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バースデイ  作者: セキド ワク
27/63

二七話  追試 バトル



「そんじゃ、銃の方もあるし、濱野先輩が初めに言った約束を、俺が代わりにやります。先輩は得意なその銃で、俺はその銃の弾を避けて俺なりの攻撃をしますよ。もちろん手加減しますけど」

「銃でいいの? 弾を当てれば俺の勝ちってこと?」びっくりしている。


「うん。それでいい。弾を当てたら勝ち。当てることが出来なかったら負け」

 自信満々の裏画だが、その何倍も縁の方が自信満々である。


 家や近所裏などで、的などを撃って遊んでいる裏画には、絶対の自信があった。いくら強いとか凄いと言われている縁であっても、銃の弾を避け続けるなんてできないと。それこそマンガじゃないんだからと。


 縁は剣道場に居る者達を全て裏画の遥か後方へと移動させる。そして裏画に射撃していい方向と絶対してはいけない方角を示した。

 見学者達が待機している方角は禁止と。


「用意はいいですか先輩」

「ちょっと待って、どっちの銃にしようか迷ってて」

「あ、それ、両方いいですよ」

「二丁拳銃でいいってこと? マジで。絶対勝てるジャン」


 縁は鞄から小さな折り畳みの何かを取り出し、それを開いていく。すると、三枚刃の小さなブーメランに変わった。それを三枚片手の平に重ねて持ち「いつでもいいですよ」と言って動き始めた。


 裏画は動く縁を狙う。そして一発目を放った瞬間、縁が数歩加速して動いた。

 弾は縁から大分外れて、壁に当たって小さな音を立てた。


 常に銃口は縁を追いかけている。縁はその銃口を見ながら普通に歩く。と、またもエアガンの発射音。それとほぼ同時に縁が避ける。だが今度は裏画がもう片方の銃で更に狙う。

 その弾を縁がかわした瞬間、裏画は連続して左右で三発放ってきた。心理的にこれならどうだと試したようだが、裏を返せば一発ずつでは当たらないような感覚だったのかも知れない。


 見ている者達も裏画本人も、まだ銃の方が有利だと思っている。

 この剣道場に居る中で、縁の方が圧倒的に有利だと理解してるのは、寧結と理科教師である吉原先生だけだ。


 先程の話を聞いて、確率などからいって縁が正しいことを言っていると論理的に理解したのだ。

 寧結は、エアガンで遊んだ記憶からいっても、寧結が参加している戦場での経験から言っても、ハンドガンで動いているモノへの命中率の低さは嫌というほど実感していた。


 なぜに散弾銃なる物があるのか。そしてその散弾銃はどれほど命中率が高いか? クレーン射撃は誰もが五割以上を普通に当てられる物なのか? はたまた、散弾銃で撃ち落とした鳥などの獲物は、散弾した弾の何発が命中しているのか?


 裏画の持っているエアガンは小さな弾を一発ずつ放つ、両手同時発射でも二発が限度。動く的をきちんと捉えることも出来ず、両手の銃口はブレまくる。

 縁ははっきりと銃口の傾きや弾道の予想ラインを目で確認していた。



 撃ちまくる裏画がふと残りの弾数を気にかけた。――消費し過ぎたと。

 裏画がトリガーを引く予備動作で縁は最初の反応をする。そして裏画ゾンビと同じで、攻撃時に動きが一瞬止まる。そこでタイミングよく動き始める。

 引き金が引かれたハンドガンの上部分が自動でガシャンとスライドし、ようやく弾が発射される。その時点で、裏画が最初に狙いすました位置から縁が退いているわけだ。


 本物の銃とエアガンでは弾の速度や威力はまったく違うが、使い手の動作などは殆ど変らない。つまり、あてずっぽうではなく、弾が見えるか見えないかでもなく、しっかりと攻撃動作を見て、銃口のラインも意識して避けている。

 逆に弾を見て避けている訳がない。



「ウソだろ……まったく当たらない。当たる気がしない」

 このままでは入部できないと焦る裏画。当てる為にはデタラメでも連射するか、もっと近づいて撃つかと悩む。

 でも何となく、近づいても当たる気がしないと感じている。それは、距離のあることで、撃ってきた弾が見えているといった避け方や弾の速度が遅くて察知出来ているのではなく、発射した瞬間にタイミングよくかわされているからだ。


 裏画の感覚では、弾の出るコンマ数秒手前に縁が的からいなくなり逃げられる。それは携帯電話のカメラで写メを撮る時に、絶好のシャッターチャンスから被写体がブレる感じに似ている。あのタイムラグの感じ。

 弾を放った時にはもう避けられていると……。


 そして銃とは、トリガーを引き発射させた後で銃口を動く的へと追尾させても、弾の軌道は曲がらない、それはただ狙撃手の気分を満たす行為でしかない。

 つまり、的に当てたければ、的の動く先、それを予測してタイミングよく狙い、命中させることが()(けつ)となる。


 ダメもとでもやるしかないと、近距離戦を選んだ裏画。前に数歩近づいた瞬間、縁が手に持った三枚刃のブーメランを左右の手から投げ放った。

 ゆっくりとクルクル回転しながら大きく曲がり宙を舞う。

 誰もがその二つのブーメランに目をやった一瞬。それこそ二秒、いや一秒半くらいの刹那な時間だ。

 縁はその場から姿を消し、裏画の真後ろへと回っていた。二人の距離は大分あったが、あっという間の出来事であった。



「先輩、チェックメイトです。この度は残念です」そう微笑んだ。

 ゾッとする早業で、ハンドガンが扱いづらい説を立証した。

 ただし初めに述べたように、条件次第で最弱にもなり、また銃に有利な空間や場所、そして敵数などで変わる。

 細かな建物内や細い廊下などでは、弾を避けるなども出来ない。しかし、それもまたあくまで、警察隊が所持している盾などを持っていないという条件下だが。


 一つだけはっきりしているのは、戦況などの条件ではなく、銃そのものの条件。分かり易く言えばやはり何度も言うように、装弾数と予備の弾が弱点だ。

 エアガンの様なおもちゃの弾ならジャラジャラと弾ケースで持ち歩けるが、実際に自分で所持できる弾数は微々たるもの。

 一発でも単三電池くらいと考えていいかさばりだ。それに重い。とてもじゃないが何十発も何百発も持ち歩けない。戦場では弾を運ぶ車が必要となる。ポケットに、電池やパチンコ玉を十五個くらい入れれば何となく分かるかもしれない。


 そして命中率に関しても、なにも縁と裏画の様な戦いをしなくても、犯人役の者の身近に、自分の家族と恋人など(ひざまず)いてもらったり並んで立ってもらって、家族ではなく犯人の頭か心臓を撃ち抜く自信があるか構えてみたら分かる。

 逆に、誰かに銃を構えてもらい、自分自らが人質として、他人の放つ弾にどれほどの信頼性や命中率をのぞめるかを、リアルに考えてみればいい。


 わざわざ撃たなくとも、その形を試すだけで、どれくらいの距離なら自分の腕や相手の腕に信頼を持てるか分かる。

 絶対の自信がある距離は、きっとビックリするほどの至近距離になる。たぶん二、三メートル以内だろう。それ以上は恐怖で撃てない。なぜなら外れる可能性があるからだ。それが銃本来の信頼性。命中率の低さへの恐怖。



 敗北して落ち込む裏画。濱野はこの結果にホッとしている。

「ずるいよ。絶対、床並君だからじゃん。濱野で同じことしたいよ」

 その台詞に縁も我に返る。

 銃の弱点を立証したくて試みたゲームだが、裏画の言うように、濱野や今の部員達では到底避けきれない。裏画が思っているほどの命中率は絶対にないが、濱野が挑めば、弾を撃ちきる前に仕留められるのも確かだ。

 それくらい出来なければ、刀が一人切ったら切れなくなるといった論理と同じになる。銃もまたそこまでではない。


「いや、……ですよね、そんじゃ、今のは、ナシかなぁ。確かにちょっと俺……」

 気まずそうに詫びる縁。


「なんで部長。せっかく勝ったのに。今のでお終いでいいンですって」

「やだぁ。濱野、お前が勝負しろよ。逃げンなよ。自分で言い出したンだろ?」

「ば~か。俺は、剣道でって言ったの。なんでエアガンを避けるんだよ。絶対無理だろ? それくらい見てて分かるよ。床並君はそういう練習してるから反応できるけど。俺はまだシャボン玉で止まってるから無理だってこと」

「シャボン玉? ん? 何言ってんだ? 何とシャボン玉間違えてるか知らないけど、濱野が勝負しないと納得できない」

 裏画も必死だ。今さっきまで『やり~』と喜んで縁に挑んだはずなのに。


 部員達は、合宿中、縁がカラーボールを避けていたことを思いだし、縁が放った小さなブーメランを見て、こういった飛び道具があるからシャボン玉のような練習があるのかなと結び付けていた。



「床並君、なんで俺だけ試験なの? 頼むよ、こんなお願いしてもダメ? 床並君はこの学校でも一番モテるから、俺みたいな凡人の気持ち分からないと思うけど、俺も剣道部に入って自分を変えたいンだよ」


 縁が言い訳をしようとしたその時、濱野が口を開いた。


「おい裏画、それは違うぜ。確かに床並君はモテるけど、本当にモテているのは、今込君だ。よく考えてみな、床並君はこの学校での人気だけど、今込君は全国だ。全国の小中高、いや、大学生やOLさんにも、マダムにだって人気だろ。その人数は何万って数。今込君が他校にカメラと潜入する企画があれば、女子の黄色い声援が渦巻くぜ」

 自信満々にそう言い放つ濱野。裏画もそこにいる見学者達も、改めてそのことに気づき、再確認していく。


 縁も今込も少し微笑んでいた。それは――。


 合宿中に濱野が裏画と同じような言葉を吐き、それを縁が今の説明と同じようなことを言って収めたのだ。女子部員達も仕方なくその論理に納得してはいた。

 確かに認めざる負えないと。


 つまりこの学校では、全国に顔の売れた男子が、今込以外にも数十名いて、縁のランクはその一番下となる。


 そもそも、縁自身はまず、自分がモテるとは微塵も思っていない。それどころかなんでモテると言われるのかも分かっていない、逆に少しはモテたいと思っているくらいだ。



「濱野先輩、勝負してあげたら? 元々は濱野君が言い出しっぺだしさ。剣道部としてここで逃げたら女子部員達から幻滅されちゃいますよ。な~んだ濱野ってあの先輩以下の頼れない先輩かって」今込がからかうように濱野に吹っかける。

「別に、逃げてるワケじゃないよ。よし、よ~し。やってやるよ。俺も部長みたく華麗に避けてやる。その代り、何か盾になる物使うよ」


「だぁ、ダメだよ濱野。盾はなし。それはズルいよ。そんなの持たれたら当たらないかも知れないだろ。あっ、なら竹刀で避ければ?」

「竹刀で? アホか。手で()っきいボールとか投げるなら引き受けるけど、なんで弾丸を竹刀で避けるんだよ。お前な、ゾンビとかアニメの見過ぎ。無理だよ。あっちなみに、床並君は~エアガンの弾、竹刀で打てる?」


「打~てないよ」縁が腹を抱えて笑っている。ツボにハマったようだ。


「ほら。床並君が出来ないのに、なんで俺が出来るんだよ。野球じゃないんだから打てるわけないだろ?」


 実際は、エアガンの弾をおもちゃの空バットで打つという動画があり、全くできないほどの難易度ではないようだ。もちろんその映像がどういった物かは賛否両論だが。縁はあくまで一般論として、また技的な意味や確率的な観点で無理だと笑っている。

 何度も試していいのなら当たることもあるが、こんなにも緊迫した勝敗ありきの本戦で、失敗なく全て打ち返すのは無理だと言っている。いや、笑っている。



「じゃあ、床並君みたく避けてよ」

「何もなしで? ちょっとポリバケツのフタ持つくらいいいだろ?」

 二人の話し合いが続く。お互い一歩も譲れないルール決めだ。



 そんな中、今込は縁に色々な話を聞いていた。


「あのさ、銃が弱いってことは、飛び道具は駄目ってこと?」

「違うよ。銃がダメなのは弾とか命中率に問題があるから、俺の知っている場所では絶対に最後まで自分を守れないって言うだけ。だから、普通に使う? ま、法律的にダメだから話がこんがらがっちゃうけど、素手よりは強いし、でも……海外の事件でよくある、大統領や政治家を狙った事件でさ、ハンドガンみたいな物やもっと小さな改造銃を隠し持っても、結局ターゲットを仕留められずにボディーガードに捕まるでしょ。ニュースとかで成功例の割合があまりにも少ないと思わない?」


「確かに。銃の絶対的な強さのイメージから言えば隠し持った小型の銃とはいえ、それこそ頭か心臓を狙って……、そっか、そういう意味か」

 今込なりに何となく理解し始めた。命中率の難しさと弾数。



「それじゃ、弓とかはもっとダメってことだ」

「え、なんで?」

「だって矢の数とかそんなに所持できないでしょ?」今込が深く確信して問う。

 縁はそれにゆっくりと答えていく。イメージできるように。


 もちろん見たわけではないから想像の話になっているが、かつての戦場で、弓の活躍や武器としての強さはどういった物であったか?

 一人あたり二十本しか所持できないとして。どういった戦いが行われていたか。今込の想像ではすぐに使い切って終わりだが、実際は、一人二十本、味方の弓矢隊の人数かける二十本、そして敵の弓矢隊かける二十本の矢が戦場の至る所に落ちている。普通に考えても数万本の矢が戦場に落ちている。


 自分や味方が前方に放った矢は、進軍する度に回収できる。銃と弓の大きな違いは、放った弾がそれっきりかどうかだ。

 戦で使った矢、もっと言えば刀や槍、防具などは戦が終わると同時に土に埋められる習慣でもあったのだろうか? 道具は戦ごとに一から作り直していたのか?

 そして弓矢を戦場で使い切ると、隊の一番後ろでお役目を終えたとなるのか?


 想像でしか言えないが、きちんと回収し再利用していたに違いない。それは戦いの最中であっても当然同じこと。



「そう言われればそうか。ま、床並君が言うように、昔の話はタイムマシンでもなきゃ本当の所は分からないって言うのもそうだし。特にこの国は本音と建前があるから、歴史書にどう記されているかあやふやそうだもんね」

 今込と縁が話しこんでいると、いつの間にか濱野と裏画の勝負が始まっていた。


 激しく動き回る濱野。盾は持っていない。竹刀を振りながらエアガン一丁と戦っている。無謀だ。



 縁は、寧結と萌生が折紙先生の膝に頭を乗せ、お昼寝をしているのに気付いて、見学者達をかき分けてそこへと向かった。

 そして小声で「折紙先生、なんかスミマセン」と謝った。


「いいのよ。寧結ちゃんも萌生ちゃんもまだ小さいし、お腹いっぱいになったら、眠くなっちゃったのよ」眠る二人の頭を撫でる折紙先生。

 その横で吉原先生が悔しそうにしている。自分よりイイ女っぷりを(かも)し出しているのが許せないと。料理が上手かったり、気が利いたり、ペットに(なつ)かれたりなど男性の前で差をつけられると、敗北感とムカつきが同時に襲ってくるのだ。


 こちらの二人もまた、濱野と裏画のように、顧問の座を争っている。



「痛っ。いってぇ。いてぇよ、もう撃つなよ」

 パンパンと何発か音がした。

 太モモを押さえた濱野が、片足を上げたままクルクルとその場で回る。どうやら負けたようだ。裏画は嬉しそうに飛び回る。

 二人共に部族の踊りを踊っているよう。


 ようやく新入部員が決まった。


 縁は新入部員達五人を集めて、これから宜しくと挨拶する。そして剣道部側から自己紹介を始めた。


 今日この場に来れていないのは、A組の小峯真貴と登枝日芽と香咲栞。二年F組の岡吉エレナと雨越虹の計五人。

 A組の三人は仕事が忙しく、特に登枝に関しては、合宿終了日の二日前に仕事の都合で先に帰った。三人とも修学旅行も今日も来られていない。

 この時期のアイドルはメチャクチャ忙しい。モデル達も秋冬の撮影を撮り終え、既に出来上がった服でファッションショーに出ずっぱりだ。


 百瀬もモデルとして忙しいのだが、専門がなんちゃって制服だけに、他の者ほど幅が広くはない。



「初めまして、一年C組の(やま)(また)栄子(えいこ)っていいます。葉阪さんと同じ(クラス)です。入部できて嬉しいです。こんな感じですが、頑張りますのでよろしくお願いします」

「よろしく」部員達が返事する。


 山又は凄く背が低く、にも拘らず胸とお尻が大きい。ぽっちゃりとも言えるが、その分なのか発育が飛び級で高三レベルだ。


「初めまして、一年E組の()(がき)(かん)()っていいます。人見知りで、よく皆からは、でくの棒って言われますが、頑張りますのでビシビシしごいて下さい」

「よろしく」

 木垣は背が高く百八十三か四センチはある。背に似合わずおどおどした目をしていて、体もガリガリで骨ばっている。


「どうも、初めまして。一年E組の(むろ)()(りょう)です。僕も人見知りが激しいんですけど、剣道部で心も体も鍛えたいと思います」

「よろしく」

 見るからに部屋にこもって本やゲームをしていそうなタイプ。おどおどはしていないが、外見を見た印象では友達は少なそうだ。


「初めまして。私は、二年B組の小川(おがわ)(いく)()といいます。三好さんとは同じクラスで仲良くさせてもらってます。私も少し人見知りですが仲良くして下さい」

「はい。よろしく」

 おっとりとして清楚な感じだ。


「初めましてぇ。二年E組の裏画(うらが)(とき)(ふみ)です。俺は……」

「よろしく~」

 裏画が話している最中に濱野が割り込むように『よろしく~』と遮った。部員達も新入部員も少し遅れて「よろしく」と続いた。

 まだ話している途中だが、よろしく~と言われれば、裏画も頭を下げて笑うしかない。



 自己紹介が終わると、新入部員達の壁に掛ける木札と道着や竹刀などについて、縁とマネージャーとで話し始めた。


「部長、そういえば頼まれていた冬用のジャージですけど、三好先輩と園江さんが幾つかデザインが出来上がっているから美術室で確認して欲しいって」

「あ、それなら私が預かってるわ」

 折紙先生が子供を起こさないように、小声で合図する。


「部長、竹刀の方はネットで、二十本二万円で落札しましたけど。他に、追加しますか?」

「いや、いいよ。木刀の方は四本じゃ足りない……か、あっでも、素振り用だし、……いいやそのままで。じゃあ新入部員分の道着と防具を追加してくれるかな?」

「はい。それじゃ早速」

 寺本と葉阪が新入部員達から、体のサイズを聞いてメモしていく。



「随分と賑やかになったね床並君」

 今込がいつものように縁の肩を揉む。縁も、いつものようにくすぐったそうにくねる。そんな二人の元に、濱野と裏画は仲悪そうに近づいてきた。


「ねぇ床並君。ちょっと聞きたいんだけどさぁ、銃が弱いなら、もっと強い武器があるってことだよね? 床並君が思う強い武器って何? 教えて」

 裏画が興味津々にそう尋ねた。裏画の台詞を遮ろうとした濱野も、途中で抑え、その答えが知りたくなった。理科教師の吉原先生も今込も縁を見る。


「う~ん。すごく難しい質問だよそれ。武器って使う人によるから。銃だって上手い人が使えば大化けするし、普通一般の人なら照準(エイム)の合わせとスピード的に、扱いづらいとなるし」

「それじゃ、それなりの人が使ったと仮定してさ」

「分かった。そんじゃ~、まず最も定番で強いのは、ハンマーとアックス。金槌(かなづち)(おの)ね」


「ええ? 剣より? 床並君って本当に不思議なことを言うよね。どう考えても剣じゃないの? ハンマーじゃ切れないしさ、どうやって攻撃するの?」

 縁は裏画の言葉に笑っている。ただ裏画のそれが通常のイメージかも知れない。


「剣や刀は確かに鋭いし強いよ。でもね――」そういってまた説明した。


 剣で大木が切れるだろうか? 絶対に無理だ。時間をかけて何度も打ち込んでも斧のようにはならない。それはその道具や武器が持つ科学的数値なのだ。

 つまり剣や刀は圧倒的に軽い。

 それは、どんなにパワーのある者が持っても軽いのだ。分かり易く言えば、おもちゃの空バットを、プロの選手が持っても、ソレで硬球の球を場外へ打ち返すのが絶対に無理なのと同じこと。


 じゃあそのことが戦いにおいてどういう意味を持つか? 防御が絶対的に意味を持つ戦の中で、身を守るものは鎧や盾や武器となる。


 しかし、斧やハンマーの攻撃から身を守る方法は基本ゼロなのだ。


 映画などでは振り下ろされた斧やハンマーを剣や刀で受けるが、どんなに大柄なものでも物理的にそれらを支えるなど無理。先程の球を場外に放てないのと同じで、軽い剣や刀では、どんなに足掻いてもあり得ないこと。それをどうにか言い訳したくて剣先と柄を両手で支えたら可能ではと妄想するが、それ自体が全く幻想。

 空バットのどことどこを支えても、圧倒的な破壊力の前ではふにゃふにゃのゴムのようにへし曲がる。


 鎧もまた同じで、剣や刀のように受けることは決してできない。唯一対抗できるのは、強度のある盾と相手の武器と同じ強さの斧やハンマーのみなのだ。


「そ、それじゃどうやって防御するの?」

「防御はできないよ。避けるのみ。だからすごく強いんだってば。昔から言うでしょ、鬼に金棒って。あれはちゃんとそういうことが分かってる時代の言葉だからさ。今はさ、映画とかで、筋骨(きんこつ)隆々(りゅうりゅう)の巨漢な者達が、何を思ってか……剣に憧れてるのかな? それでか斧やハンマーじゃなく剣を持って戦ってるけど。実際は、あんな大きな体の人が剣を持っても、遅くて超余裕で倒せるし」



「ん? どういうこと? 剣でのろいなら斧とかハンマーはもっと遅くないの?」

「ならないよ。持てない程重いのは論外だけど、扱える範囲のモノならスピードはほぼ変わらないよ。裏画先輩は竹刀から新聞紙を丸めた剣に交換したら早くなる? 遅くなるのは力の無い者が刀から重い斧に持ち替えた時とかで、さっき言ったような筋肉だらけの者達が剣を持ちたがることがおかしいから。想像してみて、そんな化け物みたいなのが振りまわす斧やハンマーを。一切防御できないんだよ。防御を禁止されただけで人はその敵の攻撃よりも数倍早く動いて、しっかりと距離を避けなきゃならない」


 皆が思いがけない発想に深く頷く。吉原先生も言われれば当然と理解する。


「そうなんだ。それじゃお寺にある像、門番みたいな屈強な人はめちゃくちゃ強いってことだ。全然そんなイメージ無かったけど、そう考えるとなんでああゆう像が守護しているか分かるね。ちょっとナメてたかも」

 今込が改めて、鬼に金棒や、お寺などで見てきた像達の凄さを知る。


「でもさ床並君。筋肉があるというか大きな者達がのろいっていうところが腑に落ちないんだけど。床並君の話ってさ、軽く上辺だけ説明してるのに科学的な根拠がありそうに感じるんだけど、でも、スピードに関しては、歴史や記録が違うことを立証してるじゃん。ほら、オリンピックの短距離走では圧倒的に海外の選手の方が早いでしょ?」


「ああ、確かに。日本も少しは活躍できるようになってきたけど、それはごく一部の選ばれた選手であって、一般人どうしで比べたなら全然敵わないかも」

 裏画の言葉に濱野も乗っかった。


 縁は二人の台詞を聞きながら、ニッコリと笑っている。

「なにがおかしいの部長。だってこればっかりはそうでしょ? これも違うの? さすがにそれは無理があるでしょ」

「ふふっ。裏画先輩も濱野先輩もさ、短距離走って聞いてイメージする距離が百メートルなのを不思議と思ったことない? ない。それじゃ仕方ない。でも端的(たんてき)に言うと、その距離は短距離ではなくその距離に有利な国の距離だから。つまり八十だったらドコで、六十だったらドコの国ってね。でね、戦いの中で必要な距離ってさ大体五メートルってとこなのね。ちなみに短距離走が二十五メートル以内なら、日本人が断トツで有利なの」


「うそ? それ本当? なんでそうなの?」

「だって体が重いから。物には動き初めの初動にとんでもないパワーやテクニックが必要なわけ。それを比較したら今ある順位なんて簡単にひっくり返るよ。だってそういう方程式になってるから。絶対こうだとまでは言わないけど、計算すればとんでもないほどのハンデを貰って有利に勝負できるくらい違うよ」

 皆が驚きを隠せない。それでもまだ信じられないでいる。


「まぁ信じられないのは分からないでもないけど、でもそれって面白い反応だよ。だってさ、どのスポーツをテレビで見てても必ず皆こういうよ『日本はスピードと戦略、そしてトリッキーな動きで相手を翻弄する。それが戦法や攻略法です』って。それっておかしくないかな? 皆が言うようなスピード感覚なら、なぜあらゆるスポーツでそういったことが言われるのか。でも誰一人疑わない。それは勝負や試合に勝つ時は、そういった戦略がドンピシャに当てはまって倒すところを何度も目にしてるからでしょ? それこそ歴史と記録が物語ってるわけ」


 部員達も折紙先生も吉原先生も、今まで見てきた数々のスポーツ試合で、大きな選手やパワーのある者達をスピードや技で倒すシーンや結果を思い出していた。


「ホントだぁ。確かにそうだ。パワーとパワーでぶつかるみたいなのは、逆にないもんね」

 縁はようやく少しだけ分かって貰えたと安心する。


「そうだよね。言われてみればテレビの実況もそうだし、相手の国のコーチや監督も、試合後のインタビューで、スピードやチームワークがどうだったって言ってるもんね」

 海外から来た監督なども、日本代表チームを受け持つ時は、スピードを生かした素早い戦術を心がけている。

 なぜ?


 オリンピックの短距離走が、本当にスピード基準であるのなら、この国は全てのスポーツで、最も遅いプレーヤーチームとなる。しかし違う。

 あらゆるスポーツで、圧倒的な差を見せつけている。それも相手のパワーを(りょう)()するほどのスピード。


「つまり大きな選手や、そういった国の者達は、五メートル走や十メートル走じゃ困るワケ。まあ、三十メートル以内は嫌なわけだ。だってそこからが、加速し始めておいしい領域なわけだし。逆に、日本人は六十メートルがピークで、そこからはスピード維持する作業で必死だと思う。もちろんこれは一般人のその他大勢に当てはまる話で、誰かを特定した話じゃないけど。人と新幹線が勝負するなら出だしの数メートルってこと」


 ちょっとインチキっぽく聞こえるが、つまりは筋肉ガチガチの大柄な者より小柄でスマートな者の方が、初動が早く、身のこなしが素早いという当たり前の差の話だった。


「それじゃさ、斧やハンマーより剣とか刀の方が強いんじゃないの?」

「ん~。それはね、技を磨いて素早い人はだよね。元々、人の強さじゃなくて武器の強さの話でしょ? 斧とかはさ、喧嘩とかが強そうな人が力任せに振り回して強いし、相手に防御もさせないっていう意味だから……。それと対抗するにはまず、素早くなきゃダメだし、技も覚えないと、剣を持っただけで強いってことにはならないよね?」


「ああ~なるほど。じゃあ斧とか鬼が持ってるようなトゲトゲした金棒とかが最強なわけだ。それに対抗できる武器はないってことだよね?」


「あるよいっぱい」

「いっぱいあるの?」ズッコケる裏画と濱野。

「だって誰でもある程度使えるって設定だったよね? 何でもありならまず長槍でしょ。それと(むち)、あとは、俺の妹がずっと使っていたモーニングスターって武器が子供や女の子にも使えて怖くなる、超強いおすすめ武器かな」


 メイスの一種である。縁が皆に説明するそれは、柄の部分と(とげ)付鉄球の間を鎖で繋いだ物を指している。



「ちょっと待ってね。持ってきてるから見してあげるよ」

 縁はそういうと鞄の中から、かつて寧結が使っていたというそれを引っ張り出してきた。


 赤い色をした、けん玉くらいの大きさの物。それをいじりながら伸ばしていく。柄の部分は今の寧結の身長と同じ位の長さで、鎖部分の紐の長さは、柄の中心手前までくる。素材は、縁の持つ飛び出し式の刀と同じで、カーボン製だ。


「これなんだけどね。寧結専用だから柄の部分は短いンだけど、大体、自分の背より少し長いくらいが丁度いいと思う。ちょっとやってみるね」

 縁はそういうと、モーニングスターなる物で演武し始めた。ブンブンと音を立てて先端の球体を振り回す。

 カッコ良く柄を回したりしながら、あらゆる方向に攻撃をする。



「これね、反時計回りに回す時に、真っ直ぐ上からこう打ち下ろすの」

 腰横で回した先端を、まるで釣り人が最初に餌を投げ入れるように振り下ろす。するととんでもない音が床に響いた。床で跳ねた球体を、そのまま反動を利用して今度は逆に回し始めた。


「でね、時計回りに回す時は、こうやって真横に振るわけ。相手のお腹部分でも足でも頭でも、ラインはどこでもいいんだけど」

 そういって大きく柄を振った。的がいないし、先程のように床にも当たらないから球体が綺麗な円を描くのではなく空中で跳ねまくる。しかし、柄が長いので一切自分には当たらない。



「これさ、見た目はこんな感じだけど、吉原先生に聞いてみたら分かると思うけどね、威力というか破壊力はハンマーに匹敵するくらいやばいと思うよ」

 へへへと笑う縁。


「本当ですか先生」

「ええ。あの柄の長さで、更に紐もあれだけあって、遠心力もスピードもあるし、それこそ先に付いてる球体もゴツゴツしてるし、柄を振るスピードプラス先に付いた球を回す遠心力との相乗効果で……。凄いと思うわよ」

 具体的ではない説明だが、学校の先生はそういう感じだ。ただ、そこに居る部員達には、きちんとその凄さが伝わったようだ。


「これ、寧結ちゃんが使ってた武器なんですか?」君鏡が興味を示して近づく。

「うん。持ってみる。女の子にも簡単に扱えるよ」

 君鏡は受け取ると先端を軽く回してみた。縁は君鏡の後ろにピタリと寄り添い、使い方を説明していく。



「そう。反時計回りが振り下ろし。別に振り下ろさなくても良いンだけど、つまり相手に縦の攻撃をしたい時はそっちで、横から攻撃をしたい時は時計回りね。あっでも、左に構える時は回転が鏡的に逆になるから注意してね。これは俺が使ってる鎖鎌とかも一緒で、あ、ヌンチャクとかもそう。紐が付いているようなのは基本そうだから。分からない時は手拭いとか振り回せば、縦横が分かるよ」

 君鏡は言われた通りに試してみる。そして女性の非力なパワーでハンマーと対等にやり合えそうな感覚を感じていた。



「強くて重い敵の武器には距離のある武器が有効だから。これも基本だから覚えておいてね。武器ってそれぞれジャンケンみたいに相性があるからさ」

「へぇ。相性か。そんなこと考えても見なかったよ。それじゃ何が一番強いかってなかなか言いづらいわけだ」今込が感心していた。


「でもさ、でもさ、ハンマーとか斧も柄を長くすればいいんじゃない?」

 裏画がそう言い放った瞬間、縁ではなく吉原先生が口を挟んだ。

「裏画、お前はお馬鹿ね。先生の授業ちゃんと受けてるの? 先の重い武器の柄を伸ばすなんて……、説明するのも嫌なくらいありえないわよ。強さうんぬんの前に下手すると持てなくなるわよ」

 一瞬で裏画の質問を一刀両断する。縁の会話とは切れ味が違う。そこに優しさがあまり感じられない。

 だが、裏画が質問していることは、基本すべてそういうレベルだ。


 色々なことを話しながら、皆が順番に、寧結のかつての武器を触る。大人達に混じって、寧結がどう暴れまくって来たのかを想像して……。


「このモーニングスターってさ、敵の人、防御出来ないよね?」

「そうだね。盾とかじゃないと、球体部分以外は紐だし。威力も強いから」

 今まで何とも思っていなかった武器が、とんでもなく無敵に変わっていく。


 剣などが最強だと信じていたのに、まさか斧や金棒などばかりが出てくる。

 しかし、何度も言うが、遠い昔から、鬼に金棒という言葉は最強合体を意味する言葉。


 これは余談だが、弁慶の七つ道具という話も、本当かどうかは別として、そこで挙げられていた武器は、まだ戦いがあった頃に強いと思われていた道具であったことは間違いないということだ。




 久しぶりの学校と部活動に、皆が順番に話続ける。

 すると突然、校内に放送が流れた。


「剣道部部長、床並縁君。入部面接の締切のことで生徒会長がお呼びです。至急、生徒会室へとお越し下さい」

「生徒会室? えっ、なんか嫌だな……。でも報告に行かないとまずいよね」

 縁は気まずそうに(しお)れる。それを見て部員達はニコニコしていた。


 面接が終了したことで、後から張り紙を見た者達がすでに入部を締め切ったことを知って生徒会にクレームでも付けたのかも知れない。

 または、入部条件や募集人数に不満があったのかも知れない。事情は行ってみないと分からないが、縁にとってはあまり行きたくない呼び出しであった。

 しかし……行くしかない。



「ちょっと床並君、顧問の話が済んでないから、急いで戻って来てね。今度は約束破らないでちゃんと戻って来るのよ」

 吉原先生の少しキツイお叱りに押されて、縁は生徒会室へと向かった。






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