? もうジラメれない」
「なんだって? お、落ち着け寧結」
ようやく寧結と萌生が落ち着くと、登枝が「私のファンなの?」と聞いた。二人共に『ウン』と深く頷く。そして、背中に背負った鞄を下ろし、アイドルの雑誌の切り抜きや、写真シールの貼られた下敷きなどを出す。縁もそれを覗く。
兄として、妹がそこまで収集家だったとは知らなかった。幼稚園や学校などで、もらいっこして集めたのだろう。
「ねぇ寧結ちゃん。もしかして、お兄ちゃんもヒメたんのことファン、ってこと、ある?」
登枝の問に寧結が「ん~」と考える。そして。
「ある。兄ぃは絶対、絶対可愛い子が好きなはず。だからヒメたんのことも、絶対好きかも知れない」
寧結のとんでもない発言に取り乱す縁。しかし一言も否定はしない。
する訳がない。そんな素振りをすれば、傷つけないでいいものを、わざわざ傷つける意味になるから。
とっさだが、喉元でグッと堪えた。
とそこに「ちょっとまって私は?」と雨越も参戦。
「うんうん。絶対、チョコで、チョコチョコって、くすぐって欲しいと思ってる。寝言で言ってる」
縁は顔を真っ赤にし、なんて嘘つきでいい加減なことばかり言うンだと、さすがに絶句する。と、突然寧結が、もっととんでもないことを言い出した。
「でも、兄ぃが一番好きな人は――」
そこに居る女子部員達が、皆、聞き耳を立てる。遠くで隠れ見る生徒達も、耳を澄ます。
君鏡は密かに、もしかしたら『箱入お姉ちゃん』なんてと、妄想し、期待する。
「誰なの? いるの床並君って好きな人」香咲が口を開いた。
縁はジャスチャーしながら「いない」と喉まで出しかけたその時。
「えっとね。深内麻衣ちゃん。デジタル・レーヌのマイマイ。絶対そう」
縁はそこにいない者の名前が出たことで、これは否定しても支障がないと踏み、ついに口を開き言い訳する。
「おい寧結、適当なことを言うンじゃないの。俺そんな子知らないし、分からないのに好きも何もないだろ」
とんでもなく説得力のある台詞。周りに居るすべてが納得する。
それに、納得したがってもいる。
そういった理由もあいまって『な~んだ妹さんの嘘か~』となった。のだが。
「え? 知ってるでしょ。寧結の部屋のポスター貼ってある人だよ。いつも部屋に来るとじーっとみとれてるジャン。もうすぐで、口と口がくっつきそうだよ。私が可愛い? って聞いた時『可愛いんじゃないか』って言ってたよ。それにさ、寧結がさ、押した時さ、口がさ、くっついちゃったことあったよ。あれはチューだよ」
縁はそんなやり取りがあったことを思い出した。
君鏡もまた、床並家にお邪魔した時に、深内麻衣のポスターが、冷蔵庫の横と、リビング脇の棚に貼られているのを思い出していた。
「寧結ちゃんそれ本当?」
そこに居る女子すべてが不機嫌になっていた。寧結は犯してはならない過ちを、一線を越えてしまったのだ。
今の台詞というより、もっと単純なこと、女子の前で、別の女子を褒めるという行為は、言ってみれば、おっかない組織の人をザコ呼ばわりして唾を吐くのとほぼ同じことなのだ。いや、そんな程度では済まない。
避けなければならない行為なのだ。
普段なら寧結も萌生もしない。何も知らない男なら口にすることもあるだろうが、幼くても女の子として生きている者ならどれくらい頭に来るか分かっている。
ぶりっ子を褒めたりチヤホヤすることもそうだが、女性の前で別の女性を褒めるほど恐ろし過ぎて例えようもないことはない。
今、寧結がその間違いを犯したのは、目の前に現れたアイドルや有名人に浮かれてしまったことと流れだ。
逆に言えば、こういう風に持っていったお姉さん達が悪い。
もちろん何となく流れが分かっているから、寧結を恨むことなど一ミリもない。
その恨みの矛先は……縁と深内麻衣へ向く。なんでそうなるかは分からない。
まだ解明されていない。
あと、言い訳として付け加えれば、寧結にとっての深内麻衣は、アイドルであり可愛い人形、例えるなら二次元といっても過言でない。
つまり、女子を褒めたつもりは、これっぽっちもない感覚。
とんでもない空気が大気を侵食していく。君鏡でさえ、縁がポスターの深内麻衣を可愛いと言ってキスする想像をし、頭にわいた映像をグッチャグチャにしてポイしている。
一瞬顔の曇った女子部員達だが、すぐに顔だけは元に戻り、ニッコリとする。
それは先ほどと同じ顔ではなく、仮面を被っただけ。
そして、不穏な空気のまま駅まで歩き、男子には決してわからない明るい演技の挨拶で、その日は解散となった。