二六話 新入部員 面接
「では、まずは学年と男女別に並んでもらえますか? 右端から、二年生の男子、その横が女子で、その隣が一年生男子、次が女子でお願いします」
縁は分かりやすく並んでもらった。
まず面接を始める前に縁自身が、生徒会が配布した紙の内容を読む。新入部員を何人取ればいいのか、また禁止事項や注意しなければいけないことはあるかと。
これ以上生徒会や風紀委員に、目の敵にされるのは大変だと必死だ。
まるで小学生が初めて中学に上がって、厳しい先輩後輩関係を学ぶように、組織やしがらみを学んでいく。
二年生は男女一名ずつの計二名。一年生は女子一人、男子が二人。
全ての合計人数は五人。
ざっと見て二十人弱だが、ちょろちょろと遅れて入ってくる入部希望者。剣道部がまた何かしていると文化祭の準備をサボって見学しに来ている者達も多数。
これを手際よくさばかないと、色々な意味でややこしいことになる。正直な話、五人程度を取るなら、この話が無い方がイイ気もするほど大変だ。
生徒会や校長先生は形だけでも対処した証拠が欲しいのだろうが、ここに居る者達の殆どを面接で落とすのは縁だ。おまけに、準備をサボった原因が剣道部と結び付けられれば、風紀委員からお叱りを受けるのは、これまた部長である縁。
どの道、縁の進む先は茨の道だった。
「濱野先輩。とりあえず、二年生男子の志望動機とか、色々と聞いて貰えますか? 俺は一年生を――」
縁は次に、二年生であるマネージャーの寺本に二年女子を任せた。そして一年の女子を葉阪と君鏡と日野の三人に任せて、自分は一年男子の元へ向かい、話を聞き始めた。
「おっ、なんだよ。俺の面接って濱野のかよ。床並が直接してくれるんじゃないの? 俺、もしかしてお前に審査されるわけ?」
「オマエな、……床並君な。ちゃんと君付けしろバカ。それだけでお前は不合格だバカ」
「な、なんでだよ。別に普通だろ? なんで? 俺の方が年上だし先輩だろ?」
「なにが? なんでお前が先輩なんだよ。別にここは芸能界とかじゃないんけど、そんでここは部活だぜ。ちょっと考えてみな。バイトで入った新人がそこでずっと働いてきた人相手に、年下だからって呼び捨てするか? それで、仕事成り立つのかよ。大体、仕事の前に一から教わる立場だろ? お前のその態度はアウトだよ。もっと言えば、床並君は部長だよ。いわば店長だ。いや、ウチは顧問役もするからなんだかんだで社長だ。つまりお前は、入社の面接で社長を呼び捨てにして『直接面接しないのかよ』ってクレームつけたわけだ。挙げ句に、この俺を濱野呼ばわりした。完全にアウトじゃん」
「いや、そんなつもりはねぇよ。床並、君、をそう呼んだのは俺の方が年上かなって思っての、若気の至りだろ。ただ、濱野を濱野って呼んで落とされるのは、納得いかない」
「なんでだ。俺が誰だと思ってんだよ、アノ濱野だぞ」
「知ってるよ。一年の時同じクラスだったし。あ~、あの濱野、だよな?」
「違うな。お前の知ってる……いや、お前の勘違いしている濱野はもう死んだよ。今の俺はな、闇の汚れし呪われた力を手に入れた男に生まれ変わったんだよ」
「お前、濱野だろ。ただの濱野じゃん。じゃなきゃ誰だよ」
「だから、忌み嫌われ恐れられた魔の力を手に入れたんだよ」
大声で言い合うそこへ、寧結と萌生が引き寄せられていく。他の者達は真面目に面接をこなしていく。
「ねぇ、濱野ぅ。なんで濱野は汚れて嫌われてるの? 他人に言われるなら分かるけど、自分で言っちゃ~お終いだよ。萌生のキラキラを分けてあげようか?」
「ち、違うよ。汚れたっていうのは、良い意味でだよ」
「イイ意味で汚れてるの?」萌生が首を傾げる。
すると寧結が「分かった」と手を叩く。
「萌生ちゃん。濱野は良い意味で嫌われてるんだよ。ほら、だって、いつもそんな感じしない? なんか汚れてる感じというか、でも仲間というか」
「そっか。濱野は闇の底で忌み嫌われているヘドロみたいな仲間ってことだ。有毒なヘドロスライムみたいな仲間か」
「ち、ち、違うよ二人共、勘違いしてる。俺は、闇の、黒い鎧を纏った黒騎士的な濱野だよ」
「そっか。黒騎士か。な~んだつまんない。行こう」
「ホント、損した。騎士なわけないじゃんね」二人は別の所へ去っていく。
どう見てもヘドロスライムだとスキップして消えていく二人。
溜息をつく濱野の前で、面接を受けていたそれが憐れむ目で見ていた。
「濱野、お前完全に妄言病だな」
「うるせえよ。お前の方がオタクっぽいだろ。もういいから後ろに下がれよ、お前は失格、後ろがつっかえてんだから」
「おいマジか。濱野、俺の名前をチェックもしてねぇじゃねぇかよ。初めから入部させる気なかったろ? いいンかこれで、床並君に任されてこんなやっつけ仕事」
「いい。次の人からはちゃんとするし。お前と同じ部活は無理」
「私的? ふざけんなよ。なんでお前にそんな権限があんだよ」
すると、剣道場に響くようにそれが縁を呼んだ。
「床並君~。濱野が私的ことで面接もろくにしないで勝手に落そうとしてますよ。いいんですか? 床並君が直接面接してくれないかな? お願いしま~す」
その声が縁に届くと、縁は「それじゃ最後に聞きに行きますから、他の人と順番を入れ替わって下さい」と告げた。
上手くいったと微笑むと「だってよ濱野。さすがにお前と違うわ」と捨て台詞を吐いて列の後ろへ下がる。濱野は悔しそうに駄々を踏んだ。
やがて、全員との話しが終え、縁は面接した部員達と集まり、誰がどういうことを言っていたのかを、メモを見ながら詳しく聞く。
「分かりました。では一年生の女子はこの子で男子はこの人とこの人、で、二年生の女子はこの人。そんで二年男子は該当者なしということで」
「さすが床並君、早い。即決だね」
縁は並んでいる入部希望者の前まで来ると、今決めた者の名前を発表していく。
「やったぁ~」小さな声で嬉しさを表す合格者達。
しかし落ちた者達の中で納得いかない者が、理由を聞かせてほしいと詰め寄る。それに対して縁が説明した。
「これは、俺の意見というより、進卵学園の規則というか、生徒会から指定された項目とかルールに基づいて審査や面接したから。剣道部ではどうにもできなくて。じゃなければ、別に人数も融通が利くンだけど、こればっかりは、学園の上の方のあれだから」
縁の責任転嫁が伝わったようで、それなら仕方ないと諦めていく。
進卵学園の生徒会や先生の決めたことなら逆らえないし、縁や剣道部に言っても仕方ないと。
元々、張り紙自体が生徒会の仕切りであったし、書いてあった内容も剣道部ではなく生徒会がまとめたものだと分かる。特に人数制限や禁止事項など。
すんなりと納得してくれたことに驚いている縁であった。実際は、入部者を選出するのに生徒会の審査項目などは関係なく、全て縁なりの考えで選ばれていた。
縁が唯一こだわったのは、入部を希望した者達の想いの強さ。それが強い者達を優先してあげようと、それだけを考えたのだ。
つまり、運動能力も見た目も関係なく、剣道部に入りたいという気持ちが強い者を見極めたつもり。
もちろん、皆がそれなりに思っているのは分かるし、その差も微々たる違いかも知れない。それでも縁の思う差をつけた。例えば、友達と一緒に来た者は不合格。更に剣道がいかに好きかを語る者も不合格にした。
その理由は。例え上辺でも、クラス替えで途切れる程度の友達でも、友達がいる者は剣道部に入れなくともその友達と話せばいいし、暇潰しも出来る。
なんなら別の部に入部して無事に高校生活をおくれるわけだ。
そして剣道に凄く興味があってと熱弁する者は、基本的に嘘を付いている。
分かり易く言えば、この剣道部内でさえ、剣道や縁の教えるモノにメチャクチャ興味を示しているのは数人だけ、敢えて名を挙げるなら、まず濱野、ついで君鏡、マネージャーの葉阪くらいだ。半々で、今込とマネージャーの寺本、残りはすべてそれほど剣道や武道に興味はない。
部活としては楽しんでいるし、忙しい仕事と両立しながらきちんと練習をこなしているくらいだから、真面目に取り組んでいるという意味では他の部活動より両立している分上だ。
ただ、やはり萌生と同様で、女の子は、戦いうんぬんにはそれほど興味がない。あるのは、可愛く踊り振る舞うこと、可愛いファッションや小物で着飾ること。
それが大抵の女子の本質であり、遊びなのだ。
君鏡が興味を持ったのは、縁の謎めいた所と読んでいる本などの影響が大きい。濱野もまた、本や映画、そして強さへの憧れだ。
萌生のようにすでに憧れを持っている者達は、自分が仕事としているアイドルやモデルや女優より、剣道が勝ることなど決してない。
そして何より、自ら進んで争うような武道を一番好きになることもあまり考えにくい。あくまで部活の範囲。
そういったことを踏まえても、剣道が凄く好きと平気で答える者はまずアウト。もちろん街の道場に通っているなどの本物は別だが、そんなはずはない。
それならば、縁が部活を立ち上げたその時にすぐに入部している。そして、好きだと熱弁した中に街の剣道場や小中学校で剣道を習っていた経験者もいなかった。
――それが答えだ。
縁が選んだのは、もっとシンプルで、剣道部の仲間に入ってお友達になりたい、一緒に部活を頑張りたいと伝えて来た者達を選んだ。必死さと素直さと正直さを。
全員取れるのならばもちろんこんな面接もないし、選択もない。だが制限された中で選ばなければいけないのなら、より剣道部や自分の高校生活を嘘無く真面目に考えて必死にもがいている者を選ぼうと決めたのだ。
例え全員にそういう想いがあっても、その想いが強い者が入部できることこそ、縁がしてあげられる選択肢だった。
「えっと、床並君。話聞いて少しは分かるんだけど、なんで二年生男子はゼロなのかな? 一人は入れる枠があったんでしょ?」
「ありましたけど、ちょっと、禁止事項に引っかかってしまいました」
嘘だ。そんな項目はない。単に縁は、濱野が嫌がっているし、二年生、つまり部活の最年長は濱野一人でイイかなと何となく思ったのだ。普段、濱野と女子部員の先輩が話している内容などから、濱野が二年の生徒達から蔑まれた立場に置かれていたのではと予想し、無理に合わない者を加入しない方がよいと踏んだわけだ。
「俺、絶対に剣道部に入りたい。どうしたら入部させてくれる? 頼むよ床並君、もう一度チャンスをくれないかな。悪気があって呼び捨てにしたわけじゃないし」
「しつこいよ裏画。諦めて文化祭の準備に戻れよ」
「嫌だよ。俺は、俺はここに入部して自分を変えたいんだから。汚いぞ濱野、お前だけ立場良くなりやがって。俺より低い立場だったくせに」
「誰がだよ。俺はお前よりは上だったよ。それだけは断言できる」
「はあ? お前がクラスで一番下だっただろ? いつも馬鹿にされてたじゃんか」
「いいや、お前が一番下だった。俺は下から二番目か三番目だった」
二人は激しく言い合う。それを縁は笑いを堪えながら聞いていた。下から二番目ってナンだろうと。
濱野が一年生の頃、一番下かもしくはその一つ上で窮屈な生活をしていたことがこの会話から分かり、と同時に、言い合うもう一人もまた、底辺でもがいていたということが分かった。
「わっ、分かりました。ちょっと待っていて下さい。もう一度考えますから。濱野先輩もこっちに来て下さい」
再度集まり、裏画について話し合う。濱野は一貫して「あんなの入れてもロクなことにならない」と主張する。
今込は「入れてあげてもいいんじゃない?」と優しさをみせる。女子部員達は、できればイケメンがいいなと思いつつ、二年生の入部希望者にそれらしき顔を持った者がいないので『どちらでもいい』という立場を取っていた。
つまり剣道部の意見は三つに分かれている。
縁の意見は、裏画が自分を変えたくて、高校生活を少しでも頑張りたいと、他の生徒より必死で粘っていることに、入れてあげた方がいいのではと揺らいでいた。
多少厄介そうではあるが、裏画が何度も部活見学に来ていたのはなんとなく覚えているし、そのことで少し見慣れた人物ではあった。
「どうしよう、入部させてあげようか……」
「ダ、ダメだよ床並部長。あいつは性格も悪いし、生意気だし、人付き合いとかも下手だから、入部しても剣道部の空気が悪くなるだけから」
縁は濱野の台詞を聞きながら、女子部員達が濱野に対して言っていることを思い出す。まるで濱野そのものではないかと。つまり二人は似た者同士ということ。
立場も存在感も似ている。違うのは、持って生まれた性格や家庭環境くらい。
学校では同じような環境で、似たような扱いを受けていたに違いない。
「じゃ、じゃあ分かった。床並君、俺と裏画が剣道の勝負をしてアイツが俺の体に触れることが出来たら、その時は承諾します。俺も男なので、勝負に負けたらちゃんと納得する。その代り、俺が勝ったら床並君も皆も、俺の意見で納得して」
「うん、いいよそれで。濱野先輩がそうしたいなら俺は構わない。皆もそれでいいよね?」
即答する縁の意見に皆も「ま、いっかな?」と承諾した。
早速、縁は裏画の元へと行き、話の流れを説明する。
「ええ~、勝負って剣道の? だって俺、一度も竹刀握ったことないし、それに、なんで俺だけ実技試験があるの? 不公平じゃない?」
「いやいや、試合じゃなくて、先輩が一方的に、濱野先輩を攻撃するだけだから。それを濱野君が避けぬいたら先輩の負け、体のどこかに触れられることが出来れば先輩の勝ちってゲーム」
裏画は、縁のいうルールがどれくらいの難易度かを考えた。絶対、剣道部に入部したい。そして答えを導き出した。
「床並君。それは……多分……無理だ。いや、濱野が凄いって言ってるンじゃなくて、俺が、今の俺じゃダメっていう意味なんだけど、でも、でもなぁ、もし……」
シーンとした剣道場に裏画の声だけが響いている。皆がそれを静かに聞く。
「もし? なにかあるんですか先輩?」
「もし、俺の使い慣れてる武器でもいいなら良いんだけど。ただ、武器といっても反則というか最強の武器というか……」
裏画はそう言って黙る。要は普通に勝負しても勝てないと拒む。
「最強の武器? 先輩はぁ、今ここに最強の武器を持って来てるんですか?」
縁の問に裏画が頷く。
縁が興味津々に、できたら見せて欲しいとお願いした。
ゆっくりと流れていくやり取りの中、裏画が鞄から何かを取り出した。
「うわあ、拳銃ジャンそれ。床並君、だから言ったでしょ、コイツはこういうヤツなの。本当最低だな裏画。どこの世界にそんなんで勝負する奴がいるんだよ」
見ている皆も裏画が手に持つエアガンを見て溜息をついた。と縁が口を開いた。
「それ、最強なの? ふふっ。そっか、でもやっぱ普通そうか」
縁が少しがっかりしたように笑った。裏画が最強の武器なる物を出してくれると信じてワクワクしていた分、がっかりも半端ない。
「え、最強でしょコレ。これに勝てる武器ないでしょ?」
絶対的な自信を持ってそう言い切る裏画。縁は即座に首を横に振った。
「あ、あっ、爆弾とかそういうのは無しでだよ。手に持てる武器というか、言ってること分かるよね床並君」
縁はもちろんと頷く。そして。
「拳銃は、まぁハンドガンでも言い方は何でもいいんだけど、俺が知ってる中では最弱の武器の一つかな」
「えええっ。なんで? それは嘘だよ。適当過ぎる。そりゃ、世界中を探せば銃より強い物があるかも知れないけど、それでも銃が弱いって論理は無理あるよ。俺が今まで生きてきた中で、銃より強い武器なんてお目にかかってないけど」
またも縁は首を横に振った。このやり取りを聞いている見学者達も、縁が何を言っているのかさっぱり分からない様子。ただ、剣道部の部員達、それと折紙先生は縁が何を説明してくれるのかと興味津々で聞いている。
そして縁が口を開く。
「銃っていうのはさ、幾つも弱点があっていわゆる戦いにおいては扱いづらい代物で。戦う時に条件がそろわないと、最弱になってしまうわけ――」
そう話を切りだし、裏画だけでなくその場に居る者達に聞かせ始めた。
銃とは、弾数の制約があまりにも厳しい。例えば縁が行っている戦場での戦いで銃を用いた場合、倒せる相手は、全弾命中したとありえない仮定をしたとしても、予備弾を含めた総弾数イコール倒した敵、で打ち止め。
最も低いレベルのエリアでも、約二千五百人がやり合う、そこで銃という武器を選んだ時点で生き残りはない。
銃は敵からの攻撃を一切防御できない代物である。
そして最も致命的なのは、銃という物の命中率の低さ。信頼度の低さ。
映画やドラマ、漫画などの印象でそれこそ百発百中のイメージを持っているが、実際、実践で弾を狙った箇所に当てるのは難しく、何発撃ってもそう当たらない。それが至近距離であっても、狙った箇所ではなく大体ココという当たり方なのだ。
もし敵の体に印をつけて、その部分だけを撃ち抜くという試みをしたなら、その結果は驚くほどゼロに近い。そこだけを狙うなどまず無理。
そして、距離が離れれば尚更に話は変わる。だが、距離が離れて攻撃できるからこその武器であり、飛び道具。
本物を扱う職業の者なら、嫌というほど練習して、その難易度を理解している。
練習なしで、ぶっつけ本場で活躍するモノではない。
そして、サバイバルゲームなどを、趣味で何度か経験している者も、理解していることだ。もっといえばハンドガンは使わない。
自分がその日に、何発弾を消費し、その結果何人を仕留められたか。
結果は、千でも百でも十でもない。
上手い人間で数人を仕留めた程度。映画やテレビゲームの世界と同じであるなら、答えが百や千でなければいけない。
どれくらいの命中率の低さかと言えば、数メートル離れた位置で空き缶を投げても当てられないのが当然。そして、十メートル離れた場所にターゲットを配置し、そこを狙いすまして撃って五割的中できたら相当だ。止まってしっかりとじっくりと狙って全弾命中しないのがハンドガンなのだ。もちろん、スコープ付のライフルではなくハンドガンの話だが。
なら、ストップしてじっくりと構えた状態ではない時の命中率はどれくらいか? 更に戦闘という駆け引きの中なら、どれくらい当てられるものなのか?
有り余るほどの弾を撃ちまくり、何度もマガジンを交換すれば、確率ではなく当たる可能性は増す、実際、当てている者はそうなのだ。
十五発限度のハンドガンを持ち、リアルな敵を八人、いや六人倒さなければいけない状況を、果たしてどれくらいの者が達成できるか。
縁は自分が感じている銃への使いづらさを軽く話していく。剣道部員達は、縁が言っている状況をイメージして少しでも理解しようとしていた。
「それじゃ、仮にさ、ゾンビが街に溢れてきたとして、床並君は銃と刀が選べるとしたら刀を選ぶってこと?」
「映画の話? ゾンビ? ふふっ、当然」縁はニッコリと笑った。
「あのさ、床並君。床並君は、刀系が好きだからひいきする気持ちは分かるけど、刀は銃よりももっと制限があるんだよ。刀ってリアルで人切ると三人くらいで切れなくなるんだってさ。ヘタしたら一人って説もあるよ。そうだとしたら銃より扱いづらいじゃん」
裏画が勝ち誇る。濱野は少し悔しそうにしている。この話を聞いている皆も縁がなんて言うのかを待っていた。しかし、縁は笑いを堪えきれずに吹きだす。
「なにがおかしいの床並君。俺、なにか間違えてること言ってる?」
「あはは。うん。全然違うよそれ。映画や本の話でしょ。良い刀って千人切っても刃こぼれしないよ。あははは、大体、ちょっと考えれば分かるでしょ? 百円ショップの包丁は別として、普通に売っている包丁は、豚や牛の骨を叩き切っても刃が折れたりしないから。俺、料理で何度も試してるから絶対だよ。家に帰ったらやってみたら。骨付きの鳥モモ肉でも買ってきてさ、骨自体の質は変わらなそうだし、ガンガンまな板の上で試したらいいよ。ま、一番いいのは包丁じゃなくて、岐阜にある有名な刀鍛冶の所へ行って、一から全行程を見学させてもらって。どれくらい鉄を折り曲げて叩いているか、何万という折り重なった層がどうなっているのか見た方が早い。刀って元々使っている素材も良いし、職人が匠の技で熱を加えて何度も叩いて固くして、不純物の取れたありえないほどの一品だから。見学したらすぐにそれがどういった物か分かるから。そんで出来上がった時に先輩が今言ったことをその人たちに言ってみたらいいよ。きっと、腕か足を切り落としてくれるから。お前は何を見てたんだって。俺達がこんなに長い時間かけて作り上げた最高の刀が、ちょっと人を切ったり血が付いたらもう切れないって……それ不用品ってことかって。それこそ百円ショップの包丁でも、血が付いた程度で切れなくなることあるのかってさ」
まるで、苦心して幾日もかけて作ったはさみが、紙を二、三枚切ったら切れなくなるという不思議な話をしているのと同じだ。
刀が最初から敵を切る為だけの武器だと誰もが知っていて、当然、刀鍛冶もそのつもりで作っている。
刀と刀も、別の武器とも鋭く重くぶつかり合うし、鎧も叩き割る。それですぐに折れたり欠けては不良品。まして人を一人か二人切って使えなくなる武器って?
しかし、なぜだかありえないようなデマが平然と流れてしまう。
冗談まじりで話す縁の言葉に半分以上が納得する。しかし、もう半分はどこかで聞いた誰のかの話を信じ込んでしまっていた。縁は間違った質問にただ答えているだけで、別に全員に理解を求めている訳ではないので、論戦にはならない。
「でも、仮にそうだとしてもさ、刀よりは銃の方が、使いやすいんじゃないかな? そりゃ、床並君は強いからそれでいいかも知れないけど」
「いや、だから、映画のゾンビの話でしょ? あれってさ、確か、弾丸を頭か心臓に撃ち込まなきゃいけないんだよね? さっきから言ってるジャン。そんな難しいコトできないし、大体、ゾンビって何匹いるの? 弾数より少ないって設定なの? だとしたら随分とお粗末な設定というか」
「まぁ、そうだけど。でも逆に、沢山いるゾンビの頭と心臓を刀で切れる? そっちの方が無理じゃん、そりゃ床並君はさぁ」
「いやいや、ちょっと、メチャクチャですよ先輩。あの~、その設定が、そもそもリアルじゃないし、ことあるごとに床並君だから的なのは止めて欲しい。俺は誰でもという条件でリアルに言ってるから」
「それじゃ、ここに居る誰でも刀を選ぶべきってこと?」
縁は当然と頷いた。裏画は、それは無理でしょと首を傾げる。
「ん~、なんて言ったら分かって貰えるか分からないけど、実際に襲われたとしますよね、そしたら、刀をこうして、ゾンビの左足を斜めに切るでしょ。これでチェックメイトです」
「い? なんで? 相手はゾンビだよ。頭と心臓が弱点って言ってるジャン。床並君ゾンビのこと分かってる? あ~分かった。そうか、ゾンビの性質を分かってないんだ」
「だから、もう今のでチェックメイトだから」
「へへへっ、残念でした床並君、ゾンビは足ぐらい切られても這って来るから全然余裕で。痛みも感じないし、人間が持っているリミッターも解除してて、人の潜在能力の限界を出してくるから、平気で追って来るよ」
「うん。知ってる。ただ、裏画さんが思ってるイメージが知りたいから。皆に分かるようにちょっと地面を這って、俺のこと捕まえてくれるかな。もし俺の足に噛みつけたら、即剣道部に入部を認めてあげます」
「マジで。絶対だよ。やり~」
裏画はそういうと床にうつ伏せになった。周りの者達も縁がゾンビのことを何も知らな過ぎると溜息をつく。そして早速裏画ゾンビがうごめき始めた。
――ノロい。
縁は近づいてくるまで動かず待っている。
「部長逃げて、来るよもうすぐ」濱野が焦る。
縁は大丈夫だからと笑顔で合図を送った。
裏画は口元に笑みを浮かべて自分の勝利を確信していた。そしてついに足元まで辿り着いた。見ている皆は何で縁が逃げないんだとハラハラしている。
両手を伸ばし掴みかかる裏画、と、半歩下がる縁。とまた、床を蠢き両手を伸ばす裏画、とまた半歩避ける。それが三回程続いた時、剣道部員達は、裏画の移動が攻撃時に止まることに気付いた。
しばらくそれが続いて、裏画もそれに気づく。そして攻撃パターンを変え、両手ではなく片手で掴みにいき、もう片手で前進しながらの攻撃を試みる。すると今度は、半歩ではなく一歩分ステップして縁は避けた。
裏画の頭の中では、片手でスイスイ前進し続けられるイメージだったようだが、実際は縁の読み通り、半歩分増しただけ。しかも片手になると超ノロい。
たった数回のアタックでバテバテだ。
「先輩。もう諦めて立った方がいいですよ。百%捕まらないし、噛みつけませんから。それに先輩が本物のゾンビなら頭かち割るか背中を踏みつけて心臓を串刺しにしてますよ」
頭部に石を落としてもいいし、避けるのも攻撃するのも方法はいくつもあると。
逆に銃の場合は、痛みも感じないし血も流れないゾンビに、小さな弾丸を何発も撃ち込んで、一人のゾンビ相手に弾切れでもしたら、その後どうやって生き延びるのかと心配になる。
頭と心臓が弱点というより、小さな弾丸では、どんなに撃ち込んでもそこ以外の個所では、吹き飛ばすわけでも切断できるわけでも、叩き潰せるわけでもない。
よって、苦肉の策で頭と心臓となるのでは?
「まだ、これで終わりじゃない。床並君は何も分かってないよ。実際のゾンビはもっと凄いし、もっといっぱいいるから~」
実際のゾンビ? 裏画は何を伝えたいのだろうか?
「じゃあ、俺が塀の上に上がったり、家の中に入ったらどうします? ドアノブとか窓の枠に手が届きますか? 低い段差の階段は這って上れても、両足失ったゾンビが手の届かない場所にいる敵をどうやって襲う設定がありますか? あるなら、もう俺のことは捕まえなくてもいいんで、這ったままどこか壁とかよじ登ってもらおうかな」
「それは無理だよ。だって立てないし」
皆は裏画の台詞に不思議そうな顔をしていた。裏画を見ている皆は、裏画ゾンビが立てないと言っているのが理解できない。イメージでは、片足を切られても立つし、下手すれば両足なくても、壁などに体を押しつけて立ち上がるのではと思っている。腕の力だけでどうにかなると。
いわゆる潜在能力を引き出しているから、折れたり千切れた足を、そして胴体を逆立ちみたいにして自在に操れると踏んでいるのだ。
リアルに体感している裏画と、それを見ている者達の間にさえ、すでに大きなイメージの差が生まれだしていた。
「立てるだろ別に」皆が口々にいう。
「ばか、立てないよ絶対。足が無いンだぜ。骨が折れてるとかさ、変な方向むいてるとか。そんなんでどうやって立つんだよ」
自分がダメなんじゃないと言い訳する裏画。
裏画の正解だ。人は立つ事も這うことも掴みかかる時もイメージとは違うリアルな原理がある。腕だけで体を引き摺るということがどういうことか知るべきだ。
自衛隊のする匍匐前進も、複雑な足遣いで成り立っている。
それでも納得がいかなければ、人よりも圧倒的に優れている、野生の動物で考えればいい。犬でも猫でも、後ろ脚の二本、前足二本でもいい、それらを失ったそれが、鋭い牙で噛みつけるかを……。仮に動けても……攻撃時にどうなるか?
忍者のような猫が、壁さえ登れなくなると。
負けを認めて悔しそうに立つ裏画。ただ、まだ入部を諦めきれないでいる。




