第58話 赤点
学校に着いたシーク達は、早速奈落山とシャーリーに問い詰められていた。
「……昨日、レインが私たちの部屋に来たんだけど」
「あれは一体どう言うことだ!説明しろ」
二人に問い詰められたシークはあっさりと事情を白状する。
「この前な、テストでレインが一教科でも負けたら罰ゲームってルールで勝負したんだ」
「いや、ちょっと待って……。もうそこから何かおかしいよね?」
眉間にしわを寄せる奈落山をよそにシークは話を続ける。
「んでな、昨日レインが俺にテストで負けたろ?だから罰ゲームで、レインにお前達の部屋に行ってもらった。その様子だと本当に行ったんだな、あいつ」
すげーな、と笑いながら話す。
だが、奈落山達は怒り心頭だった。
「笑い事じゃないよ!部屋で寛いでいたらいきなりだよ!?しかもノックもせずにさぁ!」
「そうだぞ!せめて事前に連絡くらいしておけ!危うく空間槍を放つところだったぞ!」
「んな物騒なもん寮で放とうとするなよ!」
シャーリーの物騒すぎる言葉を聞いて、つい突っ込んでしまう。
「はぁ、まあ連絡しなかったのは悪かったよ。しようとは思ってたんだぜ?ただ忘れてただけだ」
「それは何もしていないのと変わらないよ!全く……」
「いいじゃないか、シャーリーだって俺の部屋に来たろ?お返しお返し」
「女子が男子の部屋に行くのとその逆じゃ全然意味が違うぞ!」
「そうだよ!ヒツジ先輩はそこのところ教えてくれなかったの?」
「お、おう……すまん。そんなに嫌がられるとは……」
二人の剣幕に押され、シークは謝る。
「本当だよ。シークはもう少しデリカシーを持ってほしいね」
「全くだ!……お前が来てくれたらもてなしたのに……」
「え?」
シャーリーが呟いた最後の言葉はシークには聞こえなかった。
その日の放課後ーー。
シークは補習を受けていた。
何故ならレインに罰ゲームを受けさせたいが為に赤点を取ったからだ。
だがシークの心は軽い。
目的はちゃんと達成出来たからだ。
別れ際、レインに、
「はーっはっはっは!ざまぁねぇな、シーク!赤点を取るなんて信じらんねぇぜ!はっはっは、おぶっ?!」
一発くらわせてから補習の教室に来た。
「それにしても……やっぱ赤点取ってやつ多過ぎじゃね?」
百人は入れそうなその教室内には、すでに多くの生徒達が着席をしていた。
シークは静かに教室内を見渡し、空いている席に着席する。
すぐにチャイムが鳴り、同時に教師が入ってくる。
「やぁどもどもー、みんなー元気かーい?」
そんなハイテンションなノリで教室に入って来たのは、シークが赤点を取ったこの『能力歴史学』という授業を受け持つジェパット・ナーシルである。
『能力歴史学』とは、いわばヘリオスやアネモニアやカオスなどといった国の歴史を勉強する世界史である。
「こんにちは、赤点を取った諸君!ようこそ、能力歴史学の補習へ!」
(なんで嬉しそうなんだ、この人)
「ふぅむ……大体百人程か。まあ例年通りだねぇ」
ちなみに、赤点を取った者が百人というのは全十科目行われたテストの中で断トツで多い。
そもそも、今回テストに出たところは幼年舎で習ったことの復習のようなものであり、内容も決して難しくはなかった。
そしてそれはこの『能力歴史学』も例外ではなかった。
どこからどこまでと言っておいて、実際にはその範囲外から問題を出す、などという引っ掛けがあったわけではない。
確かに前もって知らされていた範囲の中から出題されていた。
だがしかし、それでも尚これだけの生徒が赤点を取ったには理由がある。
「ナーシル先生、質問があります!」
ナーシルが生徒達を見回していた時、一人の神経質そうな生徒が手を挙げた。
見るからに勉強が出来そうな雰囲気を漂わせており、間違っても赤点などとりそうにない少女だった。
「何だい?」
少女の剣幕に呑気に答えるナーシル。
その態度にイラついたのか、少女が掛けていたメガネをあげながら質問する。
「今回のテスト、私は納得が出来ません!やり直しを要求致します!」
彼女のその言葉にこの場に来ていた生徒達の中の何人が同じような声を上げる。
皆一様に勉強が出来るような雰囲気を持っており、自分が赤点を取るなどあり得ないという表情をしていた。
「それは無理だねぇ。そもそも上が認めないだろうし」
「なら!せめてこのおかしなテストの教えてください!でないと納得がいきません!」
「「そうだそうだ!」」
少女はそう言って、今回のテスト用紙を取り出して突きつける。
シークはそのテスト用紙をちらりと覗き見る。
28点。
低すぎる点数だ。
因みにシークは36点だった。
「歴史は暗記科目のはずです。なのに……なんですか、この『この問題から得るべき教訓は、現代ではどのように活かすことができるか?』なんて問題は?!分かるわけないでしょ!」
歴史は暗記科目。
それはここにいた生徒全員の共通認識であり、そのつもりで勉強をしていた。
だがしかし、実際に出たのは歴史というよりは倫理に近い問題であった。
他の生徒達も揃って不満を述べていた。
ナーシルも顎に手を当てて、ウンウンと頷いていた。
「確かにこの授業は全科目の中で一番赤点が多かった!」
「ならっ……」
ナーシルの言葉に食い下がろうとした少女を、手で静止、衝撃的な言葉を口にする。
「しかし!逆に全科目の中で一番満点も多かった!」




