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バースデイ  作者: セキド ワク
34/63

三四話  劇白



「あのさ、一年A組の出し物ってどこでやってるのかな?」

「ん? 床並君A組に用があるの? えっと、二階の多目的ホールみたいだよ」

 普段、三年生のクラスがある階だ。ちなみに一年生が三階で二年生が四階。


 理由は朝の登校時の遅刻をコントロールする為で、三年生が最も低い階、次が学校に不慣れな一年生、で、最も遠く時間がかかる階が、二年生となっている。遅刻ギリギリに校門をくぐった場合、下駄箱付近の階段から上って低い階や近いクラスからセーフになる可能性があるという訳だ。

 他にも学校に不慣れな一年生を間に挟むことで、それぞれの学年があまり接触や関わりを持たないようにしている。



 今込を先頭にゾロゾロと歩く。

「おぉ、ココだ。スゲェ混んでるな」

 飾られた場所に客が溢れ返っている。あまりの人の多さに驚きが隠せない。

 F組のそれと真逆の賑わい。



 ホールの真ん中には仕切がある、背の高いハンガーラックが幾つか並び、その一つずつにカーテンが付き区切られてあった。

 左側にA組の男子がいて、右側に女子がいる。


「どっちかな? あ、こっちかも」

 より込んでいる側の人をかき分け、受付をしている者の所へと進む。一体どんな出し物なのかは分からないが、飯塚との約束通り『永尾綾』を指名し、テーブルに置かれた記帳ノートに名前を記した。


「あの~、床並君ですよね……、綾さんと知り合いですか?」

 受付する女子からいきなり声をかけられた縁は、ビックリして首を左右に振る。しかし、驚く縁よりも相手の方が驚いている。

 お互いに顔を見合わせ、わけの分からないまま会釈する。そして受付を済ますと「そちらへどうぞ」と空いている最前列の空間に通された。


 縁と今込と濱野と裏画が並び、百瀬と園江は混み合った別の場所へと移された。


 キャーキャーと黄色い声援が飛ぶ。

 ビールケースほどの高さで、広さは四畳半位の舞台が作ってあり、その上で客である男子とA組の女子が、何やら演技をしている。


「なんだこれ?」裏画が首を傾げる。

「ドラマ? 演劇かな?」濱野もそれを見ながら推測する。

「あ、もしかしてこれ、告白的な演技の何かじゃないかな」今込も答えを探る。


 舞台では、シチュエーションが終わるごとに役者が入れ替わり次の演技となる。演技する男子達の甘い言葉に、見ている客達、特に女子が悲鳴を上げて喜んでいた。


 しばらくそれを見ていた縁は、嫌な汗をかきながら先ほどの受付の場所へと戻る。そしてこれが何なのかをきちんと尋ねた。



「えぇ? 床並君知らないで受付したの? そっか。えっとね、A組の出し物は、テレビに出てる有名な子達と疑似恋愛ドラマというか疑似告白できるの。こっち側が女子で、向こう側が男子と演技できるエリアだよ。そんでね――」


 要するに高嶺の花と演技しながらの疑似告白が出来るというお遊びだ。

 そしていかに相手をキュンとさせたかで順位が決まり、それぞれの相手に一位に選ばれるとご褒美があるらしい。


 なんともA組らしい出し物だ。文化祭の用意する時間が少ない分、自分達の価値を限界まで活かした出し物。有名人でしか成り立たないもの。


 縁は内容を聞いてゾッとする。もしかしてこの大勢の客の前で見ず知らずの女子に告白まがいの演技をしなければいけないのかと。

 遊びだとは分かっているが、告白をしたこともないし考えたこともない。



 元居た場所へと戻り落ち込む縁。今込も濱野も縁を心配する。

 それは落ち込んでいるからではなく、二人共これがどういったモノか他の演技を見て理解したのだ。他の男子達は雑誌で載っているような、女子に人気がありそうな今時の言葉や仕草をそつなくこなす。だがどう考えても縁には無理だ。

 縁がそういうことを知っているはずがない。


「どうするの床並君」

「どうしよう。先輩達何かいい台詞とか教えて下さいよ」

「お、俺? ムリムリ、彼女歴ないし、知ってるようなパターンは全部他の男子に先にやられちゃってるもん。ごめん俺じゃ役に立てない」

 濱野もビビる。ここが剣道場なら饒舌(じょうぜつ)に何かいいそうだが、この本番まじかで、沸騰(ふっとう)した女子達の雰囲気に弱気になっているのだ。


「今込君はモテるし、なにかあるんじゃない? 今込君から床並君にアドバイスしてあげてよ。超かっこいいセリフとか態度とか」

「え~っとね。色々あるにはあるけど……。今でしょ? あ~すぐに出てこない。なんでだろ、焦ってきた」

 今込も上手く本領を発揮できない。アドバイスしてあげたいのにちっとも浮かんでこないのだ。



 次々と演技する人が入れ替わる。その誰もが女心をしっかりと掴んでいるような甘い殺し文句と仕草を見せつける。テレビや雑誌やネットなどでしっかりと研究し、女子のして欲しい仕草や言葉を研究している。

 (はた)からも客からもはっきりと分かる。


 縁がここへ来て、大体十人ちょっと入れ替わっただろうか、時間にして四十分。一人につき三、四分前後。その誰もがイケメン風で自分に自信がありそうだ。

 もちろんそうでなければ、こんな場所で自ら進んで前に出れない。だからこそ、セリフも仕草もイイ。普段からそんなことばかり考えているのかもしれない。

 縁とは正反対だ。

 ――と。


「次の方~。一年F組、床並縁君です。お相手は永尾綾さん。それではステージにお上がり下さい」

 司会をする女子から紹介があると、先程まで騒いでいたそれが、変な雰囲気へと変わる。更にカーテンで仕切られていた男子の方からも誰かが覗く。

 そして、舞台裏で待機しているA組の女子の何人かが飛び出してきた。


「ちょっと嘘でしょ? ホントに床並君が来てるの?」

「なんで永尾?」

 舞台裏から出てきたのは小峯と登枝と香咲の三人だ。そして舞台の近くに座る縁を見つけると急いで駆け寄り問いかける。縁はそれに「ちょっとワケありで……」と答えた。


「どんなワケなの? やるなら私にして、お願い」

「それなら私だって。部長~、もぅ、なんで~、嫌なんだけど」

 本気でブーたれる三人。それを必死になだめていると、舞台上に見知らぬ女子が現れた。小峯ほど派手ではないが、他の生徒と比べれば十分派手な生徒だ。


 明るい茶髪にカールした髪、片側だけ編み込みされている。

 着崩した制服の着こなしは、怖さやだらしなさというよりもオシャレに見える。



「来てくれたんだ。初めまして綾です。さ、早くステージに上がって床並君」

 縁に群がる小峯と登枝と香咲を「シッシッ」とジェスチャで追い払い、縁だけを手招く。三人は今込達の居るその場所に留まり縁を見守ることにした。縁は何度も振り返り、恋愛有段者の今込に助けを求める。


「床並君。とにかくこれは遊びだし演技だから、その、素直に、相手を好きな人と思って告白してみて。自分をロミオだと思ってさ」

「おみお? どゆこと、人? ちょっ、待って、えっ……」

 パニックのまま縁は舞台へと上がる。皆は、今から縁がどんなイケメンな仕草とセリフで口説き落とすのかと期待していた。が……。


「はっ、初めまして。えっと、どうしたらいいかな?」

「え? 告白……だよ」永尾も戸惑う。


 隣の男子エリアも静まり返っていた。皆が縁のそれをじっと覗いているのだ。

 今込も濱野も、正直この後に縁がどうするのか不安と興味でいっぱいだった。


「そうだよね。うん、告白するね。……永尾さん。俺、君が好きだ」

 縁はそう言って永尾を見つめた。シンプル過ぎてポカンとする客達、だけど縁に本気で見つめられた永尾の瞳は微かにビビっている。


「私のこと……好きなの? 嘘、だって私のこと知らないでしょ?」

「うん。今初めて会ったばかりだもんね。でも、好きになった。今まで誰かを好きになったことなかったけど、俺、永尾さんのことが好きだ」

 好きだとしか言っていないが永尾は指先が震えていた。お客は相変わらずシーンと見守っている。この静けさは何? 他の男子の時は黄色い声で盛り上がっていたのに、この温度差は厳しい。まるで寒波(かんぱ)


「それじゃ私のどこが好き? どうせ、適当に好きって言って終わらせたいだけでしょ?」

「違う。俺は……、永尾さんの真っ直ぐな目が好きだ。誰よりも一途そうで、好きな人にだけは優しく尽くしてくれそうな、そんな綺麗な目。俺はそんな永尾さんの傍に居たい」

 一瞬にして真っ赤になり言葉をなくす永尾。

 しかし、縁の言葉に客がざわめき愚痴る。永尾のどこが一途なのだと。その正反対ジャンと。外見と違い過ぎると嘲笑う。


 今までの盛り上がりとまるで違う、どころか客が怒っている。なにが気に障るのか至る所で文句があがる。共感なんて一人もいない。楽しそうじゃない。


 確かに縁と今までの男子のそれは全く違った。一つ前までの演技では、それこそドラマみたいな甘い台詞、アニメでありそうな仕草や場面設定。

 それに比べて縁のそれは何もなく唐突で、棒立ちで、不器用なただのダメ告白。他の男子と比べれば(いち)(もく)(りょう)(ぜん)


 今込は縁のそれにハラハラしながらただ見守る。

 濱野も軽く手で目を覆っていた。



「永尾さんてさ、声やしゃべり方も可愛いよね。なんかさ、うまく言えないけど、凄くタイプ。ずっと話していたくなる。なんでかな? もっと永尾さんのことが、知りたい。誰も知らない本当の永尾さんが……、俺だけのものにしたい」

 もう縁の方を見ることが出来ずに下を向く永尾。下を向くだけでは恥ずかしさを隠し切れず、濱野とは違う意味で、手で顔を覆い隠してしまった。


 縁なりに必死に頑張り告白するが、客の怒りはどんどん増幅し、文句の声も徐々に大きく広がっていく。ブーイングだ。


「永尾の声のどこが可愛いの? しゃべり方も。口調だってキツイし。男子の居ないとこじゃ超ヤバイんだけど」

 至る所で永尾批判が飛ぶ。そして永尾を褒めた縁を責める。

 こんな茶番はないと。


 褒める所が変、雑、適当、嘘が混じっているから納得いかない。と騒ぐ。


「もぅいいよ。これ以上やると、床並君が悪者になっちゃうから……。ごめんね。無理矢理こんなことさせて……。私、床並君と話してみたくて……それで」

「構わないよ。誰になんて言われても、永尾さんが一人いればそれでいい」

「本当? うん。私も(そば)にいたい」


「はぁあ? ちょっと何? 綾。アンタうちらに『床並なんて興味ないし』って言ってなかったっけ? 何コレ? どんだけキライって言ったか忘れたわけ?」

 女子の必殺技のひとつ、暴露爆弾が投げ込まれた。通称BB。


 暴露爆弾とは、相手が不利益になるように(おとし)める為の口頭戦術。


 後ろの方から派手な女子達が、そう口を挟んできた。永尾はそっちに向いた後、気まずそうに縁へ視線を戻した。


「床並君~、見て、それが綾の本性だよ。陰で、超悪口言ってたからね。床並君は簡単に騙されるからさ、もう少し人を見る目を(やしな)った方がいいわよ~」

 至る所から永尾と縁の演技にダメだしがあがる。濱野は耐え切れず耳を塞ぐ。

 一体何故こんな展開になってしまったのだと。ただの遊びじゃないの? と。


「床並君……。本当なの。私、床並君を悪く言ったことあるの。でも、もう信じてもらえないかも知れないけど……それは本心じゃなくて。今更、遅いよね? せっかく、床並君が私のこと好きって言ってくれたのに……。私、ホント馬鹿みたい」


 縁は随分と手の込んだ演出だなと感心する。

 と同時に難解すぎてお手上げ状態だ。不安なままチラチラと今込を見ると小刻みに頷いている。その意味は分からないが、とにかく続けるしかないと踏ん張る縁。


「そっか。……好きな子に嫌われるのって、結構辛いね。でも、それでも俺は永尾さんが好きだよ。今はどんなに嫌われてても、いつか好きになって貰えるような、そんな男になれたら、……そしたらもう一度告白するよ。今日はフラレちゃったけどね、じゃ」

 縁はそう演技に終止符を付けた。のだが、なぜか終わらない。


「待って、待ってよ。私フッてないってば。だって、……私の方が好きだもん」

 永尾は離れようとする縁の腕に掴まり引き留める。


「何で彼女側の方からコクってンのよ、設定おかしいでしょ? それに! 触れるのナシってなってるでしょ」

 客が騒ぐ。すると永尾もそれに少し苛立って返す。


「コクってるンじゃなくて返事でしょ。なんで皆邪魔するの? なんなのさっきから、他の人の時と全然違うジャン。邪魔する人は客席から出てってよ」

 永尾の台詞についに客が発火した。いや、元から導火線に火がついていたのかも知れない。それがどんな理由でか分からないが、女子の苛立つポイントにガッチリはまってしまったようだ。

 見たくないし聞きたくないし、この演技を続けても欲しくないようだ。



「えっと、これ、ど~うしたらいいの?」

 縁は、なぜ自分の時だけ、お客さんが参加型なのかと疑問に思いながら、複雑な演出設定に頭を掻く。そしてどうやったら終われるのかと様子をみていた。


 今込も訳が分からない。縁の出番前まではあんなに楽しんでいた女子達が、今では浜辺でうねる波のように何度も押し寄せしぶきをかける。

 この波にまともにのまれれば、一気に沖まで流され溺れてしまうだろう。


「床並君はさ、本当に綾のこと好きになっちゃったの? 何で? 綾のどこがいいのよ。ズルイよ、綾なんて超ワルなのに」

 縁はなんて答えていいか迷う。客席側の上手過ぎる演技に、もしかして本気で怒っているのではと勘違いしてしまうほど焦る。

 が、そんなはずないと自分に言い聞かせ、どうやってこのドラマを終わらせればいいかと悩む。そしてとりあえず役を演じる。


「別にいい、ワルでも。俺の傍でだけ可愛い本当の永尾さんならそれでいい」

 縁の台詞に照れまくる永尾。骨抜きになりメロメロな状態。見た目とのそのギャップに、男子達が徐々に魅了されていく。そして口々に「なんかさ永尾って、可愛いかも」と急に好感度が上がり始めた。



 セクシーアイドルで、不良な永尾が、縁に告白されて、普段絶対に見せない顔を見せる。他の女子よりも女の子らしい照れ方と恥じらい。

 縁が言うように、一途で優しくて一生懸命に尽くす純粋な子なのかも知れないと皆が信じていく。


 元々、この出し物が始まってから、一度も永尾を指名する者なんていなかった。それは恋愛対象にすらしない怖い存在だったからだ。

 が、縁との演技を目の当たりにした男子達の永尾に対する見方は大きく変わり、その変化に気付いた女子は、それに比例するように怒りを強めていった。



「だ、か、ら、本当の綾は真っ黒。今、床並君に見せてるのは嘘だから。猫被ってるだけ。なんで分からないかなぁ。床並君、鈍感(チョロ)過ぎ。よく見てよ」

「でも、その、俺は……、えっと、その、あの、傍で笑っていてくれれば……」

「笑顔とかないから~。綾に感情とかないし。残念。不正解。目を覚まして」

 縁の言葉を遮り、客側から()(とう)の声が押し寄せてきた。


 ただでさえ告白という無理難題をこなしているのに、客からの罵声と圧力が加わり、もう縁にはどうすることもできない。


「いい加減にして。ナンなの? これじゃできないジャン。そこら辺で止めとかないと、邪魔されたって先生に言うわよ。これ文化祭の出し物だよ。分かってる? いい?」

 キレかけた永尾の言葉に一斉に静まる。会場を睨み見渡す永尾。縁には見えない角度だが、永尾本来の鋭い視線が女子達一人一人を射抜いていく。

 客側にいる今込も裏画も他の男子達も、一瞬信じかけた永尾の清楚さや優しさを完全にリセットされた。


 女子達も永尾が何者でどういったランクに位置する者かを再確認した。縁の前で弱々しく(たたず)んでいたから、つい錯覚してしまったが……、永尾が女豹なのは紛れもない事実。


 言葉では「先生に言いつけるよ」とか文化祭がどうと言っているが、本来の永尾の台詞ではない。猫を被りながらも見せた鋭い目は「後でけじめをつけるよ」と語っていた。



「やっとこれで静かになった。床並君、続きしよ」微笑む永尾。

 縁としてはもうどう話を進めていいか分からない。こういうことに不慣れな縁には上手く切り抜ける術もない。それに出せる言葉は出し尽くした。


 少し前に『床並君が悪者になっちゃうからもうやめよう』的なことを言ってくれた永尾だが、今は続きをしようとせがむ。もちろん縁もその時は『構わないよ』なんて言ったが、今となっては一秒でも早く終わらせたい気持ちでいっぱいだ。


 まるでそこだけは、本当の恋愛ボケを(かも)し出せている。



 永尾が悪いという訳ではなく、縁がギブアップだった。

 これは文化祭の出し物の一つであり、他の男子達は、自ら進んで参加し、思いっきり楽しんで、客も湧かせてそつなくこなしていた。

 女子の頭をポンポンと()ぜて決め台詞を吐いたり、壁際に追い詰めてカッコ良く迫ったり、走る車から守る為に二の腕を引き寄せる真似、それこそ、数え切れないほどのテクニックと言葉が溢れていた。


 それに引き換え縁は、燃え尽きて灰になっている。永尾に一喝され静かになった客側の誰もが、縁の困り果てた表情に気づく。

 眉毛も目尻もしょぼしょぼと垂れ下がり、テストでゼロ点取ったことを、母親に叱られているような子供の口元をしていた。


 今込も同情するようにただ見守る。登枝と香咲と小峯の三人は、縁のそんな弱々しい仕草と表情に胸をキュンキュンさせていた。

 どうやら縁が完璧ではなく、恋に不器用で自分が助けてあげないとダメな感じが堪らないようだ。



 一方、縁と向かい合っている永尾は、目がハートになっていて縁が困り果てていることにはまったく気づいていない。目に映っているのは優しく微笑む縁の幻影。


 少しの沈黙の中、裏側から若月と数名の女子が出てきた。遅れて、登枝と香咲と小峯の三人もステージへと上がる。


「ちょっとなに、何? なんで皆出てきたのよ? まだ終わってないンだけど」

 突然のそれに永尾がびっくりして問う。

「いや、もう時間というかさ、色々ぐちゃぐちゃっていうか、ほら、分かるでしょ」

「なんでよ。時間って、他の人達の半分も経ってないジャン」

 確かにまだ一分ちょっとだ。他の者達は三、四分ガッツリ演技している。

 それこそ、テレビ番組でコントや漫才をしっかりするくらいストーリー展開が、ある。その点、縁と永尾の場合は、邪魔ばかりでまともな演技などない。交わした言葉も少ない、ほとんどが野次を飛ばした客との対処ばかり。


「でも、もう、ほら、ねっ。床並君もどうしていいか困ってるし」

 縁も迷子の坊やの如く頷く。そのやり取りを見ているお客達も、なんとなくだが、縁の困り果てた様子に、少しやり過ぎてしまったと反省していた。

 縁が不器用だとは気づいていないが、自分達の邪魔(チャチャ)が演技妨害に成功してしまったということは理解している。



 話し合いというより強引な流れで、縁と永尾の演技は中断された。それは紛れもなく白旗振る縁を救う為であり、文化祭の出し物として場が荒れていたという二つの理由からの決断だった。


 永尾は納得いかないようだが、それ以外の全員は状況を察していた。


 中途半端な終わり方だが、誰一人文句は言わない。

 ステージを下りた縁は、受付の横を通り抜け新鮮な空気を吸いに人ごみを出た。そして長い廊下の先や窓から中庭を見下ろし、今起きた出来事を忘れようと試みていた。



「お疲れ様、部長」

 登枝が縁の肩を撫でる。反対側からは小峯が触れる。

 離れた場所で見ていた百瀬と園江も駆け寄り、心配そうに(なぐさ)める。


「それにしてもびっくりした。いきなり床並君が参加してくるから。しかもよりによって、あの永尾さんを指名するから。一体どういうことって」

 疑問を投げかける香咲に、飯塚に頼まれたという経緯を話した。


「つまり、料理をしてもらう代わりにって約束したわけね」

「まあ、意味としてはそういうことになるかな」

 だが、女子達にはそれが永尾とどういった繋がりなのかが分からないままであった。もちろん縁自身も細かなことは分からない。

 その訳を知っているのは飯塚と永尾だけだ。


「ともかくさ、この場所離れよっか。なんか視線が凄いし」

 濱野と裏画が縁の背中を押す。せっかくの文化祭だし何か見て回ろうと。

 すると。


「ちょっと待ってて、私も行くから」

 登枝はそういうと受付場所へと走り何かを交渉する。

 そこへ香咲と小峯も向かった。


「もうすぐお昼だし、私達相当演技したからさ、後は他の人で上手くローテして」

 クラスメイトと交渉し、オーケイと指で合図しながら駆け足で戻ってくる三人。そして今からどこ行くのとはしゃぎながら縁の周りに群がる。


 楽しそうに遠ざかるそれらを、多くの客達が振り返って見ていた。





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