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ノーリミットアビリティ  作者: 桐地栄人
第1章 初めての学園生活
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第2話 世界情勢と混雑

 その昔、「惑星国家」と呼ばれていた星があった。当時から人口は億を越えていたその星には最大で十人の神憑と呼ばれる者達が治めていた。


 神憑。

 それは神が宇宙を創造せし時、宇宙の根本となった十本の柱をその身に宿した者達。

 その柱とは、火、水、風、雷、砂、木、氷、重、光、闇。

 そしてそれらとはまた別に、一部の人間達に、神より授かったものがある。

 それは超能力。そしてそれらを操る者を超能力者と呼んだ。

 当時の惑星国家は、神憑を筆頭に超能力者達だけで国を動かしていた。超能力者というだけで国では優遇され、国の心臓部や重要な地位には必ず彼らが起用された。別の言い方をすれば超能力者でない者は絶対に国の心臓部には置かれない。

 それでもなおその国は数千年の栄華を誇り、繁栄を築き上げていた。


 しかし、その繁栄も終わりが来ることとなる。後の歴史において「ノアの大洪水」と呼ばれる歴史上最大の災厄によって。

地上の全てを呑み込まんとする巨大で強大な津波を前に……超能力者達は逃げ出した。

 神憑きの一人が作り出した異空間へと移民したのだ。彼らの身内だけをつれて。

 置いていかれ、取り残された能力を持たぬ者達は、なす術もなく津波に呑まれて行った。人はもちろん畑や家や街さえも。

 自分達を置いて行った超能力者達に恨みの言葉を投げかけながら彼らは波に呑まれ、とうとう数億いた人口がほんの一握りになったその時、一人の神憑が現れた。

 木の神憑であった男は、その強大な力で巨大な方舟を造った。ノアの方舟と名付けられたその巨大な方舟には、舟の上だけでも生活が出来るようにありとあらゆるものが揃っていた。

 食料や服、飲み水だけではなく広大な土地や湖や川や森まで。その様相はまるで一つの島。

 その方舟に乗ったことにより、ほんの一握りであったが人々は生き延びた。

 それから時が経ち、船上で一人の青年が飛ばした鳥が何もないはずの海から一枚の木の葉を取ってきた。それは地球の表面、地上が顔を出した証拠だった。

 その事実に人々は喜び勇んで大地を探し、とうとう大地を発見したことにより、彼らの長い船上生活は終わりを告げる。

 津波に流され、人工物はおろか、木一本生えていない大地を耕して畑を作り、方舟から降ろした家畜を増やす毎日が続いた。仕事は山ほどある。そんな日々は、彼らの記憶から超能力者が起こした過ちを薄れさせ、うやむやにし、そしてとうとう伝説となった。

 それから約七千年。大洪水から完全に立て直し、電子機器と呼ばれる物が普及し始め科学が進歩した現代において、超能力とは都市伝説、空想の産物となった。


 一方、津波の後、裏世界に逃げた超能力者達はどうなったのだろうか。身内だけで逃げたのだからさも統治しやすかったのではないだろうか。大洪水前にも劣らぬ繁栄をしたのではないか。


 否である。


 方舟を造り、いまだ津波が届いていない場所にいた人々を乗せ終えた神憑の一人は、異空間へと戻ってくるなり、他の神憑達の元へと向かい、そして怒鳴った。

 何故彼らを助けなかった、と。

 その言葉に対して、他の神憑がなんと言ったのかは闇に葬られている。しかしその言葉によって神憑は分断。それから数千年もの間、当時の禍根は引きずり続け、今なお国は分断されたままだ。


 分断された国の数は全部で四つ。


 火、風、砂の神憑が建国した、四国で最も繁栄しているヘリオス。


 雷の神憑が建国した、他国の情勢に対して不干渉を貫くアネモニア。


 氷、闇、重の神憑が建国した、四国で最も貧困しているカオス。


 そして、聖、水、木の神憑が建国した、国そのものが学校という学園国家セントラル。

 建国から数百年、世代を超えて周りの国に教育の重要性を説き、国を挙げて教育に力を入れた。その結果、十二歳からの七年間学ぶための学校は世界に唯一つ、セントラルしかない。




「人、多っ!」


 ヘリオスから国境を超え、セントラルにつくなりシークはそう叫ぶ。

 セントラル入国後、列車を使って、ほぼ丸一日かけながら各組の寮へと向かう。組は全部で十組あり、各組に向けて出発する列車も十本だ。

 一年生も既に組み分けがされており、生徒達に事前に知らされているため、その組行きの列車に乗る。毎年、列車を間違える生徒が後を絶たないのはもはや伝統だ。各組に行く線路の数は、上りと下りで二本、計二十本である。そんな巨大な駅の為、世界最大級の大きさを誇っているのだが、それでも生徒達が溢れ返っている。

 しかもそれだけではなく、駅に通じる道には出店が多く並んでおり、それらの喧騒も相まって繁盛している商店街のような様相だった。

 シーク達は、駅に向かう生徒達に押し潰されそうになりながら大通りを歩いていた。

 三人の服装は、これから全寮制の学校に行くとは思えない軽装で、ジンは砂色のショルダーバックを肩に掛けているだけだ。シークも先ほど背負っていた刀ではなく、ジンとは色違いの同じメーカーの黒い肩掛けのショルダーバック。そしてヒツジに至っては、先ほどまで持っていた本ではなく、代わりに小さなポシェットしか持っていない。

 彼らがここまで軽装である理由は、既に衣服などのかさばる荷物は数日前に寮宛てに送っていたからだ。シークだけは、少しだけ書類が多いものの基本的には財布以外これといったものは持っていない。


「とりあえず逸れないようにだけ気をつけてね」

「はい」

「おー」


 シークは人の多さに嫌気が差しながらも、ジンの後ろを着いていく。


 数分後……。


「マイッチング……」


 シークは人波に流され、気付いたら横道についていた。道に迷ったわけではない。駅の方角は分かる。しかし、逸れてしまった以上は仕方がない。人並みを押し分けていくのは、なかなか手間である。ジンが迎えに来るまで、壁に寄りかかりながら待っていた。

 すると、駅に向かう道とは反対側から人が走ってきていることに気付く。

 何かに追われているのか、フードを目深に被り、顔を見えないようにしている。ただ、フードの内側にちらりと見えた長い髪から女であることは分かる。壁に寄りかかって、その少女の顔がちらりと見えないかと思いジッと見ていると、その少女も走りながらシークを見た。

 二人の視線が交差する。同時に少しだけ甘い香りがした。

 そしてそのまま少女は立ち止まるでもなく人ごみの中に消えていった。


 その後ろ姿が見えなくなってからもじっと見ていたシークだったが、少女が出て行った道から現れたのはジンだった。


「お待たせ」

「……いや、逸れたのは俺のせいだからな。手間掛けさして悪かった」

「別にそれくらい構わないさ」


 一つ詫びを入れたシークは、ジンの横にいつもいる人間がいないことに気付く。


「ヒツジは?」

「先に駅に行ってもらったよ」

「そうか……。それにしても人多すぎだろ。マジで流された。押し潰されるかと思ったぜ」


 駅の構内に入ろうとして、誤って逆側に進む人波に入ってしまった。入ったが最後、戻ることも出来ず、そのまま人波に任せていたが今の状況だった。


「一年生への最初の洗礼だよ」

「次があんのかよ……。それにしてもヘリオスから来るやつ多すぎ」

「ヘリオスが繁栄している証拠さ」

「……はぁ」


 ため息をつきながら、幅十メートルほどの大通りをぎゅうぎゅう詰めになりながら前に進もうとしている子ども達を見る。そんなシークの様子を見ていたジンが、一つ提案をする。


「おんぶしようか?」

「んな恥ずかしいこと出来るか!」


 即座に拒否する。ざっと見回してみても、シークのように押し流される生徒はいても上級生におんぶされている生徒はいない。


「俺は目立ちたくないんだよ」

「シークならおんぶされても目立たないだろ?」

「……いらん」

「そうかい?」


 明らかにシークの心情を理解しているだろうジンは、いじわるそうな笑顔をした。


「じゃあ……」


 そう言って一歩シークのほうに近寄り、その手をとる。


「逸れないように手を繋いでいこう」

「お、おい! これはこれで恥ずかしい! 聞いているのか、ジン!」

「聞こえない聞こえない」


 シークの叫びもむなしく、ジンに手を引っ張られながら人ごみの中へと突入した。


「ヒツジ、お待たせ」

「いえ、とんでもないことでございます!」

 

 それからしばらくして、今度は逸れることなく駅の構内にいたヒツジと合流する。


「待たせて悪かったな」

「全くよ。ジン様のお手を煩わせるなんて恥ずかしいと思わないの?少しは反省なさい!」

「……すいません」


 シークには厳しいヒツジだった。

 だから謝ってるだろ、と思わなくもないが反論しても仕方がないためシークは重ねて謝罪した。

 そしてそんな二人のいつもの光景に、ジンは静かに見守るだけだった。

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