第61話 現実を練金する者
酸素→水分
ご指摘ありがとうございます。
「さぁ始まりました!ヒツジ選手対スレンコフ選手の試合!最初に動き出したのはスレンコフ選手。烈風の二つ名に恥じぬ強大な風をヒツジ選手に叩きつける!」
試合開始と同時に動いたのはスレンコフだった。
彼は開始早々、両手に吹き荒れるような風を纏い、ヒツジに向けて放つ。
地面をえぐり、草木を巻き上げて突き進む烈風。
「おおっと!どうやらヒツジ選手は待ち構えるようだ!あらゆるものを吹き飛ばしながら荒れる烈風を前にヒツジ選手はどう防ぐつもりだ!?」
避ける様子もなく、ただ佇んでいたヒツジだった。
しかし、次の瞬間、何処からともなく出したのは特別何かあるようにはとても見えない羽根ペンだった。
そして……
「激突ぅぅぅぅ!ヒツジ選手、最後までその場から動くことなくスレンコフ選手の烈風を真正面から受けたぁぁぁ……んっ?!」
烈風に呑み込まれたと思われたが、ヒツジに当たる瞬間、烈風はまるで存在しなかったかの如く、一瞬にして消え去ってしまった。
「なんとぉ!あの凄まじい威力を持った烈風を、ヒツジ選手はいとも簡単にかき消してしまったぁぁぁ!しかしスワンコフ選手、それは想定内のことだったのか少しも動じることなくヒツジ選手に突き進んで行く!」
烈風をあっさりとかき消されたのにもかかわらず、スワンコフには動揺のかけらも見受けられなかった。
恐らくは、ヒツジの前期の闘技会記録からそうなることを予想していたのだろう。
スワンコフは走りながら腰に差した柄のない曲刀のような刃を数枚ヒツジに放つ。
「出たぁぁぁ!スワンコフ選手の十八番、烈風演武!スワンコフ選手の繊細な風さばきによって縦横無尽に飛び回る刃は数多の強敵達を打ち倒してきました!それに対しヒツジ選手、愛用の羽根ペン以外には何も武器を持っていない様子!どう立ち向かうのかぁ!」
迫りくる刃を含んだ烈風に対し、ヒツジが取った行動は、地面に膝をつき、そして小さく文字を書くことだった。
次の瞬間、スワンコフの烈風を遥かに上回る巨大な石壁がヒツジの前に出現した。
烈風は巨大な一枚の石壁に阻まれ、そこから進むことはできず、更には先ほど投げた刃は石壁に突き刺さりもはや抜けないほど深く刺さってしまった。
「なんとぉぉ!あの一瞬でスワンコフ選手の烈風を遥かに上回る巨大な石壁を練金して作り出してしまったぁぁ!世界でもこれが出来る練金使いがどれほどいるでしょうか!?これが無敗の従者、ヒツジの実力だぁぁ!」
ミーアの実況に影響するように観客席からも空を割らんばかりの声援の驚愕の声が響いてくる。
「しかし、スワンコフ選手もこんなことでは諦めない。石壁を一瞬で回り込み、ヒツジ選手に肉薄しようとします!」
石壁を回り込み、横からヒツジに肉薄するスワンコフ。
だが、それさえもヒツジの予想通りだったのか、ヒツジは慌てることなくスワンコフを見定める。
そして、右手に持っていた羽根ペンをスワンコフに向けると、何か小さく文字を書き始める。
危険を察したスワンコフだったが、突き進むことを決めたのか、体に烈風を纏いながら走りを止めない。
スワンコフの烈風がヒツジを斬り裂こうとするその時、巨大な爆発とともにスワンコフは逆に吹き飛ばされる。
「な、何が起こったんだぁぁ!?ヒツジ選手は右手に持った羽根ペンで小さく文字を書いただけのように見えましたが……ん!?あれは……」
実況途中でミーアは気づいてしまった。
ヒツジの左手にもう一本の羽根ペンがあることを。
ヒツジが右手で空中に書いた文字は《分解》。
そして左手で書いた文字は《火》。
彼女は右手で水分を分解させ、発生した水素に着火させたのだ。
本来、練金系の能力は空気などといった物体として存在しないものを練金することはできない。
しかしこの少女、ヒツジだけは例外なのだ。
彼女は実体のないものでも、そう……それがたとえ空気であったとしても練金することが出来る。
異種指定能力者、ヒツジ・スクレテール。
『練金:現実』
この世に存在するあらゆるものを練金し、作り出すことができる唯一の能力者だった。




