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バースデイ  作者: セキド ワク
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四二話  日々にひび



 教室へと戻ると、縁の机の中に折りたたまれた手紙が入っていた。


 それは篠崎実央からで、手紙にはどうしても話したいことがあるから、放課後に来て欲しいと、校内のとある場所が指定されてあった。

 縁はポケットにしまい込み、ロッカーへと勉強道具を取りに行く。



 一方、D組では、君鏡の机に落書きがされていて、机の中に入れておいた筆箱が紛失していた。

 この学校では色々な問題が起きぬように教室と下駄箱に大きなロッカーがある。しっかりと鍵もかかるし、そこだけは安全なのだが、君鏡は完全にふぬけていた。

 競い合う者達は入学当初から、重要な物ほど厳重に管理している。


 自分は関係ないとそう思っていた君鏡、そんな訳はない。

 目立つということはそういうことだ。標的になることから遠ざかっていたから、この不意打ちに驚いている。


 チラチラと視線を感じる君鏡。


「どうしたの箱入さん」日野が心配して声をかける。

 だが、君鏡は何でもないと笑った。かつてのことが蘇る。仲の良かった友達に、裏切られた過去の痛み。幼い傷。

 そして目の前にいる日野が裏で繋がっていないか疑う。



 疑え。それでいい。深くは信じるな。幻想や理想は目を曇らせる。

 ただ、それを決して口に出したり態度にしてはいけない。

 冤罪(えんざい)であった場合シャレで済まないから、あくまで頭や心の中で予防線を張る。事が起きた今、信じられるのは自分だけだ。


 恨みや妬みは、最も身近な所で起きるのがセオリー。事件でもそうだ。知り合いじゃないのであれば無差別犯罪や通り魔ということになる。世の中、そんなモノは珍しい。

 必ず怨恨であり身近な犯行。他校なわけもないし、他クラスでもない。


 仮に他クラスが絡んでいても、主犯はD組に居るはず。

 日野についても、シンプルに二択だ。関わっているのか、いないのか。


 君鏡は冷静に分析している自分に驚いていた。いつの間にこんなにも強くなったのだろうと。中学校では本を読んで心閉ざしていたのに、今は違う。それどころか自分の存在を(うらや)み歯ぎしりしている誰かを(あわ)れんでいる。



 パソコンを見ながら初めて頑張ったお化粧、髪をセットする時に漂う香り、昨日の夜からずっとワクワクしていた。

 周りの皆がしている普通のそれを、自分が出来る日が来たこの喜び。


 ブスで虐められているのではない、君鏡の姿に発狂しているのだ。現状は似ているが、その二つは全く違う。

 どうせ下を向くほど(さげす)まれてきた日々、それならこの踏み出した階段を一歩でも上る。逃げない。普通の子がするように、自分もおしゃれがしたい。


 君鏡はそう思いながら、教科書だけを開き授業を受けた。



 五時限目、六時限目と終わり、帰りのホームルームとなった。縁は掃除当番で、部活には少し遅れる感じだ。


「そんじゃ先に行ってる」今込と百瀬が部活へと向かう。

 縁は園江と班の数名と掃除場所へと向かう。

「部長。その制服……汚れちゃいますよ」園江が心配する。

「そうだけど、皆もそうでしょ?」

 園江の言葉に不思議そうにしている。確かに汚れてもイイとは思わないが、条件は皆同じなのにと。下ろしたての制服であるが、そこも皆同じだ。


 新しく新調した人やクリーニングしたての人。特にこの進卵学園は服装が自由だから新たな購入が多い。少しでも目新しい物を着たいのだ。

 また同じのを着てる、となるのが嫌なよう。


 学ランの様なそれからブレザータイプのスーツに替えた縁。雰囲気を変えたかったという訳ではなく、脇と腰辺りが動きづらかったのだ。

 入学前にオーダーメイドで作った制服は、成長期の影響で窮屈(きゅうくつ)になったという、それだけ。


 実際、ブレザータイプも作ってあったが、各所が数センチずつズレると、勉強に集中できない。更に良く動く縁にとってその違和感は苦痛であった。

 これが大まかなフリーサイズとオーダーメイドの是非でもあった。


 今回は三つボタンの黒のスーツで、襟も細く独特な形にカットされている。

 角度や光によって青みがかって見えるが、光っているような生地ではない。

 薄い水色のワイシャツにピンクに近い薄紫のネクタイ、そこに銀の糸で、アルファベットの飾り文字がワンポイントとして刺繍されてあった。



「床並君さ、さっきさ、なんか手紙みたいなの読んでなかった?」

「ん? うん。先輩から。話があるって」

 掃除をしながら雑談する。そして最後のゴミ捨てを終えると、掃除場所からそのまま部活へと向かった。


 剣道場では賑わった時が流れていた。

 見知らぬ見学者達の多さもそうだが、ダンス部も、文化祭で披露したそれぞれの反省会をしている。


「ちょっと床並君。どうなってるの? なんかこの子が入部させろって、うるさいのよ」

 吉原先生が留理に襲われていた。執拗に迫られ困り果てている。


「床並君はいいよね? ほら、あとは先生だけだから受け取ってよコレ」

 少しシワになった入部届けを先生に押し付ける。

 その行為を女子部員達が見ていた。


「いいの床並君? これ受理したら、まぁた生徒会とか風紀に呼び出されるわよ」

 剣道部は生徒会だけではなく、多くの先生達からも問題視されている。

 沢山の生徒達が、ネットなどにあることないコト好き勝手に書き込みするからだ。少しでも勝手なことをすれば当然問題になる。


 入りたいというそれを、なんの権限があって弾かなければならないのだろうとも思うが、下手に門を開放したら大変なことになるのは分かる。

 それこそダムの決壊(けっかい)は免れない。


「ズルいよ。だってさ、最近、面接とか試験とかあったンでしょ? 私、仕事で来れなかったんだよ。A組はちゃんとその権利認められてるのに。これは差別だよ。こっちのミスとかじゃないもん。面接だけでもして!」

 留理は先生と縁に作り上げた正論をぶつける。これは生徒会にもぶつける論理。A組としての権利を主張する気だ。



「分かった。そうだね。面接はした方がいい」

 縁の決断に女子部員達がへたり込む。なんでそんなにアマアマなのと。チョコやアイスより甘過ぎる。どんな正論も()ね退ければいいのにと。


「それじゃ、面接して」笑顔で縁と向き合う。

 留理の目は潤んだようにキラキラしていた。これに受かれば縁の傍に居れると。二年以上ずっと夢見てきた想い。憧れ。強い想いが溢れ出す。


「ん~。それじゃ……、どうして剣道部に入りたいの?」

「床並君と居たいから」

「え? いや、剣道のやりたい理由なんだけど」

「あ、そっち。そっちね。私、凄く興味があるから。床並君にもこういうのにも」

 縁は頭を掻きながら困る。だが留理はいう。


「嘘じゃないよ。それじゃ誰かと試合させてよ。それ見てくれたら分かるから」

 そういうと壁にかけてある竹刀の所へ向かい、一本の武器を手に取った。


 ――薙刀(なぎなた)


 縁は薙刀を振り回しながら戻って来るそれを見てすぐに気付く。

 素人じゃないと。


「それじゃ俺が相手するよ」裏画が手をあげた。だが……。

「いや、俺が相手をするよ。面接だし」縁が直々に出ることになった。

 縁の雰囲気に、変化に、誰も気付いていない。

 いや、留理だけは少し感じていた。


 竹刀を取って戻ってきた縁。そして「よろしくお願いします」と縁が頭を下げると、留理も薙刀を立てお辞儀した。そしてすぐに構える留理。


 その構えからすぐに察知する、今の剣道部で留理の攻撃をかわせそうなのは濱野と君鏡でギリギリだと。

 もっと言えば、普通の試合で、剣道が薙刀に挑むのは不利。それは強さうんぬんではなく、武器の質の差。



 甲高い声と共に思いっきり打ち込む留理。賑やかだったそこが一気に静まった。そして余裕の顔だった部員達の顔が一瞬で真顔になる。


 今込も濱野も映画でも見るように集中する。君鏡も登枝も食い入る。


「さすが床並君だ。全然ダメ。今の、私の必殺技だったのにな」

 縁にとってはジュース飲みながら戦えるレベルだ、もちろんコップのソレを零すことさえなく。だが留理の鋭い剣先と技のバリエーションは有段者のそれだ。


 留理は二年前の縁との出会いからこの時を待っていた。薙刀を習い、必死に運命の糸を手繰り寄せていた。誰よりも真面目に。

 あらゆる武器や格闘技を研究しながら、どこかに縁がいるんじゃないかと映像を探し続けて……。


 激しい留理の攻撃を全て受ける。軽々といなし、一気に間合いを詰めて、留理を捕まえた。またもセクハラ。

 だが縁は男女とはず、防具を着けていない相手を捕まえる。

 それは武器の部分以外へ攻撃できないからだ。


 濱野や裏画もたまにそれを真似するが、相手の手首をしっぺのようにタッチするのでギリ。とてもじゃないが、そこまで相手と差をつけられない。


 嬉しそうに縁に凭れる留理。

「合格でしょ?」縁を見上げて微笑む。

 確かに興味があるという言葉に嘘はない。なにせちゃんと道場に通って色々な技を身に付けているのだから。


 前の面接で口だけの興味を語ったそれとは全然違う。

 理由はどうあれ、これで落としたら差別だ。


「うん。合格。それじゃ生徒会に言いに行かないと……」

 頭を掻く縁。あの雰囲気が本当に苦手なのだ。

「床並君、私も行くよ。A組として権利を認めてもらわないと」

 留理の申し出に素直に頷く縁。正直、助かったと思っている。

 自分ひとりじゃ反対に言いくるめられかねない。


 部活のことを頼む為に、濱野と裏画を呼ぶ。

「先輩達、それじゃ部活のこと宜しくお願いします。それと、ちょっと個人的な用があってもう少し遅れるかも知れないけど、気にせずやってて下さい」

「個人的な用? それて何?」

「いや、ちょっと……。ちょっとね」言いづらさそうに笑う。


 そして縁と留理が剣道場を後にすると、百瀬と園江が濱野と裏画へ駆け寄り何かを話し始めた。何度も頷く裏画。



「分かった。それじゃ俺が様子を。おう。偵察だけな」

 少し遅れて裏画が飛び出す。


 急いで生徒会室へと向かい、出入り口で様子を見ながら待っている。


 が全然出てこない。仕方なく中の様子を探る為にドアへと耳を付けた。

 何かの話声はするがそこで何を話しているかは全く聞こえない。すると、ドアに耳を付ける裏画の肩を、誰かが指先でノックしてきた。ビックリして顔を上げると生徒会の者が。


「何してんの君? また剣道部だぁ。何? 怪しいンだけど」

 話し合うその声にドアが開く。そして中から会長が顔を覗かせた。


「いや、違くて。うちの部長がお邪魔してないかと思って。いますよね? 用があってそれで来たから、怪しい者ではないから」

「いないよ。とっくに帰ったよ。言いたいこととかクレームを吐き捨ててな」

 会長は大分イラついた感じだ。留理に言いくるめられたのが分かる。


「いない? ええっ、ヤバイ。いつ頃帰ったか教えて下さい」

「いつって分からないけど、十五分とか前かな? 知らないそんなこと」

 ちゃんとした用がないなら、忙しいから帰ってくれと追い返される裏画。

 裏画はすみませんでしたと頭を下げて、パニック状態で走る。手遅れになると。


 焦る裏画……。やばいほどに顔を引きつらせて、ただひたすら走る。





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