三九話 祭りの後
文化祭となった土日の二日間を無事に乗り切った縁。一日目の騒動も大変であったが、二日目も別の意味で大忙しとなった。
A組の催し物に参加した縁へ、永尾から特別賞のプレゼント授与と称して、強引にラップ越しのキスを迫る一幕があったり、寧結がツケにした『ケツ』を買い取った者達が、縁に接触を試みたりと、他にも挙げたらキリがないほど。
まるで、流星群の中に迷い込んだ宇宙船のよう、次から次へと危機が迫った。
スカル・ピエロや形霧達との一件があったからか、学校での縁を見る目ががらりと変わった。
谷渕達不良グループは元から注意していたが、より一層理解したようだ。皆も、校庭でのあまりの出来事に、色々とオセロがひっくり返ってしまった。
更に言えば、濱野を見る生徒達の目もがらりと変わった。
あの日、誰が見ても危険なあのステージに関わった者達は、それがどうであれ、主役であった。
縁はもちろんだが、市来、竹海兄弟、そして谷渕は当然だが、そこに濱野と裏画が加わった。
裏画に関しては、縁が部長命令で『手出し』を禁じただけだが、たったそれだけでも野次馬達から波及した噂は津波へと変わる。
一方、ここで多くの者達が格下げになる。いわゆる順位変動だ。
物凄く高いランクに居た船城やイケメンで剣道部の今込は、濱野や裏画のランクアップのせいで影響が出た。上位者でこれだから、普段偉そうにえばっていた者で野次馬に紛れていた者達は、一気に凡人へと姿を変えた。
そんな中、付属である未蕾小学校の寧結と萌生にファンクラブができた。ただでさえかぶれていた濱野も、寧結という存在に更なる心酔、いや陶酔する。
おまけに、軽音部の休憩の合間に、ギターに興味を持った寧結と萌生が、ちょっと弾かせてと、せがみ、オクターブ奏法なる簡単な押さえを教えて貰い、三フレット目と五フレットをただ刻みながら、リズムよく演奏したのだが……。
案の定、多くの人を集めてしまいひと騒動になった。
軽音部の生演奏の時よりも遥かに多い見物人。
ただビートを刻んでいるだけの、なんてことのない遊びだが……。時折マイクを使うやり取りに……。
「あ~、萌生ちゃん、小学生なのにこんな音出しちゃダメなんだよ~」
と言いながら、重いディストーションの利いた音をかき鳴らす。
「寧結ちゃんだって、イケナイんだ~。先生に怒られるから」
とリズムに合わせて、クレイジーな演奏気分を演じる。
まるでバカタレとアホンダラの協奏曲。
そんな一幕もあり、寧結と萌生は超有名となる。
一日目のあの後、帰れと言っても付き纏う形霧達を剣道場へ連れていき、多くの見物人の中、濱野や裏画と練習試合をさせた。どうせそうなら逆に利用しようと。
そうとなれば、それはそれで、そうそうないビックチャンス。
普通なら、ここまでのランク差では口も利かない。現に形霧達は、誰一人としてスカル・ピエロに名乗っていなかった。
しかしきちんと名乗り合い、試合後にはどこがどういけないのか話し合う。
一方的な指導となった。そして、練習試合の最中、色々な話をしながらあることに気づく。それは驚くべきことに、久住が寧結の組織の一員であったことだ。
話の流れから本人確認をとると、久住はキスマークがNを咥えている紋章の指輪を見せた。そのことについて寧結もはっきりと頷く。
久住が持ってきたバイクの画像紙の中で、バイクに貼られたステッカーを見た時に気づくべきだった。形霧達のマークとそれが同じであることに。
もちろん細かなことまでは把握できないのだが。
久住は現在、ランク六で寧結と共に戦っている。元々は縁の紹介で戦に参戦したのだが、中々うまく行かず困っていた。
それを寧結の組織が助け、エリア六までランクアップさせたのだ。
始まりは久住が中二の時。夢を語り勉強を続けたいとそう思う反面、父親がいない久住は、中学を出てすぐ就職するしかないと思っていた。とてもじゃないが生活だけでも苦しいのに、高校へ進学など……色々とお金がかかり過ぎると。
だが、それが理由ならと縁が動いたのだ。そして、久住は縁と同じ世界の住人となった。
寧結にとって兄である縁の、たった一人のお友達であり、今では、お掃除ロボやおもちゃを修理してくれる博士でありお医者さん。そういう人だと思っている。
だが、ここまで来るのに楽な道のりではなかった。
高校に通うお金と普段の生活費、そして会社を興す為に資金が必要とのこと。
どれか一つなら楽だが、勉強との両立もしなければいけない。進卵学園のように部活に集中できるほど偏差値が低くないのだ。
戦いも覚えなければならないし、学校で出される課題もこなさなければならない。そして専門の大学を目指す勉強。
しかし久住は真面目に一つずつこなしている。今も着実に階段を上っていた。
一つ救われたのは、戦に参戦したのが中学の頃だったことだ。確かに受験勉強との両立は難しかったであろう。受験真っただ中の者達に同じことが出来るか聞けば無理と答える。でも、勉強を教えていたのも戦いを教えていたのも縁。
縁がつきっきりで手取り足取り教え、一緒に歩いていたのだ。
久住の場合、普通の生徒のようにそれだけに集中して一気に強くなることはできない。本来ならもっとランクをあげられるかもしれないが、あくまでも一歩ずつ、しっかりと踏みしめていくしかない。
剣道場には嘘みたいに人が集まり、濱野と形霧達の試合を見物する。あっという間に仕留められて終わっていくが、濱野は色々なことを感じていた。
スピードや動きが全く捉えられない。時にスローに、時に分身して、そして視界から何度も消える。
プロのスポーツ選手にクイックや妙なフェイントされて、一気にドリブルで抜かれていくように、始まりと終わりしか分からない。
何かされていると感じるのが精一杯。
縁が相手をしてくれているのとは真逆で、すごくやりづらい。何かを覚えることができずに終わった気がしていた。得ることが……出来なかったと。
剣道部員達は、自分達がとんでもなく強くなっているとそう思っていたし、そう信じていたが、まるで初めて竹刀を持った子供のように棒立ち。
なにせ、新入部員の裏画と濱野の差さえなく感じた。二人共にノロい。
市来に勝って自分は変われたと思っていた濱野は落下していく。バカにされていた元の居場所へと。だが……、形霧達は仮にもランク九。
少し前の縁と同格のランク。一矢報いる? 誰が? そんなことは無理だ。
形霧達でさえ縁を捉えることはできなかった。しかも七人がかりで。ランク一つの差で、いや、同ランク内でもそういう差がある。
濱野と裏画が向き合える相手ではない。もっと言えば、少しでもどうにかできたなら、スカル・ピエロより遥か上ということになる。それはない。
皆の見る目が変わった濱野であったが、濱野にとっては自信を根こそぎ削がれるほどに挫折を味わった文化祭であった。




