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ノーリミットアビリティ  作者: 桐地栄人
第二章 挫折の果てに

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第40話 あの時しなかったこと

その日の夕方、夕食を食べに食堂へと赴く。


もう殆ど定位置となった場所で奈落山を見つけ、そちらに足を運ぶ。

しかし、いつも奈落山がいるはずの位置に、何故か舞華が座っていた。


「……」


シークはそのことに少し驚いたものの、舞華の奥、いつも舞華が座っていた位置に奈落山が座ってこちらに笑顔を向けていた。


「どうした?」

「いやなに、同じクラスの者として親交を深めようと思っただけだ」

「……そうか」


もちろん言葉通りの意味ではないだろう。

しかし、ここで問い詰めるのは野暮というものだ。

相槌をうってそのまま横の席に座る。


そのまま他愛のない話をしながら食事をとっていると、突然舞華が緊張した面持ちになり、深呼吸をし始める。

そして、意を決したようにシークの方を向く。


「後で、ちょっと話をいいか?今度は二人きりで話がしたい」




その後、シークは昨日と同じ寮の裏手に舞華と二人で来ていた。


「本当に申し訳ありませんでした!ヴァリエール家の次男とはつゆ知らず、とんだご無礼をいたしました!」


突然の土下座である。


「え……い、いやいや、俺なんかにそんな頭を下げるなよ!」


あまりに突然だったので、シークは固まってしまい絶句してしまったが、すぐに回復して舞華の頭を上げさせる。


「許していただけるだろうか?」

「当たり前だろうが!つか別に怒ってねぇよ……。お前みたいないいとこの人間が俺みたいなのに頭なんか下げんなよ」

「下げるに決まっている!私がしたことは、下手をすればヴァリエール家と五條院家の間で争いが生まれるかもしれなかった事だ!」


舞華の言うことは間違っていない。

確かにシークは公には未だ認められてはいない存在であり、ヴァリエール家に仕える古い家の者達にもあまり受け入れられていない。

残念ながら、シークが傷付けられたり殺されたりしたところで、シークのために怒ってくれる人間など殆どいないのが現状だ。


しかし、それでもシークはヴァリエール家の人間であり、シークの保護を約束したのは現当主である。

無駄なことは一切しないヴァリエール家の現当主が、シークを必要としているのだ。

シークを傷付けると言うことはつまり、現当主のその意向を潰すということである。

そのことになら、怒る人間はごまんといるのだ。


悲しい事実ではあるが、それが現実だ。


「……はぁ、まあ正直短気が過ぎたのは確かだな。だが、お前の欠点は俺がいうまでもなく自覚してるんだろ?なら、たかだか数日間の付き合いしかない俺から言うことなんて何もねぇよ」


彼女を叱るのは彼女の姉である湖赤や姉妹同然に育ってきた昇華に任せる。


「……分かった。ありがとう」


そう言って舞華が立ち上がったのを見て、シークは一つ安堵のため息を吐く。


「それで、本題はそれじゃないんだろ?」

「よく分かったな……。ゴホン!つい先程、秋沙様にお前、いや貴方の身元が確認出来た……ました」

「お前でいい。後で無理な敬語も不要だ」

「そ、そう言うわけには……」

「お前は俺と違って身分を隠していないんだ。突然、あの牙條院が俺なんかに敬語を使い出したらおかしいだろうが」

「……わ、分かった」


渋々と頷いた舞華に先を促す。


「では、改めてお前がヴァリエール家の次男だと秋沙様に確認が取れた。それにジン様のことも、だ」

「おう、それで?」

「それで……シャーリーの件でお前から頼みたいことがある、とお伝えした」

「おお!マジか!」


正直その部分に期待したところがないかと言えば嘘になる。

舞華達が知らないはずのヴァリエールの秘密について聞かれれば、「何故知っているのか?」と言う流れに自然となるはずなのだから。


「それで!?」

「落ち着け。明日、放課後に会ってくれるそうだ」

「明日だと?それはあまりに急過ぎないか?」


シークはつい秋沙の思惑に考えを巡らせてしまう。

その様子を見た舞華がシークを止める。


「それほど深読みはしなくていい。シャーリーは家柄も含めて有名人だ。情報を集めるのもそう難しいことではない。あの方のコネクションを使えば、今回のことを調べるのに半日も必要ないだろう」

「それにしたって次の日は余りに早すぎるだろ?そんな暇な人ではないはずだ」

「あー、うむ、それは勿論だ」


すると、舞華は口をモゴモゴさせてモジモジしだす。


「どうした?何か問題でもあったのか?」

「うむ……。私がお前にしたことを正直に秋沙様にお話ししたのだ……」


そこで一度ブルリと体を震わせる。


「そ、そんなに怒られたのか?」

「……死を覚悟した」

「そんなにか……」


一気に重く沈んだ舞華を見てシークも少し驚愕する。


「まあそんなことは今はいいのだ!とにかく明日、放課後に三年の寮の屋上テラスに来て欲しいと言うことだ!」

「分かった。伝えてくれて感謝する」

「よし、じゃあ私の言いたいことは以上だ。もう夜も遅いので私はこれで失礼する」


そう言って踵を返した舞華を見送ろうとしたシークだったが、一つ重要なことをしていなかったことを思い出して呼び止める。


「なんだ?まだ何か言っていないことがあったか?」

「ああ……まあ、一つだけ、な」


今度はシークが言い辛そうにする。


「何だ?言ってみろ。私は怒らんぞ?」

「俺の……あー、なんだ。そのだなぁ……」


少し言い淀んで頬をかきながらチラチラと舞華を見る。

そして意を決したように右手を差し出した。


「俺の友達になってくれよ」


シークの誘いに舞華は驚きに目を見開くが、それもすぐに満面の笑顔に変わる。


「ああ、もちろんだとも!」


真夜中の寮の裏でふたりの男女の熱い友情が結ばれた。

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