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バースデイ  作者: セキド ワク
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 五話  劇凸



「ちょっとそこの二人、来てくれる」

 日野と君鏡は、ホームルームが終わるとすぐ、見計らったように、教室の後ろのドアから覗く、見知らぬ先輩に呼び出された。


 帰り支度もそのままに、二人は先輩の後を付いていく。

 何も分かっていなかった君鏡も、これはさすがにヤバイと分かる。


 廊下を歩くだけで、他の生徒達が見てくる。

 食堂でのことを見た者や噂で聞いた者は、直ぐに何事かを理解した。


 チリチリと導火線の火が移動していくように、ドミノが倒れるのを見るように、この先に起こる何かを、その結末を見たくて皆がウズウズとしてくる。


 ネットやゲームでは物足りない。生で誰かが事故る所を、その目で感じたい。


 若くギラついた思いが、これから起きる何かを期待させる。

 これがもし、先程の様な不発に終われば「あ~あ、つまんね~」となる。ただ、大抵はそんなことばかり。大したことのない話し合いでカタはつく。



 しばらく歩くと学校の屋上へと出た。屋上といっても進卵学園のではなく、未蕾小学校の屋上であった。

 高校よりも一階低い小学校の三階部にあり、高校の四階からは丸見えであった。


 この学校では、裏庭やトイレではなく、何かあるとよくそこが使われている。

 というより、まず裏庭はない。小学校と隣接しているので、両方の窓から挟まれた中央といった感じだ。つまり、校庭、学園校舎、中央、小学校、校庭という順で並んでいる。裏はない。


 屋上には既に多くの生徒達が集まっている。屋上の見える四階にも続々と生徒が集まり窓から覗ていた。

 一見、ただ遊んでいるようにも見えるが、それはあくまで、そう見えるだけで、間違いなくいざこざが勃発している。



「ちょっと、やめなよアンタら、入学してきたばかりで可哀そうでしょ」

「はっ? 関係ないジャン。ちょっとさ、イチイチうちらに指図しないでくれる? それともうちらとやるつもり。だとしたらそっちが先にちょっかい出してきたワケだからね」

 日野と君鏡が到着した時には既に、何かの口論が始まっていた。


 沢山の女子生徒達。それも見るからに怖そうな。そして離れた所には沢山の男子生徒が、一応、関係ないよといった(てい)をとっている。


 言い争う中央付近へと二人は押されていく。日野の方は真っ青だ。君鏡は先ほどの食堂での日野と同じような感じに怯えている。


「で、どっちがナメてるの? それとも二人共ってこと?」

「もう! マジやめなって。入ったばっかで可哀そうでしょ。まだ、なんも知らないんだからさあ」

「そんなこといって、どうせ、ここでイイとこ見せて、自分達のグループの配下にしようと思ってるだけでしょ。姑息というか汚いンだよやり方が」

「はぁ? 私らがいつそんなことしたの? 可哀そうだからそう言ってるだけでしょ」


 いつの間にか先輩同士が胸倉を掴み合っている。そしてグングンと腕を引く。


「ちょっと、制服が切れるでしょ」

「そっちこそ服が伸びたら弁償してよ」

 徐々にエスカレートし、お互い髪の毛を掴み始めた。するとそこに、傍で見ていた男子のグループが止めに入った。


「おいおい、やめろって、やり過ぎだよ。それに佐々木の言ってることの方があってるぜ。なんで入学したての子にこんな呼び出ししてるんだよ。そんな酷ことでもされたのかよ」

「うるさいなぁ。男子は関係ないでしょ。どっか行っててよ。邪魔しないで」

 佐々木と呼ばれた者が、乱れた髪を手グシで直しながら「別に、裏切られたり、彼氏取られたワケじゃあるまいし」と、もっともなことをいう。

 それを聞いている周りの者達も、そういえばそうかもと少し治まる。


 すぐ近くの四階で見ている生徒達も、もう終わりかと残念がっていた。そこへ、ゾロゾロと別の男子生徒達が現れた。皆、服装から見ても不良と分かる。髪も眉も服装も派手だ。

 着崩した感じも、歩き方も、見るからに強め。


 人数は約三十人弱といったところ。いきなり中央まで来ると、先程止めに入った男子の胸倉を掴み、いきなり殴り飛ばした。


「なんだテメーは? いきなり女子のいざこざにシャシャリやがって。せっかく皆で見てたのに、こっちは退屈してるんだよバカ。余計なことすんじゃねぇよクズ」

 圧倒的な上から目線。いきなりの暴力。とても私立とは思えない所行。


 殴られた男子生徒は、後からわいて出たそれらを怯えるように見ながら、この先の自分の行く末を占っている。


 屋上に居る他の男子生徒達も、一気に緊張し、右往左往し始めた。



「わぁ~い、屋上ぅ参上ぅ」

「待って寧結ちゃん。あれ? なんか凄い人いっぱい」

 聞き覚えのある声に君鏡は振り返る。とそこに、寧結がいた。寧結が変な動きをしながら中央へと来る。その後を萌生も変なダンスをしながら歩く。


 君鏡は、こんな暴力を振るうような者がいる場所へ、寧結を近づけたくなくて、勇気を出してその場を動いた。

「あぁっ、お姉ちゃんだ。なんでここに居るの? こっちは小学校だよ。いいの? そんじゃさ、兄ぃは? 兄ぃどこ? アーニィーー」

 寧結がターザンのような大声で、縁を呼ぶ。それに反応したのは縁ではなく、先ほど暴力を振るった男子であった。


「うっせぇなガキ。黙ってろ。泣かすぞ」ドスの利いた声。

 大人げない下衆な態度、だが怖さが勝って、誰も素直にそう思えない。


「にぃひひひぃ。ば~か、短足バカ」

 寧結が思いっきり馬鹿にした表情で、睨むそれを挑発した。それも身振り手振りも交え、おまけにお尻ペンペンまでしてみせる。

 それを見ている周りの者達はゾッとしつつも、短足なのはズボンをずらしているからだよと、心で笑みを堪えていた。

 まぁ、子供の素直な目には、短足以外のなにものでもないのだが。


「おぅ、お前等、あのガキ捕まえろ。それと暴力は振うなよ。捕まえるだけでイイから。そしたら俺が泣かす」

 一応、暴力を振う気はないようだが、間違いなく、寧結を捕まえて懲らしめるつもりだ。それを聞いた君鏡は『どうしよう』と怯え、高校の校舎を見る。


 四階の窓などから覗いている者達は、寧結の小バカにした態度に、少しだけワクワクしていた。

 追いかける不良の群れ、しかし、笑いながら逃げる寧結はまったく捕まらない。それどころか触れられすらしない。

 別にすばしっこいという速さでもないが、ひょいひょいと身軽に避けていく。


「何やってンだお前等。さっさと捕まえろよマジで。みっともねぇ」




 一方その頃、縁は四階美術室で、三回目のポーズがどうのと、女子生徒に注文を受けていた。


「あ、ちょっといいかな。さっき窓の外で、妹の声が聞こえた気がしたンだけど」

 そういって縁が窓の外を覗く、美術部の子達もホント? と縁の後に続いた。

 すると、小学校の屋上で、見るからに寧結、が沢山の高校生から追われている。寧結ははしゃいでいるが追う側は殺気立っている。

 四階とはいえ、一つ下の階での出来事は鮮明に見える。


「あ、あら? なんで? ちょっと俺、急用が出来て。あの追われてる子、俺の妹なんです。なので、ちょっと、モデルはこれでおしまいということで」

 焦る縁。美術部もそれは大変と慌てている。

 しかし、モデルを中止されたことへのショックの方が遥かに大きい。


「あの、床並君。屋上の行き方分かる? 分からないわよね? 私が連れていってあげる」

 そういうと美術部の二年生が、縁を廊下へと誘導する。

 廊下には既に沢山の生徒達が溢れていて、それを押し退けながら、一つ下の階へ下りるために、中央階段へ向かった。


 屋上と美術室を交互に覗いていた者達も、縁の行動には興味津々で、数人が後を付けていった。



「おら、まだつかまんねぇのか。どけ、俺が捕まえッから」

 逃げ始めてから約一分。寧結は少し飽きた顔をしていた。しかし、追いかけてくるそれらが睨んでいることと、一向に諦めないことで仕方なく逃げ続けている。

 とそこに、ようやく美術部の二年生に案内された縁が飛び込んで来た。


「寧結ぅ。お前何してんだよ。どうした?」

「あっ、兄ぃ。遊んでた。でも、本当は萌生ちゃんとさ、ダンスの練習しないといけないンだけど、いきなりこの短足バカが追っかけてきたの。泣かすぞって」

 曇りかけていた寧結の表情が復活し、縁の足元へとくっ付いた。少し息が切れているが、止まっているとすぐに回復していく。


「おいそこの茶色の制服。お前そのガキの知り合いか?」

 縁は寧結に「お友達と一緒に隠れてなさい」とだけ言い、相手の問いには答えることなく、中央へと歩いて行く。周りの者達は、それをただ見ている。


 まさかここまで発展するとは誰も思ってなく、見物人はワクワクしだしていた。

 普通なら途中で消えてしまう線香花火。


 予想以上にドキドキし、行く末を見る。学校で上位に位置する不良グループが、見知らぬ一年生と対峙している。

 さっきまでの女子の争いよりは、気兼ねなくて見やすい。



「何だよその態度、やンのかテメェ。俺はよ、いきなりぶん殴ってもイイところをわざわざ忠告してやってんだから、後から不意打ちだなんだと、言い訳するなよ。そういうこと後で言われッと、殺したくなるたちだから。聞いてんのか?」

 縁は不敵に笑いながら鼻で深い息を吸う。


「先輩。俺も先に忠告しとくね。悪いことは言わないから、仲間全員で、しっかりと武器持ってかかっておいで。ちゃんと言ったからな。ここに居る皆が証人だ」

 縁はそういうと制服の上着の裾をひらりとめくり、腰ベルトに付けた革のケースから何かを取り出した。ソレをいじり、サッと振り下ろすと、釣竿のように中から飛び出した。


「何だァ警棒か? お前武器使って恥ずかしくないのか? ったくみっともねぇ。俺は道具使ったり、ナイフとかでイキるガキが一番嫌いなんだよ。みっともねぇ。素手でコイや」

「警棒じゃないよ。それと、最初に言ったよ、全員で武器持ってかかっておいでって。もう一度だけ教えとくよ、悪いことは言わないから、全員(・・)武器(・・)を持ってかかってこい。武器持ってくるまで待ってるから」縁は真面目に言う。


 縁の手に持つそれは、紺色に紫色の細い線で装飾された不思議な棒。

 材質はカーボン加工された、それこそ釣竿の様なモノ。長さは竹刀より少しあるくらい。伸びた竿先は尖ってはおらず、飛び出し式なので、警棒と見間違える。が、あそこまで段差は激しくなく、やはり釣竿の様ななめらかなライン。

 まるで一本の棒といった感じ。



「谷渕さん、一応、ほうきとかモップとか、先の部分、外して、持ってはきたンすけど、どうします?」

 ガラガラっと音を立てて、地面に散らばる長い木や鉄製の棒。


「使えよ。遠慮はいらない、それ使ってもお前等じゃ話しにならないからさ。俺とやるなら殺す気でおいで。じゃないと……マジで死ぬよ」

「おもしれぇ。お前等、それ持って全員でコイツボコボコにしろ。これだけの者が見てる前で、わざわざ武器出して、こっちに、無理矢理凶器持たせたんだ。これで自分が怪我したって自業自得。こっちは素手でやるつもりだったンだからよ」

「もう、イイからささっ来いよ。おしゃべり」

 縁のその挑発に、谷渕と呼ばれた男が、アルミパイプで殴りかかった。


 縁はそれを、持っている棒で軽く触れながらかわす。

 そして周りに群がる他の不良達に、クィクィと手招きして「全員でって言ってるだろ」と笑う。


 不良達も、それを見ている周りの生徒達も、本当に全員でかかれば、縁が死んでしまうことが予測できる。時代劇じゃあるまいし、この人数差では、まず無理だと常識で分かる。


 しかし、完全に怒った谷渕の号令で一同が一斉に襲い掛かり、一瞬で怒涛の波が起きた。

 周りで見ている生徒達の心臓や内臓が、その恐怖で縮み上がる中、寧結だけは、ニコニコと見ていた。


 スローモーションで動くのろまな者達の中を、無駄な動き一つなく全ての攻撃を完璧に受けていく縁。

「ふぅ。ゼロ点。弱過ぎる。次の総攻撃を全部交わしたら、この茶番は終わらす。痛いけど覚悟してね」

 縁の言葉に不良達の全身の血が凍る。


 男のシンボルが縮上がっていることに、玉袋の痛みで気付く。


 勝てない。手合せした当事者は完全に分かっている。

 レベルが……いや、何もかも、次元が違うと。

 谷渕も、素手がどうとか言い放った台詞が、全て恥ずかしさと悔しさに代わっていた。


 苦し紛れに皆が攻撃する。叩くだけではなく、突いてみたり、仲間を巻き込むのを覚悟で大振りしてみたりと、それぞれが工夫し、考え、自分のできる最高の技で一撃を放つが、まるで話にならない。

 もう冷静に攻撃するとか、仲間とチームワークでどうにかするとか、そういった低次元の話ではどうにもできない。


 傍から見ている者達には、戦っている不良達と違う、景色(じょうきょう)が見えていた。


 ずっと思っていたことがある。かつての戦で、圧倒的な人数差をひっくり返して勝利を収めた歴史がある。それも幾度も。

 そして何度もそれを生き抜いた武将たちは、一体どうやって生き抜いたのかと。


 それは時代劇でも、フィクションでもない。教科書にさえ載る歴史。


 でも皆は、自分とリンクさせ、どうせあまり戦っていなかったのではと、逃げ回っていたのではと、どうにか自分の思考で理解できる所に当てはめたがる。

 ほとんどの人達は、それらが圧倒的に、鬼や悪魔のように強かったとは、けして思わない、それが心理。


 今、この屋上で起きていることもまた、寧結以外の誰一人、こういう結果になるとは想像もしていなかった。あるわけがないと。

 こういうことは、劇の中だけと信じている。



 全ての攻撃をわざわざ受け止めて、避けて、更なる攻撃をかわしながら、縁は、谷渕の顔面に掌底(しょうてい)をブチ込んだ。

 真っ直ぐに落ちていく谷渕の両肩を掴み、白目を剥いたその顔のすぐ横に膝蹴りを放つ。グンとひきつけた谷渕の体が前のめりに倒れ、一瞬、縁の膝が顔面を貫いたような錯覚に陥る。


 見ている者達の息が止まる。殺した。誰もがそう思うほどの衝撃。

 交通事故や、ビルから落下した者が地面にぶつかる瞬間を目撃したおぞましさが、胸と脳で爆発する。


「今の膝、当ててたらどうなったか、分かるよね? 本人は気絶してるから分からないと思うけど、皆から、ちゃんと教えてあげて。次もし、俺の妹をちょっとでも虐めたら、間違いなく皆殺しされるってネ」

 縁は、少し意識を取り戻しフラフラする谷渕を離すと、寧結と萌生の居る所へと向かった。



「寧結、駄目だぞあんなおかしな連中の傍に寄ったら。見て分かるだろ? なんか悪そうって」

「え~分かんないよ、短足としか。ねぇ萌生ちゃん」

「うん。確かに~。短足、でも、ベルトがおかしいんだと思うな」

 縁はまったく怖がってもいない二人に、やれやれと溜息をつく。


 寧結はともかく、お友達の萌生まで……。まだ小学一年生で、おまけに女の子、この条件なら何事にもさして恐怖心がないのも仕方がないかと納得した。



 そんなやり取りの中、この争いを目撃してしまった者達はとんでもないショックを受けていた。

 ただの野次馬で、他人事として高みの見物をきめ込んでいたのに、人知を超えた世界を見せつけられて、現実を呑み込めないでいる。


 テレビの中のスタントや、映画での映像なら驚かないが、街中や国道で、目の前でそれをされたらたまったものではない。


 皆、何も言えず、素直に驚くこともできない。口を開け呆然と宙を見ている。


 信じられないような出来事になった。

 この学園で幅を利かせる不良グループが、いきなり軽くあしらわれて沈没。

 それも実質、たったの一撃、しかも手の平で一発、たった一発。


 縁が来る前に谷渕が放った拳の一撃と、縁が手加減して放った一発の差が、その意味があまりにも違い過ぎて、誰も整理できないでいた。

 屋上中が大乱闘に見えたが、この場で起きた傷害沙汰は、女の子同士の掴み合い一件と、谷渕の一発、そして縁の一発のみ。


 しかし、その場に居る当事者達は、縁に切り殺された錯覚に陥っている。



 そんな中、君鏡が縁へと駆け寄り何かを言おうとする。だが、なかなか声が出せない。君鏡もまた、皆と同じで、言葉をなくしていた。


「あ、あれ、箱入さんもここにいたの?」

「居たよ。何かね、あっちのね、お姉ちゃん達にね、文句言われてた。さっき兄ぃが、最初、カッコつけてる時かな? 言い合ってる時かな? そんな感じだった」

 縁はまったく意味が分からず、どういうことかと首を傾げている。

 すると萌生も、自分も見てた的なことを言う。


 後から来た縁には、それがどういうことなのか分かるはずもないのに。


 縁はおてんばな寧結が事件を起こしたとしか思っていない。まさか君鏡が争いに関係しているなど想像もつかない。


「ごめんなさい。なんか変なことに巻き込んじゃって……」君鏡が謝る。

「あ、私もなんです」日野も君鏡と並んで頭を下げた。

 縁は理解できない頭のまま思考が歪む。


 当然だ、今激しい争いを終えたばかりでもある。


「ま、まぁ、よく分からないけど、行こう。なんかこんな物騒なとこ居るとロクなことがないからさ」縁は君鏡と名も知らぬ日野に告げる。

「でも、まだ解決してないかも……よく分からなくて」

「そうなの? それじゃちょっと待ってて」

 そういうと縁は、中央へと向かい、不良達と何やら話し込んでいる。そしてそこから大きな丸を腕で作り、全て解決したよと笑顔で笑った。


 早足で戻ってくる縁は、寧結と萌生に「確か、ダンスの練習だよね? 今日だけは別のとこでダンスしてね。ここは危ない先輩が多いから」とお願いした。

「はぁ~い。分かったぁ」

 寧結も萌生も明るく返事して「行こうぅ」と走って行った。



 縁は不良達のいる中央へ軽く会釈し、君鏡と日野を連れ元来た道を戻る。と、待っていた美術部の二年生とも合流した。

「あ、俺。モデル途中で抜け出してきちゃって、やっぱちゃんとしないといけないから、行かないと」そう君鏡と日野に告げる。

「うん。こっちこそ、ごめんなさい」

 君鏡の言葉にまたも不思議顔。一体何に謝られているか全くピンとこない。

 そんなまま、縁は先輩と美術室へと戻った。



 美術室では、今見たそれが涼しい顔で帰還したことに驚いている。

 モデルをしてもらっているだけでもヤバかったのに、美術部の皆の思考もまた、とんでもないことになっていた。



「ねぇ箱入さん。さっきの人、お友達なの?」

 D組の教室へと戻った日野と君鏡は、そのままになった机などを片付けて、帰り支度をする。

「ううん。同じ中学で、家が近いというか……」

 友達なのかという問いに、素直にそうと答えられない切なさを感じていた。


「なんか凄かったね。私、ケンカ見たの初めて。それに……かっこイイ、よね?」

「え? う、うん」ぎこちなく返答する君鏡。


 縁をカッコイイという日野の照れ笑いに、君鏡は少し驚き、そして……不安になった。






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