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バースデイ  作者: セキド ワク
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五三話  終幕の後先



 終了のベルが鳴り、本戦への参加資格をかけたこの予選大会に幕が下りた。

 それぞれが戦に敗れた心と体を引きずるようにホテルへと戻って来る。


「お疲れ様」縁は満面の笑顔で皆を迎えた。

 照れる萌生。踊り疲れた君鏡。サウナ上がりのような濱野と裏画。


 シャワーと着替えを済ませて皆と合流したそれらは、まだどこか夢の中にいる感じだ。祭りの後というよりは、ライブや遊園地帰りのような、舞い上がった感情がにじみ出ていた。



「ふぅ。なんだろ? なんかすげぇ怖かったぁ」

 自分でも何を言っているのか分からない言葉が口をつき、声高く、別人のような空っぽな声が耳に戻る、自分で自分じゃない気がしてならない。その違和感にまた意味のない言葉が口をついた。


 疲れた濱野達に無理に語りかけることなく、熱くなった心が徐々に冷めるのを待って、縁はゆっくりと心を寄り添わせていく。――と、そこへ。


「ちょっといいかな? 私はこういう者だけど――」

 高級なスーツの上に高級なコートを羽織り、傍に居る女性秘書から受け取った名刺を差し出してきた。まだボーッとしている濱野がそれを受け取った。


「えっと……ん?」名刺を見ても何も分からない濱野。

 男は順番に名刺を手渡していく。君鏡も裏画も受け取った。


「三人とも、本当に凄い戦いぶりだった。データによるとこれが初陣とのことだけど、実に興味深い。本戦に挑む前に、ぜひとも話をさせてもらえないかな……」


 スカウトだ。この男の周りには同じような目的を持った者達がずらりと並ぶ。


 意味も分からずポカンとする濱野、君鏡、裏画。縁は『これ、スカウトだよ』という趣旨を伝えた。それでもまだ理解は出来ていない。


 ここに居る者達は皆、本戦での組織作りの為に、とんでもない金と労力をかけている。いわば、将棋でいう駒、カードゲームのカード収集をしているのだ。どんなスポーツでもそうだが、選手を獲得するのに必死なのだ。


 両手で持ちきれないほどの名刺を受け取る三人、とそこに久住が現れて、何かを手渡した。


「これ使いなよ。今そこで買ってきた」名刺入れだ。

「ありがとう久住君」嬉しそうに頷く濱野。

 三人ともお礼をいうと早速、束になった名刺を整頓し始めた。


 小さな手帳型のケースがあっという間に埋まっていく。それを後ろから覗く吉原先生、そしてその社名に腰を抜かすほどに驚いていた。

 ほとんどが日本、いや、世界で名の知られた大企業だった。一流企業の社長?

 そんなとんでもない存在がなぜここに? しかも直接名刺を手渡すとは……と。


 仮に駒の獲得が必要なことだとしても、その専門家に任せればいいことで、わざわざ自分で出向く意味があるのかと疑問に思ってしまう。

 それほどにありえない光景であった。


「ぜひ、ぜひうちの会社に来てくれないか? まずは日を改めてじっくり話そう。いやぁ、それにしてもとんでもない逸材だ」

 興奮が溢れている。喉元から伸びた手が口から飛び出し、エイリアンのように、君鏡を狙う。濱野を狙う。裏画を狙う。どうしてもこのレアカードが欲しいと。


 名刺を手渡した後も、他の社長たちがどう接するのかを見ている。縁もどんどん集まるそれらをチラチラと確認していた。


 やはり誰もが大企業の者達。縁は、それらがモニタージャックで君鏡たちの戦いを全て覗いていたのだと分かった。


 モニタールームでのカメラ設定には、縁のように三台とも自分で仲間を追わすこともできるのだが、大抵の者は違う。一台だけ追わせて残りの二台は敵のモニターをジャックするのだ。それによって自分達が立てた作戦や戦略と、敵の策や動きがきちんと見定められるのだ。

 しっかりとした勝ち負けの有無も分かり、何がどういけなかったのか、何が勝因だったかも分かり、のちの作戦に活かせる。


 ただ滅茶苦茶に戦うなどなく、緻密(ちみつ)に計算された作戦と陣形と行動。

 もちろんこれは、あくまで自分と敵達の行動を分析できるだけで、その戦でどうこう指示出来ることはない。あくまで流れと結果、因果関係が分かるのみで、駆け引きなどの反省、次の大会での対策や参考でしかない。


 今回、ここに居る誰もが縁のモニターの一つ、もしくは二つをジャックしていたのだ。普通に考えれば運営が何度も映し出す寧結のモニターということはしない。そして寧結と一緒に行動する萌生ということも考えにくい。つまり必然的に、君鏡を追うモニターということになる。


 ただ不思議なのは、本来なら初陣の君鏡達を覗くよりは本戦から流れ込んでいる多くの強者をマークしているはず……。その方が戦の展開は読める。

 もちろん、それを見た所で予選レベルでは、本戦の参考にはならないのだが。



 沢山の者達が距離を置きながら縁や君鏡の周りに群がっている。

 この状況を羨ましそうに見ている敗者達。本戦に上がる為にランク上位者にまでフォローしてもらったのに……、多くの者達が失敗して散った。花が舞い散るように風が吹くだけでひらひらとあっけなく。


 たったの一撃で終わる。だからこそ仲間や陣形が重要になる。

 そして個人の能力も。



「縁、見~っけ」

 いきなり誰かが縁に抱きついた。それを皆が見る。縁も見ようとするが上手に縁の視界から逃げてキャッキャと笑う。と、またもそこへ誰かが来た。


「勝手に私のダーリンに触れないでくれる、暦」

「ダーリン? 独り言はネットで(つぶや)きなよ、紬」


 (くれ)(かた)(こよみ)、それが縁に抱きついている子の名だ。


「縁ぃ~。聞いた今の? 私怖い。あの子、怖~い。あ、そうだった。私ね、縁と同じで次から最終ランクに上がったンだよ。ねぇ、どうする? また一緒になっちゃったね。これってさ、もしかしたらだけど~運命なんじゃない? だってさ――」

 甘えながら縁の二の腕に大きな胸を押し付ける。


 進卵学園の女子部員達を全く意に関せず甘える。仮にもアイドルやモデル、女優だっている。それもテレビや雑誌、ネットでも顔も名も知れた存在……、だがこの場所ではまるでそれが通じないよう。


 派手に振る舞う作屋と暮方。


「これ暦、それくらいにしときなさい。縁君も困っておるじゃないか。しつこくすると本当に嫌われてしまうぞ」

「パパ。だってぇ……。縁がぜんぜん構ってくれないンだもん」

 パパと呼ばれた者が暦の頭をポンポンと撫ぜると、一直線に君鏡へと向かった。そして御付きの者から名刺を出させ、それを手渡す。


「箱入さん、色々と名刺を受取ったと思うが、どうかうちを選んでね。よそと違ってウチは、女性の働きやすい職場だし、待遇もそれ相応にさせてもらうから、もちろん楽しいとも思うし……どうかうちに」

 名刺を手渡す者達は誰も必死な感じだ。

 お金だけでは簡単に手に入らないモノを、全身全霊で欲しがっている。


 しばらくそんなやり取りが続き、ようやくひと段落した。その頃には三人の上がり切った心も、少しだけ落ち着きを取り戻していた。




 縁達は導かれるように閉会パーティー場へと案内される。そして用意された座席で飲み物を飲む。


「ただ今より閉会式と本戦参加資格証を授与します」


 用意された指定席で、淡々と進む式を眺めていた。この会場に入れるのは、本戦上位者や今大会の出資関係者のみで、一般参加者は別の場所でモニターしている。


 徐々に話は進んでいく。


「それでは、今大会の第一位でありMVPである箱入君鏡様、それと第二位の濱野明則様、第三位の滝本萌生様、第四位の裏画季史様、以上の方々は、前方の壇上へとお越し下さい。なお、本来は第六位までお呼びしていたのですが、第四位と五位のポイント差があまりにも開いていましたので、今回は四位までとさせて頂きます。最後まで戦い抜き、無事、本戦への切符を勝ち取られた三十名の方々には、閉会式の終了次第、身分証カードの更新や、本戦参加証などをお渡し致しますので、ご了承ください」


 会場内がざわつく。それはあまりにも合格者が少ないことにだった。


 今までで最も少ない記録は、別の大会場所で六十人ということがあった。だが、その時は寒波や大雪が原因であって、不慮の事故ともいえた、が、今回は違う。

 戦自体が大荒れしたのだ。本戦から多くの刺客やサポート役が雪崩れ込み、その結果とんでもない波乱が起きたわけだ。


 そんな中勝ち残った者達は、間違いなく実力者であり強運の持ち主でもある。


 皆が君鏡の歩みを見る。君鏡は照れながら前方へと進み、そのすぐ後ろを濱野と裏画がつく、萌生は寧結の袖を引き、付き添ってもらう形で壇上へ向かった。


 寧結を含めた五人が壇上へと着くとすぐ「おめでとうございます」とマイクから声が流れ、会場内からも惜しみない拍手が送られた。

 とてつもなく威厳のある者達の圧力というか雰囲気に、君鏡も濱野も焦りながら照れていた。


 人生でこういった目上の者に褒め称えられたことなど一度もない。それに一度も味わうことなく死んでいく人が殆どであろう。しかし今、場内は、スタンディングオベーションで最大限の賛辞を表している。


 ペコリと頭を下げる君鏡。頭を上げると縁が笑顔で拍手してるのが目に入った。濱野も裏画も、馬鹿にされることはあっても褒められたことなどないので、心からとろけていた。



 ようやく拍手が鳴り止むと、司会進行役の者が話を進めた。まずは三人がどういった者達でどこに所属しているかなど。


「――で、進卵学園の剣道部ということです。お三人ともそこで、皆さんもご存じの、狂料理者マッドコックの称号で有名な、床並縁様に教わったとのことです。そしてなんと、三人ともまだ無所属で、どことも契約や同盟もしていないという超レアな新人様で――」


 次々と語られていく。順番に紹介され萌生の時にはどよめきが何度も起きた。


「それではここで、各自のポイントの集計と結果を発表します」


 君鏡は、懸賞金としてかけられた五百ポイント、と、自ら敵を倒して稼いだ三百ポイント、を足して合計八百ポイント。

 濱野は、同じく懸賞金の五百と敵を倒しての二百を足して、七百ポイント。

 裏画は、懸賞金の三百と敵を倒しての百五十を足して、四百五十ポイント。


 ちなみに三位の萌生は、最初の持ちポイントが五ポイントで、後の全ては、敵を倒して稼いでいた。

 実質、予選者の中では萌生が最も敵を倒している。それも、本戦ランクの上位者ばかりを。


 もちろん君鏡や濱野達も、逃げても狙われてしまうので、同じく本戦ランク者を何人も倒してはいた。


 本来は、ボーダーラインであった二十ポイントを獲得するのでさえ相当きつく、五位の者の獲得ポイントは、三十五ポイントであった。

 生き残ることも難しいが、ポイントを稼ぐ為にはより強い敵を倒すか、それなりの人数を倒さなければいけないということだ。



「箱入君鏡様には、ご自身での獲得ポイントとは別に、第一位として千ポイントとMVPとして五百ポイントを、賞金としてお送りいたします。なので、今大会の合計は二千三百ポイントとなります。次に濱野明則様は、第二位として五百ポイントを賞金としてお送りしますので、合計獲得ポイントは、千二百ポイントとなります。滝本萌生様は、第三位として二百五十ポイントをお送りしますので、合計は七百七十五ポイントとなります。第四位の裏画季史様は、百ポイントをお送りしますので五百五十ポイントとなります」


 壇上では、訳も分からないまま笑顔で会釈する三人の姿があった。

 そんな中、寧結と萌生は話そっちのけでじゃれている。


「それではここで、お一人ずつに、何かごあいさつを頂きましょう」

 司会の言葉に戸惑う君鏡。マイクを手渡されるが、何を話していいか分からない。司会者に助けを求めるように「何を言えば……いいのでしょうか?」と小声で尋ねると「感想的なことをお願いします」と優しい口調で教えられた。


「は……箱入君鏡と申します。高校一年生です。今日は、部長……、と、床並君に教わった通りに出来て無事に生き残ることが出来ました。最後の三十分は休みなく襲われてもうダメだと思ったのですが、久住君が助けに来てくれてそれでどうにか助かったというか。とにかく濱野先輩や裏画先輩、皆のおかげで……、なんて言えばいいか、その、すごく楽しかったです。また遊んで下さい」

 深くお辞儀をする君鏡に、皆がまたも拍手する。


 ついで、濱野へとマイクを移動する。濱野はしどろもどろになりながら、いかに自分が頑張ったのかを説明し話を終えた。拍手の中、萌生へとマイクが渡った。


「私は滝本、萌生です。寧結ちゃんと二人で、いっぱいやっつけちゃったけど~、なんか皆にげるから~。私、思ったんだけど、あんなににげちゃダメだよ。濱野と裏画だってにげずに戦ったってごはんの時言ってたし。ね~寧結ちゃん」

 萌生が持っていたマイクを寧結に向ける。

「そうそう。にげすぎ。いい? 右向け右じゃダメ。分かる? 右折禁止ってこと。もっとこぅ~、いっしょうけんめいにさ、なんて言ったら分かるかなぁ……、そうねぇ~子育てと一緒」


 寧結の訳の分からないセリフに全員が笑いを堪える。言っている意味もそうだが、小さな子供に似合わない言葉が飛び出したことに度肝をぬかれているのだ。


「だよね寧結ちゃん。私もそう思うよ。あれじゃ育児放棄だよ。追いかけっこっていうより、逆に、こっちが疲れちゃうもんね」

「そうそうそう。けっきょく、大人って子供なんだよね。だから逆に、子供の方が大変、疲れちゃう。嫌になっちゃうよね。でもウチらはなんだかんだいって可愛いから、つい許しちゃうタイプというか、ねぇ萌生ちゃん」

「うん。絶対そう。皆さぁ、絶対私ら見てさ、初恋の人を思い出してると思う」

 萌生と寧結の訳の分からない話に完全にズッコケる。

「いい皆? 大人なんだから、カラ()られてちゃ、ダメだよ。もっと背中に一本、筋を通さなきゃ。健康気にして、サラダばっか食べてないで、運動をして、もっとハンバーグとかカレー食べなきゃ」

「そうだね。それじゃカラクリにカラ繰られてるよね。イチゴののってないショートケーキより、イチゴの入った大福の方が、偉いってこと。わかるよね?」

 何をおっしゃってるのか、まるで解らない。

 ……多分だが、上辺じゃなく、中身が大事というニュアンスかもしれない。


 オマセなのかなんなのか分からないが、どこかで聞いた単語を適当に散りばめて使いたがる子供独特の会話、分法もメチャクチャで、大人には異次元過ぎてとてもついていけない世界だ。


 ようやく二人の話が終わりマイクは裏画へと渡った。裏画は少しだけユーモアを入れて感想を述べたが、萌生と寧結の衝撃が強過ぎて薄味で終わった。


 沢山の拍手の中、五人は壇上を下り席へと戻る。

 そして席へ着くと、縁から改めて拍手と「おめでとう」という言葉を貰った。



「ねぇ床並君。このポイントって何かな?」

 縁は三人に詳しく説明した。その途端、あまりのことに腰を抜かす。

「うぇえ? う、うっそ。じれない」

「じれない? 『じれない』ってなんですか?」

「いや、前に寧結ちゃんが使ってたから、って違くて、これ? え? だってぇ。ホントにぃ。これお金なの? 一ポイント一万円? じれない」

 じれないとは『信じられない』の驚いた系だ。とっさに出た濱野の本心。


 いきなりの大金に驚きが隠せない。

 宝くじに当たったほどではないが、君鏡は二千三百万円。濱野は千二百万円。萌生は七百七十五万円。裏画は五百五十万円ということになる。


「ホント? 嘘なら早めに言って、ショックが……」

「本当だよ。ただ、しばらくはポイントのままにしておいた方がいいよ。お金に直すと色々と税金とかかかるから。後で色々と細かな説明するけど、俺と同じ税理士さんにお願いしてあるから、連絡先とかちゃんと説明するね」

 縁の言葉に少しずつ実感する。周りではあまりのことに驚いていた。

 いきなり同じ部活の仲間が大金を手に入れたのだから、当然と言えばそうだ。

 ただ、留理だけはこういった状況を薄々理解していた。それは、この予選会よりも盛大な、客船でのイベントにアイドルとしてゲスト参加したことがあったから。



「防御スーツとか預けたでしょ? 基本的には預けっぱなしで、移動先をパソコンで入力すれば毎回一ポイントでどこにでも届けてくれるから」

「へぇ~、そういうシステムなんだ。武器もそうなの? 武器もそうなんだ」

「これから自分で色々買ったりして沢山所有したら、ストックの中から家に送ってもらうこともできるけど、最低二セットまでは業者に預けっぱなしにしないとダメなんだ。色々とメンテナンスとかもしてくれるしさ」

 三人は何度も頷く。興味津々に縁の話す細かな説明を聞く。そんな中、司会進行の者が何かを言うと、会場内が盛り上がり出した。


「ん? どうしたの?」縁が壇上を見た。

 すると壇上に曽和と数人の者達が上がり、何やら契約をし出した。

「さぁ、今夜のエキシビジョンマッチはこれで成立しました。今日はなんてついているのでしょうか。すでに手を結んだ(たて)(しば)(とよ)()グループを中心とした重騎士連合と若き起業家の群れ、(でん)()衆、そしてついに、あの(はち)()同盟に、曽和道孝様率いる()(ざくら)組が加わり、三つ巴の決着戦を行います。これにより、本戦での新たな同盟が結ばれ、激化した戦乱にまた一つ大きな組織ができるでしょう」

 会場がざわつく。知らぬ間に進む組織同士の駆け引きと勝負。

 それぞれが先を読み伸るか反るかの賭けに出ている。もちろん負ければその代償は大きいが、出遅れた組織は本戦で不利になるのも確かだ。


「ここで急遽参加なされることとなった曽和様から一言頂きたいと思います」

 マイクスタンドの前で喉の調子を整える曽和。


「んんっ。まずは、箱入さん、濱野君、萌生ちゃん、裏画君、おめでとう。想像以上の活躍ぶりに正直すごく感化されたよ。さすがは縁君の門下生だ。私も同じ門下として今夜の戦は戦わずにはいられなくなってね。兼ねてからの知り合いの八爺会に手を貸すことにした。そして今日――」

 曽和の会話に場内がざわつき密かに動き出す。濱野達も曽和の会話に色々な疑問が湧いていた。


「床並君、同じ門下ってどういうこと?」

「え? ああ、それ。曽和さんは俺の教え子というか、カタチだけだけど俺経由でこの世界に入った形になってるから。先輩達と同じというか」

「そうなの? ええぇ?」

 縁の言葉に先生を含め全員が驚く。なにせとんでもなく凄いオーラの曽和が縁の門下生という新事実。一体、縁は何歳の時に曽和と出会ったのだろうと。


「それじゃ、もしかして曽和さんは兄弟子ってこと?」裏画が興奮する。

「う~ん……。弟子ではないから違うかな」

「なんだぁ、違うのか。そうだったら嬉しいのに。あっ、それじゃさ、寧結ちゃんとは」

「寧結? 寧結とは、そもそも全然系統が違うんだ。俺の師匠は白根……、いや、クロエって人でね、寧結は、ウチの父親の系列だからさ。そうそう、萌生ちゃんは寧結を経由してるから、別の系統を継いでるよ」


「そうなの? へぇ~。入り方とかも細かく分かれてるんだね」

 なおも話は続く。



「あのさ、今夜って言ってたけど、もしかして今からバトルするの?」

「そうだよ。本戦というか普通は、一日中戦うし、酷い時は丸二日間やり合うこともあるよ。あ、でも十八歳以下は基本ダメだけど。そんで十五歳以下は今日と同じくらいまで」


「マジ。今日のでもメチャクチャきつかったのに……。まるでフルマラソンみたいなかんじだったよ」

「そうだね、初めてでは確かにきついよね。まぁ、今日のは十キロマラソンって所かな。そんで朝から真夜中までがハーフマラソンで一日ブッ通しがマラソン、で、丸二日やるのが百キロマラソンみたいな感じかもね」

 聞くこと聞くこと全てが驚きで、皆、興味津々だ。


「ねぇ床並君、今更こんなこと聞くの変なんだけどさ、これってさ……一体なんのスポーツというか競技なのかな」今込が意を決して尋ねた。


「スポーツ? う~ん難しいなぁ。なんて言ったらいいだろう。競技としてやっている人は『(いくさ)(どう)』なんて呼んでるけど。でもね、上に行くと少し違く感じるというか、気付くというか。これってスポーツや競技じゃなくて……、なんだろう、相手を殺さないルールのリアルな戦? 国取り合戦って言えばいいのかな。今壇上に上がってる人達見れば分かると思うけど、ここでの戦の結果が、リアルな社会でそのまま反映されるというか」


「どういうこと? それって、ここで行う戦で日本中の会社が優劣を付けてるってこと」

 吉原先生と折紙先生が身を乗り出した。


「まあそういう感じですかね。ただ、誰もがこの戦に参加できるというわけじゃないから、世の中で、この事に全く気づいてもない企業もいっぱいいるとは思いますけど。今日も全国の会場で、様々な大企業が本戦に向けて組織づくりしたり、同盟を組んだりしているのは確かです」


 君鏡はポケットに入れた名刺入れを取り出し、もう一度眺める。それに釣られて濱野と裏画もとりあえず真似ていた。


「床並君さ、もしかしてこれって、スカウトじゃなくて就職ってこと?」

「就職だけど、スカウトだよ。スカウトがメインというか、でも就職でもあるというか。ん~、正直そこの所は俺もまだ就職したことないから分からないけど……」

 縁も高校生なので詳しくは分かっていない。



 曽和の話が終わり、司会進行の者が、戦の開始時刻を夕食後と説明していると、突然マイクを奪い、聞き覚えのある声が縁を名指しした。


「縁! 俺達もそろそろ因縁に決着つけようぜ。お前が言うように、俺等すぐにはランクを上げられそうにないし、今の本戦はでっかい抗争が勃発して二、三年は荒れっ放しだろうし、ここらでハッキリさせようぜ。姫からも『やっちゃっていいよ』って許しも貰ってるし、どうだ? 逃げずに受けるか? 今夜」


 会場内が縁を見る。曽和も剣道部も縁を見る。

 すると縁は「ちょっと行って来るね」と優しい笑顔を部員達に見せ、壇上へと向かい歩き出した。

 壇上へ上がり形霧達と向かい合うと、持っていたマイクを縁へと手渡した。


「どうなっても知らないよ。俺、今日は、手加減とかする気ないよ。まぁいいや、やろうか。それじゃ、今すぐ、夕食前にやろうぜ。一瞬で終わらしてやるよ」

 ゾクッとするほど凍てつく声。穏やかな空気が一瞬で冷えた。


 すると曽和が縁の肩に手を置き「お互い、感化されたかな?」と笑った。


 壇上に居る者達が「それは皆でしょう」と笑う。会場内でも至る所でそれが感染していく。ガタガタと武者震いが伝い、心が熱くなっていく。

 形霧たちもまた、血に餓えた獣のような目で場内を見渡していた。





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