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バースデイ  作者: セキド ワク
33/63

三三話  理想とのギャップ・萌え?



 今込と濱野と裏画は、子供のように縁を迎える。


「さて、今日はどうする床並君? どこ見て回る」

「え? 先輩達はクラスの出し物とか行かなくていいンですか?」

 四人で歩きながら話す。


「うん。うちはクイズ進卵学園だから、司会進行と数人のスタッフだけで大丈夫。教室の飾り付けとか罰ゲームの準備に時間かかったけどね」

「ウチもそう。準備がメインって感じ」

 濱野と裏画は完全に遊ぶ気満々だ。縁は今込と顔を見合わせて、とりあえず一度F組の様子を見に行くことにした。


 軽い足取りの四人がF組に向かう、と、数メートル手前から不穏な空気が流れていた。



「だから、その恰好でお客の呼び込みしないと」

「しないわよ。メイドは中で待ってて、お客が来た時初めて『おかえりなさいませご主人様』って言うンだから。他の誰かが呼んできてよ」

「どうやって」

「看板とかないの? 手際悪過ぎ。呼び込み役の用意してないとかありえないわ」


 どうやらお客が全く来ていないようだ。

 文化祭が始まってまだ十数分だが、他クラスに比べて一人もお客がいないことが焦りとなって口論させている。

 お客も当然のようにF組の前を素通りしていく。今時メイド喫茶など需要がないと言いたげな雰囲気。


 ただ単に、食欲がないとは思わないのだろうか?



「おはよう。どうしたの?」

 少し様子見していた縁と今込が、仕方なく教室へと入る。


「床並君これ見てよ。客が全く入らなくってさ。メイド服がちゃちいし、無理じゃね? これなら男子が執事とかやった方が良かったかもしんない」

「はあ? ちょっとアンタそれどういう意味よ。聞こえてるンだけど。私達メイド役がブスだって言いたいの?」

 つい口を滑らした男子が、メイド役の女子の逆鱗に触れた。それを見てメイド役でない女子が、クスっと鼻で笑う。それが火に油を注ぐ。


「ちょっと待ってって皆。まだ始まったばっかだし、それにお客なら……いるよ、二人。ほら。うちの剣道部の先輩で、濱野先輩と裏画先輩。ほらぁーお客さん」

 びっくりする濱野と裏画だが、縁のお役に立てるのであればと話しに乗っかる。


「せっかく来たのに~。いざこざなの? 先輩に可愛くサービスしてね」

 裏画が淀んだ空気をシェイクして中和する。


「失礼しましたご主人様。お席へ案内します」

 二人を席へと案内すると、またも事件が起こる。

「あ、待って。料理してくれる子がまだ来てないンだけど、もう家庭科室にいるのかな? 誰か見てこいよ」


 バラバラのグッチャグチャだ。何をどうするかの手順が決まっていない。文化祭だけの付け焼刃だから仕方ないが、混乱が続く。


「だ、大丈夫だから皆落ち着いて。俺が見て来るからさ。なっ、そぅだ。それじゃさ、まずは料理じゃなくて人力車で行こう。濱野先輩は俺の方に乗って、裏画先輩は今込君の方に」

 慌てるクラスを、どうにか落ち着かせる縁が、教室端に残るシングルの人力車を廊下へと運ぶ。クラスの皆も初めての客が人力車に乗るのを見ている。


「よし、それじゃ床並君、家庭科室まで競争しようよ」

「えっ、競争? 危なくないかな?」

「平気だよ。事故らない程度で行けば」

「あっ。そうね。やろっか」

 縁は今込の意図に気付き頷く。そして声をかけてくるクラスメイトを振り切るように走り出した。

 あっという間に廊下を飛び立つ。


 とにかく嫌な雰囲気が流れるあの場を離れたかったのだ。座椅子車に座った濱野と裏画を乗せ突っ走る。

 廊下に出た時点で、凄い目立ち様、振り返らない者がいないほど。


 F組を離れて角を曲がると、四人共に溜息をつく。そして随分と雰囲気が悪いねと四人で話し合う。


「あ、そういえばコレ、一階に下ろすのどうしようか。エレベーター使うと怒られそうだし」

 今込の台詞に、裏画が「四人で持って下ろそうよ。軽そうだし」となった。



 一階では既に二人乗りのラブソファーが大活躍していた。案内役メイドを横に乗せ、外から来たお客と仲良く楽しんでいる。受付場所の名簿帳には順番待ち名前が並んでいる。F組の喫茶店の状況とはまるで違う。


 運んでいる男子が縁に笑顔で手を振り、縁と今込もそれに手を振る。同じクラスの出し物とは思えないねと、笑顔で家庭科室へと着いた。


 ドアをノックして飯塚を待つ。とすぐ、ドア付近にいた先輩女子が応対に出てきて、ドアを開けっ放しだと埃が入るからと中へ通された。

 四人は入口付近で飯塚苗を待つ。


「あ、おはようございます、床並君。用意の方はちゃんと出来てますよ」

「おはよう飯塚さん。ありがとう。なんか無理矢理仕事お願いしてごめんね」

「それなら平気です。メイド喫茶ですよね。焼きそばとかお好み焼きとかクレープとかなら、毎年大変だって先輩が言ってましたけど、オムライスは、出ても一日に三十食あるかないかって。一応、半分の十五食分の赤チャーハンを用意しておきました。後は注文が来たら卵を料理してかぶせるだけなので、いつでも出せますよ」

 笑顔で答える飯塚。たった一人の料理人だから大変なことになるかもと予想していたが、凄く頼りになる。



「ちょっといいかな飯塚さん? もしかして……メイド喫茶って不人気なの?」

 今込が恐る恐る尋ねる。飯塚がそれに、どう答えていいか渋っていると、横から先輩が口を挟んできた。

「う~ん、よほど可愛い子がいればぁ話は変わると思うけど、F組でしょ? これがA組ならね、満員になることもあるかもだけど、それでもオムライスは……ないわね。毎年そうよ」

 縁も今込も、毎年の事例を聞いて全身に寒気が走る。

 今さっきみたクラスの現状は、お客さんが入ることで改善されると思っていたのに、その道が絶たれてしまった。


 よく考えてみればそうだ。皆、朝ごはんを食べてきている。そして唯一期待できるお昼でさえも、それまでに甘くておいしい物や手ごろな物から摘まんでいく。

 文化祭にはそれこそお祭りならではの食べ物が溢れている。


 そこでわざわざ、素人の作ったオムライスは食べない。それでも少し出るのは、メイドというおまけがついてくるから。でも、それでさえお祭りで可愛く着飾った生徒が溢れる文化祭では相当霞んでいる。なにせ、見渡す限り女子高生ばかりなのだから……。


 ……完全な失策だ。


 本場のメイド喫茶店で、どれくらいオムライスが出るかきちんと考えれば少しは予想が出来たはず。欲や浅はかな思惑で出し物を決めると、結果、ポシャル。

 特に経験の少ない子供の案ではこうなる。


 どおりでお化け屋敷などの人気確定イベントは、先輩クラスが根こそぎぶんどっていくのに、メイド喫茶だけ一年生クラスに、それも難なく、争いなくおりてきたわけだ。

 先輩達は知っていたのだ。


 そして経験の少ない一年生がそれを知らずに、必死に奪い合った。


 メイド喫茶の権利を奪って立派にやり遂げられるのは、A組くらい。

 時と場合によって、F組もいける、かもしれないといったところ。



「マジかぁ。やばいよ。……終わったな」

「え? でも、F組の人力車、凄い人気だよ。私も乗ったし、ここに居る皆も予約してるよ。あれフカフカで楽だし、すごく面白いよ。苗ちゃんもさすが床並君って褒めてたもんね」

「ちょっと先輩。……もぅ。からかわないでくださいよぅ」


「そっか。床並君、なら人力車に人員回した方がいいね。教室にいるとヤバそうだしさ」

 今込と縁が顔を見合わせて苦笑いする。


「ねぇねぇ床並君さ、あれってメイドとじゃなくて床並君と一緒に乗るとか、床並君に押してもらうとか指定できるの?」

 縁は普通に頷く。すると家庭科室にいる女子が「ホントに~」と騒ぎ出した。


「それじゃ私は、今込君がいいなぁ」遠くからも声がする。

 マスクをしているとは思えないほど鮮明に聞こえた。



 縁と今込は、飯塚と作業内容の確認をし、今日のことを改めてお願いした。

 賑やかな感じで各自が料理していく中、四人は「お邪魔しました」と家庭科室を後にした。

 すると、ドアを出たすぐ後を、飯塚が追いかけてきた。


「あの、ちょっと床並君に、お願いがあって。できれば……、いや、その、料理のお手伝いした代わりなんて言ったら迷惑かも知れないンですけど、その……」

 凄く言いづらそうに困っている。


「どうしたの? 何でも言って。俺も無理にお願いきいて貰ってるし、俺に出来ることなら何でもするからさ」

 笑顔で問いかける縁。

 今込と濱野と裏画は、気を使って廊下の端の方へと離れていく。


「実は、その、A組の出し物があるンですけど、そこに行って永尾綾って子を指名して、参加して欲しくて……」


 B組の飯塚が、なぜかA組の出し物を頼む。


「A組の永尾、綾さん? それって一年生の出し物?」

「そうです一年A組です。なんか無理言ってすみません。昨日、頼まれちゃって」



 一年A組、永尾(ながお)(あや)。キャバリータというセクシーアイドルグループのリーダー兼センターを務める売れっ子。

 付属の中学校からエスカレーターで上がって来ており、よほど学校に興味がないなどの理由がない限り、彼女を知らないものはいない。

 そして、高校生となった進卵学園での立場も、四つある女子不良グループの最も勢力のあるところに所属し、そのグループ内でも一年生にしてトップスリーの格付けであった。



 飯塚は、中庭での縁とのやり取り後に、不良グループに生意気だと呼び出され、そこにたまたま通りかかった永尾が、縁とのことを知り、飯塚を条件付きで助けたのだ。その条件というのが、文化祭で縁と永尾(じぶん)を接触させるということ。

 ちなみに、飯塚を呼び出したグループと永尾のグループは、敵対関係している、まったく別のグループである。


 それが昨日の出来事。


 飯塚は、本当は凄くそれが嫌だった。せっかく作った縁への借りもチャラになってしまうし、仮に借りを返して貰えるなら、もっと別のお願いが山ほどある。

 これで縁の為にしてあげたという肩書も消え、いわば永尾の為にするただ働きへと変換されたわけだ。


 だが、それでも飯塚には断れない理由がある。

 それはおっかない不良グループに目をつけられてしまったこと。そして、永尾の条件は、その不良グループからの救出だけではなく、三年の文化祭までの二年間、(なん)(ぴと)たりとも虐めさせないように守る、という条約が交わされたのだ。


 小さくてか弱い飯塚にとって、よだれが出るほどの好条件。

 いつも馬鹿にされ、いつ虐めに変わるかも分からない状況にビクビクしていることから解放される。

 特に最近はどこのクラスも格付けが激化して、弱い飯塚はとっくに下位へ弾かれていた。しかし、この約束をしっかりとやり終えたら、飯塚の格付けは一気に急上昇し、楽しい学園生活に変わる。


 腕力よりも対人力が重視される女子世界で、この約束は、立場だけでなく友達も思い出も、とんでもなく増えて向上する交換条件と言えた。



「うん。分かった。後でA組に行って、永尾綾さんを指名すればいいのね?」

 縁はポケットからメモ帳を出してチェックした。

「よろしくお願いします。ホント、無理言ってごめんなさい」

 気まずそうにお辞儀する飯塚。

 でも、こうした細かなやり取りを、無事にこなせた女子だけが生き残る。それが例え好意のある者を売る行為であっても。女子にはそういう選択や決断を迫られる時がある。切ない。


 敢えて言い訳を言えば、これがおっかない不良グループに、目をつけられたのでなければ、話は少し違っていたかも知れない。


 女子の選択肢は常に四方八方に伸びていて、少しの選択ミスで友情にヒビが入るなど珍しくない。選ぶべき選択はその子のランクで複雑に変わり、最低でも男子を優先出来るのは、それなりの立場の子となる。



 縁は持ってきた人力車に濱野を乗せまた押し始めた。

「なんか悪いなぁ、部長に押させて。俺……代わろうか?」

「えへぇ、これウチのクラスの出し物ですから。先輩達はお客さんですよ。それに先輩達に押させたら絶対競争しますし、事故りますもん」

 今込も絶対そうなると笑う。濱野と裏画も確かにと顔を見合わせた。


 四人とも楽しそうに廊下を移動する。このにこやかな感じが、F組に戻った時にどうなるのかと不安になる。たぶんだが、あの後もお客は入っていない。


 階段を上り徐々にクラスへと近づく。一般の客が素通りしていくのが見える。

 F組の前では誰も客引きはしていない。活気がない。まるで準備中のお店の様。一階で頑張っている人力車担当の者達と違い過ぎる。


 今込と縁は渋りながらも、勇気を出して教室に飛び込む。

「ただいま。飯塚さんに今日よろしくって言って来たから。注文入ったらさ、どんどん……言いに……いってね」異様な雰囲気に徐々に小声になる縁。


 メイド喫茶の期待度とのギャップにクラス中が崩壊しかけている。今込も濱野も裏画も、あまりの現実に逆に微笑む。

 高まる緊張に、思わず笑ってしまいそう。


 きっと家では家族に『私、文化祭でメイド服着て、萌え萌えキュンキュンってやるの』と楽しそうに話していたはず。それも夏休みの前から。

 長い時間をかけて色々と想像も膨らんだであろう。


 このショックは、初めての海外旅行で青い海と広大な景色を夢見ていたら、大雨で外に出られず、おまけに食べ物も水も合わずにお腹を壊して、一緒に来た仲間や家族とも大喧嘩して、全員般若の形相で帰国する羽目になった地獄絵図と等しい。


 これは人生に三度しかない文化祭の一回。このクラスとしては最初で最後。

 旅行なら何度も再チャレンジできるが、大人になってから文化祭をやり直すなどできない。



 この場所でさほど腐っていないのは、メイドになれなかった女子だけだ。女子にそそのかされて必死に用意した男子も、このあまりの惨敗ぶりにはショックを隠し切れない。

 こんな悲劇が毎年一年生のどこかのクラスに回って来ているのだ。そして二度とやらないと反省し、痛々しい勉強となる。今回そのババを引いたのはF組。


 他クラスの生徒がF組を覗いては鼻で笑って通り過ぎる。客の入らない今のF組は、まるで場末のスナック状態。いや、時代遅れの流行語みたい。


 フォローの言葉さえ重い空気にかすれてしまう。

 そして縁も今込も、お客である濱野と裏画もマネキンのようになりかけていた。するとそこに、一階で頑張っている別動隊が飛び込んで来た。



「床並君、あと今込君と百瀬さんも。なんか急に指名が入っちゃって、良く分からないンだけど来てくれる。手伝って。あ、それと誰か、できたら廊下にあるシングルの椅子も、どうにかして合体させられないかな? もし暇で、手が空いてるならだけど」

 呼びに来た者が急いで縁と今込の腕を引く。百瀬もよく分からないキョトンとした顔でそれについていく。濱野と裏画も客としてF組に残ることはせず逃げるようにそれらについていく。

 名前は呼ばれていないが、園江も百瀬と共に脱出した。


 どうにか底なし沼から這い出した縁と今込は、手を引かれるままに一階へと着く。そこには一般客だけではなく、進卵学園の生徒が群がっている。


「あー本当に来た。マジー。うっそ?」

 黄色い声で騒ぐお客達。そしてここから文化祭の出し物として、縁も今込も百瀬も頑張り、役目を果たす。

 なぜか濱野と裏画は関係ないのに受付などでお客の整理などをしていた。


 人力車というより、一階を周回するゴーカートのよう。いや、メリーゴーランドといった感じかもしれない。

 客が進卵学園の生徒の場合、誰も景色は見ないし目的地もない。ただ横に乗る縁や今込に話かけ続けて終わり。

 一般の客とは使い方が大分違った。



 一時間ほどそれが続く。押している者も相当疲れている。

 途中、結束バンドで合体させたシングル改造車も加わり、少し客の流れもマシになったが、それでも台数の少なさと、メイドや縁などの指名制は効率が悪く、予約者をさばききれていない。


 元々の意図と大分指向が変わってしまったから仕方がない。


 一言でいえばグダグダ。本来は喫茶店ありきのオプションだったワケで、そこが崩壊した時点で発想は破綻していた。別階でも走らすつもりだった予定も、すべて一階へ集結するなどの変更となり、何から何まで思惑からずれていった。


 とにかく手直しとシステムの変更に試行錯誤しながら、文化祭の仕事をこなしていく。



「ひぃ~。マジで疲れるぅ」

 ペットボトルを飲みながら今込が汗を拭う。百瀬もヘトヘトだ。

 縁は朝からの具合の悪さもあいまってか、徹夜中の受験生みたいな頑張りだ。


「キツイ。これ……メイドじゃなくて、俺等ばっかじゃね?」

 今込が駄々をこねる。働き通しの不公平さに嫌気がさしているのだ。

「そういえば床並君さ、なんか予定があったンじゃなかった? ここら辺で気分転換に一旦休憩して、そっち行かない?」逃げ出したい今込。


 縁は言われるままに頷く。

 今の縁は、何を言っても頷いてしまうくらい疲れ果てている。いわゆる脳が疲労で、催眠状態みたく、マインドコントロールされやすい状況下であった。



「そうだね。さっきから働きっぱなしだもんね。トイレ休憩ってことで」

 F組のクラスメイト達も、過酷な労働状況に休憩を入れた。


 そのまま、逃げ出すようにその場を離れていく。





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