表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バースデイ  作者: セキド ワク
20/63

二十話  修学旅行の乱



 札幌市内にある某高級ホテル。札幌駅から徒歩十分以内と近いが、その範囲内に有名な高級ホテルは数件あり、その中の一つだ。


「ちょっと、まだ床並君は来ないの?」

 折紙先生が困ったように右往左往している。


「もしもし、今どこなの? え? 聞こえないンだけど。もうすぐ駅に着くの?」

 今込が縁と直接電話連絡を取っていた。


 必死に話す今込の周りには、多くの者達が縁の到着を待ちわびている。

 君鏡は何度も日野と目を合わせて、お互いに心を落ち着かせていた。



 修学旅行に来て三日目の午後六時。季節的に、外はまだ明るい。


「いつまで待たせるのだね。かれこれ一時間は経つぞ」

 強面の者達が腕組みしながら折紙先生に詰め寄る。

 折紙先生は「そんなこと言われても、勝手に押しかけられて……こちらも困っています」と小声で呟く。

 イライラとする見知らぬ者達。


 その場には進卵学園の剣道部数名と顧問、あと数名の引率の先生。そして押しかけてきた、本日行われた北海道剣道大会にエントリーした他校の者達がいた。



「でも、一体、何のご用でしょうか?」再度、折紙先生が問う。

「だけん、さっきから言うたろうが。流派について聞きたいっちゃ」

「大分遅れとるけん、ちと、どうするとや?」

 詳しい訳は話さず、ただ苦情的な雰囲気を(かも)し出している。


「あの。俺、剣道部二年の濱野というンですけど。いきなり押しかけてきて、訳の分からない方言しゃべって、何言ってるか分からないンですけど。マジでどういう了見ですか? 床並部長が居ない間は俺が仕切りを任せられているンですけど」

 困っている折紙先生の横へと並ぶ濱野。

 女子部員達も無音の拍手を送る。本当なら、あと数十分で夕食の時間だ。


「なんば言いよるとや? ワシらに標準語ではなせ言いよるとか。ん~、分かった。まぁよかろうも」

 何が何やら全く分からず、ひたすら縁の到着を待つ部員達。今込が持つ電話の向こうで縁は「その状況は何?」と逆に焦っていた。



 修学旅行に来て一日目は、学校側が決めたしおり通り、クラスごとに資料館など様々な見学施設を回った。

 そして二日目は、クラスで更に班へ分かれ、各自自分達で、前もって調べた資料などから計画を立てる、自由行動日となっていた。

 縁は同じクラスの今込と百瀬、美術部と兼部の園江、ほか三名と共に班として回った。


 夏ということもあり、ゴムボートで川を下るラフティングをし、果物狩りにも行った。

 園江の希望したトリックアート美術館も、最後まで予定に組み込むか悩んだが、やはり食事や移動で時間がかかり、時間内には回れないと一度は却下になった。が、結局、縁と今込が集合時間に一時間半遅れて怒られることを決断して、美術部である園江に、アートを見せてあげることとなった。


 縁も今込も本当は乗馬や有名な動物園へも行きたかったのだが、剣道部は三日目に無理矢理大会をねじ込まれていて、他の生徒のように二日分は見て回れないことに悔しい想いをしていた。だからこそ、園江の為に融通を利かしたのだった。


 元々、進卵学園の修学旅行は不人気で、生徒の参加は少なく休む者達が居る。


 友達も少なく興味がない者や、A組やF組のような仕事がある者もまた、休まざるおえない。なにせ、夏休み中の修学旅行だから。


 全国の学校などが一斉に休みとなれば、アイドルやモデル、そして俳優なども、キャストやメンバーのスケジュールが揃いやすく、その時期を狙って長期撮影をしたり、また、お客も休み期間なので、客足的にも稼ぎ時と言えた。


 剣道部で泣く泣く欠席したのは、アイドルである登枝とモデルの香咲と小峯。


 三人とも共にAクラスであった。

 それと二年、岡吉、雨越、三好、寺本は学年が違うので当然欠席。ただ、濱野だけは、部活の試合という名目と、三分の一の交通費を自費負担することで、休んだ生徒の航空券を譲り受けた。

 折紙先生と共に、剣道の試合に必要な人材だからと、校長と学年主任に話を通したよう。


 そんなこんなで順調に進んでいたのだが、三日目の今日、ちょっとしたトラブルに遭遇してしまったのだ。




 朝食を済ませ、修学旅行に参加できた剣道部員含めて、大会予定地へと向かっていた。

 電車を乗り継ぎ、折紙先生とマネージャーの葉阪の地図(ナビ)を頼りに進む。


 その途中、広くそれなりに(にぎ)やかな繁華街? で複数の男達に絡まれている三人の高校生がいた。

 女子二人に男子一人。それを取り囲む、見るからに悪そうな(やから)


 遠くからでも分かる厄介事だった。


 縁は皆に、横道に曲がろうと告げ、部員達もその通りに従った。

 だが、曲がるまでの間、縁はそわそわとし、おもむろに左斜め上を見たり、腕を組んで下を向いたりしている。誰の目にも分かり易く、悩んでいると分かった。


 しかし、大切な大会。

 順位ではなく、参加が重要な条件。折紙先生いわく、合宿やこの大会の態度次第で、剣道部を休部に持ち込む計画が進行しているかもと。

 それは、剣道部の存在もそうだが、学校自体のパワーバランスが崩れて、おかしなことになっているからというのが理由の一つだった。


 正確には、剣道部ではなく、縁と不良グループ、その順位や番付けが入れ替わったことが大きい。のだが、それはあくまできっかけであり、沢山の生徒達が不良の勢力が弱まったことで、何か楽しいことはないかとタガが外れて、すなわちそれが騒ぎの本質である。



「ねぇ、悪いンだけど、やっぱりちょっと行って来るよ。皆はこのまま会場に向かってくれるかな。剣道部の存続に関わるし。それじゃ、ここからは全て濱野先輩にお任せしますので、よろしくお願いします。俺もすぐ追いますので」

「お、おう。大丈夫、先輩の俺に全部任しておいて」

 縁はそう告げると、皆と一旦横道へと曲がり、そこへ皆が入ると「んじゃ行って来る」そういって手を振り、通りへと戻った。


「よし、それじゃ俺達も行こう」横道を先頭で進もうとする濱野。

「はぁ、何言ってんのよ。床並君置いて行けるわけないでしょ。ここからこっそり見てるのよ。何かあったどうするのよ」折紙先生が少し怒って濱野をたしなめる。


「だ、だって、ちゃんと行くって約束したし……」

「大丈夫よ、時間は全然あるし、少しくらい迷っても間に合う時間じゃない」

 女子部員達も頷きながらこっそりと覗く。今込も大丈夫かなと心配して覗く。

 濱野だけは、皆が会場に向かってくれないことが不満なようで、腕組みしていた。本来なら先頭切って覗く野次馬なのだが……。


 縁は状況をみながら、徐々にそこへと近づいていく。

 周りを行き交う者達は皆、他人のフリだ。まぁ、他人ではあるけど。誰か一人くらい、警察に連絡を入れて良いような……。

 とはいえ、その場で通報は出来ないし、その場を離れたら離れたで、もう誰かが連絡しているだろなと本気で思う。

 自分で携帯を取り出し、いざ番号を押そうとすれば、本当にそう思ってしまう。そして断念する。


 誰も悪気がある訳ではなく、悪いのは事件を起こす者達のみ。

 実際、縁や部員達も、詳しい場所が説明できる自信もないし、現場を通り過ぎて状況を確認したわけでもない。そういった理由からも通報しづらい。

 歯がゆい。


 警察がもっと気軽に電話できる雰囲気だと、少しは変わるかも知れないが、いざ電話しても事件が起こってからでないと動けないとか、細かな制約がありそうで……、つまり何となく、色々な意味でも通報しづらい雰囲気という訳だ。



 近づくにつれ、はっきりと現状が見えてきた。

 縁が思っていた通りのトラブル。男子生徒は鼻血こそ出ていないが、左鼻横を腫らし、上唇を切り血の塊がへばり付いている。

 服もよれよれに伸びきり、戦意喪失して(うつむ)いている。そこへ髪を掴んだり、肩や背中をふざけて殴りながら、更なる脅しをかけ続けていた。


「いいのかこの子達連れて行っても? ア? 聞いてンか?」

「イチャつきながら広がって歩きやがってよ。ムカつくんだよクソが」

 口悪く(ののし)る数名。

 それ以外の男達は、二人の女子の腕をしっかりと掴んでいる。すこしだけ嫌がる素振りは見せるが、本当に怖い様で震えている。

 人が通る度に小さな声で「誰か……」と届きそうもない声を、必死に絞りだしていた。


 元から頼りになる男子ではなさそうだが、それでもこうなるまでには何かしらのアクションはあったようで、壊れた携帯電話が男子の足元に落ちている。

 もしかしたら警察へ連絡しようとしたのかも知れない。


 縁は道脇で群がるそこへとスタスタ歩いていく。

 怖そうな輩をすり抜けながら、下を向く男子の前まで普通に歩く。真横を抜けていく縁を見た男達が、いきなり見知らぬ少年が割り込んできたことにビックリして黙った。



「大丈夫か? 歩ける? そっか、それは良かった。それじゃもう行っていいよ。女の子連れて帰りな」

 縁はそういうと、下に落ちてボロボロになったリュックの汚れをはたきながら、男子生徒に手渡し「ほら、帰りな」と送り出す。

 切れて腫れあがった半開きの唇と驚いた眼が、縁の顔を虚ろにみている。


 行っていいと言われても動けないようだ。

 近づいて改めて分かったが、動揺する白目の部分に内出血した血の跡も見えた。完全に怯えきって、思考が麻痺している感じだ。


 仕方なく、ビビり上がっている男子にではなく、捕まっている女子二人に、声をかける。

「ほら、二人も、もう行っていいよ」

 ここまで、ほんの数十秒のことである。


 ようやく、周りにいる男達の心に感情が戻り、縁に対しての罵声(ばせい)が始まった。


「何だテメェいきなり。殺すぞカス。どこのモンだ? 誰かって聞いてンだろ」

 縁は振り向くことも目も合わせることもなく、女子二人に「いいから。大丈夫、平気だから」とひたすらジェスチャーし、ココから離れていいよと(さと)す。


「何が平気だコノヤロー。テメェこのぅ、状況分かってっかこのぅ。ざけんなシ」

 縁の説得でようやく女子達が動く。腕を押さえられたままだが、嫌がる強さが少しずつ増し、そしてある程度の嫌がりで腕を振りほどいた。

 男達も、絶対に離さないような、それこそ皮膚をねじり、爪をめり込ませるような握りはするつもりはない。


 男子は暴行されて気の毒だが、女子を強引に車に押し込むような拉致ではない。あくまで脅して連れて行くタイプの悪行。


 せっかく振りほどいたが、なぜかまだその場で立ち止まっている。逃げても捕まると思っているのか、はたまた逃げたら酷い目に合うと恐れているのか。

 確かにそういう恐怖や発想も分かるが、このままここに居続けても良いことないのは確かだ。



「もぅ~。行ってもいいよってこんなにも言ってるのに。大丈夫だからさホント。帰りな、ここに居てもしょうがないよ」

「ホントに、本当に、行っても、いいンですか?」

「いいわけねぇべよ。てめぇら一歩でも動いたら殺すゾ。ったく何を帰ろうとしてんよ。人様にぶつかって落とし前はどうつけんだぁ。あん?」

 下を向く三人。それを見てまた一から説明する。帰りなと。くだらないやり取りが数十秒ほど流れ、ようやく縁の説得に歩き出した。


 何度も振り返る三人に『いいからこっちを見ないで、真っ直ぐどこかに行きな』とジェスチャーで追い払う。

 男達は、途中まで三人を制止しようとしていたが、完全に頭にきたようで、三人から縁へと標的を変更していた。



「あ~あ、お前、やっちまったな。マジで帰しちまって、知らねぇゾ俺等。さっきのガキくらいの怪我じゃ済まされねぇべ」

 次々に文句と脅しが飛び交う。縁の周りを野犬のようにうろつく。そして罵声。


 縁は完全に居なくなったか、三人の姿を確認していく。


 一方、少し離れた横道では、縁の行動を、まるでトーテンポールのように顔だけ覗かせて見ていた。

「大丈夫かな部長」

「平気でしょう。床並君って先生が思うに、化け物みたいじゃない。なんか普通じゃないわよ的な」

「何を言ってるんすか。冗談言ってる場合ですかここ? ヤバイからマジで」

 濱野は一人ガタガタと震えている。聞こえてくる怒鳴り声や言葉に色々と想像して、当事者のように震えあがっていた。


「おい、何黙ってんべよ。今更ビビっても遅いんだよバ~カ」

 縁は三人が居なくなったことを確信すると、そこで初めて男達の顔と目を見た。縁は凄く冷たい目をしている。


 そして一言「じゃっ」そう言って歩き出した。



「はぁぁあ? お、おい、ま、待てよ。何が『じゃっ』だべ。笑わせんなや。友達かよ。おい、待てって言ってんべや、聞こえねぇべかよ。おい。おいっての」

 聞こえてはいるが、完全無視で歩いていく。


 剣道部が隠れている方とは逆方向で、三人がいなくなった方向である。


 縁を罵り、囲みながらついて来る。と、男達の誰かが、キレたというか意を決して縁の肩に手を伸ばした。が、縁はすっと傾き、それを何事もないようにかわして歩き続ける。

 更に今度は、強めにキレた者が背中に蹴りを放ってきた。


「聞いてんかコノ、クソが。マジで殺しちまうど。止まれぇコノ」

 しかし、縁は軽く避けて歩き続けた。シカトは続く。


 言葉だけではなく、手や足も出す男達、だが、それらが縁の体には、ただの一度も当たらない。


 しっかりと避けながら縁は思う。世の中には、なんでこんな漫画の脇役みたいな輩が多いのだろうと、そう溜息をつく。

 ちっともカッコ良くないし、何をどうしたらそんなキャラになりたいと思えるのかなと真剣に考えていた。


 でも、各教室に必ず数名は、変なえばりたがり屋が居る。自らがなりたくてなっているのかは定かでないが、チンピラみたいのもオタクも、それこそ様々なキャラが居る。ここでこうして罵りながらついて来る悪そうな輩もまたそうだ。


 物語の為に面白おかしく作られたキャラではなく、皆の身近に沢山いるから驚きなのだ。

 どうしてそんな役回りをリアルで選ぶの? と。


 哀れなやつらだなと同情しつつ、見知らぬ駅までシカトしたまま辿り着いた。

 この間、約五分。助けに入ってからの全てを入れても七分弱。


 これならどうにか皆に追いつけそうだと微笑むと、突然、前方にある駅方向から、警察官二人と先ほど逃がした三人が物凄い形相で現れた。


「いたぞ。待て、そこのお前等」

 縁を囲んでついて来ていたそれらが、いち早く反応し逃げ出した。縁は、自分は関係ないと分かっているのだが、やはり警察官という威圧は、先程までついて来ていた男達とは比べ物にならず、縁は出遅れる形で逃走した。


 警察官の殺気を敏感に感じ取ってしまったようだ。


 速攻で男達の群れに追いつくと、一番後ろの者を転ばし生贄にした。そしてその群れの中に紛れてしばらく走り続けた。


『クソ。せっかく助けてあげたのに。仲間だと思われたか? でもそう思われても仕方ないか、少し余裕を見せ過ぎた。確かにあれではあの群れのボスだと思われたかもしれない。それに、皆で揃って歩いて来たみたいに見えるし。あ~最悪だ』

 縁はパニックを起こして思考が絡まる。


 縁の考えはまったくもって大外れだ。誰もそんな考えはない。もちろん警察官の二人も、そしてあの三人も。

 助けてくれた縁を助けるべく交番に飛び込んだのだから。


 会話のやり取りもそうだし、言葉遣いもそう、何より男達と縁の見た目や年齢層が違い過ぎる。まして、なぜ、可愛らしい顔した縁を男達のボスだと勘違いするというのだ。


 警察官も、一目見てわかる少年のケガからいっても、これは傷害事件、更に女子を拉致しようとしていた形跡もあり、悪質だと判断した。まだ囲まれている少年(えにし)が居るとなれば、迅速(じんそく)な行動になるのは必然。

 被害者に案内されながら、焦って走るその目の前に、男達に囲まれ連行される縁の姿、すぐ見つかって良かったと、急いで助けに走ったのに……。


 警察官と被害者三人の目に飛び込んできたのは、逃走する縁の後ろ姿だった。

 なぜという疑問しか浮かばない。

 


 そんな中、縁は、闇雲に逃げて、逃げて、そして……迷子になった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ