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ノーリミットアビリティ  作者: 桐地栄人
第二章 挫折の果てに

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第31話 発散

昼食を終えたシークは、一人で闘技場へと向かった。

ちょうど招集がかかっていた為、どちらにせよ行くつもりだった。

小走りで、しかも昼休憩を途中で抜け出してきた為、予定時間よりもだいぶ早く着いてしまった。


闘技場の周りには殆ど生徒はおらず、閑散としていた。


「やっぱり早かったか……。まあいい、とりあえず闘技場の会議室に集合だったよな」


闘技場内部は詳しくは知らないが、地図があった為、比較的簡単に見つけることができた。

関係者以外立ち入り禁止という立ち札を避け、そのまま廊下を進み、会議室と書かれた表札の扉を開ける。


「あら?貴方にしてはだいぶ早かったじゃない。何の風の吹き回しかしら?」


室内に入ったシークが目にしたのは、既に会議室内の椅子に座り紅茶を飲んでいるヒツジだった。


「まだお前だけか?」

「ええそうよ。まだ集合時間の三十分前だし……。それよりも貴方、もしかして楽しみにしてたの?」

「んなわけねぇだろ。お前に用があって来たんだよ」


ヒツジが予定時間よりも早く行動するのは昔からだ。


「私に?ジン様にではなく?」

「ジン義兄さんにも力を借りたい。だが、まずはお前に力を借りたいんだ」

「ふーん、何かしら。言ってみなさい」

「……シャーリーの噂、知ってるか?」


数瞬の後、シークがそう切り出すと、ヒツジは苦虫を噛み潰したような表情になる。


「知っているみたいだな」

「ええ、彼女の悪評なら既にコキノス組では上級生にまで広まっているわ」

「もうそこまでになってるのか……」

「当たり前よ。世界最大の大国、ヘリオスの重鎮ホロウ家の不始末……なんて囁かれてるわ。しかもその相手がこれまた異例の一年生にして、闘技会入りを果たした貴方なら尚更、ね」

「そうか……」

「それで、用事は何?もうすぐローエンが来るわ」

「ああ、頼みっていうのは他でもない。シャーリーの悪評を消す手伝いを頼みたい」


ヒツジの目を真っ直ぐに見つめ、真剣に頼む。


「……本気で言ってるの?」

「本気に決まってんだろ」


ヒツジもシークの目を真っ直ぐに見つめる。

そして、暫くそのまま睨み合いが続く。

数分間、睨み合いが続いたが、それは外から聞こえてきた足音によって中断させられてしまう。


「この話は後にしましょう。練習に差し支える」

「分かった」


シークがそう頷くのと同時に会議室のドアが開けられる。


「失礼する。おお、シーク君、まだ十五分前だというのに既にいるとは思わなかったぞ。やる気があるようで結構!」

「……それはどうも」


勝手にシークが早く来た理由を解釈して、嬉しそうに頷くローエン。


「では皆が来る前に闘技会の説明だけ先にしておこう」

「分かった」


備え付けのキャスターが付いている黒板を、何処からか引っ張って来たローエンが説明を始める。


「ではまずは闘技会の主なルールを説明しよう。闘技会は、このコキノス組を含めた全十組がまず五組と五組に別れ、リーグ戦によって行われ、上位二名が決勝トーナメントへといけるのだ」

「つまり、最低四回は戦うわけだな」

「その通り。そして、試合は六人一組で行われる。勝利条件は相手のリーダーを倒すこと。敗北条件は自組のリーダー、倒されること。細かいルールは追々話すとしよう。時間だ」


ローエンが区切ると、外から三名の生徒が入って来る。

空気を読んで外で待っていたらしい。


「話は終わったのかい?」

「ああ、すまなかったな」

「いえ、自分達も今来たところですので」

「そうか、では早速だが、闘技場へと向かうぞ」


外に出たシーク達は、三対三に分かれ、模擬戦を開始する。

特に木などの障害物はない地面で向かい合う。


「では、始めるぞ!」


結果からいうと、シークはボコボコにされた……ヒツジに。


「お前……」


奈落山が見たら信じられないほど、ボロボロの姿となったシークがそこに倒れ伏していた。


「てめぇ……容赦無さ過ぎだろ!」

「ふぅ、何を言っているのか全く分からないわ」


少し……、身内でしか分からないほど僅かではあったが、顔がスッキリしていた。


「ストレス発散に俺を使いやがって……。いってぇ……」

「ふん、そもそみ私のストレスの原因は貴方の蒔いたタネのせいでしょ」

「……」


地面に仰向けになったまま苦い顔をしたシークを見下ろしながら、ヒツジは鼻息を鳴らす。

そんな険悪な二人にローエンは近づいていき、賛辞を送る。


「ヒツジはいつも通り流石の強さだな。シーク君も一歩及ばなかったものの他のメンバーにも実力を示せたようで何よりだ。では、今日はこれまでとしよう。解散!」


ローエンは満足そうに頷くとそのまま手を叩き、闘技場から退出していく。

他のメンバーもそれに続いてシーク達に一声掛けてから続々と退出していく。

四人が出て行ったのを見計らい、シークはヒツジに声をかける。


「んで、どうなんだ?手伝ってくれるのか?」

「無理ね」

「は?何でだよ!」


起き上がって詰め寄ろうとしたシークを手で制する。


「落ち着きなさい。……そうね、無理な理由は幾つかあるけれど、何より彼女のためにならないからよ」

「は?」

「あのね、今のシャーリーを何とかする一番手っ取り早い方法は、ジン様がシャーリーに対して注意なり慰めるなりする事よ。けどそれじゃ、彼女の根本は何も変わらないわ」

「……」


確かにジンがシャーリーに注意するなりすれば彼女は変わるだろうし、周りの風評被害も時間が解決してくれるだろう。

だがしかし、それは言われたからそうした、に過ぎないのだ。

そういったその場しのぎの変化は、何か異変があればすぐに崩れてしまう。


「それに、貴方のいう噂は一般生徒にも広まっている。それを何とかするにはそれなりの人出が必要になるの。しかも上級生から下級生までの幅広い人材が、ね。私とジン様は公的に秘密の存在よ。とてもそんな数の人間、動かせないわ」

「なら……」

「シャーリーの為に身分を明かせ、と?出来るわけないじゃない。私達は何の理由もなく身分を偽っているわけじゃないのよ?」

「……くっ」

「当然却下。ジン様と私、もちろんフラグマやコスモスを除いて、その残りの貴方の友人で何とかしなさい」


シークは知り合いが少ない。

奈落山がどれだけの人数を動かせるのか分からないが、あの言いようでは決して多くはないだろう。

レインとアルトも見たところそれ程知り合いは少なそうだ。

そして防蔓も同様だろう。

この学園の生徒の凡そ六割はヘリオス人である。ヘリオス人の知り合いとなると……。


(くそっ!手詰まりか!)


シークが諦め掛けたその時……。


「……ふぅ」


ヒツジがため息を一つついて口を開く。


「私のストレス発散、もとい練習台になってくれたお礼に特別にこの現状を何とかできる人物を教えてあげるわ」

「本当か!……いまストレス発散って言わなかったか?」

「言ってない。それよりも私の話を聞くの、聞かないの?」

「……納得いかないが、聞かせてもらおう」


情報を優先し渋々先を促すシークに、ヒツジは呆れたように話し始める。


「もう少し頭を働かせなさいよ。いるでしょう?このクラス、貴方の先輩に、情報操作のスペシャリストが。それも貴方が知っている人物よ」

「……!?まさか!」


ほんの少し考えた後、すぐに答えにたどり着いた。

シークが知っている先輩の数など両手の指を合わせれば軽く収まる程度である。

ジンは先程ヒツジが言った通り動かせない。

当然、ジンが対外的に最も信を置いているとされるヒツジ自身も動かせない。

先輩、なのでフラグマ達も違う。

ならば答えは一つ。


「天條院家……」


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