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バースデイ  作者: セキド ワク
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五九話  主役はいずこ



 何もない夏休みも終わり、文化祭と体育祭も終わった。一部の者はやはり学校が空っぽに感じている。それは縁が居た時の勢いを知っているからだ。

 そして、縁に深く関わった者達が皆、学校に背を向けている。


 元剣道部員達も学校よりも自分達の夢を優先し、アイドル、モデル、女優活動に本気で取り組んでいた。輝く為に。そこにもう迷いはない。

 そして縁のいないこんな学校にも未練などはないと。


 それは深内や若月、永尾などの間接的に関係した者達もそうだった。署名活動した女子達の中にも、学校を見放した者がいる。



 縁に絶縁された世界。もう二度と会えないと肌で感じている。

 しかしそのはっきりとした理由は知らない。多くの噂だけが、落書きの様なシミとして残っているだけ。本当のことを知っているのは、今の剣道部員と折紙先生と吉原先生、それと校長のみ。




「君鏡先輩、これって連続で避けちゃダメですか?」

「連続で? 唯ちゃんが出来るなら。でも出来たらすごいよ、まだ私にはできないもん。唯ちゃんって運動神経いいのね」


「えへっ。そうですか? ちょっとやってもいいですか? あ、その前に」

 そういうと仲地はダンス部の方へと向かい何かを言う。


「ねえ、なんかノリの良い曲かけて。曲が止まってるよぅ。お願いしま~す」

 ダンス部が曲を流すと、その曲にノリとんでもないバトルを仕掛ける。

 君鏡は仲地の連舞技を必死に受ける。

 濱野も裏画も、それに目を奪われている。


「ちょっとさ、さっきから唯のことばっか見てないで、こっちに集中して。悪いけど私、そんなトロトロしている暇ないんだけど」

 留理が薙刀をブンブンと振り回す。

「ごめん。そうだね。予選大会まで時間ないもんね」

「そうですよ」

 本戦への切符を得るあの予選大会に、留理と葉阪と室巣と仲地の四人はエントリーした。それを補助するのは、君鏡と濱野と裏画の三人。

 このメンバーで、あの激闘を勝ち抜かなければならない。どうしてもそれをやり遂げなければならない。


 そして、皆揃って縁の居るであろう本戦へ行き、縁に言うのだ『友達だよ』って。


 一方通行の手紙では、その台詞は返せない。直接会って言うしかない。

 でもそれは、色々な意味で簡単じゃない。


 あれから今日までに二通の手紙が届いた。他愛も無い話で始まり、そして色々と為になることを教えてくれる。

 一方通行の歯がゆさはあるが、縁と部員との繋がりであった。



 君鏡は手紙を見る度に思い出す、初めて出会ったあの日のことを。不登校になりかけていた自分と、不登校にならざるを得なかった少年の笑顔を。


 出会ってからずっと縁が自分の中で主役だった。そして高校へ入学してからは、本を読むように縁や女子部員達を眺めていた。

 嘘みたいに華やかで、自分なんて消えてしまいそうだった。でも、そんな本を読み進めていく内に、気が付くと自分が変わっていく。


 北海道への修学旅行で、初めて剣道の大会に出て、生まれて初めて、頑張って、その日、ホテルまで押し掛けてきた人と、また戦って……。

 何もなかった自分に、スポットライトが当たった気がした。


 脇役にさえなれないはずの自分。一人で本を読んで憧れているだけの自分。

 それで充分だったし、縁が居ればそれでも良かった。楽しかった。


 髪型もメイクも服装も生まれ変わって、周りから一目置かれて、そして少しずつ別人へと変わっていく。

 変わるに決まっている。昔の自分と今とでは、違い過ぎる。信じられないほどの大会で一位になったり、今では、見知らぬ男子に告白されたりもする。女子からも気を使ったしゃべり方をして貰えている。


 本当なら、虐められるような存在で、男子にはブスとかウザイと、女子からだって無視されて省かれて、きっと孤独の中で心閉ざして……本に逃げて。


 だってずっとそうだったから。私は誰? 箱入君鏡って、誰?




「先輩? どうでした?」

「う~ん。おしい。もう少し練習したら出来ちゃうかもね」

「本当ですか? 嬉しい」

 仲地はそういうと君鏡に抱きつく。


「次オレ、俺の番。仲地さん、ほら代わってよ」室巣が待ちわびる。

「そんじゃダンス部さん、室巣先輩がやるらしいので、例の曲かけて~」

「や~、やめてよそれ。テンポというか調子狂うから。どうせかけるならさ、俺もノリがイイ、カッコいいのにしてよ」


「なんで、室巣のテーマ曲だろ?」裏画が笑う。

「違いますよ。勝手に決めないで下さい。俺、たまに夢で見るんっすから」

「それ、トラウマじゃんか」濱野も笑う。


 君鏡も葉阪も留理も笑う。





 目標であった本戦参加資格をかけた予選大会を無事に乗り越えた。前回ほど酷くはなかったが、それでも本戦からの刺客は相当紛れていた。

 ただ、前回の噂で、この山梨県をさけ、別の場所にする者達が増えたのは事実。そして、君鏡と濱野と裏画のデータは殆どの者達が把握しており、確実に勝ち残るために避けてきた。


 本戦での戦が激化していて、一人でも多くの人材が欲しい状況なのだ。


 仲地は総合順位を六位と健闘し、留理は九位、室巣と葉阪は十二位と十六位となった。ヘトヘトになりながらも生き残った。


 濱野と裏画のコンビネーション、君鏡の鉄壁の守り、部員達は改めて三人の強さと頼もしさを再確認していた。

 何度も押し寄せた恐怖を打ち消すほどに、三人は頼りになった。


 そして真冬の戦いが終わり、卒業式が来た。





「濱野先輩、裏画先輩、おめでとうございます」

 うるうるとする二人。


「君鏡先輩、それ、花束ちょっと多くないですか?」仲地が首を傾げる。

「あ、これ? いいの。これはね、別の人のも入ってるから」

 君鏡はそういうとキョロキョロとしながら誰かを探す。そして――。


「岡吉先輩、これ受け取って下さい」

「え、私? 私に? いいの?」

「もちろんです。先輩、ありがとう御座いました。ずっと、私達の先輩でいて下さい。床並君も……そう望んでいますので……」

「うん。分かった。箱入さん、ありがとう。なんか箱入さん、一番すごいわ。途中からあなたのことずっと羨ましいって思ってたけど……。私も負けないように頑張るわ」

 岡吉と君鏡は握手して別れた。君鏡はさらに人を探す。


「雨越先輩、雨越先輩。これ、ご卒業おめでとうございます」

「うそ、私に? なんで? いいの私なんかに」

「はい。今までありがとうございました。ずっと先輩でいて下さい。床並君もそう思っているので、お願いします」

「うん。うん。いいよ。私でいいなら。あれから、部長引き継いで頑張ってたんでしょ? 皆箱入さんのこと凄いって噂してたんだよ。ちゃんと剣道部を引っ張って偉いねって」

「ありがとう御座います」

 君鏡の目に少しだけ涙が浮かぶ。そのことに気づいた雨越が驚く。そして。


「ごめんね。本当、先輩らしいコトしてあげれなくて。もっと仲良くしておけば良かった。箱入さんっていい子だね。うん、見ててね。私、女優として、いっぱいドラマとか映画に出るから。箱入さんに負けないくらい凄くなるから。先輩として」

 ニッコリと笑い握手する二人。そして次に。


「寺本先輩、これ、受け取って下さい」

「あら、箱入さん。お花? いいのこれ、私なんかが貰って」

「ご卒業おめでとうございます。いつまでも先輩として――」

 丁寧に一連の流れを言い次へと移る。


「三好先輩、これ。ご卒業おめでとうございます」

 三好は既に美術部の後輩から沢山の花束を受け取っていた。

「箱入さん? いいの? 私に? 私もう剣道部じゃないけど……」

「受け取って欲しくて。私達剣道部の先輩でもいて下さい」

「ぅん。なんか……ごめんね。うん、私みたいのでいいなら先輩って呼んで」

「はい。先輩」

 握手をして別れた。


 元剣道部の三年には後一人、小川育海という新入部員がいるのだが、君鏡はその人の元へは行かずに、剣道部の待つ道場へと走った。


 花束自体用意していなかったことから、元から渡す気はなかったようだ。それがどういったい理由かは定かではないが、君鏡なりの論理があるのかも知れない。




 道場に入るとテーブルの上にお菓子やケーキ、飲み物もある。奥ではダンス部も似たような用意をしているが、その豪華さは天と地ほどの差があった。


「あ~来た来た。部長、遅いってば」

「ごめんなさい。ちょっとね」

「それじゃ始めましょうか。ここは顧問として、私から一言ね。え~、濱野や裏画みたいなもんが、無事に卒業できる日が来るとは、先生驚きです。以上」


「なんすかそれ。ぜんぜん祝いの言葉じゃないでしょう」

「そうですよ。俺達、超一流企業に就職決まったンですからね」


「そうよね。ほんとムカつくは。他の先生方もその件はビックリしてたわよ」


 濱野と裏画は、三年の就職活動中、超一流企業の、それも向こう側からわざわざ名指しで学校内面接を申し込んできたのだ。

 濱野や裏画の担任の先生、更に校長先生を巻き込んで二人を奪い合う。しかも、どの企業も二人一緒に欲しがる始末。


 大学を出てもなかなか入れない大会社。というより毎年一流大学から数え切れないほどの面接者がきて、その中から特に優秀な者を人選するのだから狭き門だ。

 それがなぜか高卒の二人、しかも偏差値は下から数えてすぐの学校。


 一体何がどうなっているのかさっぱりだ。この学校で、こんなにも大きな企業に入れる者は、先生を含めても誰もいない。いるわけがない。


 たった一社というなら、何かの手違いか余程の伝手(つて)があるのかもと強引に仮説を立てれるが、濱野と裏画を訪ねてきたのは、約五十社。しかもそのどれもがヤバイほどの大企業。


 こんなことならば、もっと濱野と裏画を優遇しておくべきだったと大人達はみな後悔している。

 ただ、一つ収穫があったのは、その企業の殆どが「箱入君鏡様はいますか?」と質問してきたのだ。

 つまり来年の本命は、――君鏡。




「さ、食べましょう」

「待ってよ先生、箱入さんからなんかお祝いの言葉欲しいんですけど。部長だし、いいでしょ? 俺さっきのアレじゃ嫌なんだけど」

 皆が君鏡を見る。


「んっん。それでは。濱野先輩、裏画先輩、ご卒業とそれとご就職……ん?」

「ご就職ッ」

 皆が吹きだして笑う。ケタケタと腹を抱えて笑う。


「ごめんなさい。もとい、ご卒業と就職内定おめでとうございます。今まで色々とありがとうございました。先輩との思い出は沢山ありますが、やっぱり、一番は、ジュースを買ってきてくれることですかね?」

「ええ~。一緒に大会出たことじゃないのぉ~」


「冗談です。一緒に練習して、一緒に大会で戦ったことです。本当に、ホントに……」

 突然、君鏡は声を詰まらせた。

 皆は君鏡がまた冗談でやっていると思ったが、次の瞬間、君鏡の目から沢山の涙が流れて、それを隠すように両手で隠す。

 でも止まらない涙、そしてどんどん膨れ上がる思い出。



 縁とだけが思い出だったはずの君鏡。そうだったはずなのに、信じられないほどいっぱいの笑顔が脳裏を駆け巡る。

 ここが自分の居場所になった日から、ここで皆が寄り添ってくれたから……。

 他人みたいに感じていたことさえも全て、なぜか涙に変わる。



「な、泣かないでよ部長。こっちまで貰っちゃうよ」裏画も涙ぐむ。

「貰っちゃう、貰っちゃう。マジ貰うわ……」

「……やべぇな卒業って。俺にもこんな卒業が待ってたなんて。俺なんて……」

 濱野も裏画も剣道部に入る前の自分を思い出す。そして走馬灯のように巡らす。


 君鏡同様、濱野も裏画も異性から告白されたり、男子からも一目置かれたりしていた。

 不良グループからもチャラついた者からも一切ナメられることなく過ごせた。


 ずっと馬鹿にされた人生だったのに。ただの嫌われ者だったのに……。

 目の前には仲間……、泣いてくれる後輩まで……できた。



「食べよう。いっぱい食べて、笑顔でねっ」濱野がフライングでケーキを食べた。

「あっ、濱野。仕方ない、それじゃ先生は二番ね」

「ああ、部長が先に決まってるでしょうが。箱入さん、ほら早く食べちゃって」

 裏画が君鏡に笑いかける。君鏡はその声に泣き笑いしながら頷き、ケーキに手を伸ばした。そのすぐ後に仲地が「私もっ」とスプーンをブッ刺した。


「こら唯、取り過ぎよ」留理も突き刺した。

「まだまだあるし~」

 葉阪も室巣も笑顔で手を出した。


 そんなやり取りを道場の入口から見ている者がいた。

 岡吉と雨越と寺本の三人であった。しかし、結局道場内へとは入ることが出来ず三人は帰ってく。

 少し寂しそうだが、三人とも楽しそうな剣道部の姿に微笑んでもいた。





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