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バースデイ  作者: セキド ワク
35/63

三五話  マ~メイドの誘惑



 狂い咲く舞台劇に背を向けて、一同は逃げ去るように移動を始めた。


 廊下を歩き中央階段へと向かう。そして上に行くか下に行くかと悩んでいると、突然裏画が濱野の肩を何度も叩いた。


「おい。ばか、バカ濱野。やばいって。もう~、何やってンだ、どぉするぅ」

「ぬぁ~いきなり、引っ張るな。気でも狂ったか? どした、ん? なァに?」

 顎を突き出し何かを指し示す裏画。

 それに気づいた濱野の顔が一気に青ざめていく。


「テメェがこっち来たからだぞ、知らねえからな。ホント分ってるンかコノ……」

「お前が先頭歩いてンだろ、よく位置みろよ」

 うろたえる濱野と裏画。尋常じゃない焦り。


「あ、そうか。そういうことか。んでも、お前にさ、なんだっけ、言ってたよな、ほらぁ、アレ。……ったく。アレだよッ。もう、あぁどうする? ほら、こういう時こそお前、口だけじゃないってとこをだな」

 突然不思議なやり取りが始まり、言い合いが続く。


「どうかした……の二人とも? 喧嘩じゃ……ないよね?」

 二人を心配する縁。今込も、いつも以上にヘンテコな二人の態度に呆れている。オーバーな仕草とかみ合わない会話。

 それが何を意味しているのか誰も分からない。しかし二人は、そんなやり取りをしつこく続ける。


 そんな二人の態度に気を散らせながら、今込がふと何かに目を奪われた。

 縁も何となくそっちへ向こうとする。と。


「ぶ~ちょッ。ちょ~っと聞いてッ。実は……その」

「うわっ、何? ビックリした。驚かさないでよ。ナンか変だよ、何、二人して」

 必死に話す濱野と裏画をよそに、女子達もあるものに目をとめていた。

 それは真っ赤なドレスをヒラヒラと揺らし、お尻を振りながら縁のすぐ横を通り過ぎようとしていた。


 ――篠崎実央だ。


 谷渕から要注意人物だとわざわざ呼び出されて忠告された例の件だ。濱野は昨日の部活時に一人じゃどうもできないと、裏画に援護を求めたのだ。今も裏画が先に気づかなかったら、縁と篠崎はとっくに目と目が合っていたに違いない。


 廊下にいる全ての者達が、篠崎の姿に目を奪われていた。

 胸元はレースになっていて透けて谷間が見える、ホルダーネックで両肩と背中は丸出し。大きく金魚のように膨らんだお尻部分は、沢山のスカートヒダがウェーブして垂れており、前部分のミニスカートから伸びる長い素脚は(つやつや)々のチーズ。


 妖艶な体と少女の様な顔、人工的な手が加えられているに違いないと思わずにはいられないほどにありえない姿。


 濱野と裏画は、想像していたものより遥かにヤバイと、実物を目の当たりにしてはっきりと分かった。これは超危険人物であると。

 そこにいる男達は一瞬で下半身を固くされていく。それこそメドゥーサ。


 必死に縁の気を引く濱野と裏画もまた、視界に入った篠崎の姿に、股間が痛くて堪らないほど反応していた。

 合宿のプールサイドでももち堪えた今込と濱野が、簡単に魅了されてしまう。



「どうしたの二人とも?」

「あのね、裏画のバカがさ、ホント嫌になっちゃうよ。だって、こいつ、凄いバカなんだよ。アハハハ。昨日のことナンだけど……馬鹿だよ~」

 冷や汗びっしょりで縁の気を引く濱野と裏画。あまりの二人のパニックぶりに、縁も目が点になっている。

 だがそれ以上に、この進卵学園という湖の底から、ゆっくりと縁の乗る小さなボートを目がけて浮上してくる巨大な影に、濱野と裏画は全身で恐怖していた。


 湖の(ぬし)がギラギラと目を光らせて一飲みにしようとボートの下を旋回している。

 廊下をまったく通り過ぎてくれない。


 水面下からじっと狙っているようなその恐怖は半端ではない。


 そんなことを全く気づいていない縁は、水が気持ちいいねと、足をパシャパシャさせる。その足を、どうにかボートの中へしまってもらいたくて、必死に振る舞う二人。だが、学園という自然を満喫する縁には、二人の事情は理解できない。

 何も知らない無邪気な子供。


 すると、女子達が濱野と裏画のパニックの意味にいち早く気づいた。二人の態度で気づいたというよりは、篠崎という存在とその視線やアピールに反応したのだ。


 女子の目は、他人の心理を見抜くレンズになっている。例え相手が男子でなく、女子同士の間柄であっても、友達と話しながら視線が気になる男子を追いかけていたり、話が上の空になっているなど、細かなそれを決して見逃さない。騙せない。

 挙げたらキリがないほどの仕草や態度から、あらゆることを読み取るのが女子。


 篠崎に至っては、元から完全な戦闘モードだから、縁の傍にいてこれで気づかない女子はそういない。

 問題は、濱野と裏画の二人が取っている態度の違和感。女子達は、篠崎の態度とその二つを結び付けて推理し、最悪のシナリオへと辿り着いたわけだ。



「そういえば床並君ってさ、たまにメガネかけるけどさ、あれって目が悪いんじゃなくて、パソコンとかタブレット見たりする時の、目の保護の為だったんだね~。でしょ? たまに光が強い場所なんかでもかけるけど、そういうことだよね?」

 裏画が必死にいう。


 口調が軽く少し上ずっている声に、真面目に答えればいいのか迷う縁。

 あと、背中というか肩越しに、鋭い殺気のような気配を感じ、振り返りたい気持ちもある。そんな縁をどうにか向かせないように、連続して話し続ける二人。

 しかし中身のない会話と篠崎の気配に、ついに縁は振り返ってしまう。


 篠崎が通り過ぎてくれない限り、結局そうなる運命であったとしかいえないが。



 縁の目の前に、真っ赤なドレスの先輩がふわりと揺れる。目が合うとニッコリと笑いかけてきて、そして(まぶた)を使ったセクシーな表情で縁の心の奥へと忍び込む。


 一瞬にして濱野と裏画に『失敗』の二文字が刻まれた。

 女子達も篠崎のそれに度肝を抜かれていく。やはり縁をターゲットにしていたのだと。それも恋をするようなタイプのものではなく、紛れもなく性的な欲望のみ。


 湖の底からついに姿を現した主は、まさに古の恐竜。首長竜のよう。想像を遥かに超えたそれは、水面から完全に首を覗かせて縁のボートを弄ぶ。

 濱野と裏画は、罠にかかった獲物のように、近づいてくる狩人を怯え眺める。

 この後どう料理されるのか、ただじっと見守るしかない。


「初めまして。一年生? 名前はなんていうの? 私はね、三年A組の篠崎実央。あなたは?」

 話し方も仕草もその全てがエロい。アイドルやモデルのような、可愛さや美しさ、そしてカッコ良さなどをすべて削ぎ落し、ヤラシさのみを追求した姿。

 それこそスポーツ選手が減量で脂肪を落とすような、その道のスペシャリスト。


 縁は目の前のそれに緊張しタジタジになっている。当然だ。篠崎はたった一人で業界を歩き続けるグラビアクィーン。圧力が半端ではない。


 篠崎の本気の体から、何かが放射される。これがプロの体よと、廊下中の男子を根こそぎ魅了していく。全国の男性を虜にする現役の篠崎には簡単なことだ。


「ま、ず、い、よ……」


 濱野の震える声に裏画も反応したいのだが声が出ない。

 縁と篠崎の間に割って入ることもできない。泣きたいほどの無力さ。二人にできるのは、怖いほどのヤラシイ姿に生唾を飲み込んで窒息していくことだけ。


「初めまして先輩。俺、一年F組の床並っていいます」照れる縁。

 縁が自己紹介するとすぐ、小峯と香咲が間に割って入り、篠崎にニッコリと笑いかける。数秒遅れて百瀬と登枝が援護に入った。


「あらら。そうよね。簡単にはいかないかぁ」

 頷きながら四人を順番に見ていく。どれほどのモノか品定めする。四人の胸や腰やお尻、更に髪型や服装を見る。

 そして篠崎は鼻で笑うと、廊下中に魅力をまき散らし始めた。


 見せつける本気の体。


 篠崎のエロいオーラに四人の存在感が消えかける。徐々に薄れていく。篠崎はなおも体のラインをくねらせながら挑発してくる。突き出る胸とお尻、くびれた腰、ヤラシイ表情と髪の毛を指に巻き取る仕草。

 何よりシャンデリアのような高級な大人の魅力と、フェロモンたっぷりの(みつ)を、直接男子達の脳ミソに、エキスとして注射していくようだ。


 すると、香咲と小峯と百瀬も自分の持っているオーラを解き放ち始めた。

 少し遅れて登枝も辺りを魅了し始めた。


 篠崎とは全く別の種類のモノだが、それぞれが光を放つ。薄らぎ消えかけた存在が、一斉に姿を現し、廊下中に存在感をアピールする。


 文化祭ということもあって、四人ともオシャレな服装をしていて、本気になった瞬間その場の空気ががらりと変わった。

 が……しかし……足りない。


 篠崎の圧倒的なエロの前に苦戦していく。普段ならそんなことはないはず。

 これがテレビの中であれば、篠崎の存在を消すことくらい容易い。一般の視聴者から受け入れられるのも、支持を多く集められるのも四人の方だ。

 だが、ここではなぜか違った。


 まるでルール無用の場外乱闘。リング外で、ガチでやり合うと、これほどまでにエロさが強いとは予想外。


 可愛い、綺麗、カッコイイ、だから付き合いたい、憧れるなどと結びつくより、篠崎の体から発せられる『抱きたい? やりたいンでしょ? イイよ別に。ねぇ、どうする? 可愛がってあげようか?』などの無言のアピールが、理性を乗り越えて、直接的に男子の本能を惑わす。理性を保つことなどとてもできない。


 なぜなら言うまでもなく、思春期の子供だからだ。そういう未知なることに興味津々。夢中。それしか頭にないと言っても過言ではない。


 頑固で強靭(きょうじん)な精神を備えたアイドルオタクでさえ、アイドルを凝視し続けたい心のまま、どうしてもチラチラと目がそっち側へ行ってしまう、それほどに制御不能な男の(さが)。理性の反対側の話だからどうにもならない。


 今込も濱野も裏画もすでにエロの虜。脳が勝手に視線をコントロールしている。


「床並君って彼女いるのかしら?」篠崎が四人を押し退け、縁へ一歩踏み込む。

 四人は、ドリブルであっさりと抜かれたディフェンダーのようにハッとする。


「いません。だってこの学校は恋愛禁止ですよ。あははは」

 明るい笑顔で微笑む縁。その真っ直ぐな目に篠崎は驚いていた。

 それは、縁の視線が全く篠崎の体を見ないからだ。それもワザと意識してなどではなく、間違いなくエロに興味がないといった雰囲気で見てないのだ。

 ……ありえない。


 先ほども言ったが、全ての女子は男子の視線が自分やよその女性の、体のどこを見ているのか事細かに見破る。ばれていないと思っているのは男子だけ。どんなに誤魔化しても、チラチラ見ていることはお見通しなのだ。

 だからこそ、縁が見ていないということもはっきりと分かっている。そしてそのあまりの異例さに心から驚いていた。


「あのさ、一つ聞いていいかな? 床並君て……ゲイじゃないよね? ごめんね、変な意味で聞いてるンじゃないンだよぅ、そういうのに偏見もないし。ちょっと気になって」

「違いますよ。そりゃ学校で恋愛禁止されるから彼女がいないって、ちょっと変な風に聞こえたかもしれませんけど……。だからって、先輩って極端なんですね?」


 縁に変わり者扱いされて、篠崎のオーラが下がる。その隙を見逃さず四人が縁の傍に寄り添った。

 今込や廊下にいる男子達は、相変わらず石化しっぱなしだ。


 (しぼ)んでいく風船をもう一度吐息で膨らませる篠崎。その仕草や態度に、男子達は更なるイヤラシイ気持ちで満たされていく。

 大人な篠崎にイイように弄ばれていく男子達。


 必死に篠崎のオーラとやり合う四人には、魅了されている廊下中の男子達が邪魔でしょうがない。

 ここに居るのが縁一人であったなら、もしくはもっと女子率が多ければ、テレビやイベントなどの場所のように、自分達の魅力で篠崎を薄らげることができるのに、男子の思念や雑念がそれを妨げている。


 四対一で負けていく。これは相当な屈辱だ。しかもエロというジャンルに負けるのは特に許せない。

 ぶりっ子や小細工ではなく、自分の姿や存在感で張り合うガチの勝負。

 一歩も引けない女の熾烈(しれつ)なせめぎ合いが続いた。


 とそこに、縁を呼ぶ声が届く。


「床並君。ちょっと待って」

 声のした方に皆が向く。篠崎も四人も振り向いた。縁も当然そちらを見る。

 濱野と裏画は興奮治まらない下半身のまま、もしかしたらもう一人の最悪、磯貝椛が登場するのではと焦っていた。


 縁という者の境遇はそれくらい簡単に引き寄せると。


 濱野はいつも傍に居るからこそ、実体験としてそう感じている。縁と同じ空間では、行間を読むなどという緩やかな時は流れない。いつも連続して何かが起きる。息継ぎできないほどに。


 今、同じ学校で同じ文化祭をしている君鏡や日野、岡吉、雨越、マネージャーや折紙先生に吉原先生は、普段通りのゆっくりな時間が流れている。

 それこそ自分の刻み。

 だが、ここでは違う。激流だ。しかも何度も滝壺へと落下する。縁の傍にいるとそういうことに必ずなる。


 この速度の差に皆が戸惑う。なにせ普通に暮らしていればこれほど速くはないし、事件など滅多に起きないからだ。だが、そういう星の元に生まれた者は違う。

 幼い頃からずっとそうなのだ。


 小学校でも、休み時間になる度に何か喧嘩や事件に巻き込まれる。先生に怒られたり物が壊れたり無くなったり、異性とトラブったり毎日何かしらの問題が起きて、ゆっくりと席に着いているなどない。


 だが一方で静かな時間が流れている者もいる。

 その対照的な者達は、けしてお互いの感覚は分からない。

 なぜなら自分の持つその速度が、普通認識だからだ。つまり同じ速度で生きていない者には、縁に起こる数々の出来事はめまぐるし過ぎて驚くばかり。その逆に、何も起きない者達の速度にも、そんな静かな世界はあるのと理解ができない。


 クラスメイトが陰口を言っているとか、友達と会話している時の、些細な言動がイヤミっぽいとか、縁では気づかないような細かなことや、見落としがちなモノがしっかりと見えてしまう。

 ゆっくりな世界では、他にも様々なことが鮮明に見えてしまう。



 商店街を抜けるまでに三回も絡まれ喧嘩……普通ではあまりない。

 だが、どこかへ行く度に絡まれカツアゲされるなども意味は同じだ。つまり強さの問題ではなく、事件に巻き込まれる率。警察官に何度も職質されたりも同じだ。一日に三度以上痴漢に遭う者と、人生で一度も絡まれたことも痴漢に遭ったこともないという非対称な速度の差。


 もちろんそこまで極端ではなくても一日に一回、周に一回、月に一回、年に一回、色々な速度はある。更にもっと細かく個人差はある。

 その中でも縁の速度は最高速だ。そんな超激流下りはジェットコースターよりもヤバく、普通の人生を送れる保証もない。



 濱野と裏画は特にそのことを肌で感じていた。そして二人は、恐る恐る廊下の先を見る。どうか磯貝椛ではありませんようにと。

 すると、廊下を横一列に並んで数人の女子達がこっちへ向かって歩いてくる。


 ――永尾綾と、その仲間達だった。


 見るからに悪そうな歩み。数分前までステージで子猫のように照れていた女子とは思えない強めの雰囲気。

 縁も近づいてくる永尾に気づいて緊張する。さっきした告白がぶり返す。


「良かった~。床並君、もうどこか行っちゃってるかと思った。急いで追いかけてきて正解だった」

 ニッコリと笑う永尾。しかし、篠崎の存在に気づくと笑顔から一転し、少し眉間に縦ジワを寄せて警戒した。


 永尾が属している大きなグループが、篠崎という存在をどれくらいの要注意人物か知らないはずがない。それが今、縁に接触しているとなれば尚更だ。


 永尾もその周りの女子達も、小峯ら四人同様に、いきなり女子オーラを放つ。

 それも篠崎と同様のセクシー系だ。永尾はグラビアが本職とまではいかないが、モデルやアイドルなんかよりは遥かにそっちよりのタイプ。


「床並君? 私の相手したの()()()だけだからさ、優勝というか、選ぶのは床並君だけなんだよね。でね、ご褒美があるんだけど」

 確かに、最初に受付する時にご褒美がある的な説明があった。縁はそれがどういった物であるか素直に聞いている。


「どっちがイイかなと思って、それで直接聞きに来たンだけど。えっとね、イチゴミルクのジュースを哺乳瓶で飲ませて貰うのと、ラップ越しにキスするのがあるンだけど。床並君はどっちがいい?」

「ん? 何を? ちょっと分からない。待って……。景品というかプレゼントじゃないの?」

「プレゼントだよ。充分ご褒美でしょ? まあ、床並君がラップなしの方がいいってどうしてもいうなら、ナシでもいいけど、退学になっちゃうとお互い困るし」

 すると同じA組の香咲と小峯と登枝が口を挟んできた。


「ちょっとさ、何勝手にそんな変なモン条件にしてんの。それ、プレゼントの押し売りだよ」

「何よ。皆で決めたジャン。それぞれが自分の好きなようにご褒美決めるってさ」

「それは……、これってモノを決めるとどうしても嫌だって子がいるから、自分の許せる範囲で、握手とかサインとか私物をあげるとかにしようって話でしょ」

 言い合う四人。それをよそに篠崎が縁の腕を引っ張った。そして小声で。


「あっち行こう。ここじゃうるさいしさ。少し話そうよ、二人(・・)で」


 セクシーな唇が開く度に音を立てているような印象を与える。戸惑う縁。

 うろたえる濱野と裏画。抜け駆けに気づいた百瀬が一人で篠崎に向かう。それに気づいた小峯も永尾から篠崎へと標的を変えた。



「先輩。まさか床並君にちょっかい出してないですよね? まさかね。先に言っておきますけど、うちの学校荒らしたらただじゃおきませんよウチラ」

 鋭い目つきの永尾がスタスタと前へ出てきて、篠崎と向かい合った。

「へぇ、少し前まで中坊だった子が、偉そうに言うようになったわね。別にあんたら潰すくらい、簡単に出来るのよ私。調子に乗ってシャシャると、痛い目見るわよアンタ。あんたらは渡辺ンとことやりあって、どっちが上とか下とかてっぺんだと遊んでればいいのよガキ」


 篠崎の台詞に永尾の後ろに居た女子達が一気に沸点に達する。しかしそれを永尾が両手を広げて制止した。


「いいのそんな口利いて? そぉ。私や椛さん怒らせてただで済むと思わないでよ。アンタこそ、たかが男使って裏工作するだけでしょ? 私ら本気で敵に回すなら、これから先、グラビアの仕事も他の仕事も今まで通り出来ると思わないでね。私らが本気で奪って潰すから。あなたなら知ってるでしょ、私らがどんなメンバーで同盟組んでるか? あ、歳とり過ぎてボケちゃった? お、ば、さん」

「チッ」篠崎は視線を逸らした。


 ガキと呼ばれたことに対しておばさんで返す永尾は、上から目線で睨みつける。篠崎はこのままここでやり合うと、色気も余裕も消えてただ醜くの罵り合うことになると感じ、この場は自分を優位に保つため大人しく引くと決めた。


「フン。ガキが粋がっちゃって。私にナメた態度とったこと忘れないことね。知らないわよどうなっても。まぁせいぜい背伸びしてなさい」

 篠崎はそう言って立ち去っていく。離れ際に縁を見てニッコリと笑い「また後でね」と意味深なセリフを吐いて消えていった。


 今込や濱野らが硬直から解き放たれ、ようやく理性を取り戻すと、永尾が先ほどの質問をもう一度縁へと投げかけた。


「それ、辞退してもいいの?」

「え? ……うん。私が恥かくだけ……。絶対にしなきゃダメってことはないよ。どうしても私が嫌だというなら……仕方ないよね。大っ嫌いなら……」

 永尾の台詞に本気で困る縁。お馬鹿だ。昨日の夜の放送で『床並君が来るまで食べずに待ってるから』というそれに困惑しているのと同じ類だ。


 周りで見てる女子は、男子がこんな簡単な策を跳ねのけられないのが歯がゆい。イライラする。こういうことにはビシッと対処して欲しいのだ。

 ただし、自分の時は別。

 要は、自分以外の女子の時は、冷たくあしらってという考え。なんなら、相手を深く傷つける対応くらいで丁度いいとさえ思っている。


 しかし、自分が主役の時の女子はこういう駆け引きを良く使うし、意識して使いたがる。自ら告白せずにギリギリまで誘惑して、最後は相手に言わせるのもそう。他にも遊んでるのかと聞きたくなるほど可笑しな拘りが幾つもある。

 翻弄したがるし、何かを言わせたがる。色んな言葉を聞きたがる。



 悩む縁。と、またも縁を呼ぶ声がする。しかしそれは放送であった。





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