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ノーリミットアビリティ  作者: 桐地栄人
第3章 カミツクモノタチ

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第56話 勝負

「あー、しんどい」


シークは机に突っ伏してそう呟く。

本日のこの時間、シークは前期定期テストを受けていた。


「そんな出来なかったのか?」

「おー、まあ半分いけば運が良かったってくらいだ」

「酷いな……」

「仕方ねぇだろうが!俺、この世界に来てまだ三年だぞ?文武両道なんて出来るわけがねぇ!」

「何キレてんだよ……」


頭を抱えるシークにレインは呆れてしまう。


「うーん、でも、赤点じゃなかったんだからいいんじゃない?」

「いや、四択の問題で分からなかったのは勘で解いたから、外れると赤点だと思う」

「それは……、どうする?後でテラスで一緒に勉強会でもするかい?」

「あー悪い。今日あれだわ……」


奈落山の誘いをシークは怠そうに断る。


「ん、ああ、そう言えばもうすぐだったね、後期闘技会」


奈落山の言う通り、そろそろ後期の闘技会が始まるため、シークは放課後はほぼ毎日闘技場へと招集されていた。


「大変だね……」

「ああ変わってほしいくらいだ」


奈落山の同情に、シークは肩をすくめながら答える。


「あっそうだ。言い忘れていたんだけど……」


教室を出て行こうとするシークに奈落山は思い出したように声を掛ける。


「赤点を取ったら補習があるそうだよ?」

「先に言えよ!」


シークの突っ込みが教室内に響き渡った。




「は?貴方、あんな簡単なテストで半分も取れないの?」


放課後の闘技場での訓練を終えたシークが、どうすればいいのかヒツジに相談した彼女の第一声がそれだった。


正直かなり腹は立つが、レインとアルトも平然とした顔をしていたことからも、ヒツジの言う通りなのだろうと思い口には出さない。


「俺は嫌味を聞きに来たわけじゃないぞ」

「じゃあ何?言っておくけど裏から手を回して点数の嵩増しなんてしないわよ?」

「不正を頼みに来たわけでもない。そう言うのを抜きにしてどうすればいいのか相談をしに来たんだ」

「勉強を教えて貰えばいいんじゃないの?奈落山家のあの子やシャーリーならこの学園でもトップクラスに勉強が出来るはずよ?」

「知ってる……。というか見た目から出来そうな雰囲気が漂ってるしな」

「そうね、なら話はここでお終いよ」


そう言って立ち去ろうとするヒツジだが、もちろんシークとてそれは考えた。

しかし、明日もまたテストがあるのだ。

彼女たちに教わっていたのでは時間がない。


「待て待て」

「何?まだ何か用があるの?」


帰ろうとしていたヒツジは面倒臭そうに振り返る。


「俺は手取り早くテストで点を取る方法を聞きに来たんだ。何回も受けたお前ならわかるだろ?」

「は?つまり、貴方は勉強はしないけどテストではいい点を取りたいって言っているの?」

「まあ、有り体に言えばそうなる」

「……死んで出直して来なさい」


そんな冷たい一言を告げ、ヒツジは帰っていった。


その後、自室に帰ったシークはヒツジに言われた言葉を三人に伝える。


「酷くね?あいつ、定期テストで九十点以下は取ったことないんだぜ?なら簡単な点の取り方の一つや二つ教えてくれてもよくないか?」

「「「……」」」


絶句していた。


「どうした?揃いも揃って馬鹿な顔をしてるぞ?」

「いや、お前……それ、本気で言ってんのか?」

「ああ、本気だが……」

「オゥ、ジーザス……」


レインはつい母国語でため息をついてしまう。


「俺はお前がそんな馬鹿でも友達だぜ!」


そう言っていい笑顔で親指を立てて二カリと笑う。

イラっとしたシークはその指を掴み、本来曲がるはずのない方向に折り曲げながら二人の方へ向く。


「イタタタタタタタッ!」

「それで、お前らは何か案あるか?」

「えーと……やっぱり暗記するしかないかと思います」

「そうだろうね。でも、テストは表世界のものより断然難しいと思うよ。錬金学なんて表世界にはないからね」

「錬金学か……、あれは難しかったな。特に最後の問題、『白笠キノコとタツノオウを一時間煮込み、そこに千寿液をニミリグラム加えることで万能の傷薬が作れますが、その過程で起こる化学反応式を書きなさい』はマジ意味不明過ぎてわけわからん」

「あー、それ、僕も分かんなかったよ」

「ええっと……それはですね……まず白笠キノコの分子構造が……」


防蔓は解けたらしく、二人に詳しい内容説明を行おうとしたその時、シークに指を掴まれたままのレインが叫ぶ。


「いやお前らこれ止めろよ!」

「あ、すまん、忘れてた!」


そう言って、シークはゆっくりとレインの指を解放する。

言葉とは裏腹に、散漫な動作をしたシークを睨みながら、レインは自分の指に息を吹きかけている。


「おーいてぇー」

「めんごめんご」

「軽いなおい!お前、テスト返って来たら覚悟しとけよ!俺と勝負しろ!」


シークの方を指差して吠えるレインに、シークは呆れながら答える。


「分かった分かった。んじゃもしお前が一教科でも俺に負けたら罰ゲームな?」

「分かっ……ん?なんて?」


聞き返すレインを無視してシークは続ける。


「罰ゲーム内容はそうだなぁ……。シャーリー達の部屋に行くっていうのはどうだ?」

「いやいや、無理に決まってんだろ!殺されるわ!」

「シャーリーや奈落山はこっちに来てただろ?大丈夫だ!」

「女子が男子寮に行くのと男子が女子寮に行くのじゃ全然違うんだよ!せめてそれくらい分かってくれ!」

「分かってるよ、そんくらい」


性の知識が少ないシークでもそれは知っていた。


「知っていて言ってんだよ」

「やばいって!本当にやばいって!特にVIPルームのやつらは本当にやばいって」

「やばいやばいうるさいやつだな。大丈夫だ。四人ともお前のことは知ってるし、行くことは俺が先に伝えといてやる。それともお前、まさか自分から勝負ふっかけといて今更やっぱやめた、とか言わないだろうな?」

「ぐっ……、わ、分かった!その勝負受けてやる!」


半分ヤケクソ気味レインが叫んだ。


「よし、よく言ったレイン!んじゃ、防蔓、明日のこの授業のテスト勉強するぞ!」

「えっ、あ、はい!僕でよければ!」


シークはそう言って防蔓の肩を組み、自分の個室へと入っていった。

背後から、


「おい、ちょっ、お前が負けたらどうすんだ!?」


そんなレインの声を聞きながら。

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