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バースデイ  作者: セキド ワク
54/63

五四話  夜飯前



 約四千人の予選大会を一位で終えた君鏡。

 自分が何をやり遂げたかさえ気づいていないが、全てを見ていた者達に、これでもかというほどに火をつけていた。


 四千人と言えば、全校生徒数、千人の学校を四校ほど集めた人数。その中で一番になるということ……。

 いや、この予選会に参加してきた者達は選ばれた者達ばかり、しかも本戦からもとんでもない人数が紛れ込んでいた。ただ一位になるという意味とはわけが違う。


 自分よりも遥かに格上の者達をギリギリのやり取りで倒していくその姿は、この戦の世界ではありえない奇跡に映っていた。


 武器同士には細かな相性もあり、そして格上が下に負けることもほとんどない。それが何度も覆る展開を見せた。

 君鏡も濱野も裏画も、限界を遥かに超えた奇跡を起こした。その勇姿に最も感化されたのは形霧達だ。そして今まさに格上の縁へと下剋上を叩きつけ、兼ねてからの因縁に決着をつけようとしていた。


 死神小僧、対、ピンク蝙蝠(こうもり)




「むう、もう……もたぬぇ……ぞ」


 暴れ狂う縁を形霧と摘花が必死に罠へと誘う。他の者達はいくつかある作戦通りに陣形をとり、一つずつぶつけていく……が、今の所すべて縁に弾かれている。


 調子が良かったのは戦闘開始五分までで、そこからは縁の破壊が始まった。


 最初は、薄暗い闇に乗じて、カメラなどにあるフラッシュライトで攻撃し視力を奪い順調に縁を追いこめていた。用意した作戦も技も、それなりに効果があったのだが、防御ばかりしていた縁が、(かざ)(ぐるま)という技を出してからは、殆ど防御はせず、攻撃の嵐に変わった。



 回転する縁の大鎌が風車のように残像して襲う、そこから更に喧嘩ゴマという技へと発展し、形霧達は手も足も出なくなった。


 縁にとっては必殺技ではないいつもの攻撃だが、格下にはとてもじゃないが受けきれない代物だ。

 喧嘩ゴマは、押しては返すダンスのようにステップを踏むのだが、その縁の足が地面から浮いて見えるほどにありえない距離を移動してくる。


 大鎌の弱点である回転の切れ間、そこをマントで防ぐと同時にバックステップもする縁。そのことで微かにあった針の穴を通すような弱点さえなくなる。

 ぶん回る刃は遠心力と振り子の狭間で切り裂き、片側の肩から垂れたマントは、何度も縁の姿を闇の中で消し隠す。



「ダメだ。やっぱこえぇ。超怖い。マジきついわ」鬼頭が弱音を吐いた。

 七対一のハンデ戦。

 (かた)(ぎり)(さく)()(いろ)(ぞめ)(じゅん)(いす)(るぎ)()(づる)()(とう)(かつら)(そう)(どう)(たもつ)()(だね)(ひじり)(つみ)(ばな)(みさお)

 の計七人。


 寧結の組織の中でも大幹部。誰もが認める実力者達だ。今もモニターを見ている誰もがその実力に改めて驚いている。予選大会がまるで子供の遊びだったかのような錯覚に陥るほど、激しい攻撃とスピード。


 超高速の卓球でも見ているようで、球を追うことができないほど。これがランク九と最終ランク者の本気のバトルなのかと、ただただ息を飲む。

 限界を越えて戦う形霧達、それでもなお敵わない。

 まるでモンスターと戦っているよう。


 七対一でもちっとも卑怯に見えない。モニターを見ている者達が知らぬ間に七人を応援してしまうほど、縁は圧倒的に強い。恐ろしいほどにヤバイ。


「ぜんぜん歯が立たねぇじゃん。どうなってんよ」

「知らねえよ。あっ、来た。来た来た」

「うわぁ」

「やべぇ、やべぇ、逃げたい。来ないでこっち」

 泣き言を言いながらも、ギリギリで生き残る七人。


「ハードル高過ぎだよ」

「バカ、これはもはやハードルじゃねぇよ、完全に高跳びだ」

「それじゃ足りない、棒高跳びだこりゃ。って、来た来た、逃げろ」

 形霧達がここまで必死に、恥も外聞もなくなりふり構わず戦っている姿は初めてであった。いつもはスマートで、圧倒的で、暴力的で、カリスマ的な戦いをしているのだが、ここまで焦ってビビッて必死なのは一度もない。

 だからこそ、狂暴な縁の攻撃をギリギリで防げている。


 少しでも格好つけていれば、間違いなく切られているに違いない。


「もう、誰か、どうなってんのこれ? うわぁ来た」

「ばかぁ、背中見せて逃げるなよ恥ずかしい」

「そんな余裕ねぇわ。なんなのこのレベルの差わ。七対一でガッチガチに型ハメるンじゃなかったンか。マジで怖いんだけど」



 戦場を荒し、かき乱すことで有名なヤンチャ達が、余裕なく逃げ回るその光景に何とも言えない空気が漂う。

 ド派手な姿に大きな体、それこそ獣のように群れて狩りをするそれは、色んな者達から怪獣として恐れられている。


 口の悪さもずる賢さも、平気でだまし討ちをして、相手を悔しがらせる態度も、その全てが形霧達のスタイルでありカリスマ性でもあった。

 だが、縁の前ではしっぽを股へ挟み込んだ野良犬のよう。


 暴れる縁はまさに化け物であり、恐ろしいモンスターだ。



「ちょっと待って、俺、狙われてるって」

「ああっ、こっち来ンなって。ぬぁんで来んだよぉう」

「クソ。お前等どけ、俺がやってやる。クソ。タイマンだ」

 形霧が襲いくる縁の目に立ちはだかり武器を構えた。


「さすがリーダー。いつもみたく辻斬りスタイルでちゃちゃっと仕留めちゃって」

「うっせぇバカ。ザコじゃあるまいし、出来るかよ」

「いけるって。見せてあげたら必殺技を」

 必死に構える形霧に止まることなく突っ込む縁。そして更なる進化を見せる縁。


「おわぁ、縁が消えたぞ」

 形霧がびっくりして後ずさる。何度もワープしながら突如現れては消える縁。

「なんだよこれ、消えたぞ。キモチ悪ぅ。速過ぎて気持ち悪ぅ」


 至る所で縁を見失う。モニタールームでも何人かが同じ現象を味わっていた。


 縁が最終ランクで覚えた新たな移動法。それは、相手の(まばた)きに合わせてクイックをする、そのことにより姿が消えワープして見えるのだ。

 ただでさえ縁の動きは素早過ぎてついていけないほどの領域なのに、更に何度も姿を消されてはグウの音も出ない。


 縁の使うこの技には色々なバリエーションがあるのだが、縁はスタンダードに、相手の呼吸の吸い始めと、呼吸を吸いお終わった瞬間の制止する時の二度クイックする。瞬きには人によって色々パターンはあるのだが、縁は、習得した内でこれを好んで使っていた。


 肩や胸の微妙な動きを読み、縁は何度も消える。

 相手が瞬きする度にステップする。


「ふざけんなよ。消えるなんてありかよ」

 元からギリギリなのに、ダメ押しで心が崩れかける。


 複雑に移動しながら、縁は絶望的な攻撃を仕掛ける。まるで容赦しない。

 反時計回りに回っていたそれが急に逆に回転し、左斜め下から鋭い返し刃が右斜め上へと暴れるように駆け上っていく。

 これもまた最終ランクで強敵に敗れたことで編み出したミキサーという技だ。


 ミキサーの刃のように抉り切る感じからそう名付けられた。

 更にスクリューという技。これは、自らは回転することなく、正面で大鎌の刃のみを回転させる技だ。

 柄を右脇に抱え、柄の途中にあるトンファーのように突き出た棒部分を、両手を使ってハンドルを切るように回していく。これもまた右回りと左回りでは全く違うイメージになる。

 そしてこのスクリューという技のまま自らが回転すると、扇風機の首振り状態のようになり、まるで鉄壁の壁が縁を包んでいるような錯覚に陥る。



「こんなん無理だろ。こ、殺されっぞ」

 嫌になるほど強い縁にモニターする者達が溜息をつく。これがたった一人で最終ランクへ辿り着いた者の、真の実力なのかと。恐ろし過ぎると。


 縁は更に攻撃を強める。柄の後ろから紐を引き出し、大鎌を操りながら紐をも操る。そして逃げ惑う敵の足へと絡め、引き寄せながら敵を切りつけた。


「うわぁぁぁ」

 ――ギロチンという技だ。大鎌を持つ不利な縁が、距離を取り逃げる相手を絡め捕まえて処刑する技。


 ついに最初の餌食が出てしまった。形霧だ。


 リーダーである形霧が八つ裂きにされてからは、崩れるように一瞬で全滅した。逃げても足掻いてもどうにもならず、残酷な時が流れて終わった。


 戦闘開始からおよそ四十五分。

 これが長いのか短いのかは分からないが、モニターしていた者達は形霧達が信じられないくらい善戦したと感じていた。自分であれば、一瞬で切り殺されていると感じたからだ。


 へたり込む七人の元へ縁は近づく、そして「これで因縁ってのに決着がついたね」と冷めた声をかけた。


「クソ。差が縮まる所か……余計に開いてンじゃねぇかよ」

「悔し過ぎる。囲んでも何しても勝てないのかよ……」

 それぞれが悔しそうに愚痴る。

 地面を殴るように抑えきれない思いを少し吐き出す。


「縁、なんで俺達にだけこんなに当たりがキツイわけ」

「は? 別に特別きつくしてる気はないけど。ただムカついてはいるかな」

「なんで? 俺達なんかしたか?」

「してるだろ皆に。バカにして斬り倒したり、からかったりさ」

「縁にしてないだろ」

「そういう問題じゃない。それに、妹には迷惑が降りかかってンだよ。アンタらがバカにしたり、からかったヤツが、その恨みを組織のトップである寧結(いもうと)に仕返しに来て――」


「マジ? どいつ? そんなふざけたヤツいんの?」

「どいつって……、原因作ってんのはお前等だろうが。つまり、答えは、アンタらだろ? 別にどんな戦い方しようと、それぞれの勝手だけど、妹を巻き込むなよ。まだちっちゃいんだからさ」


「わ、分かってるって。俺達は、姫に逆らったこともないし、これからもそうだ。いつだって従順だし、マジでちゃんとしてるぜ。別に言われる前からずっとそうだぜ、俺達にとって姫は救いの女神だからよ」

「……迷惑な話だなぁ~それ。あ、あと、妹と写メ撮った時に、中指立たせたろ? あれだけは絶対に許せないから、次ぎあんなことしたら――」

「そ、それはもう何度も謝ったじゃん。皆で格好つけて写メ撮りたかっただけで、そんなに怒ると思わなかったし、逆に深く意識してなくてさ。それはホント悪い」

 長々と話すこと五分。

 ようやく話を終えて着替えへと向かう一同、そしてシャワーと着替えを終え皆と合流した。




「す、スゴ過ぎだよ床並君」濱野が感動で声を震わせた。

 先生や部員達も縁の暴れぶりにただただ興奮していた。今まで見てきた縁がどれほど自分をセーブしていたのかとはっきり理解できた。


 そこへ曽和と先ほど壇上に上がっていたメンバーが既に着替えを終えて現れた。


「縁君、見てたよ。この前の本戦より一段とヤバくなってるね。これじゃ嫌でも熱くなってしまうよ。ふむ。本当は夕食後にって話だったが、食事は戦場で取ることにしたよ。皆、縁君の戦いぶりに、居ても立ってもいられなくなってしまってな。見てくれよ」

 八爺(はちや)会の者達と曽和の組織、灯桜(ひざくら)組の者達の全身から危ない殺気が溢れていた。真冬の空気に砂漠の熱気のような陽炎がくゆる。


「それじゃ、先を急ぐからこれで。敵はもう出陣してるらしいからな」

「も、もうですか? はぁ。曽和さん、頑張って下さい。応援してます」

「ありがとう縁君」

「おじぃ~ちゃん。絶対勝ってね。悪い奴は全部やっつけてネ」

「ああ。ありがとう寧結ちゃん。正義の名に懸けて悪党には負けないから」

 戦が待ちきれないようで、足早に戦場へと向かう。それを見送るとすぐ、別の者達もぞくぞくと現れた。


「え~にし。なんか~、私らも戦うことになったんよ~、サイテ~。せっかく縁とお話しできぃうと思っとったのになぁ。ちゃんと見んさいよウチが戦うとこ」

「暦、抜け駆け? 知らんよ、そんな余裕みせてると。縁にちょっかい出したこと泣くほど後悔さしてあげるから。縁ぃ~、頑張るから見ててねぇ」

「ナァ~それ? 紬やって縁に色目使っとぅやないの。そっちこそ後悔さしちゃるけぇね」

 言い合いしながら外へと出ていく。

 予定にない組織の争いが至る所で勃発していた。


 次から次へと慌ただしく事が流れていく。

 部員達は、正直、ここへ来るまで予選大会に参加したいと本気で思っていたし、心のどこかで、出られないことをふて腐れている部分もあった。だが、実際に来てみてはっきり分かるのは、何もかもが想像とは違うということ。

 スケールの大きさも、そして自分達の小ささも。


 アイドルであったり有名人でもある、そして剣道部としてもそれなりに強くなっていると自負していた。何度も縁に防御が大切だと言われても……自分の意志思考がどこかで勝っていたに違いない。


 人はそれぞれ様々な思考や論理がある。そしてどれが正解か曖昧でもある。

 ただ言えるのは、学者や科学者は、空想や論理は、実験などによって立証されなければ正解や答えではないと結論付けている。まさに正論だ。

 しかし、それでさえ、意見は分かれ、多くの答えが散乱してしまう。

 何人かの医師が、ダイエットについて全く違う見解をみせたり、他にも何が体に良くて何が悪いかなど色々な意見に分かれる。しかも様々な実験データの元。


 ちゃんと研究発表されているモノでもぶつかり合うのだから、脳内で考えた論理や思考は空想というより妄想レベル。そんな意識レベルで、実際の生活に反映させてはならない。

 だが、大抵の者達はそれが正しいと信じ、思い込み、時には意見をぶつけ合う。特に男の子はそういうことが大好きだ。誰が強いとか凄いとか、それこそ何でも。


 そんな中で、一つ言えるのは、やはり頭の中だけの話はナシということだ。最低でも仮想空間、いわゆるバーチャルな世界、ゲームなどでもいいからとにかく自分が思っていることがどれほど立証できるか試すということ。

 例えば自分が本気を出したら強いとか、いざとなれば相手を倒せるとか、他人の意見より自分の意見の方が凄いと思うのであれば、まずは、ゲームの世界でもいいから、一番強くて上手いということを立証するべき。


 たぶんそれさえ難しいし、できないかもしれない、本当のことはその先にある。


 ゲーム内で簡単に潜れていたスキューバー体験が、実際には耳貫きさえできないとか、簡単に乗り越えられていた壁も越えられず、少し走っただけで息切れ……。挙げればキリがない。これが現実世界である。

 つまり、仮にゲームで出来ても現実ではヤバイのに、バーチャル世界でさえ立証できないような強さや論理は……果てしなく妄想ということになる。


 部員達もまた頭で考えたことの甘さに気付いておらず、この場所へ来て嫌というほどに実感してしまったのだ。




「お腹空いたね。御飯食べに行こうよ」縁が笑う。

 モンスターのように暴れていた縁から、いつもの縁に戻っていた。というよりもまるで別人のようであった。


 歩きながら裏画が縁に聞いた「あのさ、曽和さんが持ってた武器ってアレ、サスマタだよね? あんなんで戦えるの?」

「うん」頷く縁。


「バカだな裏画、あれ、メチャクチャ強いって。あっ、そっか、お前合宿来てないから知らないンだったな。超強いよ」

 夏合宿に参加してなかった者達が濱野の台詞に「へぇ~」と感心した。


「曽和さんは、幾つか武器があるんだけど、さっき見た感じだと、今日はサスマタと十手で行くと思う」

「十手? 十手ってあの時代劇とかで『御用だ御用だ』のアレ? うそぉ。アレってさすがに無理でしょ? サスマタも特殊だけど、十手って……」

「裏画先輩、それは違いますよ。曽和さん愛用の十手はマジでヤバイですよ」

「そうは思えないけど……、十手ってそもそもどうやって使うの?」

「うんとね、ソードブレーカーって分かります? 実は十手って――」


 縁は丁寧に説明をし始めた。歩きながら皆が耳を傾ける。初めて聞く『ソードブレーカー』とい言葉に興味津々だ。



 世界には、剣などの刃を絡め取る為に作られた、ソードブレーカーなる剣がある。国によって様々な形があるが、その特徴は敵の刃が溝にハマる形状になっているということ。そして十手もまたその類のモノなのだ。


 そしてソードブレーカーは剣ではあるが、利き手ではない方に装備し武器としてではなく、盾として使う代物なのだ。つまり防具。

 十手もまたそう。その作りは、世界でも最も切れ味の鋭いと言われる日本刀を防ぐ為の防具であり、相手の刀を絡め取ったり、時に刃をテコの原理でへし折るとんでもない武器。


 更に敵の兜を叩き割ることも、そして敵陣に突入時に扉や物を壊すことにも使われた、いわば万能道具ということだ。


 見た感じ、日本刀と十手では勝負になるのかと思ってしまうが、ひとたび刃先と十手が触れ合おうものなら、シャレにならないほど強い。どんな剣の達人でもそう、いわゆる剣道の試合で竹刀と竹刀が触れ合うイコール、即詰みで終わり。

 十手とはそういった類の武器。


 戦い的には空手と合気道のような違いであって、圧倒的に空手の打撃が強いイメージはあるが、そこはどちらというより、やはり五分五分であり、より技を極めた強い方が勝つ。


 そして、剣の道にも精通している曽和にとって十手は、ヤバイレベルの盾であり防御武器なのだ。敵が刀系ならまず間違いなく、絡め取られるように技をキメられてあっけなく終わるであろう。

 打撃と関節技の質や違いを知らないモノには、空手や剣の方が圧倒的有利に思えるだろうが、合気道や十手の意味が分かる者には、五分かそれ以上に感じ取れる。



「そうなんだ。どんな感じかはまだ分からないけど、確かにそうだよね。十手って日本でちゃんと使われてた物だもんね。使いづらかったら使わないよね普通。それどころかメチャクチャ使いやすかったりしてね」

「ソードブレーカーか……。俺も……片側を武器の代わりにそれにしたら、相手の武器を奪えるかもしれないってことだよね」濱野が考え深げにつぶやく。


 話ながらレストランに着くと、モニターできる席を指定し、皆で食事を始めた。形霧達の姿はなく、久しぶりに剣道部員と先生だけだ。っと久住。

 もちろん寧結も萌生もいる。


 モニターをチラチラ見ながら、豪華な夕食を食べる。君鏡の活躍や裏画のドジな出来事、様々な話とともに食事は進む。

 留理は縁の横に座れたことで上機嫌。反対側は君鏡であった。何度も飲み物をおかわりし、大好きなデザートを食べながら、ぺちゃくちゃとおしゃべりし、曽和などの戦いを観戦していた。


 あっという間に二時間半ほど経った。


「皆、そろそろ、お風呂とか行かないと」

「え、お風呂行くの? 俺達シャワー浴びちゃったけど」

「ですよね、先輩達は先に部屋で休んでて下さい。今日は凄く疲れたと思うし」

 縁はそういうと、部員達に問いかける「部屋で各自入るか、大浴場にするか?」と。


 答えはまちまちで、先生二人は当然のように大浴場。更に今込も新入部員も遊び足りないとばかりに大浴場を選んだ。


「床並君も入るでしょ風呂、入るよね? 暇だし行こうよ」今込が誘う。

「そうっすよ。まだ話したいコトあるし」室巣も今込に続く。

「うん。そうだね。俺も今日はまだ遊びたい気分かな」縁も笑顔で頷く。

「ちょっと~。それなら俺等も行くってぇ~。置いてかないでよ」

 裏画と濱野も、大浴場で遊びたいと言い出した。


「兄ぃ。私と萌生ちゃんもお風呂入るけど、別にいいよね?」

「いいけど、走って転ぶような危ないことは絶対するなよ」

「はぁ~い。分かってるぅ」萌生と二人で聞き分けよく返事した。

 縁は折紙先生とマネージャーの葉阪に、寧結と萌生のことを頼んだ。





 風呂から出てそれぞれが着替え終えてどれくらい経っただろうか。

 時刻は十時をとっくに回っている。


 寧結と萌生は寝てもいい頃だが、今日はまだ遊んでいる。


「やばい、なんかぜんぜん眠れそうにない」裏画がぱっちりと目を見開く。

 濱野も君鏡も同じ感じだ。見た目の興奮は収まって見えるのだが、脳の状態は、それとは違うようだ。どうやら戦の興奮で眠れない感じだ。


「それじゃ、別のゲーム場でも行く?」室巣がはしゃぐ。


 ホテル内には様々な遊技場があった。テーブルゲームがメインの、麻雀や囲碁、将棋、カードゲームなどの部屋。そして、卓球やビリヤードなどの部屋。他にも、ボウリングやスケートボード、インラインローラーなどの大きな場所もある。

 ホテルを少し出ると、ゴルフの打ちっぱなしや、テニスやフットサルなどを遊べる広場もある。


 そして、子供は立ち入り禁止の、酒場とコインカジノもあった。



「どうする、今度はどこいく?」

「カラオケは?」

「えっ、カラオケ? この人数で?」

 女子の何人かは自分の得意分野であるカラオケで良い所を見せたい。

 しかし、一部の女子とほとんどの男子は歌を歌うのは……苦手であった。という流れで、多数決の結果却下される。


「そんじゃどこ行くの?」

「ここ行こうよ」

 ロビーで貰ったホテル案内を指さし次の目的地へ。なんだかんだで結局のところ全部回る勢いで歩いて行く。

 そんな中、君鏡は途中で抜けて、ずっと気になっていた場所へと一人向かった。

 濱野と裏画もどうしてもと抜けて、気になっていた場所へ向かう。


 三人とも身分証や本戦参加証などを受け取り、更に沢山のポイントを貰ったことで、いわゆるウィンドーショッピングをしたかったのだ。

 君鏡はここへ着いてからずっと欲しく堪らなかった、縁や寧結などの戦歴が載っている歴史書が気になっていたのだ。それには棋譜(きふ)のようなものからあらゆることが記されてある。他にも色々と気になる本もあり、それを買うつもりだ。


 一方濱野と裏画は、武器や防具の(ショップ)で子供のように隅から隅まで見ている。

 使ってみたい武器や防具、何を装備して何を使えばレベルアップ出来るか二人で意見をぶつけながら見て回っていた。


 吉原先生と折紙先生は、子供が入れない場所へと出向き、子供が知らない大人の遊び方で時間を潰していく。




「ねぇ床並君、これやろうよ」可愛くくっつく留理。

「それよりもこっち」反対側を小峯が引っ張る。

 少し前は登枝と百瀬が似たようなことをしていた。


「ちょっと~。たまには俺等にも床並君貸してよ。次はエアホッケーとかやりたいンだけど。二人でチーム組んで勝負しようよ」今込がいう。

 すると、近くに居た萌生が「そんじゃ、私と寧結ちゃんのチームと勝負しよ」という。しかし、寧結も萌生もだいぶ目が座ってきていた。さすがに眠いのだ。


 小さな子供は、戦い後の興奮で眠れないなどというものはない。どちらかというとその逆で、試合前や遠足前に考え過ぎやワクワクで寝れないということはある。ことが終わってしまえば、まるで何もなかったように綺麗さっぱり忘れてしまう。残るのは体の疲れくらいだろう。


「いいねぇ。やろう。床並君、そんじゃまずは俺と床並君で」

 早速、今込と縁で組んで、寧結と萌生とのバトルが始まった。最初の五点ずつくらいまでは激しい攻防戦であったが、その辺りから寧結と萌生の目がしょぼしょぼとし出し、コクリコクリと揺れ始める。

 戦いながら寝るなんてありえないが、半開きの目で寝ぼけて戦っている。それも急に。ついさっきまでは鼻息荒くしていたのにだ。


「あ、ちょっと待って。もう二人とも眠いみたい。俺、二人を部屋に連れてって、寝かせてくるから、皆遊んでてくれるかな?」

「床並君、ちゃんと戻って来る? 一緒に眠っちゃうとかない?」

「ないよ。今日は、まだまだ皆と遊びたいから。どうしても……。遊び足りないくらい」

 縁の笑顔に今込も皆も安心して頷く。縁は二人を両肩に抱っこするとスタスタと歩いて行った。しばらくすると濱野と裏画が戻ってきた。


「あれ? 床並君は?」

「寧結ちゃんと萌生ちゃんを寝かしつけに行ったよ。もうすぐ戻って来るンじゃないかな」

「そっか」

「先輩達はどこ行ってたんすか?」室巣が興味深く尋ねる。

「へへっ。秘密。ちょっとな」

 フラフラと遊び場を歩きながら縁を待つ。濱野と裏画はまったく遊び足りないので、目についたダーツをすることにした。

 しばらく遊んでいると、今度は君鏡が戻ってきた。


 欲しかった本を数冊買い、全てを自宅に届けてもらうように手配していた。

 良い買い物が出来てテンションは上がりっぱなしだ。女の子はやはり、買い物が大好きなのだ。


 無理だと諦めてた本がまさか手に入るとは思ってもいなかったようで、ワクワクが止まらない君鏡。それこそ濱野や裏画のように隅から隅まで見て回ってきた。

 他のショップにも行きたいようだが、とりあえず本命の本が買えたことで、一度戻ってきたのだ。



「ごめん、待ったよね。ちょっと遅くなっちゃったぁ」

 縁が笑顔で戻ってきた。そしてノリノリで遊ぼうと笑う。まるで小学生みたいな笑顔。皆と遊びたくて仕方ない気持ちが溢れている。それに皆も応える。


「よ~し、そんじゃ今日はオールで遊ぶ?」濱野がはっちゃける。

 それに一番に手を挙げて乗ったのは縁だった。次に裏画、次が室巣、そして皆。


 この後、冬休み最後をエンジョイするべくどこまでも遊び続けた。





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